【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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※直接描写は避けましたが、原作メインキャラへの性的暴行を示唆する描写があります。苦手なかたは十分ご注意ください。





part3 変節の理由

 

 

 信じられないといった目つきでミリアリアを見つめるナオトに、アスランが初めて口を出した。

 

「例え罠だと分かっていても、目指すものがあるのならラクスは行くさ。

 彼女は、そういう人だから──」

 

 そんなアスランに対して、今もなお疑り深い視線を向けるナオト。

 オーブを離れてザフトに戻り、さらに今またオーブに舞い戻ってきた彼に対するナオトの心情は、かつてよりさらに冷え切ったものになっていた。

 実際アスランの姿を目撃した瞬間、彼は店から出ていこうとしたくらいだ。サイが強く止めていなければ、本当に帰ってしまっていたかも知れない。

 そんなナオトをとりなすように、サイは口を挟んだ。

 

「そうだよな、俺も知ってる。

 ラクスさんもキラも、目指すものの為ならどこまでも、馬鹿みたいに真っすぐな人間だって」

 

 ひどく低めの声もそのままに、ミリアリアは続ける。

 

「──とにかく。

 キラとチグサ・マナベは、ストライクフリーダム同士での戦闘状態に陥った。

 そのすぐ近くで、ラクスさんはバルトフェルドさんたちに護衛されながら森を移動していたのだけど──

 そこで何故か、母親の姿を見たそうよ」

「そこで、ですか? 

 何故、そんな場所で唐突に、ラクスさんのお母さんが?」

「サイ、ナオト──覚えてる? 

 貴方たちがストライクフリーダムと対峙した時、マニピュレータに現れたラクスさんの姿を」

 

 

 そうだ──

 俺とナオト、そしてルナマリアの前に突然現れた、ストライクフリーダム。

 その掌部に現れた、豪雨の中で光り輝くラクス・クライン。

 今でこそあれはホログラフィーだと理解してはいるが、一瞬本物と見まがうほどの精巧な映像だった。

 実際、俺もナオトもルナマリアもあの幻にまんまと囚われ、不可思議な世界を見せられたじゃないか。

 

 

「もしかして、似たようなホログラフィーが、ラクスさんの前にも? 

 僕らならともかく、ラクスさんが引っかかったりするでしょうか?」

 

 そんなナオトの問いに対し、ミリアリアは淡々と答える。

 だがその内容は、ナオトとサイにとっては信じがたいものだった。

 

「似たような……というより、貴方たちが見たものと同じホログラフィーよ」

「へ? 

 いや、僕らが見たのはラクスさんの映像であって、彼女の母親じゃないですよ?」

「そこがややこしいのよね……

 彼女の母親と言われる人物が、ラクスさんとほぼそっくりそのまま、殆ど彼女と見分けがつかない容姿をしていたとしたら?」

 

 

 そんなミリアリアの指摘に──

 不意に背中に氷を入れられたかのような戦慄を覚え、サイは思わず身体を震わせた。

 コーディネイターの親子ならば、ありえない話ではない。自分の容姿そっくりに娘の姿を調整させようという親がいてもおかしくはなく、今はそれが可能な時代だ。

 

 

「だ、だけど……」震えだす声を必死で抑えながら、ナオトは尋ねる。「コーディネイターとはいえ、身体はどうしたって老化していくでしょう? 

 いくらなんでも、娘のラクスさんと見分けがつかないなんてこと、あるわけないでしょ」

「仮に、見た目の老化さえも抑えるコーディネイトをされていたとしたら、どうかしらね。

 それでなくても、貴方たちが見たのはホログラフィーよ。見た目なんて、いくらでも操作できる」

 

 

 双子のように自分と同じ姿の母親というだけでも、通常の感覚からすれば異様に思えるが──

 サイは思う。それはあくまで、自分のようなナチュラルの感覚なのかも知れない。

 コーディネイターの家庭では、もしかしたら珍しくもないことかも知れない。

 だがそうだとしても、それが、ずっと前に姿を消していた母親だとしたら? 

