【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
当然アークエンジェルのブリッジでも、同じ映像を受信していた。
マリューが歯噛みをしつつ、ミリアリアとメイリンに確認する。
「生放送、って言ったわね……
エターナルの所在については分かる?」
メイリンが震え声ながらも応答した。
「現在調査中です。
でも……ラクスさんが、エターナルが、南チュウザンになんて……」
手を忙しなく動かしながら、ミリアリアは彼女を叱咤するように言う。
「言ったでしょ。あのラクス・クラインは恐らく、私たちの知るラクスさんじゃないって。
こうなることは予測の範囲内よ」
「ですけど……
本当に彼女の言うとおり、それで世界から争いがなくなるんでしょうか?
それで私たちが誰も争わず傷つけず、生きていけるなら……」
指をコンソールに走らせつつも逡巡を示すメイリンに、ミリアリアは冷静だった。
「そんなわけがない。
あの光を浴びたザフト基地の資料、貴方もさんざん見たでしょうに」
メイリンの意見は確かに一理ある。だがそれは、セレブレイト・ウェイヴを浴びたザフト基地の惨状を知らなければ、の話だ。
あの現場を知った上でなお、今のラクス・クラインの声明を完全否定出来ないメイリンの態度が、ミリアリアには解せなかった。
思い出すのは、アスランの言葉。
──ラクスの歌を聞くと気分が落ち着き、その声に耳を傾けたくなるという噂が、プラントではよく流れていた。
あの時彼の言った通り、プラント出身のコーディネイターはほぼ全て、ラクスの声と主張に反射的に追従してしまう遺伝子操作がなされているのか。
背筋に寒気が走るのを感じながらも、ミリアリアは必死で映像の解析を進める。
だが、状況が動く方が早かった──
ブリッジに、チャンドラの叫びが響きわたる。
「ミントンに接近中の熱源を複数探知!
距離2000、ブルー14、マーク22ブラボー、ライブラリ照合は……」
状況を予測出来ていたベテランでありながらも、チャンドラの声はどうしても上擦る。
「す、ストライクフリーダム、及びストライクフリーダム・ルージュ!
それにこれは……デスティニーです!」
「来るとは思っていたけれど、これほど早くとはね。
キラ君……」
マリューは唇を噛みながら、全艦に指示を下す。
「総員、警戒態勢。
アカツキと、インフィニットジャスティスは?」
マリューの声に応え、メインモニターのラクスの映像に割り込むかのようにフラガの映像が映し出された。既にアカツキに乗り込み、パイロットスーツに身を包んだ彼は軽妙な仕草で親指をぐっと立てている。
《いつでも準備OKだぜ、艦長》
それに伴うように、アスランの通信も響いた。
《こちらもだ。
キラが来るというなら、何をするつもりか確かめる!》
「恐らく相手の目的は、ウーチバラへ向かう私たちの動きを止めること。
だけど本当にキラ君が向かってくるというのなら、問答無用でアークエンジェルに攻撃を仕掛けることはないはず。
まずは出方を窺って。その上で、それでも私たちに立ちはだかるというのなら──」
《倒せって? あのキラを、かい?
いつもながら、無茶ぶりもいいとこだねぇ》
《アカツキが出来ないなら、俺がやる。
ただし、絶対にキラを死なせはしない。必ず引きずり出して、連れてくる》
そんなアスランの声が響いたその時──
ミリアリアの手元に、また別の通信が入る。
その送信者を確認した彼女は、思わず驚きの声を上げた。
「え? これは……
艦長。オーブ経由の特別通信です!」
その間にも、ラクス・クラインの声は宙域に流れ続ける。
《進化しすぎた人の欲望はコーディネイターを生み、ナチュラルの嫉妬を生み、際限のない争いを生み続けました。
他人より優秀でありたい。自分が無理なら、自分の子をより優秀にしたい。
自分はより高みに、自分の子はまたそれより一層高みにと──
その欲望に忠実であり続けた結果、何が生まれましたか?
まだ分かりませんか?
人はもう、一旦休む必要があることを。
これまでの争いの惨禍は、それを人に教えているのです。
崩壊したプラントも、破壊されつくした地上も、泣き叫ぶ子供も、奪われる一方の弱者たちも──
遺伝子が適合した者同士で婚姻を結ばぬ限り、プラントで生まれなくなってしまった、新たな命までも。
皆、悲鳴をあげています。
成長しすぎた人類は、ここで一度休んでほしいと!》
ミネルバJr艦内でもその放送は流れ、クルーたちはどよめいていた。
そんな中でも、艦長たるアーサーは唾を飛ばして指示を出す。
「ミネルバJrの目的は変わらない。これよりミントン防衛の為、外壁へ出る。
アークエンジェルとアマミキョの動向を窺いながらになるが、少しでもストライクフリーダムにおかしな動きがあれば撃って構わん!」
「しかし……」アーサーの言葉を、アビーが遮った。
「我々の目的はラクス・クラインの救出です。
放送を聞く限り、彼女は戦闘停止を呼びかけ、南チュウザンを援護する立場になったということでは?」
アビーを始めとして、ミネルバJrのクルーたちは明らかに、ラクスの放送に動揺を見せていた。
カタパルトのインパルス内部で待機中のルナマリアからも、焦りのこもった通信が響く。
《それに、デスティニーが……シンが来るんでしょう?
