【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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PHASE-44 タロミ暗殺
part1 新生の開闢神


 

 

「──そうか。

 スティングは……アマミキョに助けられていたんだな」

 

 新生したアマミキョ・医療ブロック。

 その一角で、数日にわたり治療を受けながら──

 サイはムウ・ラ・フラガと、互いの情報交換を行なっていた。

 そしてサイはこの時点で、初めて知ることになった──

 アークエンジェルがアマミキョと合流して行動していること。

 キラとラクスはチュウザンの争いに巻き込まれ、アークエンジェルから離れたこと。

 ムウ・ラ・フラガが、かつてファントムペインの子供たちを率いていた連合軍大佐、ネオ・ロアノークであったことも。

 当時は記憶を失っていたという話もフラガから聞かされたが、それでもサイは釈然としない思いを隠せなかった。

 そしてフラガに、スティング・オークレーの件を話したのである──

 彼がアマミキョに救われ、ほんの一瞬ではあるが安らぎを得たことを。

 

「その後彼はアマミキョを救う為に戦い、仲間の存在を思い出し、連合に戻りました。

 何か、ご存じではないですか。スティングのことを……」

 

 フラガはその話を聞きながら、いつしかサイから視線を外し俯いていた。

 

「恐らくスティングがアマミキョに救出されたのは、デストロイによるベルリン侵攻の直後だ。

 さっき話した通り、その時俺は負傷しアークエンジェルに拾われ、それ以後連合には戻らなかった。

 だから、推測でしかないが──

 スティングが連合軍に帰還した時点で、彼の仲間と言える人間は誰もいなかった。ステラも、アウルも──俺も。

 彼が、再び記憶を消去されたのは間違いない」

 

 

 その言葉をじっと聞きながら、サイは右拳を握りしめる。

 左腕はまだ厳重にギプスで固定され包帯を巻かれていたが、動いていれば同時に握りしめられていただろう。下手をすれば、感情に任せてフラガに掴みかかっていたかも知れない。

 ネオとステラが待っているから、スティングは連合へ戻ったのに──

 アマミキョでの記憶も、ネネとの安らぎの記憶も全て消され、また戦うだけのマシーンに戻ってしまったということか。

 

 

 そんなサイの感情を慮ってなのか、諦念もこめてフラガは呟く。

 

「分かっていただろ? 連合は……

 特にブルーコスモスの息のかかった連中は、そういうことをする奴らだってのは」

 

 貴方もそれに加担していたじゃないか──

 喉元まで出かかった言葉を、サイは何とか呑み込む。

 フラガは逸らしていた視線を再び彼に向けながら、自嘲するように話した。

 

「あいつらを思い出すと、俺は思うんだ。

 一番の不幸ってのは、人として当たり前の感情を知らんまま、生かされることなんじゃないかってね。

 その意味では──

 誰かに愛情を注がれ、誰かを好きになりかけた分、ステラもスティングも救われたんじゃないか。俺はそう思う」

 

 人として、当たり前の感情。

 サイの脳裏にすぐに浮かんだものは、マユ・アスカの笑顔だった。

 彼女もまた、アマミキョやナオトによって、ただの戦闘マシーンではなく人間としての感情を覚えていった。

 なのに──

 俺はスティングもマユも、守り切ることが出来なかった。

 

 しかしフラガはそんなサイの心を見抜いたかのように、その右肩をぽんと叩いた。

 

「たとえその愛情が、無惨に踏み潰されたとしても、だ」

「え?」

「だから、サイ。お前さんには礼を言うよ。

 ……当然、それで俺の罪が許されるなんて、思っちゃいないがな」

 

 

 ひとつ息を吐きながら、フラガは席を立つ。

 そのまま彼は何も言わず、病室から出ていったが──

 その言葉だけで、サイは何故か少し救われたような気がした。

 

 

 ──2年前、どうしてあの状況から助かったのかだけは、結局教えてくれなかったな。

 あの人自身、分かっていないのかも知れないけど。

 

 

 

 

 サイがほっと息をついた後、フラガと入れ替わるように病室に入ってきたのは、女医のスズミ・トクシ。

 軽く会釈をしながら立ち去るフラガに同じく会釈を返しつつ、彼女はベッドサイドの点滴の様子を見た。

 