 映像にすぎないと分かっていても、そんな存在が不意に眼前に現れたら、どんな人間だって動揺してしまうだろう。たとえそれが、あのラクス・クラインであろうとも。

 

 

「そして、罠と分かっていてもラクスさんは進む人──

 なら、幻と分かっていたとしても追いかけるのは当たり前。

 勿論、付き添っていたバルトフェルドさんは止めに入った。けど、彼女はそれでも母親を追っていった──

 その時、チグサ・マナベの攻撃が、ラクスさんのすぐ近くに着弾したの」

「え?」

「その結果、彼女を守ろうとしてバルトフェルドさんは重傷を負った。

 そして彼や、ラクスさんについてきていた避難民たちを人質に、チグサはキラに降伏を迫った。

 そうなったら当然、キラも折れないわけにはいかなかったのよ」

「チグサ・マナベが……

 マユが、それをやったっていうんですか」

 

 テーブルの上で両拳を握りしめながら、ナオトは呟く。

 その手はわずかながら震えだしていた。

 

「だからか……

 ラクスさんたちを人質に取られたから、キラさんは無理やりフレイ・アルスターに従わされたのか!!」

 

 そんな彼をじっと見つめながら、ミリアリアはさらに話す。

 

「落ち着いて、ナオト。

 マユを──チグサ・マナベの中の彼女を助けたいなら、ちゃんと聞いて」

 

 冷静さを崩さないミリアリアを、思わず睨みつけるナオト。

 だが彼女の強い視線に、さすがの彼も黙ってしまった。

 まだ、話はこれからだ──そう感じたサイは、改めて姿勢を正した。

 

 

「キラを降伏させたところまでは、チグサ・マナベの思い通りだった。

 だけど、そこから先で何が起こるかは、彼女ですら知らされていなかったらしいの。

 負傷したバルトフェルドさんの元に、当然ラクスさんもいるはずだって──チグサ本人は考えていた。

 でもその時、何故かラクスさんの姿は消えていた。

 間違って殺してしまったんじゃないかって、チグサは本気で怖がってたみたいよ」

「チグサ・マナベが……怖がった? 人を殺すのを?」

 

 ひどく意外そうに、ナオトは尋ねた。

 サイにとっても意外な話だ。彼女はあちこちの街を容赦なく爆撃し、丸腰で話をしようとした自分たちすら、モビルスーツで殴り落としたじゃないか。

 

「そうね。予定外のことだったらしくて、半狂乱になってたみたい」

「随分詳しいな……まるで、君がその場にいたみたいだ」

「そりゃそうよ。だって、その場にいた人間から聞いた話だもの」

「──え?」

 

 首を傾げるサイをとりあえず無視したまま、ミリアリアはコーヒーを啜りながら話し続ける。

 

「でも、キラは逆に落ち着いていたみたい。

 取り乱すチグサを励ましさえしながら、少ない手がかりの中で何とかラクスさんを探そうとした。

 けど──」

 

 

 彼女は一つ、大きく息をつく。

 自分の中の感情を無理やり抑え込むかのように。

 

 

「ラクスさんが発見されたのは、数日後。

 南チュウザン北端──ダウゴン市の片隅だった」

 

 

 ダウゴン市。

 その街の名に、サイもナオトも揃って目を見開いた。

 噂でしか聞いたことはなかったが、南チュウザンの中でも特に治安に問題があり、市全体が荒廃したスラム街になっている都市だ。

 市長はとうの昔に逃げ出し、破壊され尽くし、都市機能の半分以上が失われ、略奪や強盗が当たり前のように発生している街。北チュウザンでもそのような街は珍しくはなかったが、ダウゴンよりはどこもまだマシだという話は、サイもよく耳にしていた。

 南チュウザンから脱出してきた難民たちからも、ダウゴンの悲惨さは嫌というほど聞かされていた。人ではなく、虫が住む街だと。

 だが──何故、そんな場所にラクスが? 