シンを撃てってことですか!?》
そんな彼らに、アーサーはひとつ咳払いをしながら改めて告げる。
「皆には、後程情報連携する予定だったが──緊急時だ、やむを得まい。
あのラクス・クラインは、我々が救出すべきラクス・クラインではない」
「えぇっ!?」
突然のアーサーの言葉に――
アビーは勿論、殆どのクルーが彼を振り返った。
「また、偽物ですか? 勘弁してくださいよ」
「だけど今の放送、本物と雰囲気ほぼ同じだったけど」
「あの偽物、議長に消されたって聞いたけどな」
「じゃあ、今の放送の彼女は一体……?」
混乱するブリッジを眺めながら、アーサーは息をつき、帽子を直しながら声を響かせた。
「これはアークエンジェルと、アーガイル君から齎された情報だ。
詳しいことは後で話すが、今は母艦と友軍、そしてミントンを守ることだけを考えろ。
そして忘れるな。セレブレイト・ウェイヴはザフトの基地を丸ごと蹂躙し、多くの戦友を人事不省にしたも同然の兵器だ。
あの惨劇を齎した兵器を、平和の歌姫たるラクス・クラインが本当に支持すると思うか。
もし本当に彼女が南チュウザンを支援するというなら、それは最早、我々が守るべきラクス・クラインではない。
今の放送の彼女が本物か否かは関係ない。彼女の言葉と、起こっている事実を照らし合わせ――
何をするべきか、自分の頭で考えろ!」
アマミキョブリッジでも、オペレートを続けるディックとマイティの声が交互に飛び交う。
「アークエンジェルに続き、ミネルバJr、開口部より外壁へ発進を確認!」
「ホウジョウも発進を確認しました。山神艦長から通信です──
アマミキョは外壁に出ず、中でミントンを守れとのことです」
「了解。
ティーダZの準備は?」
サイが通信席のヒスイに尋ねると、彼女が答えるより先にティーダZのコクピットから元気な声が響いてきた。
《サイさん!
僕もティーダZも準備万端です、行けます!
マユが来てるんでしょ!?》
「いや、ティーダは待機だ。
俺たちは軍ではなく、あくまで救助隊だ。外壁から内側に侵入された時に備える必要がある。
今ティーダまでが外へ出たら、ミントン内部を守れるモビルスーツはそう多くはない。
それに、忘れるな。恐らく奴らも、ティーダZを狙ってくる。
そこへうかうか出ていくような真似はするな!」
《……分かりました》
不承不承ながらも、はっきりと答えるナオト。
以前の彼なら、俺の言葉など聞かずに飛んでいってしまったかもしれない。そう考えると、ナオトもだいぶ成長したものだ──
緊張の中でもふとそんなことを考え、サイは少し自分で自分を笑ってしまった。
確認する限り、向かってきているのはキラのストライクフリーダムに、チグサの乗るストライクフリーダム・ルージュ。
それに、シン・アスカが乗っているというデスティニーガンダムだ。
彼に関してはナオトとルナマリアからの伝聞でしか知らないが、相当に腕が立つパイロットらしい。
フリーダムを撃破したのも彼だということも、既にサイは知っていた。
たった3機とはいえそれほどの力を持つモビルスーツに、自分たちは果たしてどこまで渡り合えるか──その瀬戸際なのに、妙に自分は腹がすわってきた気がする。
だがサイの思惑など全く無視しながら、状況は刻々と進んでいく。
ヒスイの声が、ブリッジに響いた。
「隊長!
オーブ経由の特別通信が、アークエンジェルから友軍に流れています。
ラクス・クラインに対する、アスハ代表の声明です。こちらも生放送で、地上にも同時に配信されている模様!」
その報告にトニーは一瞬動揺を見せたものの、即座に指示を出した。
「何、代表が……?
すぐに映せ!」
そしてアマミキョのメインモニターに、ラクスの映像と隣り合うように映し出されたものは──
オーブ最高指導者たる、カガリ・ユラ・アスハの金色の瞳。
その背後には彼女の昔からの護衛たる、レドニル・キサカの姿もあった。
開始早々、挨拶もそこそこに、カガリは単刀直入に切り出した──
《私はオーブ連合首長国代表、カガリ・ユラ・アスハ。
南チュウザンより発信された、ラクス・クラインを名乗る女性の声明を拝見している。
平和を愛する同志として、また、多くの戦いを共に切り抜けた無二の友人として、ラクスとは交流を深めてきたが──
その私が、断言する。
皆、騙されてはならない。その女性は、ラクス・クラインではない!》
ラクスの声に対抗するように、宇宙にまで発信されたカガリの放送。
オーブの獅子たらんとするその声は遥か遠くエターナルまで届いたのか、ラクス・クラインはほんの数秒後に、その優雅な笑みを消した。
しかし決して動揺も見せず、焦ることもなくじっと何かを眺めている。それは、カガリの次の言葉を待っているようにも見えた。
アマミキョも、ミネルバJrでも、ホウジョウも、アークエンジェルも──
この突然のカガリの発言に、全員が固唾をのんで事態を見守っている。
緊張の渦に満ちた空間の中心で、カガリはその黄金の瞳に怒りを漲らせた。
《オーブ内閣府官邸は信頼できる筋から、ラクス・クラインと南チュウザン国について、ある情報を入手した。
それによれば、今、私の友人を名乗り南チュウザン国より映像を発信している人物は
──ラクス・クラインの母。いわば、ラクス・クライン一世だ》