「久しぶり。どうしても間が空いてしまって……

 調子はどう、サイ君?」

「今のところ、特に問題ありません。

 先生こそ、すみません。医療ブロックも忙しいのに、合間を縫ってわざわざ俺を診てくれて」

 

 そんなサイの言葉にスズミは少し口を噤んだものの、すぐに笑って答えた。

 

「当然よ。新生アマミキョと北チュウザンを救った英雄様だもの──

 良かったわ。怪我の回復、予想よりずっと早いんですってね」

「はい。あれからそこまで日が経ってないのに、もう自力で問題なく歩けるようになるとは思いませんでした。

 これもきっと、先生やピックルたちが頑張って治療してくれたおかげですよ」

「ありがとう」

 

 そう口にしながらも、スズミはベッド脇のモニターを操り、採取されたデータを眺める。

 その横顔からは既に、笑顔は消えていた。

 

「サイ君。

 治療が済んでも、貴方は少し医療ブロックに通ってほしいの」

「え? 

 構いませんが……どうしてです?」

 

 

 サイ自身、回復の速さには内心驚いていた。

 ――俺の身体はあの時、ズタズタになっていたはずだ。手足の一本や二本、切断してもおかしくないレベルの怪我を負っていた。

 後から聞いたが、骨折していた部分だって一か所や二か所じゃなかった。

 腹部も、内臓が露出する寸前まで抉られていたというのに──

 今はほぼ、何の痛みも感じない。

 ただ、元から痛めていた左腕だけは何故か、動きが戻っていないが。

 

 

「正直に話すけど……

 サイ君の回復状況に、少し気になる点があってね」

 

 何故か言葉を選ぶように話すスズミ。

 彼女はサイを気遣うように「少し気になる」とだけ表現しているが、彼女がこのような言い方を患者にする時は大抵、重大な異変が発生していることが多い。なら──

 

「俺なら構いません、先生。

 何かが俺の身体に起きているんだったら、何でも話してください」

 

 サイは身構えながら、スズミの次の言葉を待つ。

 だが彼女は軽く頭を横に振り、表情を和らげた。

 

「いいえ、サイ君。正直医療班でもまだ分からないし、話せるような段階じゃないの。

 今すぐどうにかしないといけないわけでもないし、どうにかなるものでもない。

 本来、回復が速いのは歓迎すべきことだしね。

 ただ一つだけ、心にとめておいてほしいことがあって……」

「何でしょう?」

「──ティーダ・Zが覚醒し、湖周辺の全てのモビルスーツや艦船が、機能停止を余儀なくされたあの時。

 貴方の脈拍と呼吸は、()()()()()()()()()

 

 

 淡々とした語り口だったが、それだけに余計サイの衝撃は大きかった。

 今までも、死ぬ寸前まで追い込まれたことは何度もあった。だが──

 つまりあの時、自分は本当に、死んでいたのか。

 

 

「幸い、決定的な判定を下す前に貴方の脈拍と呼吸は戻った。

 私もみんなも、黄泉の淵からサイ君が戻ってきてくれたことは、心の底から良かったと思ってる。

 だけど、これだけは覚えておいて──

 私たちの医学では解明出来ない何かが、貴方の身体で起こっている可能性があることを」

 

 

 

 

 

 

PHASE-44 タロミ暗殺

 

 

 

 

 

 

 病室から出たサイを待っていたのは、ナオト・シライシと──

 ミネルバJrから降りてアマミキョに収容されていたはずの、カズイだった。

 随分久しぶりに会ったような気がする友の顔に、サイは素直な喜びを隠せない。

 

「カズイ! 

 良かった、もう怪我は何ともないのか?」

「俺は全然大丈夫。サイに比べたら、かすり傷みたいなモンだし」

 

 とは言いつつも左の肋骨あたりがまだ特に痛むらしく、笑いながらも時々顔を歪ませている。

 それでもカズイはナオトとサイを交互に見やりながら、ほんの少し涙まで浮かべていた。

 

「それよりもさ──

 ナオトも、ちゃんと生きて戻ってきてたんだな。

 アマミキョが復活してたことも、サイがあの後やったことにも驚いたけど……

 ホント、皆、無事で良かった」

 

 カズイは声を詰まらせ、つい目から溢れだしたものを慌ててパーカーの袖で拭う。

 色々と、無事とは言いにくいけど──

 そう言いたげに、困ったように笑ってサイと顔を見合わせるナオト。

 だがナオトはそれを敢えて口に出さず、カズイに礼を言った。

 

「ありがとうございます! 