 戸惑う二人に、ミリアリアは事実だけを語る。

 どれほどの衝撃を伴おうとも、ただ、淡々と。

 

 

「半壊した教会の祭壇で、ラクスさんは血まみれで倒れていたそうよ。

 着ているものがほぼ全部なくなって、殆ど襤褸を纏っているに等しい状態だった」

 

 

 ──何故だ。

 

 

「周りには、小さな子供たちの死体がたくさん転がっていた。

 その教会は、ずっと前から──いわゆる人身売買に使われていた建物だったみたいでね。

 子供たちを守るように、ラクスさんは倒れていた」

 

 

 ──どうして。

 一体、彼女に何が起きたんだ。

 

 

「多分ラクスさんは、チグサの攻撃で意識を失ったところを、何者かによってダウゴンへ運ばれた。

 推測だけど、南チュウザンの中でも最も荒れ果てたスラム街であるダウゴンに、平和の歌姫たるラクス・クラインを放り込んだらどうなるか──

 そんな非人道な実験をしようとした誰かによって」

 

 

 サイの喉から、いくつもの疑問が飛び出そうとしたが──

 あまりの状況を前に、声は凍りつく。

 

 

「勿論、バルトフェルドさんの部下たちは彼女の護衛に回ろうとしたはずだけど──

 多分、チグサの最初の攻撃によって彼らもバラバラになり、混乱の中でラクスさんは孤立し、幻影に惑わされたところを捕らえられ、ダウゴンへ送られた。

 そんな状況でもラクスさんは、非力な子供たちを助けようとしたんでしょうね。

 連絡手段を閉ざされたった一人になっても、希望を捨てず、人を救うことを諦めなかった。

 勿論、母親も探しながら。

 だけど、その結果が──」

 

 

 一気に喋り終えたミリアリアは、疲れ切ったように大きなため息をつく。

 そこへナオトが、怒りに任せてテーブルに拳を叩きつけた。

 

「フレイ・アルスターが──

 あの女がやったのか! 

 ラクスさんを、そんな酷い目に!?」

 

 あまりにもストレートに事件を解釈したナオトを窘めるように、ミリアリアは告げた。

 

「違うわ。

 このことは、あのフレイも知らなかったらしいの。

 ラクスさんの姿を見て、チグサは勿論、キラも正気を失いかけた。

 そこへ助けに入ったのが、フレイ・アルスターだったのよ」

 

 あまりにも意外な言葉に、ナオトのみならずサイまでも目を丸くする。

 

 

 今の話からは──

 ナオトの言うとおり、フレイが裏で手を引いてラクスを罠にかけたと解釈するのが妥当に思える。

 しかし、どうも事はそう単純なものではなさそうだ。

 そもそも、フレイがキラとラクスのSEEDを手中にするつもりなら、ラクスを孤立させてダウゴンに送るのはどう考えても理に適っていない。

 フレイがこの事件の首謀者だったとしても、彼女の当初の予定は、キラが降伏した時点でチグサにラクスとキラを捕らえさせ、自分の元へ穏便に連行するつもりだったのではないか。

 だが、何者かの手によってラクスが行方不明になり、フレイも彼女を見失い、捜索した結果が──

 

 

「フレイたちの救出部隊によって、ラクスさんは何とか一命をとりとめた。

 だけど身体には、複数の暴行の痕跡が残されていて──」

「複数の……?」

「マスコミ勤めなら、分かるでしょ。これ以上、詳しく言わせないで」

 

 

 サイは思わず、ミリアリアの隣のアスランを睨む。

 恐らく彼はミリアリアに、事前にこの話を聞かされていたのだろう。もしくは、彼女を護衛しつつ情報提供者に直接接触していたか。

 だから、何も言わずに冷静でいられるのか。

 君はどうなんだ──こんな話を聞かされて、君はどう思ったんだ。

 婚約が破綻したとはいえ、今でも君はラクス・クラインの同志には違いないだろう。

 歌姫として、平和の象徴として、人々を先導してきたはずの彼女が──

 突然誘拐され、無知蒙昧な群衆の中に放り込まれ、散々に嬲られ、汚され、凌辱された。

 これは単なる暴行事件じゃない。ザフトの、ひいてはアークエンジェルら「歌姫の騎士団」の、彼女と深い親交を持つアスハ代表の誇りすら踏みにじる、世界中の怒りを呼び起こしかねない屈辱的行為じゃないか。

