【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
《ザフト基地におけるセレブレイト・ウェイヴの照射は、非常に残念ながら失敗に終わったと報告されています。
あのような痛ましい結果を呼び起こすなど、私たちも予想外でした。犠牲となったザフトの方々には、謝罪の言葉が見つかりません。
ですがこの失敗も犠牲も、より良い結果の糧になると私たちは考えています。
次に鳴らされる祝福の鐘こそ、真の人類の革命になると。
どれほどの困難が待ち受けていようと、何度失敗しようと、私たちは進みます。
人々が何も恐れず、何とも争うことなく、自然を愛し、平穏に生き、穏やかに人生を終えられる世界の為に。
それがわが夫──タロミ・チャチャへの、せめてもの弔いとなるならば!》
それはラクス・クライン母が、自らタロミの王妃であることを世界に公表した瞬間でもあった。
ミリアリアからの情報であらかじめ知っていたサイたちはともかくとして、それ以外の──
特に、ザフト軍の動揺は計り知れないものがあった。
ラクス・クライン救出の為に出撃したはずなのに、突如敵の陣中から当人が現れた。
しかもそれはラクス本人ではなく、ずっと死亡扱いだった母親。
おまけにクライン派代表たるシーゲル・クラインの妻だったはずの彼女が、何故か敵性国家元首、タロミ・チャチャの妻を名乗っている。
「混乱しないわけがないよな……プラント出身だったら」
そう呟きながら、サイは何とはなしにモニター上のミネルバJrの艦影を確認する
──その瞬間だった。
──あはっ……
アッハハハハハ!
「!?」
突然宙域の片隅から響く、少女の嬌声。
それは何故か、サイの脳髄に直接、叩き込まれるように反響した。
──ねぇ、見て!
いるいる、やっぱりいるよ、ティーダが!
キラ、シン兄! 今度こそあいつを捕まえるよ!!
全身から噴き出す汗と共に、その声の出どころを確認するサイ。
だがどういうわけか、ブリッジクルーは全くの無反応だった。
――まさか、俺にしか聞こえていなかったのか。今の声は。
今の──恐らく、チグサ・マナベの声は。
そう判断した瞬間、サイは通信権を奪い叫んでいた。
「全艦、警戒してください!
港口より距離500まで、ストライクフリーダム・ルージュが急速接近中!」
《何ですって!?》
アークエンジェルブリッジではサイの通信からやや遅れて、チャンドラが反応していた。
「間違いありません!
ストライクフリーダム・ルージュ、ブルー10マーク13ブラボーより接近中!
距離、300!」
「直ちに回避行動!
並びに、対モビルスーツ戦闘用意。イーゲルシュテルン、バリアント起動!」
即座にマリューが指示を送るとほぼ同時に、操舵士ノイマンは艦の回避行動に入っていた。
大きく揺れるブリッジの中、マリューは状況を確認しながらもちらりとミントンの港口に視線を走らせる。
──アークエンジェルでも気づかなかったルージュの動きに、真っ先にサイ君が気づいた?
どういうこと?
同時刻。アマミキョカタパルト、ティーダZコクピットにて。
マユの声を聴いて混乱するナオトを、さらに不可思議な感覚が襲っていた。
「……何だ、これ?
何かに、包まれているような……」
いつ戦場と化してもおかしくない宙域を前に、なお流れ続ける『水の証』。
だがそれとは全く別種の何かが、自分をしっかり守ってくれているような感覚。
それは、ナオトを惑わせていたラクスの歌声からも、チグサ・マナベが発する鋭い意思からも、彼を守ろうとする壁。
見ることも触れることも出来ないが、確実に何かに守られている。
──これは、まさか……
僕は……
「僕、
あまりにも唐突かつ突拍子もない発想が閃き、思わず漏れた呟きに、ナオトは自分で自分に驚愕した。
しかしそれ以外にこの状況を正しく説明する言葉を、彼は思いつくことが出来なかった。
──どういうことだ?
