【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
part1 フラガの遺伝子とレイラの秘密
「どういうことだよ!?
レイラが、タロミの嫡子って……!?」
ウーチバラへと向かう巨大戦艦・オギヤカ。そのメインブリーフィングルームで──
シン・アスカは、フレイ・アルスターに怒りをぶつけていた。
随分久しぶりに会ったような気がする彼女。若干頬がこけているようにも感じたが、今のシンにそれを気遣っている余裕はない。
その隣ではキラが心配そうに彼を見守りつつ、フレイに問いかける。
「僕も、よく分からない。
何故、レイラなの? 何故、タロミの後継者が彼女に?」
二人の問いかけにも、フレイは一切表情を変えずに語る。
「神の名を継ぐ者。それは、タロミ・チャチャの血を継ぐ者以外には務まらない。
その意味では候補者はほかにも存在するが、中でもレイラが適任と判断されただけのこと」
「適任って……
そもそもレイラはフレイ、あんたの妹って話だろ!?
タロミの第三王妃たるあんたの、妹。それが何故……」
いきり立つシンには答えることなく、フレイはその灰色の瞳をじっとキラに向ける。
「キラ・ヤマト。お前は既に気づいているだろう──
レイラ・クルーが、ラウ・ル・クルーゼゆかりの者であることを」
「!!」
その名に、明らかに動揺を見せるキラ。
両の拳が固く握りしめられ、肩は震えだす。そんな彼の様子に、異様さを感じ取ったシンも口を噤んだ。
彼らの感情を見透かしたかのように、フレイは訥々と語る。
「ザフトで白服を纏い、優れたパイロットとして名を馳せた、ラウ・ル・クルーゼ──
彼は資産家アル・ダ・フラガのクローンとして、コロニー・メンデルで生み出された。
不幸な事故によってメンデルは放棄されたが、彼の出生及びその元となったアル・ダ・フラガに関する研究資料は数多く残され、方々へ散逸した。
それを入手したタロミは、フラガの遺伝子データを元に、自分の子を思うままにコーディネイトした──
そして生まれたのが、レイラ・クルーだ」
「そんな……」
キラはそれ以上何も言えず、じっと視線を机に落とすことしか出来ない。
「アル・ダ・フラガは空間認識能力に長けた、自他共に認める天才だった──人格は別としてな。
妻の血が入ったという理由で実の息子すら放置して、自分と全く同じ遺伝子を残そうとする執念は見上げたものだよ。
レイラも勿論、その遺伝子を継いでいる。タロミの血を継ぐと同時にな。
後継者たる資質には十分だろう」
フレイの唇から、あまりにも冷徹に語られる真実。時折無重力用のドリンクパックを口にさえしながら、彼女は無感情に語り続けた。
それを前に、キラは思わず半歩下がりかけてしまう。だがそんな彼を支えるように、シンが進み出た。
「遺伝子がどうとか、レイラの生まれがどうかなんて、関係ないだろ!
あんな小さな女の子に、国をひとつ任せるってのか!?
オーブのアスハよりもずっと幼いし、まだまだ遊びたい盛りだろうに!」
シンの紅い瞳が、フレイの氷のような視線とかち合う。
彼女はしばらくシンをじっと見つめていたが――
何故かその唇は、ほんの一瞬だけ緩んだ。
「……レイ・ザ・バレルは、救われていたのかもしれないな。
何も考えずに人を見るお前が、いつもそばにいたから」
「え?
何で、レイのことを──」
戸惑うシンに対し、フレイは再び表情を引き締める。
その問いに直接は答えない代わりに、彼女は口調をほぼ変えずに呟いた。
「お前たちは、レイラを何一つ分かっていない。
その性別さえもな」
まるで髪をかき上げるように何気なく、そんな言葉を口にするフレイ。
だがその一言だけで、シンは勿論、キラまでもが完全に硬直してしまった。
「──は?」
「あの……今、なんて……?」
「つまり、その、レイラはあんたの妹じゃなく、弟……?」
著しい動揺を見せる二人の前で、フレイはつれなく背を向けた。
「さぁ、どうかな。
──そろそろ時間だ。私は忙しい」
そのままエア・ロックを開き立ち去ろうとする彼女に、キラは慌てて追いすがるように声をかける。
「待って!
レイラがタロミの子供なら、君は一体、誰なの?
