【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
「酷いものね……
彼が本当に、あの黒ダガーのパイロットだったの?」
アマミキョと同様、宇宙への旅立ちが決まったミネルバJrでは──
ルナマリアとヴィーノは医務室で、とある患者を見守っていた。
但し患者とはいえ、強化ガラスによって隔てられての状態である。
手足をベッドに厳重に拘束され、無数のチューブと医療機器に繋がれた患者──
それを前に、ヴィーノが手短に説明した。
「悔しいけど、
ご丁寧にも、コクピット周りのバイタルエリアに取り付けられていた自爆装置は五重以上ものロックがかかってた。勿論俺たちだって予測はしてたけど、予想以上だった。
パスコードを一つでも間違えるとドカンだったぜ。全く、南チュウザンの連中は何を考えて、あんなモビルスーツを作ったんだか」
ガラスの向こうに横たわっているのは、全体的に色素が非常に薄い、痩せぎすの少年。
血が殆ど通ってないような青白い肌に、少し緑がかった銀髪。
全く光のない茶色の瞳は、ひたすら天井を見上げている。
呼吸器をつけられた口。その歯の間には綿が詰められていた――仮に目覚めた際に舌を噛み切らせない為の措置である。
「あいつらの攻撃手段から考えると、理解出来ないこともないわね。
だって、自爆する為に作られたとしか思えないもの。あの黒ダガーどもは……」
そんなルナマリアの言葉を聞き流しながら、ヴィーノは手元のモニターを確認する。
「ただ、そう簡単に死なせるわけにゃいかないよ。
何でこんなものに乗っていたのか、どこから来て何をするつもりだったのか。
そもそも、こいつが誰なのか。それを確かめるまでは──
フィジカルデータは何故か、死亡したはずのニコル・アマルフィと80%以上一致って出てやがるしな」
「ニコル・アマルフィって……
アスランと同じ隊にいたっていう、あの?」
「そ。同時に、ニュートロンジャマーキャンセラー開発者たる、ユーリ・アマルフィの一人息子でもある。
3年前の大戦で、非業の戦死を遂げたって話なんだけどさ。
ナオトに聞いたら、アマクサ組の一人としてアマミキョに乗ってたらしいんだよな。
ただ、ナオトが知ってるそいつは、両脚がなくてずっと車椅子生活だったっていうんだ」
そう指摘され、ルナマリアは改めて眼前の患者の脚を眺める。
パイロットにしては異様な細さのふくらはぎが病院着から突き出していたが、きちんと脚は存在していた。
「サイやナオトも言ってただろ。フレイ・アルスターを筆頭に、アマミキョには死者と生きうつしの奴らが何人かいたって。
多分、こいつもその一人なんじゃないのかな。
そりゃ艦長も本国に報告しづらいわけだよ。こんなことアマルフィの親御さんの耳にでも入ったら、どえらいことになっちまうし」
「多分プラントは、それどころじゃないでしょうけどね……」
ルナマリアは肩を落としつつ、ガラスの向こうで眠ったままの少年にそっと背を向けた。
そんな彼女を、ヴィーノは呼び止める。
「議長代理は何て言ってるんだ? やっぱりまだ、態度保留?」
「セレブレイト・ウェイヴの被害を最初に受けたのはザフトよ。プラントが動かないでどうするの」
「そりゃそうだし、プラントでもウーチバラ討つべしって方向へ行ってるのは分かるよ。
ただ、どうも俺、嫌な予感がしてさ」
「…………」
その予感は、恐らく自分も同じだ。ルナマリアは思う。
連合の攻撃によってディセンベル、ヤヌアリウスを失い、メサイア戦ではデュランダル議長を失い――
有力な指導者が未だ不在のプラントは、混乱を極めていた。
チュウザンで行方不明になったとされているラクス・クラインや、沈黙を保つコロニー・ウーチバラへの処遇も、はっきりしていない。
しかもデュランダル議長の提唱したディスティニープランに関して、プラントでは未だに意見が割れているとも聞いた。クライン派を中心とするプラン反対派と、デュランダルの理論を支持する推進派に。
そんな状況で、果たしてザフトはまともに動けるのか。
ミネルバJrは勿論、動く。セレブレイト・ウェイヴの発射阻止、そしてラクス・クライン救出の為に。
しかしそれについて、ザフト上層部との意思疎通は出来ているのか。
思い悩んでしまったルナマリアの前で、ヴィーノはハンドモニターを睨んで呟いた。
「だけど俺は何があっても、ティーダZについていく。
たとえアマミキョがどんな船だったとしても。本国がどういうつもりでも。
ティーダZはヨウランの置き土産みたいなもんだ。これだけは、変えるつもりはないね。
ルナは、違うのか?」
その言葉で、彼女は思い出した。
瀕死のサイに言い放った、自分の決意を。
──なら、決めた。
私、シンを助ける。
そうだ。自分の行く先は、とっくに決まっていたじゃないか。
誰が何と言おうと、シンを助けるって。
「私だって、変わらないわよ。誰にも負けるつもりなんかないんだから。
お互いどこまで意地を通せるか、勝負してもいいわよ!」
つんと鼻をそらしつつ、彼女は胸を張ってみせる。
そんなルナマリアに、ヴィーノは豪快に笑った。
「ハハ!