俺に……一体、何が起きた?
この状況に最も戸惑っていたのは、他ならぬサイ自身だった。
アマミキョブリッジの中心で彼が見ているのは、間違いなくメインモニターの映像だ。
しかし何故か同時に、サイには宙域全体が見えていた。
見えたというより、感じていた。この宙域に広がる意思の殆ど全てを。
チグサ・マナベの気を捉えられたのは、緊張状態すら無視していち早く飛び出そうとしている、強い攻撃衝動だったから。
それを追うようにストライクフリーダム、そしてデスティニーも動き出したのが分かる。
アークエンジェルから飛び出そうとしているインフィニットジャスティスに、アカツキ。
ミネルバJrで警戒中の、ルナマリアのインパルス。
そしてホウジョウからは既に、山神隊とそれに追従するウィンダム部隊が出撃している。
コロニー内部で待機しているにも関わらず、サイの感覚は鋭敏に各陣営の動きを捉えつつあった。
突然脳に注ぎ込まれたあまりの情報量に、頭蓋が破裂しそうな痛みを覚えて思わず呻く。
その情報の渦の中心から、何故か呼びかける声が一つ。
──サイさん。サイさん!?
「ナオト……
ナオトか!?」
思わず声に出して叫びかかるサイ。
だが自分のいる場所がアマミキョブリッジで間違いないことに気づき、慌ててその叫びを抑えた。
通信ごしのナオトの声かと思ったが、違う。
全ての物理的障壁を超え、自分の脳に、意識に、声が直接響いてくる。
その時、サイは思い出した──
フレイとプラネタリウムに行き、そこで彼女の真実を告げられた時の仮想宇宙。
彼女とオギヤカで再会した時に入った、星の光煌めく擬似無重力空間。
今サイを包んでいる感覚はそれらの空間に似ていたが、違う点が二つあった。
まず、この空間を把握すると同時に、現実に起こっている光景もはっきり見えているということ。
理屈は全く分からない。だが脳内で浮き上がったこの宇宙と、現実にメインモニターに映し出されている宇宙の両方を、サイの頭は明確に捉えていた。
さらにもう一つ──
宇宙空間に漂っているような感覚の自分。上下左右の把握もおぼつかない情報の奔流の中で、ただ一つ、はっきりと光を放つ存在があった。
サイの斜め下──位置的には、アマミキョカタパルトの方向。
それは間違いなく、ティーダZ。
ナオトの声も、そこから響いている。
混乱しきって脳の処理が追いつかないサイの視界で、ティーダZはまるで彼を導く太陽のように輝きを放っていた。
しかしこの現象に、当のナオトも戸惑っているのか。
困ったように首を傾げている様子が、手に取るようにサイには分かった。
──なんで? どうして、サイさんの声が直接……
──俺にも分からない。ただ、ナオトの声はとてもはっきり聞こえる。
──僕も、なんだか変な感覚なんです……
──変なって?
声帯の振動を伴わず、互いの頭の中だけで交わされる、摩訶不思議な会話。
だがそんな時、ナオトはさらに理解不能な言葉を呟いた。
──まるで、『お父さん』に守られている感じがして。
僕の父さんって、かなり酷い人だったのに……
お父さんって感覚、僕はろくに覚えてないはずなのに。
その言葉に嘘偽りが全くないことは、サイは直感で分かった。
――俺たちは、心と心で直接、会話をしている。
ティーダZの黙示録が発動したのなら、この現象はまだ分かる。しかしティーダは待機中で、起動キーとなるハロにナオトは触れてもいないはずなのに。
それでもナオトの感情は、この感覚を恐れてはいない。むしろ、喜んでいるようにさえ思える。
──変だけど、嫌じゃないです。この感じ。
サイさんの想いが、僕を守ってくれる。そんな気がする。
──馬鹿、よせよ。
そーいうことは、マユに言えよ。彼女を助けてから!