 サイさんから、お話は聞きました。連合の収容所のこととか……

 カズイさんこそ、生きててくれて良かった!」

 

 そんな彼の言葉に、カズイはふと何かに気づいたように顔を上げる。

 

「ナオト……

 さっきからちょっと思ってたんだけどさ。

 お前、声、変わった?」

「え? 

 ん、んー、あー、んー……?」

 

 その指摘に、改めて何回か発声を試みるナオト。

 女性と間違えられかねないほどの甲高い声はもうなく、確かに以前より低く、成人男子の声に近づいていた。頑張れば以前の声も出せないことはないようだが、地声はだいぶ低音になっている。

 ミネルバJrに収容された時には声が出せなくなっていたらしいが、変声期に入ったというのもあるのだろうか。勿論、最大の要因はマユと母親の件に違いないが。

 サイも気づいてはいたが、あまりに衝撃的な出来事が連続したせいでいつの間にか慣れてしまっていた。ナオトの声に。

 だが本人はそうもいかないのか、自分の声に改めて首を傾げる。

 

「うーん……言われてみればこの声、変だよなぁ。

 僕、声で売り出していた部分もあるから、ちょっと困るなぁ」

 

 そんなナオトに、サイは笑った。

 

「全然変じゃないし、悪いことじゃないだろ。

 ナオトがまた一歩、大人になった証だ──

 これからは声だけじゃなく、中身も売りにしていけってことだよ」

「元々そのつもりですよ」

 

 鼻息を少し荒くしながら、ナオトは先導するようにさっさとアマミキョの通路を歩いていく。

 新生したとはいえ、アマミキョの内部構造も内装もそこまで変化してはいなかった。勿論、トリコロールカラーで彩られた外装も。

 変わった点と言えば、メインブロック内に大きめの庭園が出来たことぐらいか。

 

「クルーの憩いの場が増えたのは良かったな。前と同じじゃ、ストレスまみれだったろうし」

「あの庭園ですか? あれ、元からありませんでしたっけ?」

「何言ってんだよ。もうちょっと緑が欲しいって、ナオトだって言ってたじゃないか」

「そうだったかなぁ……?」

 

 それ以外は前と同じすぎて、サイも少し辟易したほどだ。

 ──恐らく、例の全船監視システムも同じだろう。

 サイの治療を担当していた新人看護師3人の言葉から、あの忌まわしきブラックボックスは未だにこの船にある

 ──サイは確信していた。

 船に関わる者たち全ての感情を集積し、収束し、ガンダム・ティーダへと繋げ、『黙示録』なる物理的な力へ変換する──

 アマミキョの根幹たるシステムだけに、あれを容易に外して改修出来るとは思えない。

 

 ――そもそも俺がアマミキョ再建をムジカ社長に依頼してから、実際に新生アマミキョが完成するまでの期間が、あまりにも短すぎる。

 元々アマミキョに不測の事態が発生した時の為に、量産型とも言うべき船体は大分前に完成していたのではないか。勿論、システム周りまで含めて。

 ちょうどアカツキがそうであったように、船体はオーブの手でモルゲンレーテの奥深く、秘密裏に管理されていたんだろう。タロミの目に触れぬよう、細心の注意を払って。

 

 そして、今や全世界の脅威となっているセレブレイト・ウェイヴは、間違いなくティーダとアマミキョを基にして生み出された。

 山神隊・広瀬の報告書からも、オギヤカで再会したフレイの言葉からも、それは明らかだ。

 だからこそ、タロミ・チャチャはアマミキョを潰そうとした。

 

 ――だが、俺もナオトも、アマミキョもティーダもこうして、生きて戻ってきた。

 無事完成し出航した新生アマミキョも、タロミの脅威から何とか逃れることが出来た。

 

 ──となれば、オーブやザフトが俺たちを使わないという手はないはずだ。

 当然、セレブレイト・ウェイヴへの対抗手段として。

 連合も大幅に弱体化したとはいえ、未だアマミキョの動向を注視しているだろう。

 山神隊が引き続きアマミキョ護衛の任務に当たっていることからも、それは明らかだ。

 

 

 そんなサイの胸中を知ってか知らずか、カズイが尋ねてきた。

 