本国の態度がアレなもんだからさ、ちょっと心配だったんだ。
ルナや艦長の決断が、ぐらついてないかって」
「何言ってんの。艦長はともかく、私は大丈夫よ。
進む先が分かれば、怖くない!」
「そっか。それ聞いて、安心した。
あれだけサイに啖呵きったんだから、当然だよな」
「そりゃそうよ……って、え?
ヴィーノ、何で知ってるの? 私がサイに啖呵って
……あんた、まさか!!」
「へ!?
い、いや、何でもない! 忘れてくれよ」
あの湖で、ルナマリアとサイの交わした会話を──
互いの胸の内を吐露しあう言葉の数々を盗み聞きしていたとは、勿論言い出せないヴィーノだった。
その二日後。
北チュウザンの支援に必要なパーツ及び人員を残し、アマミキョはオーブ・カグヤ島へと飛び立った。連合艦タンバ、ザフト艦ミネルバJr、そしてアークエンジェルと共に。
港から次々に出航していく船を、カズイはいつまでもいつまでも力いっぱい手を振りながら、見守っていた──
ブリッジにいるであろうサイに、届けとばかりに。
ヤエセに残る他のクルーも皆、それぞれにアマミキョの出航を見守っていた。
大声で声援を送る者、泣き叫びながら別れを惜しむ者、ただじっとその航跡を見守る者──
遠ざかっていくアマミキョを凝視しながら、カズイは決意も新たに拳を握りしめた。
俺はここで、俺のやるべきことをやる。
今度は、ただ逃げる為だけじゃない。お前が帰ってこられるように。
だからサイ。お前も必ず──
生きて、戻ってこいよ。
太陽と月と地球の重力中和点・ラグランジュポイント。
月軌道上に存在する5つの宙域のひとつ、L5──
そこはコーディネイターが中心となり構成される新世代コロニー・通称プラントがあった。
特徴的な砂時計型をした形状のコロニーがこの宙域にいくつも連なり、ひとつの巨大な国家を形成して30年。
円錐状構造物の底面に位置する直径約10キロメートルの面積を居住区域としている為、これらのコロニーはサイズそのものを巨大化させる必要があり、故にプラントのコロニーはその一つ一つが、地球からでも形状が確認できるほどの威容を誇った。
だが巨大砂時計の集合体は今、その一角が脆くも崩れ去ったまま、中身の殆どを無機質な宙域に撒き散らしていた。壊れた砂時計から砂が零れるかのように。
連合軍の攻撃により崩壊した、ヤヌアリウスとディセンベルである。その痛ましい姿は未だ修復がなされず、放置されたままであった。
しかし、無事残ったコロニー・マイウス市の中心──
プラント有数の軍事企業たるマイウス・ミリタリー・インダストリー社、その工廠の一角では。
「私はデュランダル議長を支持します。
ラクス・クラインの主張は、未熟な少女の空想にすぎません。
彼女は現実が見えていないのです」
ザフトの緑服に身を包んだアムル・ホウナが、ヨダカ・ヤナセに対して強硬な主張を繰り返していた。
その眼下では修復されたカオスγが、濁った血の色に鈍く光りながら鎮座している。
キャットウォーク上でアムルと対峙しつつ、ヨダカは困ったように頭をかいていた。
「その意見も分かるさ。特に君はずっと能力を理解されず、真の才能を見出されなかった不幸なコーディネイターだ。
ディスティニープランさえあれば、君は人生の回り道をせずにすんだ──」
そう言いながら、ヨダカはアムルの瞳を眺める。白目の面積のやや広い、切れ長の目を。
地上で巨大空中戦艦・オギヤカと会戦し、例のティーダの光を浴びて以降──