──そうですね! 僕、頑張ります!!
サイの視界の隅で、ティーダZがその輝きを少し強めた。
それは、嬉しさに鼓動しているようにも思える。
同時にサイは直感していた──この異変は、アマミキョにもティーダにも大きく関わっていると。
多分スズミ先生が俺を呼んだのは、このことも関係しているだろう。
あの湖で、俺がティーダZの前で声を上げた瞬間に、俺の身体に何かが起きた。
それが何なのか。ちゃんと先生に確かめなくては──
サイは痛む額を抑えながら、現実に展開されている光景をもう一度確認する。
彼が不可思議な空間を見てからナオトとの会話が終わるまでの時間は十数秒以上に及んだかのように思えたが、実際には一秒も経過していなかったようだ。
ブリッジクルーはまだ、ラクスとカガリの声に戸惑っている。ヒスイが心配そうにサイを覗き込んでいたが──
ふと手元のモニターに視線をやった彼女は、すぐにサイに告げた。
「え……? 副隊長!
ストライクフリーダム・ルージュの機影、距離200の時点で消失しました!」
その報告に、即座にサイは反応する。
「ミラージュコロイドを使われた可能性が高いな……
あいつは間違いなくこっちに来る。同行している機体の状況を抑えろ、警戒を怠るな!」
「ミラージュコロイドを使うストライクフリーダム、ねぇ……
そいつァさらにやっかいだぜ、艦長」
アカツキのコクピット内でマリューからの連絡を受けたフラガは、さすがに歯噛みを隠せない。
《サイ君からの連絡よ。
ルージュのパイロットがキラ君じゃないことを祈るしかないわ》
「多分、そいつは大丈夫だろう。赤いヤツに乗ってるのは、別のパイロットだ」
サイからの緊急連絡を受けてのマリューの通信だったが、フラガには確信出来た──
間違いなく、サイの言葉が正しいと。
何故そう断言出来るかは、自分でも分からない。ただ、昔からの勘としか言いようがない。
勘と言うにはいささか鋭すぎる傾向があるのも、彼は自覚していたが。
そして同時に、サイとナオトがどういうわけか自分と同じような感覚を共有し始めているのも、フラガは感じていた。
人の気配を、鋭敏に感じ取る能力を。
──ニュートロンジャマー散布のおかげで、レーダーもろくに効かなくなったこの時代。
フラガのこの力、いわゆる「空間認識能力」は奇跡と持て囃され、劣勢にあった連合軍の中では非常に貴重だった。
コーディネイトを受けたわけでもない純然たるナチュラルであるにも関わらず、天才的な勘で数々の激戦を生き抜き、「エンデュミオンの鷹」とまで呼ばれたフラガ。
自分がロード・ジブリールの元で奇跡的に復活出来たのは、連合軍がまだ自分を必要としているからだと思っていた。
それも事実には違いないだろう。しかし、さらなる真実は別にある。
そう――
今は宇宙の彼方にいるであろう、フレイ・アルスターが、俺の秘密を握っている。
奇しくもこの感覚を共有するに至ったサイとナオトは、彼女の元まで俺を導くのか。それとも──
そんなフラガの思考に呼応するように、マリューの声が響く。
《フラガ一佐、アスラン、頼んだわよ。
キラ君たちの意思を確かめて!》
続いて、いつもと変わらず冷静なミリアリアのオペレート。
《アカツキ、発進どうぞ!》
──こんな状況なのに、彼女たち、頑張ってるな。
色々、切り捨てられないもんを抱えながら。
そんな想いを噛みしめながら、フラガはいつも通り応答した。
「了解。
アカツキ、行くぜっ!」
光に満ちるスラスター。電光石火の速度で弾丸の如く、カタパルトから闇の宇宙へと射出されていく黄金の機体──アカツキ。
間もなくそれに追従するように、アスランが駆るインフィニット・ジャスティスも、アークエンジェルから発進していった。