【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part5 ティーダへ、向かえ

 

 嵐の空をひたすら突き進むアークエンジェル。

 そのブリッジで、マリュー・ラミアスは艦の指揮を執りながら、ミリアリアに尋ねていた。

 

「本当なのね。

 キラ君たちは、そこに……!」

 

 通信を続けつつも、即座に答えるミリアリア。

 

「はい、間違いありません。

 ヤエセ南、旧マブミ付近の湖畔です!」

 

 冷静かつ機敏なその回答に、マリューは改めて唇を噛む。

 ミリアリアから伝えられた、キラたちの思わぬ情報。

 それは、キラが既にフレイ・アルスターら南チュウザン側に回った──

 つまり、彼がアークエンジェルから離れたことを意味する衝撃的なものだった。

 

 

 ──私たちは改めて、キラ君と向かい合わなければいけないのか。

 

 

 思えば2年前――

 ヘリオポリスで偶然キラに助けられてからというもの、マリューやアークエンジェルは幾度も幾度もキラに救われてきた。

 キラ自身はコーディネイターで、親友たるアスランもザフトにおり、本来はいつ自分たちと袂を分かってもおかしくない関係だったのに。

 艦内で次第に孤立していくキラを引き留めておく為、フレイやサイとの拗れた関係を放置していたことさえあった。それは、「あの」フレイ・アルスターがアークエンジェルに再び乗り込んできた時、指摘された通りである。

 自分自身にも余裕がなかったとはいえ──

 フレイがキラの吐け口になったことで、ヘリオポリスの学生たちの関係が一気に悪化していくのを、ただ看過するしかなかった。

 

 それだけではない。デュランダル議長にラクスが命を狙われて以降も、キラはずっとアークエンジェルで戦っていた。

 キラがそうするのは当たり前のことだと、どこかで自分たちは考えていたかも知れない。これまでずっとアークエンジェルで戦っていた「仲間」なのだから、と。

 しかし、キラが動くのはあくまでラクスとカガリの為であり――

 仮に彼女らどちらかに何かが起これば、場合によってはアークエンジェルすら敵に回すかも知れない。

 その可能性を、自分たちはずっと見ないようにしてきたのではないか。

 何があっても、キラがいるから自分たちは大丈夫──

 自分たちは心のどこかでそう慢心しながら、戦ってはこなかっただろうか。

 そのツケを払わされる時が──

 

 

 マリューがそこまで考えた時、不意にメイリンの声がオペレータ席から響いた。

 

「艦長! アマミキョから通信が入っています。

 ヤエセ周辺の住民の避難、9割がた完了。これより本船はアークエンジェルに随行するとのこと」

「えっ? 

 アマミキョは、まだ住民の避難支援に回ってもらった方が……」

「随行するのはメインブロックのみとし、他ブロックは全てパージ後、住民の支援に回すとのことです。

 それから、ミネルバJrも後方より接近中との情報も入っています!」

 

 やや興奮気味にまくしたてるメイリン。よもやのミネルバJrの登場に、かつての乗員だった彼女も若干冷静さを失っているように見える。

 だが、マリューは彼女に比べるとそこまで動揺はしなかった。

 サイ・アーガイルがザフトとおぼしき部隊と共に行動し、住民の救出活動を行なっているという情報は既に入手していた。

 その背後にいるのがミネルバJr──

 あの、タリア・グラディスの率いていたミネルバ隊なら、何も不思議はない。彼女ならば──

 彼女の育て上げた部隊ならば、サイを助けることもあるだろう。何故か確信があった。

 

 マリューはそっと振り返りつつ、オペレータ席で通信を続けるミリアリアを見やる。

 キラたちの急報を最初に告げたのは彼女だ。それも、かつて戦死したはずの恋人──

 トール・ケーニヒからの伝言というおまけつきで。

 ミリアリアはいつになく冷静に通信を続けていたが、その横顔からは余裕が消えていた。声にも、いつもの可憐さが掻き消えているように感じる。

 

 それでも……と、マリューは思う。

 自分がムウと再会した時に比べれば、ミリアリアは随分と落ち着いているような気もする──

 いつだったかの、サイとの会話を思い出す。あの時自分は、フレイ・アルスターと共に行動していた彼に、こう尋ねてしまった。

 ──フレイと再会した時、平気でいられたかと。

 

 勿論それはムウ・ラ・フラガへの想いから出た問いだったのだが、あの時のサイは酷く苦しげに激情を抑えていたように思えた。

 サイたちと離れて間もないタイミングで、ムウが記憶を失って自分の前に現れたのは、その罰だったのだろうか。

 彼と再会した時、自分はどれだけ混乱したか──否、過去形ではなく、今もマリューは時々混乱する。

 確かにそこにいるのはムウのはずなのに、彼ではない。ふとそんな悪寒を覚える瞬間が、たびたび訪れる──

 自分やサイが味わったそんな痛みを、今、ミリアリアも感じているのか。

 彼女もサイも、愛する者を失った痛みをようやく振り切り、それぞれの未来に向かって歩きはじめたはずなのに──

 今、過去からの亡霊が彼らに襲いかかり、締めつけて離そうとしない。

 

