【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part3 サイの慟哭とルナの決意

 

 

 倒れたインパルスの胸部付近で機体の状況を確認していたヴィーノも、有線通信でコクピットのその会話を耳にしていた。

 サイたちを脱出させて亡くなったという、見ず知らずの整備士の話は──

 何故か、ヴィーノの胸に奇妙に響いた。

 

 そいつもきっと、俺と同じくらいに……

 いやそれ以上に、ナチュラルを怨んでいたはず。

 かつてのシンがオーブを憎んだのと同じレベルに、ナチュラルを憎んだはず。

 なのに何故、最期に彼はナチュラルたるサイを救い、殺された家族同然の形見を渡したのか。

 

 ──それはもう、俺自身もなんとなく分かってるじゃないか。

 サイが、そこまで悪いヤツとは思えないから。

 むしろ、ヨウランと同じくらい、憎めないヤツだから。

 

 小型モニターで手早く故障個所のチェックを続けながら、雨音でかき消されがちになる回線ごしの声にヴィーノは耳を澄ます。

 かすかに響いてきたものは、ルナマリアの、酷く息を殺したような謝罪。

 

 

《本当に……ごめんなさい。

 謝ったところで何もならないのは分かってる。だから、せめて……》

《……もういいんだ。

 君はちゃんと仕事をしようとして、たまたまミスをしただけなんだから。

 元をただせば、結局、俺が無力だったせいなんだよ》

 

 痛みと熱にうなされているのか、サイの声は次第に荒ぶり、言葉も支離滅裂になっていく。

 

《こんな大事なものを、俺は託されたのに──

 俺は、何も出来ていない。

 ハマーさんだけじゃない。他にもたくさんの仲間を、俺は守れなかった。

 ネネもオサキもメルーも風間さんもスティングもカイキも、絶対に守りたかった人たちを、俺は守れなくて──

 トノムラさんのことだって、俺にはどうしようもなかった。

 今も俺は、フレイを止められない。ナオトもマユも助けられない。カズイも傷つけてしまった。

 キラとラクスさんが一体何を考えているのか、さっぱり分からない。

 結局俺は……チグサって娘の言う通り、無能なんだ》

 

 半分以上が、ヴィーノやルナマリアの知らない名前。

 しかし、大事な仲間を失った上、仲間と思っていた者に裏切られた無念は、回線を通してヴィーノにも伝わってくる。

 

《でも、サイはアマミキョを再建したじゃない!》

 

 必死でサイを励まそうとするルナマリアの言葉。

 手を動かし続けるヴィーノも、ひたすら黙り込んだままそのやりとりを聞いていた。

 カメラのフラッシュのように、湖でまだ光り続ける砲撃。

 爆発音にかき消されそうになりながらも、ルナマリアの声は何故か響いた。

 

 

 

 

 

 

「アビーから、少し聞いたの。

 アマミキョはハーフムーンだけじゃなく、色々な場所で多くの人を助けていたって。

 今はプラントも大変なことになってるけど、アマミキョの隊員が大勢駆けつけて復旧作業をしてるって。

 犠牲はあったかも知れない、でもそれは──」

「仕方のなかったことだって、やっぱり言うのかい?」

「違う。

 同じくらい……いえ、それ以上にたくさんの人たちを、アマミキョは助けているってことよ」

 

 幾枚ものガーゼを使って左腕の出血を消毒しながら、ルナマリアはサイを励まし続ける。

 心身共に深く傷つけられたサイは、痛みと慟哭で絶望しかかっていたが──

 彼女の言葉に、ほんの僅かに光を取り戻したような気がした。

 

 傷による発熱でうなされながらも、少しずつ両脚を動かしてみる。

 

 

 ──まだ、動かせる。

 ――まだ、動ける。

 

 

 左腕は酷く重たく感じるものの、それ以外はまだ大丈夫そうだ。

 とはいえ動かせないことはないという程度で、当然激痛につぐ激痛が走る。それでも──

 ナオトを助けることぐらいは、まだ、出来るかも知れない。

 

 

 しかしサイの中で、先ほどのマユの──

 否、チグサ・マナベの言葉が蘇る。

 

 

 ──キラをずっと心配してるふりして、ホントは自分が助かりたかっただけ。

 ──あんたに、何かを守ることなんて絶対に出来ない! 

 

 

 そうだよな。

 俺が何かするたびに、誰かを助けようとするたびに、それは裏目に出て。

 俺を信じてついてきてくれた人間を守れず、何も出来なかった。

 だからカズイを振り払おうと思ったけど、全然うまくいかずに。

 結局カズイは傷つき、フレイには裏切られ。

 俺が否定したかったアムルは、アマミキョを踏み台にまんまと自分の望みを叶えた。

 今また、キラが──

 

 

 痛みに満ちた呻きを喉から漏らしながら、サイは叫ぶ。

 

「分かってた。

 ずっと分かってたんだ、俺はあまりにも無力だってことぐらい! 

