【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part6 カタパルトの騒乱

 

 

 コロニー・ウーチバラ、リュウタン広場付近にて。

 ティーダからの光の嵐を完全に遮断したコックピット内で、カイキは思い切りペダルを踏み込んだ。

 上空には既にアマミキョの船体が迫っている。ティーダの光量が幾分か減少し始めたのを確認しつつ、ソードカラミティは一気にティーダに駆け寄っていく。

 

 燃えさかる太陽の中心にいるような錯覚を覚えながら、カイキはソードカラミティにティーダの右腕を絡ませた。

 傍目には、崩れ落ちたティーダを抱き起こしているようにすら見える。

 

「スラスターを全開にしろ! アマミキョへ飛ぶぞっ」

 

 しかし、ティーダからの応答はない。

 カイキはまたも舌打ちしそうになったが

 

 ――その時ティーダが突然、スラスターを噴射させた。

 返事はないが、パイロットはまだ生きている。明らかに素人の動きだが。

 

「マユはどうした! 返事をしろ」

 

 ──やはり、応答はない。

 咎めている時間はない。自らの機体の推力も全開にし、カイキはティーダと共に空へ跳躍する。

 黒煙が渦巻く中、コロニー修復に出動したM1アストレイ数機が、アマミキョの上を通過していくのが見えた。

 

 

 

 

 

 

 同時刻、アマミキョブリッジ。

 リンドー副隊長がサイに呼びかけた。

 

「サイ。カタパルト見てきてくれや」

 

 彼はその時ティーダとの通信を何回か試みていたが、電波干渉の影響がこんな時に限って強くなったのか、通信は繋がらない。ソードカラミティともだ。

 

「パイロット、応答してくれ!

 ナオト! マユ!」

 

 ナオトに対して酷く責任を感じていたサイは、うっかり副隊長の命令を聞きそびれた。

 

「サイく~ん?」

 

 ムジカ社長がもう一度呼びかけ、サイはようやく自分が呼ばれていることに気づき、慌てて振り返る。

 指示を聞きそびれるなんて、自分にしては珍しい。それほど状況が混乱の極みにあるとも言えるが。

 

「し、失礼しました。

 もう一度お願いします」

「船内無線、傍受されてもつまらんからな。

 直接カタパルトに行って状況を確認しろ」

 

 あからさまに不機嫌な態度で鼻をフンと鳴らしつつ、副隊長が指示を出す。

 

「エアチェックは済ませてある。そのまま行ける、とっとと動け」

「了解」

 

 サイは副隊長の台詞が終わらぬうちに、一旦ディックにオペレートを任せてブリッジ奥のエレベータに向かう

 ――だがその時、サイは気づいた。

 社長と副隊長の二人が何故か自分に、意味ありげな視線とニヤニヤ笑いをよこしていることに。

 社長が小声で、サイに呟く。

 

「彼女によろしく」

 

 ――言うまでもない、フレイの件だ。

 船内無線云々が半ば口実であることを、サイは悟った。

 社長の温情かも知れない。もしかしたら、地獄に繋がる温情かも知れないが──

 

 エレベータに飛び込み扉を閉めかけた時、サイはちらりとカズイとアムルを振り返った。

 カズイもまた、うずくまったままのアムルを何とか励ましながら、彼女と共にブリッジ外の廊下へ出て行く処だった。

 

「トニー隊長、船内の様子を頼む。特に損傷した区画の修復状況を見てきてくれ」

「は、ハイ!」

 

 副隊長のくぐもった声が響き、トニー隊長もブリッジから飛び出していった。

 副隊長が隊長に命令する、これがシュリ隊の組織の目茶目茶さを示しているとサイは思う。

 その時ブリッジに響いたディックの声を、サイは聞き逃さなかった。

 

「ソードカラミティより発光信号! 

 アマミキョへ着船します!!」

 

 

 

 

 

 

 コロニー上空は地表に比べ低重力である為、ブリッジなどと違い重力制御がなされていないカタパルトでは、人間はごく軽い動作で浮かび上がることが出来る。

 そんなカタパルトでは、ノーマルスーツ姿の整備士たちが上から下へ入り乱れ、右往左往の大混乱の様相を呈していた。

 

 アマミキョ発進と同時にストライク・アフロディーテを収容し、補給・点検作業を開始した──

 と思ったら、今度はティーダとソードカラミティが同時に着船してきたのである。

 

 ティーダの機体から発された例の光は、その時既に全く消失していた。

 サイがカタパルトに到着したのと、大きく開いた甲板にティーダとソードカラミティが着船したのは、ほぼ同時だった。

 

 但しそれは、着船したというより激突したという表現が正しい。

 ティーダの方は全く姿勢制御がなされておらず、そのまま頭からなだれ落ちるようにカタパルトへ突っ込んできた

 

 ――右脚部が誘導用ライトに衝突し、ガラス片が飛び散る。

 大きな衝撃がカタパルトを襲った。

 

 バーニアを噴かせて懸命に姿勢制御をしたソードカラミティが、同時にティーダの機体も巧みに抱き込んだから誰も巻き込まれずにすんだものの、混乱の倍増は避けられない。

 サイもまた、エレベータから飛び出した身体を上部デッキの手すりにぶつける処だった。

 

 

「ボケナチュラルが! 