「それとさ──

 ティーダは、どうしたんだ? ミネルバJrで修理されて、凄まじい覚醒したとか聞いたけど……

 俺たちの正式な所属も、一体どうなってんだか」

「アマミキョ側とトライン艦長がひっきりなしに相談してるって聞きましたけど、僕もそれ以上は……」

 

 この二人には勿論、アマミキョのクルーにも──

 そして山神隊を始め、周辺でアマミキョを支える人々には全員に、話さねばならない。

 

 サイはぎゅっと右拳を握りしめる。

 沈みかけるアマミキョから皆を避難させたあの時、クルーたちに言えなかった言葉──

 それは、広瀬の報告書やフレイ本人から真実を明かされるごとに、さらに話しづらいものとなってしまっていた。

 サイ自身とて、今でも認めたくない。自分たちが、人倫を脅かす戦略兵器──その開発の人柱にされたなどと。

 そして今なお、タロミへの対抗手段として利用されようとしているなどと──

 そんな話を聞けば、アマミキョに戻ってきてくれたクルーは勿論、新しく集ってきた者たちにどんな衝撃が走るか分からない。

 だが、それでも俺は話さなければ。みんなに。

 

 

 そう心に決めたサイに、ナオトが思い出したように言った。

 

「そうだ、サイさん。

 ミリアリアさんが呼んでましたよ。業務がひととおり終わってからでいいから、会いたいって。

 場所は──」

 

 ナオトはポケットからメモを取り出し、サイに指し示す。

 声を出さないようにしたのは、明らかに盗聴を気遣ってのことだろう。ミリアリアに言われたのか、ナオト自身がそのような気を回せるようになったのか。

 いずれにせよ、再会を喜んでお茶でも──という類のものではないことは明らかだ。

 

 ──キラとラクスの件か。

 あの湖で、どういうわけか俺たちの前に立ちふさがるように現れた二人。

 チグサ・マナベとなったマユを連れ、フレイの意思に沿うように行動するキラ。

 俺やナオトに不可思議な夢を見せ、現実ではありえないユートピアへ誘い、俺やナオトを取り込みかけたラクス。

 あの二人は、何故、チュウザンの争いに介入した。

 何が目的でフレイの側についたのか。

 

 

 メモには、ヤエセ中心街から少し外れた小さな喫茶店の場所が示されていた。

 アークエンジェルやアマミキョ、ミネルバJr、そして連合艦タンバが停泊中の港からは、そこまで離れてはいない。

 アークエンジェルを避けたのは、以前艦内に強制的に備え付けられた盗聴器を疑ってのことに違いない。ミリアリア救出の為にフレイがアークエンジェルに出した交換条件として、大量に艦内にばら撒かれたものだ。

 モルゲンレーテで何度かメンテナンスも行われている以上、既に全て撤去されているはずだと思いたいが、全面的に信用するのは危険だろう。

 

 

「分かった──出来るだけすぐ、今夜中にでも行くよ」

 

 ナオトも、決意したように顔を上げる。

 

「僕も行きます。

 マユが今どうなっているのか、少しでも知りたいですから。

 キラさんやラクスさんが、何を考えているのかも……」

「それがいいな。

 カズイはどうする? 来るか?」

 

 サイの問いに対し、カズイは少しばかり考えたが──

 やがて何かを察したように、首を横に振った。

 

「俺は残るよ。俺がいたんじゃ多分、話しづらいこともあるだろ? 

 平和に二次会になだれ込みそうだったら、呼んでくれよ」

 

 微笑んではいたが、はっきりと断るカズイ。

 何気ない会話でも明確に自己主張出来るようになったのは、彼の大きな成長の一つだろう。

 そんなカズイを見て少し寂しげになりつつも、ナオトは続けた。

 

「ただその前に、やらないといけないことが一つあって。

 サイさんも、ついてきてもらえますか」

 

 強いまなざしで真摯にサイを見つめるナオト。

 その視線だけで、察した。

 

 

 ──広瀬少尉のことだな。

 俺がアマミキョの件を皆に話すよりも、ナオトの方が辛いはずなのに。

 

 

 それでもサイは、努めて気さくに笑った。

 

「勿論行くよ、分かってる。

 やることが山積みだ、ひとつひとつ丁寧にこなしていこう」

 

 

 

 

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