【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part6 悪魔は音もなく忍び寄る

 

 

 小刻みに震えだすミリアリアの肩。

 それを見ただけで、サイは察した。

 

 

 ──間違いない。

 彼女に情報を提供したのは、『あの』トール・ケーニヒだ。

 ミリアリアにセレブレイト・ウェイヴや、キラとラクスがあの湖に現れるという情報を提供したのも──

 そして、それによりアークエンジェルの出撃が促されることになったのも。

 全てあの、トール・ケーニヒを名乗る少年によるものなのだろう。

 

 

「前にも言ったでしょ……

 私は、強くない。

 だから、サイみたいには絶対出来ない。見た目と声が同じだけの別人を受け入れるなんて……」

「あのトールは、全くの別人とも言えないと俺は思ってる。

 自分はトール・ケーニヒ以外の何者でもないって、本人が言ってたから」

「そうね、私もそう言われた。

 記憶をなくしただけの本人だって、思えるものなら思いたかった。

 だけど……違う。違うのよ」

 

 小雨の降りしきる中、ミリアリアは傘もささずに立ち止まり、両拳を握りしめる。

 

「私の中のトールはね。

 あの嵐の日、キラを助けようとして飛び出していったところで、終わってるの。

 何も続きがないの。

 同じ声で、会いたかったってどんなに優しく言われても──

 確かにショックだったし、すごく動揺もしたのよ。

 だけど私の中で、どうしてもトールとしては認識出来なかった。彼のことは」

「それは、フレイやアマクサ組の情報を俺から聞いていたせいじゃないのか」

「そうかも知れない。

 サイの話を聞いていなければきっと、私はすっかり騙されていたと思う。

 でも、仮に何も知らずに、もう一度昔のトールと同じように接したとしても──

 多分、少しすれば気づいたはず。彼は、私のトールじゃないって。

 どれほど言葉を交わしても、トールは……

 あの日ブリッジから飛び出していった時のまま、変わらないから」

 

 自分を責めるかのように、唇を噛むミリアリア。

 そんな彼女に、サイは自分の傘を開きその頭上に差し出した。

 雨は小雨から、やや本降りになってきている。

 

「君の感覚が普通だ。俺の方が異常なんだよ、多分。

 俺さ、彼女から真実を告げられた時には、もう好きになっちまってたから」

「……フレイの姿を使って、自分を欺いたと分かっても?」

「彼女は必死でフレイになりかわろうとしていた。

 その過程で俺に出会って、何の因果か分からないけど彼女は俺を気に入って。

 彼女は命がけで俺を守り、俺に自分の真実をさらけだそうとしていた。すごく不器用な形でだったけどね。

 そんな彼女が、気づいたらすごく好きになっててさ。

 今、ミリィからの話を聞いて、ますます好きになった。

 彼女、俺には想像もつかない重いものと常に戦っているような気がしてたけど、やっぱりそうだったんだって」

「……」

「何度も自分を責めたよ。フレイに成り代わった女を愛するのかって。

 死者を冒涜するような行為を、平然と行う女を──

 だけど、仕方ない。もう、好きなんだから」

 

 自分で言っていて酷い男だと思ったが、そう言葉にすると、サイは何故か吹っ切れたような気分になった。

 問題は何も解決していない。あのフレイが今どうしているのかも、キラやラクスを手中にして何をするつもりかも分からない。

 自分がそんな彼女に対して、何が出来るのかも分からない。服従遺伝子などという、途方もない強敵を相手に。

 ただ──大きな足がかりを得ることは出来た。

 

「多分彼女に施された遺伝子操作は、そこまで完璧なものじゃないはずだ。

 少なくとも、俺を殺せという命令を拒否して俺を助けてしまうくらいには。

 だったら、まだ希望はある。俺はそう信じる」

 

 きっぱりと言い切ったサイの横顔を見ながら、ミリアリアもふと微笑んだ。

 久しぶりに見るような気がする、彼女の素直な笑顔だ。

 

「そうね。サイの話を聞く限り、彼女に施されたコーディネイトは、ソキウスにかけられたものほど強い操作じゃない。

 ──もしかしたら、それすら意図的なものの可能性があるけど」

「意図的? わざと弱めにコーディネイトしたって? 