 ノーマルスーツぐらい着とけっ」

 

 

 何とか姿勢を保ったサイの上から、怒声が飛んでくる。

 そこには、ややむっくりとした体格のノーマルスーツが浮いていた。

 

 彼はバイザーを上げながら、サイに向かっていきなりレンチを投げつけてきた。全く、何のためらいもなく。

 コロニーのほぼ軸上を飛んでおり、無重力に近いアマミキョのカタパルト内で、レンチはきれいな直線を描いてサイの右肩に当たった。

 カズイが言っていた、恐怖の整備士のオッサンとはこの人か。その、やや唇のぶ厚い猿のような赤ら顔には、サイも見覚えがあった。

 

 ハマー・チュウセイ──ナチュラル嫌いのアル中で、あっという間にシュリ隊で有名人となった男だ。

 当然、悪い意味で。

 

 サイが肩を押さえながらもハマーを無視し、上部デッキから降下してティーダのもとへ向かおうとした瞬間

 

 ――カタパルト内にまたもや、警報が響いた。

 開きっぱなしになっていた甲板の向こうの白い空から、モビルスーツ・ザクファントムとゲイツRが向かってくる。

 

「ザフト機より発光信号! 着船要請だ!!」

「カタパルト空けろ、ボヤボヤすんな!」

「だって、敵かもよ?」「それよかどうすんだよ、あの白いの!」

 

 白いのとは勿論、ティーダのことだ。

 ゲイツRの方もどうやら、機体のコントロールを失っている。ザクファントムがどうにかバーニアで両機の体勢を整えてはいるが、ティーダとソードカラミティはまだ甲板から移動出来ていない。カタパルトがさらなるパニックに陥った。

 だいたい、誘導用ライトの点灯方法すらまともに覚えていない連中である。軍とは勝手が違う。

 その時カタパルト奥から、凛と張った少女の声が響いた。

 

「ザフトのジュール隊だっ、収容しろ!」

 

 既に奥に固定されていたストライク・アフロディーテの外部スピーカーからの声だ。

 その主は勿論、フレイ・アルスター──

 彼女はアフロディーテのコックピットに座ったまま、ハッチを開いて指示を出していた。

 サイが思わず反応するより早く、少女の声は大きくデッキ内に反響する。

 

「カイキ、ティーダを下げろ! 

 貴様は立てるっ、装甲が多少傷ついても構わん」

 

 その声には、ノーマルスーツの作業員たち全員に冷水をぶっかける効果があった。

 素早く反応したソードカラミティが、ティーダを引きずるように甲板から退ける。同時に作業員たちも慌ててクモの子を散らすように逃げ出した。

 数秒後――

 

 ティーダが着船したよりは幾分か丁寧に、ザクファントムとゲイツRがカタパルトに滑り降りた。

 直後、ザクファントムのコックピットからパイロットが飛び出し、叫ぶ。

 

 

「対応、感謝する! 

 自分はザフト・ボルテール所属ジュール隊隊長、イザーク・ジュール! 

 可能ならば、このパイロットの手当ても願いたいっ」

 

 

 やや癖のあるその叫びに、サイはまたも振向いてしまう。

 バイザーを開いたその顔に、わずかながら見覚えがあった。あれは――

 エルスマンと同じ部隊の、銀髪の少年ではなかったか?

 

 

 ──その時、アフロディーテ付近でちょっとした動きがあった。

 

 紅の機体にとりついていた二人の整備士が、顔を見合わせる。

 二人ともノーマルスーツのバイザーを閉めており、その顔は殆ど見えない。メットを突き合わせ、何事かを会話した後──

 二人はイザークの視界から遠ざかるように身体を隠し、アフロディーテの機体チェックを続行した。

 フレイがその二人に話しかける。

 

「残り5分は遅い、2分でチャージは完了しろ。

 ハラジョウから予備のケーブルを出すか――まだ奴らが退散した訳でもない」 

 

 言いながら、フレイもまたイザークの方を注意深く睨んでいた。

 そんなことは露知らず、イザークはゲイツRのコックピット部分に取りつき、脇の操作盤をいじってハッチを開く。

 そこには、ぐったりとした痩身のパイロットの姿があった。スーツの色からして、赤服と呼ばれる階級の者だろうか。

 外傷は認められないが、両腕がかなり痙攣していた。

 イザークはそのパイロットを素早く抱き起こしたが、彼自身も左腕をうまく動かせないようだ。悔しげに顔を歪めつつも、何度もパイロットに呼びかけている。

 

 ティーダの方へ身体を流していきながら、サイはイザークに呼びかける。

 

「カタパルト脇の3番エレベータは医療ブロック直通だ、急いで」

「申し訳ない……っ!」

「当然だよ、君たちは助けてくれた」

 

 サイが呼んだ低重力用担架に、イザークはパイロットを運んだ。

 メットを取ってみると、パイロットはまだ幼さの残る、黒髪の少女だ。かなりの美人に見えたが、その瞼は今痙攣を起こし、いっぱいに見開かれている。

 唇は真っ白。その端から涎がわずかに零れ、宙に浮きだしていた。そしてイザークも少女も、額から滝のような汗を噴出させている。

 

 あの光の中で一体、このパイロットたちは何を見たんだ。

 リュウタン広場のモビルスーツの装甲は勿論、アマミキョの船体までもを貫き、人間の神経に直接働きかけた光は。

 それに、イザークや少女はザフトのコーディネイターだろう? なのにここまで――

 

 サイはティーダを改めて睨む。

 ぐったりと倒れた白い機体のハッチに、ソードカラミティのパイロット・カイキが組みついていた。

 サイも床を蹴って上昇し、コックピットに向かう。

 ハッチが開かれる──

 

 

 

 そこには、かぎ裂きだらけの背広のナオトと

 左腕が血に濡れている制服姿のマユが、ぐったりとそれぞれの座席に倒れていた。

 

 

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