 君の言う通りだ。一人でみんなを助けられるわけがないって……

 結局それは、俺が甘かったせいなんだ。

 みんなを助けたいなんて、そんなもの、偽善にすぎない! 

 フレイに認められたくて、どうしようもない自分を何とかしたくて、必死になってアマミキョに乗って、がむしゃらにここまで来たけど──

 誰かを傷つけては裏切られて、守れずに失って、その繰り返しだ。

 そのたびにそれ以上に多くの人を助けようとして、また失敗する。

 結局俺の人助けなんて、そんなもんだ。偽善の塊なんだよ!」

「サイ! 

 落ち着いて、傷口が広がっちゃう!」

 

 とめどなく感情を露呈し出したサイ。そんな彼の両肩を、必死でルナマリアは抑える。

 だがその吐露は、もう止まらない。

 

「そうだよ……

 俺、昔、ラクスさんやキラにも酷いこと言ったんだ。

 あのきれいな歌声も、遺伝子弄ってそうなったんだろって、キラに……キラの目の前で!」

「──!!」

 

 その言葉で、ルナマリアの手が、一瞬止まる。

 ――当然だ。彼女だって、コーディネイターだものな。

 そう分かっていながらも、さらにサイは言葉を継いだ。

 

「チグサは何も間違ってない、彼女の言う通りだ。

 君だって、俺がラクスさんにそんなこと言ってたって知ったら、軽蔑するだろ? 

 彼女は今でも、プラントの平和の象徴なんだから」

「……要するに。

 自分の優しさなんてうわべだけのものだから、何も出来ず、誰も助けられなかったって。

 そう言いたいの? 貴方は」

 

 ほうっと一つ溜息をつきながら、少しだけ軽さを装って肩を竦めてみせるルナマリア。

 

 

「じゃあ、私がこう言ったら、貴方は軽蔑する? 

 私が、誰かを慰めることで自分の無力さを忘れるようにしてる、って言ったら」

 

 

 サイは一瞬、意味が分からなかった。

 自分の為に、誰かを慰めてる? 

 ぽかんとしてしまった彼に、ルナマリアはさらに言う。

 その言葉には若干、自虐も含まれていた。

 

「私ね。昔から、弱っている人や立場の弱い子を励ましたり、慰めたりすることが多くて。

 それは単に、自分が世話焼きなせいだと思ってた。

 でもね。私が慰めたり世話を焼こうとした人たちは、みんな離れていった。

 アスランも、メイリンも……シンも。

 シンに言われて、気づいたの。お前は誰かを慰めることで、自分を慰めてるだけだって」

「でも君は、とても一生懸命にナオトの面倒を見てくれたじゃないか。

 今だって、俺を──」

「ナオトだってそう。

 声が出ない間はずっと、私が介抱していたようなものだった。

 でも、ナオトが声を出せるようになって、分かったの。私なんかがいなくても、ナオトは一人で十分やっていけるんだって──

 それからずっと、私、自分でもはっきり分かるくらい、ナオトに冷たくなった」

「そんなことは……ないだろ。

 君は本当に、ナオトを気にかけてくれてる」

「じゃあ――

 私が今、貴方を慰めることで自分が満足してるって言ったら?」

 

 

 サイは思わず、ルナマリアの目を凝視してしまう。

 彼女の視線の先にあるのは、剥き出しになった自分の胸の傷。

 雨と泥で濡れそぼったスーツは肌に張り付き、薄暗い光の下、身体の線がくっきりと見えている。

 自嘲するように唇を舐めるルナマリア。その表情と重なるものは、自分に婚約を迫った瞬間のフレイの瞳。

 はっきり言われずとも分かった。彼女は自分に──

 

 

「軽蔑するでしょう? 

 私が貴方のこと、()()()()()()()()()カッコイイ男の子だなって思ってる、なんて言ったら。

 しかも私、ホントに本心から、好きな奴がいるのに!」

 

 次第に吐き捨てるような口調になりながら、ルナマリアは呟く。

 そんな自分を、心の底から汚らわしいと感じているようだ。

 しかし──

 

 サイは、全く彼女を軽蔑しようという気にはならなかった。

 汚いとも、陰湿とも感じなかった。

 多少がっかりしたことも事実だが、それはあくまで「他に好きな男がいる」の部分のみ。

 そうだよな、ナオトが言ってたっけ。この娘にはちゃんと、シンっていう彼氏がいるって。

 

 

「俺は……君に感謝しているよ。

 ナオトをずっと世話してくれたことも、俺を助けてくれたことも。

 たとえそれがどんな感情によるものだとしても、君の行動で俺たちが救われたのは事実だから。

 君が慰めたことによって救われた人も、大勢いるはずだよ。少なくともナオトは、君にずっと支えられてた。

 君が気づいてないだけ」

「え?」

 

 

 思わぬ言葉に、顔を上げるルナマリア。

 そんな彼女を見て、サイは思い出す──

 自分が追い詰められていた時に懸命に呼びかけてくれた、カズイの言葉を。

 

 

 ──どんなにお前自身が、自分の言葉を否定したって。

 いくら偽善と言われたって……

 その言葉だけで、救われる奴がいるのも事実なんだ! 