 何のメリットがあってそんな……」

「分からない。根拠は全然ないけど、そんな気もするだけ。

 ただ、誰かの気まぐれで歴史が動くことって、結構あったりするから」

 

 

 その誰かってのはもしかしたら、神と呼ばれる存在なのかも知れないな。

 サイがそう呟きかけた、その時。

 

 

 何故か視界が、不意にぐらりと揺れた。

 直した眼鏡の調子が合わないのかと思ったが、それだけでここまで強い眩暈になるものだろうか。

 平衡感覚を失わせるほどの激しいふらつきに、サイは思わず傘を落とし両膝を地についてしまう。

 

「サイ!? 

 どうしたの、顔色が真っ青よ!」

 

 異変に気づいたミリアリアが慌ててサイを支えたが、それでも眩暈は消えない。

 酷い吐き気と、全身から噴出する冷や汗。

 

「だ……大丈夫。

 多分、ちょっと疲れただけだ」

「ごめんなさい。

 まだ怪我もちゃんと治ってないのに、無理させちゃって」

 

 この事態に、アスランも駆け寄ってくる。「アマミキョの医師は? 

 きちんと診てもらっているんだろうな?」

「スズミ先生には、今日も……うっ」

 

 二人に支えられながら、サイは何とか立ち上がる。額を右手で押さえてみたが、特に発熱はしていない。むしろ冷たすぎるくらいだ。

 ぼんやり霞む視界の先に見えたものは、道の先で立ちすくんでいるナオトの背中。

 何故か彼は傘もささず、呆然としたまま前方を眺めている。

 そんな彼に、ミリアリアは急いで声をかけた。

 

「ナオト! 

 ちょっと手伝って、サイの具合が……」

「いいんだ、ミリィ。もう平気だから」

 

 そこに至って初めて、ナオトは背後を振り返りサイの様子に気づいた。

 

「さ、サイさん!? 

 どど、どうしたんです? 怪我がぶり返したんですか?」

 

 慌てて駆け寄り、大きな瞳でじっと不安げにサイを見つめるナオト。

 その大声に、眩暈も少しだけ良くなってきた。

 やはり負傷のせいなのか、それとも天候のせいか。慣れたとはいえ、北チュウザンの暑さは久しぶりだからな。

 それにしても……と、サイは思う。

 いつものナオトなら、真っ先に駆けつけてきてもいいはずなのに。

 

「俺なら大丈夫……それより、ナオト。

 どうしたんだ? 急にぼうっと立ち止まって……」

 

 そんな彼の疑問に答えるように、ナオトは申し訳なさそうに俯いた。

 

「す、すみません。

 港湾方面って、こっちで良かったかなって、迷っちゃって」

 

 ナオトが指し示した方向には、街の裏通りに続く細い道が通っている。だが、アマミキョに戻るルートとはかなりずれていた。

 内心少し戸惑いながら、サイは応じる。

 

「いや、待てよ。もう忘れたのか? 

 いつも使ってる幹線道路はあっちだったろ」

「あ……そうか。そ、そうでしたよね! 

 ごめんなさい。僕って、忘れっぽいから。あはは!!」

 

 おどけるように両手を頭の後ろで組み、笑ってみせるナオト。

 だがサイには、その笑顔に何故か不吉な影が走ったような気がしてならなかった。

 

 

 

 

 

 

「あーーーーーーちっくしょー、もーちょっとだったのにー!!! 

 キラさん、もう一回! もう一回だけ、勝負だぁあぁあ!!!」

「……あのねぇ、シン。何度も言うけど、今の機体じゃ何回やっても同じだって」

「さらっと嫌味言うのやめてくれ! 

 俺は! このデスティニーで! 

 あんたに、勝ちたいんだぁああぁ!!」

 

 オギヤカ・トレーニングルームにて。

 戦闘用シミュレーターの前で、本日何度目かのシンの絶叫と、キラのため息が交互に響き渡った。

 背後のベンチに腰かけて観戦しつつ、つまらなそうに両脚をぶらぶらさせるレイラ。

 

「シン様、少しはキラ様の言葉に耳を傾けられてはいかがです? 