 それはもしや、キラも同様なのだろうか。

 フレイ・アルスターの霊に憑かれ、向こう側の人間になってしまったのか。

 

 

 だがその時、思考に耽溺しかけたマリューの耳にミリアリアの声が響いた。

 

「艦長。

 正体はともかくとして、セレブレイト・ウェイヴに関する『彼』の情報は正確でした。

 恐らく、キラとラクスさんに関するものも同じです──

 それに、ストライクフリーダムと思われる機体の目撃情報も複数確認出来ました。

 キラがこの地域に降り立っているのは、間違いないです」

 

 マリューの不安を打ち消すように、確信をこめて、ミリアリアは断言する。

 ストライクフリーダムの情報に釣られて各陣営の艦隊をおびきよせ、セレブレイト・ウェイヴで一網打尽にする罠ではないかと、艦内では訝しむ者も複数いた。

 しかしその周辺にキラがいるのならば、その危険性は限りなく低くなる。

 何故ならサイの情報を信じる限り、死者の魂を冒涜してまで南チュウザンが狙っているのは、キラたち「SEEDを持つ者」の力なのだから。

 ミリアリアの落ち着きに感謝しながら、マリューは静かに言った。

 

「そうね。進みましょう──

 キラ君たちのもとへ!」

 

 

 

 

 

 

 ストライクフリーダムと、インフィニットジャスティス。

 ヤキン・ドゥーエの時も、メサイア戦時も共に手を取り、世界の危機を救ったはずの2機。

 それが今、激しい火花を散らし衝突している。

 しかも、俺のすぐ頭上で──

 

 蒸発しかかり、所々底が露出している湖に一歩ずつ慎重に足を踏み入れながら、サイはぼんやりと考えていた。

 

 

 ──仕方ないか。

 元々、キラを戦いの場に引きずり出したのは、俺たちみたいなもんだからな。

 

 

 足に力を入れようとするたびに、全身を痛みが貫く。

 蒸気を伴い、泥を大量に含んだ水は既に腰あたりまでを濡らし、傷の癒えぬ身体に染みこんでいく。

 それと同時に、身体からどんどん流れ出していく血液。

 

 ルナマリアの治療も虚しく、サイの傷口は無茶な移動によりすぐに開いてしまい、左腕からの出血は既にワイシャツのほぼ全てを真っ赤に染めていた。

 左腕はもう痛みすら感じられないほどの状態であったが、それでも身体を動かそうとするたびに熱い鼓動が全身に走り、それが血液となって傷口から流れ出していくのが分かる。

 まるで、命の限界をサイに知らせようとするように。

 

 それでも上半身の重みに逆らいながら頭を上げ、目をこらした。

 もうもうと上がり続ける蒸気で、ただでさえぼんやりと霞む視界。

 ひっきりなしにやってくる眩暈が、足元をぐらつかせる。

 

 ──その視線の先にあるものは勿論、ガンダムティーダ・Z。

 全ての終わりを意味するアルファベットを刻まれて再生されたそのモビルスーツは、今も湖上で蛍のようにぼうっと白く光を放ちながら、佇んでいた。

 サイが目指すものはただ、その光のみ。

 

 

 ──今のティーダは、ナオトだけじゃなく、俺もパイロットとして認識しているはず。

 ならば。

 

 

 元々のティーダパイロットたるナオトとマユは、アマミキョを離れる直前には既にティーダの遠隔操作が可能になっていた。

 そしてティーダの、未だ全容が明らかになっていないフィードバックシステム──

 ずっとブラックボックスと呼称されていたそれは、ミネルバJrにおいても改造された形跡はなかった。

 パイロットがティーダに乗り込み、機体に馴染むことで、パイロットによる遠隔操作さえも可能になるシステムがそこに組み込まれているのだとすれば。

 ──具体的な確証は殆どないに等しいが、サイはその可能性に賭けていた。

 

 

 俺だって随分長いこと、ナオトとティーダに付き合ってきたんだ。

 実際に操縦したことはないにせよ、何度もシステム周りには触れてきた。

 曲がりなりにもパイロットとして登録された今なら、()()()ティーダを動かせるかも知れない。

 否、動かせなくてもいい。

 ストライクをまともに動かせず、M1アストレイですらろくに戦えなかった俺が、今更ティーダを動かそうなんて、おこがましい。

 だが──せめて、ナオトをあの場から助けることぐらいは、出来ないか。

 ナオトやマユはかなりの遠距離からティーダを動かしていたが、俺ではとてもあんな芸当は無理だろう。それぐらいは分かってる。

 でも、少しでも接近出来れば。

 ティーダに触れられる程度まで、近づければ──! 

