【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
数時間後──
山神隊母艦タンバ・メインブリーフィングルームにて。
ナオトはサイに付き添われながら、自分が実験施設シネリキョに向かったそれ以降のあらましを、山神艦長に報告していた。
マスミ・シライシらによる、SEED保持者に対する実験。
そこから広瀬により助け出されて分かった、シネリキョ内部の詳細。
マユ・アスカとカイキ・マナベの正体。
広瀬に伴われつつ目撃した、ありとあらゆる偽造モビルスーツの群れ。
シネリキョ最深部──恐らく、セレブレイト・ウェイヴ発振装置のコア部分──に格納されていたティーダ。
失われたマユ・アスカの魂。そのかわりに復活を果たし、紅のストライクフリーダムと共に現れた、チグサ・マナベ。
そしてナオトは語った──
恐らくフレイはナオトを使い、ティーダの真の能力を覚醒させようとしたことを。
「多分、ですが……
自分がSEEDに覚醒したことで、皮肉にも事はフレイ・アルスターの望み通りに進みました。
広瀬さんは、研究塔内で黙示録を使わないよう、僕に警告してくれていたのに
──僕は怒りに身を任せてしまった。
もし、僕が黙示録を使ったことであの兵器が完成してしまったのだとしたら──
母を殺されて感情を制御出来なくなった、僕の責任です」
自分の知る限りを、出来るだけ正確に、可能な限り感情を交えず話し続けるナオト。
ただ、最後のくだりだけはどうしても声を詰まらせてしまう。
「そんな僕を、最期まで広瀬さんは助けてくれた。
母もマユも失って、チグサ・マナベから攻撃を受けた時、完全に僕は死んだと思ってました。
だけど、広瀬さんは言ってくれたんです。意識がある限り、諦めるんじゃないって」
隊に届けられた広瀬の報告書により、山神隊は全員、内容の半分以上を既に知っていたが──
それでも皆、一切言葉を挟むことなく静かに彼の言葉を聞いていた。
特に広瀬の最期は、ここにきて初めて隊員らが知る事実だ。
彼らの中で正式な軍属ではないキョウコ・ミナミだけはハンカチで涙を拭きながら泣きじゃくっていたが、ナオトの声以外に室内に響いた音といえばそれだけである。
ようやくナオトが話を終えると、静かに山神艦長が立ち上がり、彼の肩にその分厚い手を乗せた。
「ありがとう、ナオト・シライシ。
よくぞここまで生き延び、辛い事実を話してくれた。
君のおかげで、広瀬はようやく本来の任務を完了した」
歯を食いしばり肩を震わせるしかないナオトに、山神はそっと頷いてぽんぽんと肩を叩く。
そこへ、伊能が一言だけ吐き捨てた。軽く床を爪先で蹴りながら。
「もう一つ、大事な任務は放棄されちまったがな。
広瀬大尉とか……めでたくもねぇ出世しやがって。
──生きて帰れ、つっただろうが」
サイは改めて、山神隊を見回してみる。
隊の人数は、当初の半分近くまで減っていた。
風間、真田、竹中──そして、広瀬までがいなくなり。
企業からの出向という形で参加しているミナミを除けば、サイが知る顔は山神艦長と伊能、そして時澤の3名しか残っていない。
後もう一人、新人らしき女性隊員がこの場に加わっていたが、彼女についてはサイもナオトも全く知らなかった。
新入りにしては態度が聊か堂々としており、ナオトの話にも一切眉を動かさず、ひとつの動揺も見せなかった女性。
ゆるくウェーブのかかった茶髪を優雅に背中に靡かせており、風間とは若干対照的に思える──風間はサイの知る限り、ずっと髪をひっつめて一本に結んでいたから。
しかしその性格は、風間と同じくらいかそれ以上に強気なように思える。
ナオトが落ち着いたところを見計らったように、彼女は髪をかき上げながらずいと詰め寄った。
「僕の責任、と言ったわね。
つまりキミが余計なことをしなければ、セレブレイト・ウェイヴは完成しなかった可能性もある。その責任を自覚していると、自ら堂々宣言したわけね?」
見知らぬ女性軍人にそう言われ、ナオトは戸惑いながらも返事をする。
「え?
