【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
イザークはいつも通り白服に身を包み、ディアッカ・エルスマンを半ば強引に従えつつ、堂々と肩で風を切っていた。
明らかにヨダカに気づいたものの、不機嫌そうに視線を背けてそのまま通り過ぎようとした彼ら。
しかしヨダカは敢えて声をかけた。
「久しぶりだな、エザリアのご子息どの」
「……もう一度その呼び名を使うなら、こちらは決闘も辞さない覚悟だ。ヨダカ隊長」
全身から滾らんばかりの怒りを精一杯抑えながら、イザークは相手を睨みつける。
そんな彼に、ヨダカは軽妙さを装って話した。
「これは失礼。
ただ、ティーダとアマミキョの危険性を無視して彼らを庇うような甘ちゃんには、相応しい二つ名かと思ってね」
「──!!」
遂に怒りをこらえきれず真っ向から振り向いたイザーク。
慌ててディアッカがその肩を片手で抑え、ヨダカに改めて向き直った。
「僭越ですが、ヨダカ隊長。
そのティーダとアマミキョがザフトとオーブの尽力で復活した件、まさかご存じないというこたぁないですよね?」
「無論、知っているさ。
奇跡的に救出されたティーダパイロットを、私は直接見ている」
「そして、実質アマミキョに手を下したのも、貴方だった……と。
俺、知ってますよ。アマミキョに致命傷を与えたのは、ブリッジを撃ったインパルスではなく、貴方が船内に潜ませた内通者の功績だったことを」
わざとヨダカやアムルに聞こえるように、ディアッカは呟く。
憤懣が多少表情に出てしまったヨダカ。何も聞こえなかったかのように、窓の外の街路樹を眺めるアムル。
彼女にちらりと視線をやりつつ、ディアッカは続けた。
「いや、こいつぁ失礼。隊長はただ、デュランダル元議長のご命令に従ったまでのことだ──アマミキョのデータを回収する為に。
それでもティーダとアマミキョは蘇った。セレブレイト・ウェイヴの脅威を打ち破る、切り札として」
あくまでアマミキョ側に立とうとするディアッカの姿勢は、以前と聊かも変わらない。
そんな彼を、さも軽蔑したかのように笑うヨダカ。
「そう。それが、クライン派の主張だ。だからミネルバJrもアマミキョに追随している。
何をもって彼らを最後の切り札とみなすのか、その理屈はさっぱり分からんがね。むしろ、セレブレイト・ウェイヴの影響をさらに拡大する危険すらある。
それとも何かい? ラクス・クラインの救出へ向かう彼らは正義のヒーローだから、悪影響など受けるはずがないと──
そう言いたいのかね、君らは」
ヨダカの反論に加え、アムルの嫌味が続く。
「ウーチバラの状況を監視しておきながら、ラクス・クラインの映像を見ただけで逃げ帰ってきただけのことはあるわね。
監視を緩め出方を窺っている間に、見事にセレブレイト・ウェイヴは完成してしまったのに」
その口撃に、ディアッカも笑みを消して口を噤んだ。
両者の間にみなぎる、張り詰めた糸のような緊張。
一瞬流れた沈黙の後、イザークは静かに口を開いた。
「これ以上アマミキョとティーダの前に立ちはだかろうとするなら、こちらにも考えがある。
これは警告だ」
「あくまで彼らを擁護するつもりか、クライン派は」
「派閥の話ではない! プラントの混乱を救う為、アマミキョはプラントにも多くの人員を寄こしている。
彼らに協力するは、人の道として当然だろう!!」
「セレブレイト・ウェイヴの詳細情報を入手できたのは、確かにティーダやアマミキョの功績でもある。
だが、よく考えろ。我々が相手にしようとしているのは、これまで例を見ない、人の精神さえ操ろうとする兵器だ。
人を惑わし狂わせ、生きながらに死なせる銃弾が飛び交う戦場など、誰も経験したことがない。
それがプラントに牙を剥こうというなら、我々ザフトはどうあっても止めねばならん。何者であってもな──
人情の介入する余地など、最早どこにもないんだ」
そう言いながら、ヨダカとアムルはイザークらを強引に押しのけるようにして横を通り過ぎ──
それきり、彼らを振り向くことはなかった。
「どうする、イザーク?
