【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
「思い切ったな……
そこまで言うんだ、アスハ代表」
アマミキョブリッジでさすがに呆気にとられ、双方の映像を凝視するサイ。
彼を始めとした多くの人々の動揺にも構わず、カガリの声は続いた。
《私の友人、ラクス・クラインと──
私の実弟、キラ・ヤマト。
この二人は現在、南チュウザンのいずこかへ囚われの身となっている。
まずはその二人の早急なる解放を、私はオーブ代表として要求する。
並びに、セレブレイト・ウェイヴなる、精神を破壊する兵器の使用を即刻、無期限に停止することを求める。
ラクス・クラインを名乗る御仁よ。貴女は私の友人をこの世に生んだ、かけがえなき人だ。
だからこそ問う。何故、娘の姿を借りて再び表舞台に現れた?
貴女は私の知るラクス・クラインではない。また、皆の知るラクス・クラインとも違う。
娘の名を名乗り、娘の存在を乗っ取り、娘の姿と声で主張することに、何の意味がある?
子供は、親の人形ではない!》
次第に怒気を帯びてくるカガリの声。
だがそんな彼女の怒りを余所に、映像のラクス・クラインは冷徹な瞳で状況を見守っていた。
やがて彼女はふっと微笑みながら、静かに口を開く。
『水の証』の緩やかなメロディーと共に。
《皆さま。オーブ代表を名乗るその方の言葉に、騙されないでください。
彼女はオーブの獅子、ウズミ・ナラ・アスハの一人娘。ただそれだけの理由で、今の座に就いていますが──
しかし、彼女はウズミ元代表の実の娘ではありません。
とある遺伝子研究者から、養女としてウズミ元代表が引き取った子供が、現在のカガリ・ユラ・アスハ。
こちらもまた、信頼できる筋からの情報です》
「馬脚を現したな……!」
澱みないラクス母の言葉に、サイは思わず吐き捨てる。
今頃プラントもオーブも、右往左往していることだろう。お互い女神と崇めていたであろう存在の、宇宙を挟んでの口喧嘩に。
サイ自身、カガリの出生についてはおおまかなところは知っていた。そしてオーブ国内でも、アングラ雑誌などでは時たまカガリの出生の謎は取り上げられてもいたから、いつ大々的に発覚してもおかしくはないと思っていた。
しかしまさかこんな処で、ラクス・クラインによって暴かれるとは──
だがこのことは逆に、今のラクスが皆の知るラクスではないという何よりの証明ともなる。
カガリとラクスは、強い信頼関係で結ばれた間柄だ。何度も共に死地を潜り抜け、オーブとプラントの平和を共に勝ち取る為に戦い抜いてきた。その絆は公にも知られている。
そのラクスがカガリを全面的に否定し、彼女の出生をこうまであからさまに暴露するわけがない。
サイはひたすらに、この理不尽な答えを受けてのカガリの様子を見守る。
カガリは一瞬、酷く当惑したような表情を見せた。何が起こったのか理解しかねると言いたげに首を傾げた直後、すぐに怒りで唇を噛みしめる。
机上でぎゅっと握りしめられ、汗ばむ両拳。
それは背後のキサカも同様で、慌てふためきこそしなかったものの、さっと視線をカガリに移しながら彼女の様子を厳しく見つめている。
──だがカガリは、手元に置かれたガラスのコップを取り。
中の飲料水をごくごく飲み干し、若干わざとらしく音をたてて机に戻す。彼女の感情を反映する如く、ほんの少しだけ跳ねる水。
そして何事もなかったかのように、再びカメラに向かって語りだした。
《オーブ国民よ、誠に申し訳ない。
いずれ時を見て、公表するべきか迷っていたが──
確かに私は、ウズミ・ナラ・アスハの実子ではない。
元々オーブの氏族制度は世襲ではあるが、実力主義によるもの。つまり才能を認められた者を養子にとり、後継者として国を背負うべく教育を受けさせるケースが多い。
私もそのような形で、父ウズミに育てられた。その結果、獅子の血を継ぐ娘という見解が長らく世間に出回ることになったが――
