【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
サイたちがミリアリアと情報交換を行なってから幾日も経たない、ある日。
遂にアマミキョにも、コロニー・ウーチバラへの出動命令が下された。
それはアマミキョのみならず、ミネルバJrと山神隊、そしてアークエンジェルにもそれぞれザフトと連合、オーブから同様の命令が下されたのだが、アマミキョにはカガリ・ユラ・アスハからの特別通信による口頭指示までもが加わった。
ブリーフィングルームで、サイはトニー隊長らと共にモニターごしにカガリの顔を眺めながら、彼女と会話を交わす。
随分と久々な気がする、オーブの獅子の象徴たる金色の瞳。その強い視線は相変わらず馬鹿正直なほどまっすぐに、サイたちを見つめてきた。それが、ややノイズの入りがちな回線ごしであろうと。
《──ウーチバラに取り残された住民の救出が、アマミキョの主な任務となる。
セレブレイト・ウェイヴ攻略ともなれば、オーブはもとより連合、ザフト共に相当の戦力を割くことにもなるだろう。その上、ブレイク・ザ・ワールドとそれに伴う幾多の争いのおかげで、どの軍も疲弊している。
少しでも犠牲を最小限にするべく、蘇ったアマミキョが今こそ必要なんだ》
彼女が言外に「キラとラクスの救出」を匂わせていることも、サイは鋭敏に感じ取った。
勿論、ミリアリア経由でカガリにも二人の情報は伝わっているはずだ。恐らくアークエンジェルにはさらに明確にその指示が下されているだろう。
同時に、この指令にアマミキョまでも出動させた意味は──
アマミキョを擁したオーブの名声を、一層世界に知らしめる目的もあるだろう。
カガリ自身にその意図があるのか、それとも裏でまたユウナかムジカ社長あたりが何か吹き込んだか──そこまでは、サイにも読み取れない。
だが、未だ明らかにされないアマミキョとティーダの力は、この状況を決定的に打開出来る何かがある。
そう信じたからこそ彼女はアマミキョ出動を決断し、直接こうやって自分たちに指示を下そうとしているのではないか。
サイはそれを口には出さず、敢えて事務的に対応した。
「承知しました。
それでは我々は人員など準備を整え次第、カグヤ島へ向かうということでよろしいですか」
《知っての通り、カグヤのマスドライバーはまだ復興して間もない故、関連施設の設備が心もとない。
だから心苦しいのだが……》
メサイア戦直前、アークエンジェルを有無を言わさず宇宙へ飛ばしておいて、今更設備も何もあるか。
心中軽く毒づきながらも、サイは口元に微笑みすら湛えてみせる。
「なら、清掃ぐらいはしていただけると助かります」
そんな彼の言葉に苦笑しつつ、カガリは答えた。
《……分かった。尽力するよ》
回線の向こう側で、ひとつ大きくため息をつくカガリ。
その瞳が、何か言いたげにじっとサイを見つめる。
久しぶりに見た自分の顔を懐かしがっているのでないことだけは、サイにも分かった。
《なぁ、サイ。
やはり、あの件を公表するつもりなのか》
そんな彼女の言葉に、サイのみならずトニー隊長、そして背後から見守っていたヒスイにも緊張が走る。
この二人には、ブリーフィング直前にサイは話していた──
サイがずっと言えなかった、アマミキョに関する重大な秘密を。
かなり前から、何となくそうじゃないかと思っていた──と、トニーもヒスイも笑顔まで見せながら受け入れてくれたが、他の隊員たちはそうはいかない。
「俺はみんなに、約束したんです。
どうしてアマミキョが南チュウザンに攻撃されることになったのか。
無事帰れたら、その理由を必ず話すって」
《だが……皆の動揺は避けられないぞ。
特に新しくアマミキョに参加した者たちは、降りると言い出しかねない》
サイはトニーと視線を交わしあいながら、彼女に答える。同じことは、先ほどトニーからも指摘されたばかりだ。
「降りるというならば勿論、その意思は尊重すべきです。
3年前、ラミアス艦長は同じ判断を俺たちに迫りましたよね。
あの時俺たちは完全に自分の自由意思で、戦うか、降りるかを決断した。
ラミアス艦長と同じ立場に立ってみて、その状況がどれだけ苦しかったか……
今なら分かります」
《そうだったな……
あの時のキラは凄かったが、お前もよく戦ってくれた。
お前やカズイ、ミリアリアのそれぞれの決断は、今でも尊いと思っているよ》
「ありがとうございます」
そう礼を言いながら、サイは決意を口にする。
「出発前に、俺は知る限りの全てを話します。
きっと皆、それぞれ自分の判断で動いてくれるはず──
アマミキョの皆はもう、昔とは違う。たくさんの惨劇を見て、味方同士ですら傷つけあって、多くの仲間を失って……
それでも、戦い抜いてきたんですから」
《一人になっても、お前は行くと言うのだろうな》
「アスハ代表にそれ言われるとは思わなかったなぁ」
《ど、どういう意味だそれは!》
サイの冗談に、ほんの少しだけ和やかになる室内。
だがサイは、右手でぎゅっとネクタイを締めなおした。
カガリとの会談が終わり次第、アマミキョ全船へ放送がかかる手筈になっている。
皆の夕食が終わり、少しだけゆっくりできる自由時間。同時に、多くのクルーが船内放送に耳を傾けられる貴重な時間でもあった。
新調されたブリッジの制服は、元のベージュではなくサックスブルーのワイシャツに替わっていた。ズボンもそれに伴い濃紺のスラックスになっていたが、紅のネクタイと、襟元に煌めくターコイズブルーのバッジは元のままだ。今の方がアマミキョのイメージに近い気がして、サイはかなり気に入っている。
──だけど、この制服で最初にやる仕事がこれか。
泥の池に落とされた方が数段マシな気もしたが、それでもサイは静かに呼吸を整えた。
《無理は、するなよ。
トニー隊長……どうか、サイを。皆を、守ってほしい》
「ご安心ください、代表!」即座にきっぱりと、高らかに答えるトニー。
「アマミキョを率いる大人として、今度こそ決して、サイ君を死なせはしない!