あいつら、この期に及んでまだアマミキョとやる気だぜ」
去っていくヨダカたちの背中を見送りながら、ディアッカはため息をつく。
彼らに構わず、足早に歩きだすイザーク。
「全く……
頭の固い男とは聞いていたが、ここまでとは」
「ヨダカ隊長も、イザークにだけは言われたくないと思うがね。
それもこれも、評議会が未だにラクス・クラインの処遇や、南チュウザンへの態度を決めかねているせいだ。
俺たちがウーチバラで何を見たか報告したところで、ろくな指示も出来やしない。
あれだけ毎日紛糾してりゃ、無理ねぇが……」
「俺たちは俺たちのやり方で、プラントを守るべく行動するだけだ。ジュール隊だって、ティーダの光を見ているのだからな。
アスランからの連絡は?」
「あぁ、さっきシホ経由で報告が入った。
アークエンジェルもアマミキョもミネルバJrも、順調に北チュウザンを発ったってさ。
多分ウーチバラに着く前に、ミントンに寄って一息つくんじゃねぇかな」
「アマミキョとの因縁の地。L4のコロニー・ミントンか……
って、のんびりしていられる時間はないだろう!
そう長いこと、セレブレイト・ウェイヴは待ってはくれん! 何故わざわざそんな場所に」
「だから焦るなって。あいつらにだって、補給は必要なんだぞ。
一息にL3のウーチバラまで飛んで行ったって、ろくに戦えるわけがない」
そう言われて、イザークは不機嫌そうに空を睨んだ。
「アスラン……早くしろ。
でなければラクス・クラインは──同じザフトの手で、殺されかねんぞ」
ディアッカの言葉どおり──
オーブのカグヤ島に到着して24時間も経たないうちに、アマミキョはウーチバラ目指して大気圏外へ飛び立った。
まずはウーチバラまでの補給を行なうべく、アマミキョはアークエンジェル、ミネルバJr、そして山神隊を擁した連合宇宙空母・アガメムノン級『ホウジョウ』共々、コロニー・ミントンへと向かっていた。
かつてアマミキョとミネルバと交戦した、双子のように似ているシリンダ型のコロニーが並列している構造のミントン。
ミントン1、2と名付けられたそれぞれのコロニーは、アマミキョが最初に到着した当時はミントン1の採光ミラーが故障し、中が灼熱の地獄になっていた。
しかし今は無事修復が完了し、復興作業が順調に進んでいる。
ミントン2の港湾区画に入港を果たし、ミントン1の状況を外部から眺めたサイは、その修復度合に思わず感嘆のため息を漏らす。
「すごいな……
もう、人が住み始めているのか」
ブリッジのメインモニターに映し出される港口外部。その向こうに白く輝く、ミントン1の外壁。
カメラはその内部をも映し出し、静かな夜の時間が訪れている湖と、湖畔に建てられた幾つかの家々、その窓から暖かい灯りが漏れている風景が見えた。
──俺たちが最初に来た時は、灼熱の夕陽に時間が固定され、人なんか住める状況じゃなかったのに。
「それだけ、アマミキョがここに残した人員が優秀だったってことか」
「勿論それもあるが、サイ君!
我々が必死に戦い、ミントンを守り切ったおかげでもあるぞ! ワハハ」
ミントンの風景を眺めるサイの背後から、トニーが豪快に笑う。
だがその時サイの手元で、医療ブロックからの通信を示すアラートが鳴った。
急いで通信を開くと、少し改まった口調のピックル・リンの声が響く。
《あの、アーガイル副隊長。
申し訳ないんですけど、業務終了後でいいんで、出来るだけ早く来てもらえますか?》
舌足らずではあるが、その声には若干の焦りが混じっている。
「大丈夫だけど……
また、医療ブロックに何かあったのかい?」
《あ、いえ……
ただ、副隊長の身体のことで、スズミ先生が話をしたいって。
とっても難しい顔をされていました》
「分かった。
今日はちょっと忙しいけど、出来る限り早く──」
そうサイが答えかかった、その時。
通信席の方から、マイティの悲鳴のような報告が響いた。
「隊長、大変です!