その件については、国民の皆には心から謝罪したい》
オーブの氏族制度がそういったシステムで支えられているのは、サイも知っている。
これを知らずにラクス母が「カガリはウズミの実子ではない」と揶揄したのだとしたら、馬脚どころではない醜態をさらしたことになるが。
恐らくこの件でカガリがダメージを受けるとすれば、「本来の血筋が不明瞭」という点だろう。多分ラクス母が指摘している点もそこだ。
もしラクス母がカガリの本当の両親の件まで言ってしまえば、それこそオーブは大騒ぎになりかねなかったが。
《だが間違いなく私は、オーブの獅子たるウズミ・ナラを父とし、父から教育を受け、父に愛され、父に守られ──
父より、オーブとその意思を託された。
そんな父の想いが皆に伝わっていたからこそ、どんなに私が未熟でも──
オーブの皆はここまでついてきてくれたのだと、私は思っている。
出生が不確かであることを理由に私を責めるつもりなら、存分にしてくれて構わない。
だが血の繋がりはなくとも、私の父はただ一人、ウズミ・ナラ・アスハをおいて他にはいない。
血は繋がらずとも、その強靭な意思を継ぐことは出来る!》
インフィニット・ジャスティスの中で──
アスランは静かに、カガリの声を聞いていた。
挑発とも言えるラクス母の言葉に、カガリがどう出るか非常に不安だったアスランだったが──
結果は彼の予想を遥かに超え、カガリは堂々とラクス母に対峙していた。
ひた隠しにしてきた出生の秘密を世界中に暴露されても殆ど動じることなく、逆にウズミとの絆を強調し、さらにラクス母へ一矢報いるとは。
相手にどこまで彼女の言葉が効いたのか。また、カガリの告白は視聴者にどう影響したのか
──そこまでは分からない。
ただ自分の知らないところで、カガリは途方もない成長を遂げた。それだけはアスランにも理解出来た。
そこへ響く、ラクスの声。
《アスハ代表とウズミ元代表の絆、誠に尊いものとお見受けいたしました。
ですが、わたくしの意思が変わることはありません。
恒久の平和を愛するものなれば、セレブレイト・ウェイヴの存在は望みこそすれ、否定するものではないはず。
わたくしはラクス・クライン以外の何者でもありません。例えアスハ代表の言葉が真実だとしても、わたくしはラクス・クライン以外に名乗る名を持ちませんし──
また、福音の光──セレブレイト・ウェイヴの使用を、聊かも躊躇うことはありません。
悠久の平和を勝ち取る為に、わたくしたちが本物か否かで争うなど、些細な問題でしかありません》
柔らかな表情をまるで崩さず、滔々と語り続けるラクス。
通信越しにその声を聞きながら、ルナマリアの決断はまたしても鈍りかける。
この声は果たして本物か、それとも偽物なのか。
彼女の言うとおり、そんな議論は意味がないのではないか。
デュランダル議長を信じて戦った自分たちが見事に敗北したように、今度も自分たちはラクスに敗れてしまうのではないか。いつも正しいのはラクス・クラインで、間違っているのは──
そんな錯覚に陥りかけたルナマリアは、慌ててぶんぶん首を振って我に返り、インパルスの操縦桿を握り直した。
そう、自分の頭で考えるんだ。自分の決断を思い出すんだ。
シンがこちらに向かってくるのなら、何としても取り戻す。誰にも邪魔はさせない──
それだけだ。
そんな彼女を後押しするように、カガリの声が朗々と響いた。
《些細な問題であるなら、私も存分に主張させてもらおう。
セレブレイト・ウェイヴが照射された結果、一体何が起こるか。貴女はご存知ないわけではあるまい!》
カガリの言葉と同時に、オーブ側の画面に流されたものは──
セレブレイト・ウェイヴの照射を受けた直後の、チュウザン付近に建設されたメガフロート・ザフト前線基地の状況だった。
決定的な破壊の痕跡こそ見られないものの、完全にゴーストタウンと化した基地を、カメラは容赦なく映し出す。