 

 だがアスランは、じっと耐え忍ぶように視線を落としたままだ。

 いつの間にか、両手でコーヒーカップを割れんばかりに握りしめてはいたが。

 

 

「その場にいた南チュウザン関係者たちは皆、ラクスさんが何故こうなっているのか、全く理解できなかったそうよ。

 チグサは混乱しきっていたし、フレイは激昂していた。

 フレイの目的は勿論、ラクスさんの持つSEEDに違いなかったのだろうけど──

 彼女がダウゴンに移送されることまでは、想定外だったみたいね」

 

 

 それでもナオトは疑り深げに、眉を顰めて反論した。

 

「それ、フレイさんがキラさんたちを手中にする為の演技だったんじゃないんですか? 

 あのフレイさんだったら、やるでしょ。そのくらいは。

 ちょうどその時救出に来たってのも、話がうますぎますよ」

 

 サイはそんなナオトの言葉を否定出来ず、すっかり冷めてしまったコーヒーに口をつけた。

 だが、カップに触れた指は震え、味が全く感じられない。

 フレイに、これ以上の罪を重ねてほしくない。なのに──

 ナオトの仮定を否定出来ない。最悪の予想ばかりが、脳裏をよぎる。

 

 だがそんなサイを励ますかのように、ミリアリアは静かに首を横に振った。

 

「違うと思う。

 もしそうなら、キラがラクスさんを発見したようなタイミングで、フレイが踏み込んでいくことはなかったはず。

 その時のキラは──

 当たり前だけど、酷く感情的になっていたから。

 すぐにダウゴンを滅ぼしていてもおかしくなかったってくらいに」

 

 

 当然だ──サイも思う。

 2年前……いや、もうそろそろ3年前にもなるのか。あの戦争で、キラはあまりにも多くのものを失った。

 フリーダムという力がありながら、フレイ・アルスターも守れなかった。

 一番守りたかった人を、守るべきだった人を、守れなかった──

 酷い失意と無力感で、一時期は廃人に近い状態になっていた。

 そんな彼をそばでずっと支えていたのは、ラクス・クラインだった。

 やっとキラが前向きになってきたと思えたのは、彼女のおかげだったろうに。その彼女さえ傷つけられたとなれば──

 

 

「そのままフレイが踏み込んでいけば、彼女すらもキラは殺していたかも知れない。

 彼女がフレイの偽物だってことは、キラもとっくに分かっているから。

 実際、その場の状況を見て茫然としたフレイに、キラは容赦なく銃を向けた。

 フレイにとっては最悪のタイミングで、居合わせてしまったのよ。むしろ、彼女が誰かに嵌められたと考えてもおかしくないくらい。

 だけど、すぐにラクスさんに駆け寄って必死で彼女を介抱するフレイを見て、何とかキラは思い直したらしくてね。

 その姿はまるで、妹を助けようとする姉みたいだったそうで──」

 

 

 自分が見てきたかのように語り続けるミリアリア。

 そのおかげで、サイもたやすく状況を想像することが出来た。

 ――恐らくキラの銃口など完全に無視して、フレイは髪を振り乱して無我夢中でラクスに飛びついた。かつて、一方的に傷つけられ続けた俺を助けた時と同じように。

 あのフレイが、ラクスに対してどういう感情を持っているかまでは分からない。

 だが、そうした状況に激昂を露にする女性であることは間違いない。ましてや、自分と同様に人々を先導して戦う女性が傷つけられたとあらば、敵味方の枠を飛び越えて酷い怒りをぶちまけてもおかしくはないだろう。

 もしかしたら、他の要因がある気もするが。

 

 

「キラは直感で、フレイの言葉に裏はないことを悟ったんだと思う。

 それで、キラは尋ねたの。

 どうしてラクスさんがこんな目に遭ったのか。

 ラクスさんの母親はどこにいるのか。

 ここまでして自分たちを狙う南チュウザンとは、タロミ・チャチャとは、何なのか。

 そして、今自分の目の前にいるフレイ・アルスターは──何者なのかと」

 

 

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