は……はい」
「──なら、見せてもらおうじゃない。キミなりの、責任の取り方ってものを」
「霧山少尉!」
彼女の態度に若干慌てながら、時澤が早口で割り込む。「それは極論です。
ナオト君がティーダを暴走させていようがいまいが、いずれセレブレイト・ウェイヴは完成していたと自分は思います。彼があの研究施設で実験を受けている限りは、遅かれ早かれ同じことになっていたはずです。
彼が抵抗せずそのまま研究が続いていたら、兵器はさらに凶悪な代物になっていた可能性すらある。セレブレイト・ウェイヴの弱点のひとつに、長期にわたるチャージ時間を要すると報告書にありましたが──
我々が未だこうして地上で会議をしていられるのは、そのおかげでもあります。
その猶予すら、我々には与えられなかったかも知れないんですよ!」
「だけどその一方で、彼が広瀬大尉の言葉に従っていれば研究所の機能停止は勿論、大尉も、マユ・アスカさえも救える可能性がありました。
私がその場にいたわけではないから、断言は出来ないけれど──
ナオト君。キミなら、分かるはずでしょう?
その時、マユ・アスカを、キミ自身が救えたかどうか」
敢えて「チグサ」と呼ばない彼女に、ナオトは思わず両拳を握りしめた。
妖艶な桜色に濡れたその唇から飛び出すその言葉に、情け容赦は全くない。
――僕が冷静なら、マユを助けられたのか? チグサではなく、マユを。
「──霧山」伊能もさすがに見かねて、彼女の言葉を中断させる。
「フレイ・アルスターを甘く見るな。
彼女はまんまと我々を欺き、アマミキョとティーダをセレブレイト・ウェイヴの実験台とし、核やジェネシス、レクイエムすら超える戦略兵器を手に、世界を牛耳ろうとしている。
その裏に何があったかは知らんが、そこまでの所業を彼女が成し遂げたのは事実だ。
ナオト・シライシと広瀬の二人だけで、簡単にどうにか出来る女じゃねぇんだよ」
上官たる伊能に言われ、霧山と呼ばれた女性軍人は少しだけ苦笑を漏らしながら肩を竦めた。
「そうですね。
元婚約者君もいることですし……」
そう言いながら、霧山はサイに流し目を送る。
その切れ長の目は、サイにはやたらと蠱惑的に思えた。
風間の母性とは別種の、人心を惑わすかのような悪魔的な魅力といったところか。
だがそんな彼女の言葉を完全に否定するか如く、ナオトは叫ぶように言い放った。
「マユ・アスカは消えてない。
彼女は、まだ生きてます。サイさんを助ける時に、僕はマユの声を聞いたんです!
チグサ・マナベじゃない、本当のマユの声が。
だから、僕はマユを助けます。あの時助けられなかったなら、もう一度助けるだけだ。
何度フレイさんに惑わされたって、僕は何度だってマユを助ける!
広瀬さんの為にも、みんなの為にも!!」
その叫びを支えるように、サイも訴える。
「自分も、ナオトと同意見です。
チグサ・マナベは狂暴なパイロットではありますが、あの湖でこちらに攻撃を仕掛けた直後、それ以上の行動をしなかった。
黙示録発動の直前、ティーダ・Zに接近する自分の姿も確認出来たはずですが、彼女は攻撃しようとしなかったんです。何故かは分かりませんが──
マユ・アスカの意識がまだ生きているからではないかと、自分は推測しています」
一旦息をつきながら、サイはなおも言った。
「そして伊能大佐が仰った通り、フレイの行動は常軌を逸している。人道的観点からも許されざる行為であるのは、間違いありません。
しかし、自分は確信しています。その行動の裏には必ず理由があると。そう行動せざるをえない何かがあると。
その理由を知る、ある健気な娘のおかげで、自分はオギヤカから脱出することが出来ました」
思い出したのは、オギヤカで自分に訴えかけたレイラ・クルーの言葉。
──私は貴方に、姉も、アマミキョも、助けてほしい。
そして姉やアマミキョを助けられるのは、貴方をおいて他にはいない。
あの子は今、どうしているだろう。
咎められてフレイに囚われてしまったか、それとも──
「ナオトがマユを助けたいのと同じように、自分もフレイを助けたい。
勿論それは、世界をフレイの意のままにさせることじゃなく──
何としてもフレイの行動を止めて、彼女の真意を確かめたいんです」
そんなサイとナオトに、さすがの霧山もため息を隠せない。
「あのね……
恋愛脳で世界が救えるなら、誰も苦労しないわけよ」
そうは言いながらも彼女はサイに向き直り、額にかかった髪を若干けだるげに直しながら、自己紹介を始めた。
「私はユキエ・霧山少尉。
大西洋連邦・アメリカ西部方面にいたけれど、この度山神隊に配属されたの。