いや、誰をも死なせは致しません。
この手の届く限り、必ず救う。それがアマミキョの使命でありますから!」
アマミキョの秘密を知ってもなお拳を握りしめ、この言葉を堂々と言ってのけるトニー隊長。
そんな彼とサイを交互に眺めながら、カガリはようやく心からの笑顔を見せた。
そして、その夜。
アマミキョ船内とその周辺に向けて、サイとトニー隊長による放送が定刻通りに始まった。
事前に隊長と副隊長による重要な報告がある旨をクルーは全員聞かされていたものの、その大多数はいつもの定時連絡だろうと考えていたし、もし何かがあるとしてもウーチバラ出発に向けての、事務的な通達がある程度だろうと楽観視していた。
当然、その予測は大きく外れることになる。
《忙しいところ、みんな、時間を割いてくれて申し訳ない。
アマミキョが間もなく、ウーチバラへ向けて出発することは知っていると思う。
だけどその前に、クルーの皆に──
いや、アマミキョに関わる全ての人々に、話しておかなければならないことがあるんだ。
この船が何故、南チュウザンによって沈められなければならなかったのか。
この船を率いていたフレイ・アルスターらが、どうしてこの船を攻撃したのか。
──それは、アマミキョが抱える秘密にある》
落ち着いてはいるが一定の緊張感を保ったサイの声に、船内のざわめきが止まる。
クルーたちが一斉に、放送に聞き耳をたてる。ブリッジに居ながらにして、何故かサイは非常に多くの人々の視線を感じた。
──そう。これも恐らく、アマミキョの力だ。
《アマミキョは、戦争被害を受けた人々を救う為に建造された、希望を繋ぐ船。
そう信じて、皆は乗り込んできたはずだ。俺自身もそうだった。
それは決して間違いじゃない。だけど、本来アマミキョは──
その実験に使われる為の船だったんだ》
ハンガーでティーダZの調整をしながら、ナオトはサイの声をじっと聴いていた。
ティーダZの整備を理由にちゃっかりアマミキョに乗り込んでいたヴィーノも、突然のサイの言葉に、思わず手を止める。
「な……何を言ってんだ、あいつ?
人の意識を、実験にって……アマミキョが?」
だがナオトはそれには答えず、じっと手元のハロを凝視したまま、誰にともなく呟いた。
「広瀬さんの話を聞いた時から、そんなことじゃないかと思ってたけど。
実際聞かされると、キツイな」
《俺はこの話を、フレイ・アルスターから直接聞いた。
俺の頭がおかしくなったと、きっと皆は思うだろう。俺だって、彼女から最初に聞いた時は、そう思ったから。
だけど、事実だ。
搭乗者のみならず、船に助けられた者、船を攻撃した者──
アマミキョに関わる全ての人々の意識を一つに束ね、膨大なエネルギーへと変換するモビルスーツが、ガンダム・ティーダ。
ティーダの光を、皆も何度か目撃したはずだ。その時皆は、何を感じた?
隣にいる誰かの心が、見えた気がしなかったか?
自分の心が、無理矢理曝け出されたと感じなかったか?
それは、この船に関わる者たち全ての精神、その境界が一瞬だけ剥がされたせいなんだ》
第二食糧倉庫で積み荷のチェックを行っていたカズイにも、しっかりその放送は届いていた。
その周囲の者たちが、動揺を露わにして騒ぎ始める。
「そういえば、戦闘中におかしなこと、何度もあったよな」
「あの感覚、やっぱり気のせいじゃなかったのね。ずっと副隊長が言いたかったのって、このことだったの?」
「なーんかあの社長、うさんくせーとは思ってたけど。
やっぱりそーいうことだったよな。志を抱いて乗り込みましたーって割に、ヘンな奴多かったし」
「えー? ヘンな奴って、私もー?」
「しかし、副隊長も思い切ったもんだなー。こんな告白、堂々と」
「もうちょっと早くに言ってほしかったけど……」
「言われてたら、戻ってこなかったのにってか?」
「……ううん。どっちにしても、戻ってきたかな」
お互い顔を見合わせはするものの、かつてのようなパニックにまでは至らないクルーたち。
カズイはそんな会話をそばで聞きながら、黙々と作業を続けた。
──この船の正体が、たとえどんなものだったとしても。
俺は、俺の判断をするだけだ。そうだろ、サイ。
《フレイたちアマクサ組は、アマミキョを自分たちの管理下に置くことによって、秘密裡にこのシステムの実験を続けていた。
アマミキョはたびたび災厄に見舞われたが、そのたびに皆が成長していった。
そして同時に、アマクサ組の実験も進行していき──
詳しいことは分からないが、恐らくハーフムーンから戻ってきたあたりの段階で、システムは完成したと見なされたのだろう。
アマミキョとティーダによって集められた実験データを元に、南チュウザンが造り上げた兵器が──
今、天空の脅威となっているセレブレイト・ウェイヴだ》