無機質な照明に映し出された通路に倒れる、何人もの緑服。その中には女性兵士も少なくない。映像の中で動いているのは、分厚い防護服を着用した救護隊だけだ。
突然人の制御を失った基地はあらゆる場所で火の手が上がっており、救護隊があちこち走り回り、消火作業を行なっている。
──そこまでは以前も公表されていた情報だったが、カメラはさらに衝撃的な映像を映し出した。
それは、何とか助け出され、担架に寝かされた女性兵士の姿。
彼女は抱っこをねだる赤ん坊のように両手を伸ばし、救護隊員に頭を撫でられながら、呆けた笑みを浮かべている。
半開きのその瞳と、涎が垂れ下がっている唇に、知性と呼べるものは何も残っていなかった。
女性兵士の痛々しい笑顔はやがて大写しになり、そこで映像は止まった。
被さるカガリの声。
《突然のマイクロウェーブ照射により、この基地の人間はほぼ全員が精神を破壊された。
この女性兵士は今もなお、回復の見込みなく療養施設に保護されている。
だがこのケースはまだ良い方で、酷い者は全身不随に陥り、大量のチューブに繋がれなければ自力呼吸すらおぼつかない状況だ》
怒気を抑えながら、静かに語り続けるカガリ。
《ラクス・クライン一世よ。
私は個人的に、貴女に伝えたいことが山ほどある。
その一つが、
子は親の血と想いを継いで生まれる。だが決して、親のコピーとして生きるわけでも、親の思い通りに生きるわけでもない!
貴女の娘ラクス・クラインは、平和を愛する歌姫ではあるが──
同時に、人の自由意思を何よりも尊重する女性だ。だからこそ彼女は、デュランダル議長のディスティニープランにも敢然と異を唱え、命を賭して戦った。その彼女が──
このように人の意思を歪め、未来を歪め、心を破壊する大規模神経兵器の使用を、許すわけがない!
それなのに──
自分の言葉が、さも娘の言葉であるかのように振る舞うその卑劣。
娘の名声も主張も功績も全て、親たる自分のものであると、当然のように言い張るその傲慢。
真実を暴露された瞬間、論点をすり替え、他国の元首のプライベートにまで土足で踏み込むその驕慢。
これらは全て、オーブとその国民の誇りのみならず──
人として当たり前の、親子の営みまでもを踏みにじる暴挙である!》
一説には、ターミナル及びファクトリーといったザフトの主たる軍事組織すら掌握していると言われる、ラクス・クライン母。
そんな彼女にカガリは一歩も引かず、敢然と戦う姿勢を示していた。
これが一国の長として、他国の争いに介入しないオーブの代表として、正しいものかは分からない。
しかしナオトはティーダZのコクピットで、じっと操縦桿を握りしめながらその言葉に聞き入っていた。
――ユウナの口車に乗せられていたとはいえ、僕をティーダパイロットとして認めてくれたのは、アスハ代表だった。僕をアナウンサーにしてくれたのも。
今なら分かる。代表が誰の言葉でもなく、彼女自身の言葉で主張していることを。
突然彼女の出生の秘密を告げられたオーブの国民は、今頃ひどく困惑しているはずだ。
でも僕は、この代表の決意を間近に見た報道関係者として──
両目と両耳に全神経を集中させ、何としても真実を伝える義務がある。
今、アスハ代表と相対しているラクス・クライン母が何を考えているのか。本当の目的は何なのか。ラクスさんとキラさんをどうするつもりなのか。
そして、マユがどこにいるのか。
僕は全てを賭けて、その真実を見極めなければ。たとえ、命を賭しても。
そう心に決めたナオトは、二人の言葉を聞く為、さらに神経を研ぎ澄ませた
──その時。
「……え?
これは……マユ?」
ナオトの脳裏に、閃光のように飛び込んでくる紅のビジョン。
その感覚は確かに、接近してくるストライクフリーダム・ルージュから放たれていた。
「やっぱり、マユは死んでない。
ちゃんと、チグサ・マナベの中にいる!」
そう確信したナオトは、改めてメインモニターを睨みつける。
画面内で幾つか開かれたウィンドウの一つから、ラクス・クライン母の言葉が流れ始めていた。