フレイ・アルスターを名乗る君は!」
「私はタロミ・チャチャの第三王妃で、レイラの姉。
そして、アマクサ組一番隊隊長。
──それ以上は、契りを交わした暁の楽しみにしておくのだな。キラ・ヤマト」
自嘲するかのような笑みさえ浮かべ、横目でキラを眺めるフレイ。
だがキラは、そんな彼女を否定するかのように激しくかぶりを振る。
「違う!
君が
君も、やっぱり……」
叫ぶキラの眼前で、軽い空気音と共に閉じられるエア・ロック。
キラの言葉の続きは、虚しく宙に残されていくだけだった。
「──サイに、心を残してる」
PHASE-45 女神降臨
宇宙に出発するべく、一旦アマミキョは北チュウザンを出てオーブ・カグヤ島に寄港する手筈となっていた。
島のマスドライバーを利用して飛び立つ為であったが、北チュウザン出発直前にほんの少しだけ、隊員たちには自由時間が与えられた。
そんな中で──
「やっぱり、アマミキョのウーチバラ行きは変更なしか。
そりゃそうだよなぁ、セレブレイト・ウェイヴの脅威が去ったわけじゃなし」
宇宙行きの準備で賑わう食堂で、サイとナオトは久しぶりにカズイやヒスイと談笑していた。
カズイの愚痴を聞きつつチキンステーキを頬張りながら、ナオトは朗らかに笑う。
「だけどサイさんの放送があっても、船から降りるって言いだす人があまりいなくて良かったです。
勿論、ゼロってわけじゃないですけど……」
「地上に留まるってクルーも今のところ、30名前後だそうだ。
30人も降りるのかって、隊長はぼやいてたけどね」
そう言って食事をしながらも、サイはひっきりなしに手元のハンドモニターを見ている。勿論、ウーチバラ関連の情報を確認する為だ。
そしてカズイは、申し訳なさそうに小さくなりつつ呟く。
「……ごめん、みんな。
俺も、地上に残ることにしたよ。
この怪我したままでウーチバラへ行くのは、やっぱりしんどいし。
いや──多分、怪我してなくても、俺は残ったと思うけど」
そんなカズイの言葉に、サイは顔を上げて真っすぐ彼を見つめる。
「大丈夫だって。俺、言っただろ。
惑わされずに、自分の選択をしてくれって。
礼を言いたいのは俺だ。3年前も今も、カズイは自分の意思で動いた。
あの時のお前の選択があったから、俺もあれだけはっきり、皆に言えたんだ──
自分で考え、自分で決めろって」
「副隊長の言う通りですよ」
ヒスイもサイの横顔を見ながら、優しく微笑む。
この前まで鬱陶しいほど長く伸びていた前髪は、綺麗にヘアピンで留められていた。
「そのかわり、カズイさん。
ちゃんと私たちが帰ってこられるよう、しっかり北チュウザンの復興を助けてくださいね」
「……うん、ありがとう。
俺、頑張るから。だから、みんなも必ず、帰ってこいよな」
「あぁ。約束する」
力強く頷くサイ。
そんな言葉に何の保障も裏打ちもないことぐらい、この場の全員が分かっていたが──
それでも、サイはそう言わずにいられなかった。久しぶりに皆が集まった今ぐらい、何も考えずに朗らかな時を過ごしていたかった。
──もう一度、同じ顔ぶれで集まる時が、来るかどうかさえ分からないのだから。
「それにしても、この鶏肉おいしいですね!