 

 

 深い霧に覆われゆく天空では、攻撃を続けるインフィニットジャスティスが見えた。

 アスランにしては珍しく、相手の武装だけを狙うが如き攻撃をしている。相手がキラだからなのか──

 その少し南方向では、無数の黒ダガーL軍団を相手取っているアカツキが目撃出来た。

 相変わらず自機パイロットの命をまるで顧みないような黒い機体は、アカツキの金色の装甲を目がけて続々と激突していく。

 それは、まさしく自爆攻撃としか言えないような代物だった。

 

 今更のようにサイは思い出す──

 そういえば、ミネルバJrに収容されたはずの黒ダガーL。

 あのコクピットの分析結果を、まだヴィーノやルナマリアから聞いていなかったな。ただ単に俺が部外者だから教えられないだけなのか、それとも……

 彼らにすら、未だにその情報は伝えられていないのか。だとすれば、その理由は何なのか。

 サイが何とかそこまで頭を巡らせた瞬間──

 

 

 遥か頭上でダガーLがまた1機、アカツキのビームライフルによって撃墜された。

 雷鳴の如くの爆光で天を一瞬紫に染め、四散する黒の機体。

 その腕部も脚部も全てがバラバラになり、宙へ弾け飛んでいく。

 そして巨大な鋼鉄の破片となったそれは当然、重力に引かれて真下の湖面へ落下していった。

 間一髪で誘爆を逃れたメイン動力部も、炎を噴きながら共に落ちていき──

 落下による加速度を伴ったそれらは当然、下にいる人間にとってはこれ以上ない凶器と化す。

 

「──!?」

 

 火を噴いて落ちてくるエンジンに息を飲む暇もなく、次から次へとサイに襲いかかる熱い飛沫。

 その向こうの水面でまた、再び大きな爆光が生まれる。それはデストロイの高エネルギー砲で抉られた湖を、さらなる劫火で覆い尽くしていく。

 噴きだした蒸気に紛れるように、無数の鋼の破片が周辺に飛び散った──

 身を屈めて爆風を躱そうとしたサイだが、そんな彼にも容赦なく破片は飛んでくる。

 まるで弾丸のように、身体を次々に掠めていく破片。

 

「ぐ……うっ!!」

 

 腕で頭を覆い隠しても、肩や背中、太ももをナイフで切り裂かれるような痛みが走る。

 激しい熱をもった小さな鋼の塊は、幸いその身を貫くことはなかったものの、それでも衣服ごと皮膚と肉を削っていく。

 

 

 ──それでも。

 俺は、ナオトを……助けたい。

 それが今の俺に、唯一、出来ることならば。

 

 

 その想い一つだけが、サイを未だに支えていた。

 本来ならとっくに、気絶していてもおかしくない。否、気絶していなければおかしいはずの負傷。

 視界も紅く染まりはじめ、目指すティーダの機体すらも輪郭がぼやけている。

 激しい頭痛まで始まったのは、体内から血が大量に失われた証拠だろうか。

 しかしサイは構わず、少しずつでも進もうとする。足元を覆い尽くす泥から重い靴を引き抜くたびに、酷い痛みが身体中を駆け抜けたが──それでも。

 

 

 ──俺、もしかしたら、もう死んでるのかも知れないな。

 これほど血を流しても、まだ動いていられるなんて。

 

 

 ぼんやりとそんな想いに囚われ、馬鹿なことをと自嘲しながらも膝を水面から引き抜いていく。

 しかしその時、またしても爆光が湖面に走り、霧を吹き飛ばすかの如き熱風が巻き起こった。

 恐らく先ほどと同じくダガーLの墜落によるものだろうが、不幸なことにすぐ背後でその爆発は起こったらしい。

 ほぼ死角となった場所から爆風は発生し──

 結果、予想外の方角からサイは吹き飛ばされかけた。

 

「これぐらい……!!」

 

 それでも彼は両足を踏みしめ、荒れ狂う飛沫に耐える。

 こんなこと、チュウザンのテロでもう慣れた。

 この激しい熱風も。

 一瞬聴覚の殆どを奪い、水底にいるような感覚にさせるこの空気も。

 当たり前のようにあった建物が、景色が、刹那の間に塵となり崩れ去っていく光景も。

 自分も、一歩間違えれば当たり前のように同じ塵芥と化す現実も。

 学生の頃は勿論、アークエンジェルにいた頃ですら経験しなかった、戦場に生身で置き去りにされる恐怖も──

 先ほどと同じく、無数の鋼鉄の塊があたりに吹き飛んでいく。

 霧を、水面を、森を──そしてサイをも切り裂きながら。

 

 

 だが、爆風の威力はそれだけにとどまらず。

 熱風に混じって、若干大き目の破片がサイに向かって飛んできた。

 咄嗟に避けようとするも身体はうまく反応せず、握りこぶし大の破片は激しい熱量と速度をもって右横腹を直撃する。

 そこは奇しくも、かつてアムル・ホウナに撃たれた傷とほぼ同じ個所だった。

 

「──!!」

 

 最早叫びも呻きも出せず、あっけなく宙へと弾き飛ばされ、水面に打ちつけられる身体。

 未だに癒えぬ傷を再び穿たれた痛みで、彼の意識も一瞬飛んでしまった。

 

 

 

 

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