今、速報が入りました。ウーチバラ経由で発信されている報道です。
生放送で現在も配信中。映像、回します!」
ひどく憔悴した彼女の言葉と同時に、メインモニターが切り替わる。
その瞬間、アマミキョブリッジにはどよめきが起きた──
同じ現象は、アークエンジェルやミネルバJrのブリッジでも同時に起きていたのだが。
モニターに大写しにされたものは、
優雅な微笑みを常にその唇に湛える、桜色の髪をなびかせた少女。
その前髪は満月を象った金の髪飾りで彩られ、青地にスズランを散りばめた柄の着物を纏っている。
「あれは──」
サイがその名を呟く前に、少女は告げた。
《わたくしは、ラクス・クラインです。
メサイア戦にてデュランダル議長が亡くなられて以降、理由あって姿を隠しておりましたが──
やっとこうして、皆さんにお話することが出来るようになりました》
少女が座っているのは、王族のそれを思わせる威容を誇る菫色の椅子。
照明は明るいもののどこか無機質で、人の汚れを拒むかのような白い壁の色。
サイはこの場所に、見覚えがあった。
「……エターナルの
そんなサイの動揺に構わず、少女は語り続ける。
《わたくしは、これ以上の無為な戦いを望みません。
これ以上、愛する家族を、友を、恋人を、戦火に奪われない為に。
これ以上、守ってきた土地を、国を、家を、無碍に破壊されない為に。
これ以上、人が人でない死に方をしない為に。
──わたくしは、フレイ・アルスターを、南チュウザンの方針を、支持します》
──分かっていたじゃないか。ミリアリアからの情報で。
彼女はラクス・クラインではない。彼女の母親が彼女のふりをして、語っているだけだ。
サイは唇を噛みながら、モニターの中で微笑むだけの少女を睨みつける。
メインモニターに映し出されたその姿は、何故か途方もなく大きく見えた。
《ザフト、連合、中立、いずれの皆さんも──
長きにわたるナチュラルとコーディネイターの争いで、大変疲弊したことと思います。
人は皆傷つき、疲れ、叫んでいます。何故、こうなってしまったのかと。
何故、同じ人でありながら、ここまで争わねばならないのかと。
それが、どこまでも人より上であろうとする、人の抗えない欲望ならば。
自分より優れた者を羨み、妬み、嫉み、憎もうとする、人の性ならばと──
タロミ・チャチャはずっとそう考え、自ら現人神としてこの世界に降臨しました。
彼により齎された福音が、セレブレイト・ウェイヴです。
これは兵器ではありません。人を吹き飛ばすことも、燃やすことも、家を破壊することもありません。
また、人の運命を脅迫に近い形で強制的に決めることもありません。
ただ、過剰なまでに進化しすぎた人の欲望を、ほんの少し抑えるだけのもの。
恐れることは、何もないのです》
彼女の背後から、静かなメロディーが流れてくる。
それは、ラクス・クラインの歌う──『水の証』。
《タロミ・チャチャはその志半ばで、生涯を閉じました。
しかしその強き意思は嫡子たるレイラに受け継がれ、第三王妃たるフレイ・アルスターもまた、南チュウザンを支えることを誓いました。
人が自然のまま、土を耕し、豊かな恵みを受け、寿命を全うする世界の実現の為に──
わたくしは、フレイ・アルスターを援護いたします》
カメラは不意に切り替わり、流線形のフォルムが美しい、桜色に彩られた戦艦を映し出す。
それは間違いなく、かつてアークエンジェルやオーブ軍と共に戦った、エターナルだった。
どこの宙域かは分からないが、エターナルは闇の宇宙の中をひたすらどこかへと突き進んでいるように見えた。
「やはり──
俺たちの前に立ちはだかるか。エターナルは」
エターナルを護衛するように飛翔するのは、3機のドムトルーパー。
そしてカタパルトには、装甲色を朱に変更されたガイアガンダムも見える。
間違いなく、アンドリュー・バルトフェルドの乗機だった。