レシピをサイさんが提案したって、ホントですか!?」
元気にステーキを頬張りながら、ナオトははしゃぐ。その口の周りには、ソースがかなり飛び散っていた。
まだ子供とはいえ、ナオトはここまで汚い食べ方をしていただろうか。ほんの少し疑問に思いながらも、サイは答える。
「あぁ。作り方は単純なんだ、鶏肉を塩こしょうで焼いて、オレンジの果汁で蒸すだけ。
簡単に出来るし、残ったオレンジも有効活用出来るから、食堂の新メニューにどうかと思ってさ」
そんなサイを、まじまじと見つめたのはカズイとヒスイだ。
「え。これ、サイが考えたのか?」
「信じられませんね……あの、伝説の生タマネギサンドを開発した方と同一人物とは思えません」
目を真ん丸に見開いて自分を見つめてくる二人に、サイは思わず赤くなって弁解する。
「あの時は……
後から考えたら、俺の味覚もちょっとおかしかったかなって思って。
味覚だけじゃない。色々な感覚が、微妙に狂ってた気がする」
「そうか。
もしかして、アークエンジェルでの……
フレイとのことがあってから、ずっと?」
言いにくそうに尋ねるカズイに、サイは確信をこめて頷いた。
「多分な。それを治してくれたのが、今のフレイだと思ってる。
俺の味覚が変だったかもって気づいたのが、彼女から真相を打ち明けられて間もなくだったから。
あいつには本当に色々、してやられてるけど──」
ナオトと同じように鶏肉にかぶりつきながら、サイは言い放つ。
「絶対、これ以上妙な真似はさせない。
何かしでかすなら、刺し違えてでも止めてやる。
──レイラが俺をオギヤカから逃がしたのは、多分、そうしてくれってことなんだろうし」
思い出すのは、数日前――サイの放送直後に飛び込んできた、レイラとフレイの映像。
表情を完全に失った瞳で宙を見据え、機械人形のように語るレイラの姿が、瞼に焼き付いて離れない。
――『国民の皆さん、悲しみに打ちひしがれることはありません。
タロミ・チャチャの死は、新たな未来を切り開く為に、我々に与えられた試練。
愛する父を奪われた悲しみに屈するのではなく、父のかつての偉業を讃え、その光を消さぬことこそ、我々にできること……』
あの、明朗快活だったレイラの言葉とも思えない語り。
俺があのままオギヤカにいたら、アマミキョもフレイも助けられない──
そう確信したから、レイラは俺を逃がした。
その罰を受けたとでもいうのか、彼女は。
「あの~……」
思索に耽溺しかけたサイを、ナオトの声が現実に引き戻す。
ソースのついた口元をそのままにしたナオトが、じっとサイを眺めていた。
「サイさん、何ですか?
その、タマネギサンドって」
そんなナオトの言葉に、カズイとヒスイが再び目を剥いた。
「え?
いや、お前さ……一番の被害者だったじゃないか。サイの料理の」
「ひょっとして、忘れちゃいましたか?
すごく一生懸命食べて、泡吹いて倒れたくらいだったのに……」
そう二人から指摘されても、ナオトはぽかんとしたまま呆けたように宙を眺めるだけだ。
「そういえば、そんなこともあったような気がしますけど……
色々ありすぎて、忘れちゃったんだと思います! ほら、僕、忘れっぽいから!!」
口の汚れもそのままに、笑い出すナオト。
カズイもヒスイも、つられて笑い出す。
「そうだな。あの時の味、キョーレツだったはずだしな!」
「嫌すぎる記憶は吹っ飛んでも、仕方ないですものね。
……あ、す、すみません、副隊長!」
自分の失言に気づき、慌ててぺこりと頭を下げるヒスイ。
だが、サイだけはどうしても笑えない。先日の夜、何故か道に迷っていたナオトの姿が思い出され──
「ナオト。
医療ブロックでのメディカルチェックは、ちゃんと受けてるだろうな?」
「え?
最近、ちょっと忙しくて……サボり気味です。ごめんなさい」
「ちゃんと受けるんだ。出来ればスズミ先生に直接、診てもらった方がいい」
完全に笑みを消して自分を睨みつけてくるサイに、ナオトは戸惑いつつも反論する。
「ど、どうしたんですかサイさん?
僕がおっちょこちょいなの、だいぶ前から知ってるじゃないですか」
アマミキョ乗船当初までは、ナオトはハーフコーディネイターとして生き抜く為、わざとそそっかしい性格を演じていた。フレイにそれを看破されて以降はそういう演技は目に見えて減ったものの、元から多少落ち着きがなく不注意な面があるのはサイも知っていた。
だが──
「ウーチバラでは、何が起こるか分からない。
特にお前は、ティーダのパイロットなんだ。しっかりフィジカルもメンタルも、管理してもらわないと」
「……分かりました」
不満げに頬を膨らませながらも、ナオトは肯定で答えた。
相変わらず、オレンジソースは口回りにくっついていたが──
それはサイに、母を思い出させた。
息子の自分が戦場で無茶をし続けた為に、精神を狂わせてしまった母を。