今後、チュウザン防衛やセレブレイト・ウェイヴ攻略に向けて、貴方たちとも協力していくと思うから、よろしくね」
その言葉に、サイは思わず身を乗り出した。
「セレブレイト・ウェイヴ攻略って……
もしかして、宇宙へ行くんですか」
「そうよ。それ以外に、どうやってアレを止める方法があると思って?」
補足するように、キョウコ・ミナミが口を挟んだ。
「状況によっては当然、ティーダやアマミキョにも出動要請が出るでしょうね。
事と次第によっては、あのにっくきザフトとも手を組まないといけない事態なのよ。連合にしてみれば相当な屈辱なんですけどね!」
つんと鼻をそらすミナミに、サイはやはりか、という思いを隠せない。
さすがにアマミキョ全てというわけにはいかないだろうが、メインブロック、そしてそれに関わる人員は多くが投入されるかも知れない。
アマミキョとティーダの秘密をサイが公にしてしまえば、その可能性はさらに上がる。
例え戦いから無事に戻ってこられたとしても、クルーは研究材料として扱われる危険性すらある──
そこは、アスハ代表にも協力願って全力で保護してもらうしかないか。
どうにも釈然とせず、サイは唇を噛むしかなかった。
「これは、確実に信頼できる筋からの情報。
──キラ・ヤマトとラクス・クラインは、フレイ・アルスターを支援し、南チュウザン軍と協力している」
アマミキョでの業務が何とかひと段落した夜。
約束通りサイはナオトを伴い、ヤエセ郊外の喫茶店でミリアリアと再会していた。
街はずれでありながらそこそこ人気はあり、ざわついている店。陽気なジャズとポップスが交互に流れている。
その隅のテーブルに座りながら、周囲の警戒も怠ることなくサイたちは集まった。
しかも彼女は、意外な人物を同伴していた──
私服姿のアスラン・ザラ。恐らく、彼女の護衛役としてだろう。
恋人同士になったのではないことだけは、二人のよそよそしい雰囲気からすぐ分かった。
席に着いた途端、挨拶もそこそこにミリアリアは無愛想かつ単刀直入に切り出したのである。
その最初の一言だけで、サイは理解した──
これが平和な二次会にはなりそうにないことを。
連合に捕えられる直前にかなりの無礼を働いたことをまずは謝ろうとサイは考えていたが、ミリアリアはそれすらさせず、声を低くして早口で話す。
ともすればBGMにかき消されかねないほどの小声で。
「サイとカズイがキラと別れた後、すぐにラクスさんはキラとバルトフェルドさんを伴って南チュウザンへと向かった。
表向きの目的は勿論、フレイ・アルスターを止める為なんだけど……
ラクスさん自身の目的は、別にあった。
それは、彼女の母親を探すこと」
ミリアリアはそこで一息置いて、運ばれてきたコーヒーに口をつける。
サイは戸惑いながらも、尋ねた。
「母親? ラクスさんの?
確か、かなり前に亡くなったとだけ聞いたけど……」
サイはミリアリアの隣で黙ったままのアスランの表情も窺ったが、彼は首を横に振るだけだ。元婚約者なのだから、何か知っているかと思ったのだが。
「病気で亡くなったと、公式発表されているわ。
だけど実際には、ある日突然行方不明になったそうなの」
考えてみれば、確かに病気はおかしい──
コーディネイターは最低限の調整だったとしても、病気には罹らない健康体として生まれてくるはずなのだから。
ラクスの母がナチュラルだったとも考えにくい以上、病気で亡くなったとすれば矛盾が生じる。
「サイの話をきっかけに、ラクスさんは南チュウザン──
それも、フレイ・アルスターの背後で母親が生きていると確信したらしくてね。
会いに行く為に、キラやバルトフェルドさんと一緒に現地へ向かった」
俺のせいかよ──
少なくとも、俺は止めたぞ、あの時。
「だけど……」動揺を隠せないながらも、ナオトが口を挟んだ。
「ラクスさんがお母さんに会いに行ったのと、彼女たちが南チュウザン側に回ったのと、何の関係があるんです?
何も繋がりがないじゃないですか」
「そうね。私も最初はそう思った──」
少し肩を落としながら、ミリアリアはさらに声を潜める。
「南チュウザンに向かったラクスさんとキラは、ある事件に巻き込まれてしまったの」
「ある事件?」
「あの時、紅のストライクフリーダムが各地で大暴れしていたのは知っているでしょう?
そのパイロットが、チグサ・マナベであることも。
キラとラクスさんは、南チュウザンの市街地付近で暴れようとしていた彼女を、まずは止めようとした。
だけどそれは、南チュウザン側が仕掛けた罠だったのよ」
「罠?
ラクスさんが、罠に引っかかったんですか?」