 光の翼で強引にキラ様に追いつくまではいいとしても、大味にアロンダイトを振り回しているだけの戦法では、見ているこちらもつまらないですわ~」

 

 彼女にまで言われ、シンは思い切り頬を膨らませる。

 

「レイラはちょっと黙っててくれよ。

 タライでもぶつけて支援してさしあげましょーかー? なんて戦闘中に言われたら、緊張感なくなっちまう。こっちは男同士、真剣勝負なんだぞ?」

「あら、宇宙空間の戦闘では珍しくありませんわ。

 タライはさすがにないとしても、急に真横からデブリがぶつかってくることは十分あり得るのですから」

 

 レイラの言葉に、キラも同意する。

 

「特にシンは集中しすぎて周りが見えなくなる傾向あるから、危険だよね」

「い、今のシミュレーションだけで、あんたに何が分かるってんだよ」

「分かるさ」噛みつくシンに、キラは即答する。「だって、君とはもう何度も実際に戦ってるんだもの。

 実は、ちょっと心配だった。君はいつか、戦闘中にデブリに突っ込んじゃうんじゃないかって」

「え、なんだよその……っ!」

 

 上から目線はと言いかけて、シンは思わず口を噤んだ。

 キラがシンを見つめる視線が、あまりにも真剣だったから。

 

「誤解しないでほしい。

 僕はもう二度と、失いたくないんだ。少しでも、分かりあえた相手を」

 

 キラの言葉に、レイラも笑みを消してじっと彼を見上げる。

 他には誰の姿もないトレーニングルームの中、キラは静かに言葉を継いだ。

 

 

「あの慰霊碑で、君は僕の手を握ってくれた。

 何度も傷つけ合ったのに。君は何よりも、僕を憎んでいたはずなのに──

 君の手は、暖かかった。

 そんな君となら、一緒に戦える。そう思ったから……」

 

 

 嘘偽りのないキラの言葉に、シンの苛立ちも少しだけ鎮まっていく。

 彼は乱れた髪を片手で掻きむしりながら、少し照れくさげに視線を逸らした。

 

「そ、……それは、ありがたいですけど……

 だけど、俺の方こそ、誤解してほしくない。

 あの時俺が憎かったのは、あくまでオーブで、ロゴスだったんだ。

 綺麗ごとばかり言って何も出来ないアスハや、弱い者を平気で踏みにじろうとする奴らだった。

 別に、あんたが憎かったわけじゃない。

 いや……フリーダムは、憎かったけど。だから、一度はあんたを討ったわけだけど」

 

 自分で言ってて次第に意味が分からなくなってきたシンだったが、キラは優しく微笑む。

 

「うん、分かる。

 だけど、カガリについても分かってほしいんだ。

 本当はおてんばで快活で遊びたい盛りの女の子なのに、オーブをまるごと背負うことになって──

 それでも、彼女なりに頑張ってるから」

 

 それを聞いて、シンは黙り込む。

 カガリについては正直なところ、今でも許せていない。だが、彼女やオーブに対する燃え上がるほどの憎悪は少しずつ鎮まってきているのも事実だ。

 しかし──嫌味のひとつぐらいは、言わずにいられない。

 

「頑張っているからって、それだけで国の代表の無能が許されるんですか?」

「……はっきり言うね」

「俺、はっきり言うのが取り柄なんで。

 ていうかキラさんも、否定しないんスね」

「僕から見ても正直、有能とは言えなかったからね。

 でも、最近になって凄く変わってきた」

「ふぅん……」

 

 鼻息で答えながら、シンは腕を組んで再びシミュレーターの座席にどっかと座りこむ。

 

「──で?」

「えっ?」

「何度やっても同じってんなら、少し戦法を変えさせてもらいますよ。

 だけど、俺にはどうやっていいのか、イマイチよく分からない。

 ザフトではそういうこと、色々教えてくれる奴がいたけど……

 今の俺には、誰もいないから」

 

 

 ──だから、あんたに教えてほしい。

 あんたに勝つ方法を。俺が、この先の道を切り開く為にも。

 

 

 その言葉を、シンは意地でも口には出さなかったものの──

 意志は伝わったのか。キラはふっと微笑みながら、彼の座席の背後からじっとシミュレーターの画面を覗き込んだ。

 

「シンの場合……

 君やデスティニー自体は、僕とフリーダム以上のポテンシャルがあると思ってる。

 だけど今のシンは、機体の能力をうまく引き出せてない気もするし……

 実際、機体のデザイン自体もちょっと難しい部分が多いんだ」

 

 

 

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