 

 

 ごめんな、カズイ。

 俺、また大事なことを忘れて、一人で勝手に落ち込んでた。

 分かってたはずじゃないか、お前に必死で教えられて。

 お前の言葉、そのまま彼女に使っちまった。バカだな、ホント。

 

 

 ルナマリアはやがて、泣きだしそうになりながらも吹きだしてしまう。

 

「ふふっ……なあんだ。

 貴方、自分でもとっくに分かってるんじゃない。自分は全然、無力なんかじゃないって。

 その言葉、そっくりそのまま返すわよ」

 

 声を殺して笑ってはいるが、その両目にはやがて涙が滲み、泥にまみれた頬を汚していく。

 

 

 ──そうだな。

 今俺がすべきことは、こんなところで彼女に愚痴ることじゃない。

 今、やるべきことは。

 

 

「ごめん。

 事情を殆ど知らない君に、こんなに愚痴ってしまって……」

「ううん、いいの。

 おかげで私も、なんだか吹っ切れた」

 

 優しく頭を横に振りながら、ルナマリアは呟く。

 

「貴方のおかげで、思いだせたから。

 私がホントに好きなヤツのことを」

「え?」

「アカデミー時代から一緒にいて、なんだかずっと、放っておけなかったヤツがいるの。

 家族を殺されたせいでずっとオーブを憎んでいたけど、本当はすごく素直で、バカみたいに優しくて、子供みたいに不器用で。

 それでいて、私と同じで何故か世話焼きなところもあって……」

 

 

 サイにはすぐ分かった。

 恐らくそれは、ナオトから聞いたルナマリアの恋人──シン・アスカなのだろうと。

 死亡したマユ・アスカの、本当の兄。

 

 

「今、あいつは南チュウザンに捕らえられてるけど──

 私はずっと信じてる。あいつは、まだ大丈夫って」

「そうだね……

 俺もそう思うよ。フレイの元にいるなら、彼は絶対に大丈夫だ」

 

 そう声に出して言ってみて、サイはふと気づいた。

 するりとその言葉が自分の口から出てきたことに、自分で驚いて。

 

 ──俺はまだ、フレイを信用しているのか。

 

 フレイたちが探し求めていた、SEED能力者。

 広瀬の報告書どおりシン・アスカがSEEDを持っているのならば、確かにフレイが彼を殺すはずはない。

 そう理論的に考えても無理のない話だったが、それ以上にサイの中では未だにフレイへの信頼が強く残っていた。

 サイを必死で守ろうとした、フレイの必死な姿が──

 

 

 ──貴様は私が守る。だから私に従え。

 

 

 フレイが俺に呼びかけたあの時の言葉は、今でも俺の胸に焼きついている。

 アマミキョにいた時も、アマミキョを裏切った時も、オギヤカで俺を捕らえた時も──

 フレイは常に、何かに抗うように俺を守ろうとしていた。

 その「何か」は、未だに分からないけど。

 

 

 その時、ルナマリアは敢然と告げた。

 サイの思惑を見透かすかのように。

 

「なら、決めた。

 私、シンを助ける」

 

 しっかりした彼女の言葉に、サイは思わずルナマリアを見つめ返してしまう。

 目の前にあったものは、覚悟を決めた人間の顔。

 

「あいつとは、喧嘩したままだったもの。

 必ずあいつを南チュウザンから助け出して、もう一度ちゃんと仲直りする。

 おせっかいだ偽善だって何度言われたって、私はあいつと一緒にいたい」

 

 

 そんな彼女の言葉に、サイの中で何かが再び、激しく鼓動を始めた。

 それは、自分の身を賭しても貫き通したい――

 否、貫かねばならない願い。

 

 

 2年前も、俺はフレイときちんと話をしないまま一方的に彼女を突き放し、そのままフレイはいなくなってしまった。

 その魂を受け継ぐかのように蘇ったフレイとも、俺は事情もろくに聞かないまま、ここまで来てしまった。

 キラとも、フレイのことをきちんと話し合いもせず。

 あいつとラクスさんに、何があったかも分からずに……

 ナオトのことだってそうだ。ナオトがあの夢の世界に浸ってしまった理由も理解出来ないまま、あいつまで取り込まれようとしている。

 なら、俺がやるべきことは、目の前の彼女とほぼ同じ。

 違うのは、助けたい相手だけだ。

 

 

 だが、サイがその決意を口にしようとしたその瞬間──

 ずっとテレビ画面の点滅のように光り続けていた湖が、ひときわ強い光を放つ。

 通信からのヴィーノの叫びと共に。

 

《ヤバイ、二人とも! 伏せろ!!》

 

 

 

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