アムルはより一層ティーダとアマミキョへの敵意を露わにし、ヨダカに対してもその態度を隠そうとはしなかった。
あの時、空で一体何を彼女が追いかけていたのか。命令違反をしてでも追わねばならないほどの何かが、そこにあったのか。
彼女の帰還直後、いくらヨダカが問うても彼女は意味の分からない言葉を繰り返すばかりだった──
ただ、サイ・アーガイルがそこにいたから。
サイを殺せば、自分は母から解放されるから──
ヨダカが聞き取れたのは、そんな呪いの言葉だけ。
ティーダの光を浴びた影響で、アムルが心神耗弱を起こしたと判断したヨダカは、彼女を一時的にプラントの療養施設に入れていた。
但しそれは、治療と同時に若干の精神強化も狙ってのことである。
連合軍におけるブーステッドマンやエクステンデッドの強さはザフト内でも今や脅威となっており、対抗するには優秀なコーディネイターをさらに強化するべき──
そんな意見も、次第にザフト内では当たり前のように受け入れられる状況となっていた。
その一環として、連合軍ほど大規模ではないものの、プラントの治療施設の一部では兵士を薬剤や精神操作により強化する試みが行われていた。
あくまでほんの若干という触れ込みであり、中毒症状や記憶障害を起こしたりという副作用はないとされていたが──
彼女の言動はその「治療」以降、若干の狂いが目立ち始めていた。
元々、才能を開花させることが出来ないまま悶々と成長期を過ごしてきた鬱屈が彼女にあったのは、ヨダカも知っている。だがそれを加味しても──
アムルのディスティニープランへの盲信ぶり。そして、クライン派への嫌悪感は異常と言ってもいいほど膨張していた。議長の機密部隊として常々動いていたヨダカでさえ、危険を感じるほどに。
今もそうだ。クライン派がどこで聞いているかも分からないというのに、工廠のど真ん中でラクス・クラインを批判している。
アムルを連れてハンガーを後にしながら、ヨダカは嗜めるように呟いた。
「君は優秀なモビルスーツパイロットだ。私は、くだらぬ諍いでその才能を潰したくはない。
だからくれぐれも、発言と行動には自重するんだ。
特に今は、チュウザンの新兵器の脅威を削ぐことに全力を注がねばならん時──」
それを遮るように、アムルは朗らかに笑った。
「だからこそ、アマミキョやティーダを知る私が必要なのですね。
お任せください。フレイ・アルスターの細腕など、今度こそ私が捻り上げて見せます」
「それは良い心意気だが、クライン派の部隊はラクス・クラインの救出を最優先ミッションとして動いている。彼らとの衝突は可能な限り……」
「避けよと仰るのですか? デュランダル議長のお抱え部隊ともあろうヨダカ隊長が」
「その挑発には乗らんぞ。プラントの指導者が未だ正式に決まらぬ今、人民を導くことができるのは、ラクス・クラインをおいて他にはいないのだからな」
「先の大戦後プラントを放り出して行方をくらまし、必死で代役を務めていた議長を妨害し、プラントを混乱させたまま、今またチュウザンの争いに首を突っ込んで行方不明。
そんな人物を、どうしてそこまで崇められるのです? 私には理解出来ません。
彼女は何もかもを潰した犯罪者です。人々を救うディスティニープランをも!」
人々を?
私を、の間違いだろう──と言いかけたところを、ヨダカはぐっとこらえた。
工廠を出てすぐの通路で、向かい側からイザーク・ジュールらが歩いてきたのに気づいたからでもある。