【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part7 僕は戦う――たとえアークエンジェル相手でも

 

 

「モビルスーツがいるなら、必ずその周囲に母艦がいるはずだ。

 ナオト、分かるか?」

 

 ヒスイの背後から身体を乗り出しつつモニターを確認しながら、通信を続けるサイ。

 

《すみません。

 ティーダZでも、そこまでは捉えられないです……》

 

 そんなナオトの謝罪を聞きながら、サイは脳内の宇宙と現実の光景、両方を分析していた。

 どんなに頭痛が激しかろうが眩暈がしようが、この感覚は拡げていくべきだ──

 きっとその向こうに、フレイがいる。俺の目指す場所が。

 サイは深海を探る探知レーダーの如く、何も見えない宇宙へ向けて神経を張り巡らせていく。

 ヒスイの手元のディスプレイは、味方機以外にはストライクフリーダムとデスティニーしか捉えていない。彼らの母艦らしき艦影は、何も確認出来なかった。

 ヒスイが小声で囁く。

 

「もしかして……不可視戦艦、でしょうか?」

「その可能性は高い。分析を続けてくれ」

 

 隊長席では、トニーが状況を見守りながら指示を下していた。

 

「作業用アストレイ、及びミストラルは全機、ハンガーで待機。

 武装のない機体は決して外部に出すな、山神隊との連絡を途絶させるなよ!」

 

 だが、トニーが叫んだその時──

 メインモニターに映し出されていた景色と、ラクスとカガリの映像が揃って一瞬、乱れた。

 同時にサイを襲ったものは、突然頭上から砂を浴びせかけられたような、不快な感触。

 それが何に起因するものかサイには一瞬判断がつかなかったが、咄嗟に姿勢を低くして叫ぶ。

 

「皆、衝撃に備えろ! 

 港に攻撃を受けた!」

 

 相応の確信のこもったサイの声が、ブリッジ中にこだまする。

 それに遅れること0.1秒ほどで、鳴り響くアラート。同時に酷い縦揺れが船体を襲い、甲高い悲鳴がブリッジを包んだ。

 カガリとラクス、そして船前方を映し出していたメインモニターに、また別の映像が割り込む──

 それは、衝撃と同時に脆くも砕け散る、開口部天井の映像。

 アマミキョの他にも、何隻もの作業艇が停泊している港。コロニーと宇宙との繋ぎ目。

 警戒をまんまとかいくぐり、そこにやすやすと侵入されかけている──

 低重力状態に抑えられている港内部では、砕かれた天井の一部は落下することなく、そのまま宙域へと流れ出していく。

 この状況下でもよく響く、マイティの報告。

 

「メイン開口部C7からC9ブロック、破損!」

 

 やはり強い確信をこめて、サイは応答する。

 

「山神隊に連携しろ。

 肉眼でもレーダーでも見えないが、確実に何かが来る!」

 

 そこへサイの手元に入る通信。タンバに引き続きホウジョウの管理も任された、山神艦長からだ。

 

《サウザン隊長、アーガイル副隊長。

 不躾ですまんが、ティーダZの出動を願いたい》

「え?」

《港を撃ったのは恐らく、ミラージュコロイドを使用した機体だ。

 そいつを確実に捉えられるのは今、ティーダZ以外にいない。

 こちらも全力で熱源及び音源探知を行なうが、限界がある。頼む!》

 

 あくまで低姿勢ではあるが、有無を言わせぬ口調なのは間違いなかった。

 連合上層部にありがちな高慢さや、煩わしい手続きに拘る頭の固さが、山神艦長には殆どない。民間船であるアマミキョに対しすぐにこうして頭を下げられるのも、彼の美点だろう。

 だがそれは、連合上層部にとっては多少厄介な存在でもあるのだろうと、サイは思う──

 だからこそ山神隊は、アマミキョの護衛という損な役回りを押し付けられているのだろうが。

 サイは一度だけトニーと視線を交わしあい、すぐに応答する。

 

「分かりました。

 ティーダZ、発進。ナオト、山神隊との情報連携を頼む!」

 

 ナオトの溌剌とした声が通信に乗り、跳ね返ってくる。

 

《その言葉を待ってましたよ! 

 多分、あそこから入ってくるのはマユです。僕には分かります!》

 

 その声に応えるように、ヒスイがティーダZの発進オペレートを開始した。

 普段の小さな声が信じられないほど張りのある彼女の言葉が、通信で流れる。

 

「ティーダZ、発進、どうぞ!」

《了解! 

 ティーダZ、ナオト・シライシ、出ます!》

 

 

 

 

 

 

「チグサ! 

 あまり前に出すぎるな、俺たちから離れすぎるとお前の位置も掴めなくなる!」

 

 デスティニーのコクピットで状況を見守りながら、ストライクフリーダム・ルージュに向かってシンは呼びかける。

 ウーチバラに向かってくる、連合とザフト、そしてオーブの勢力。その一報を受けたキラとシンは、フレイの指令により共に出撃した──

 ルージュを駆るチグサ・マナベも一緒、という条件付きで。

 

《いちいちうるさいよ、シン(にい)!》

 

 通信から跳ね返ってくる、チグサの声。

 こうして「シン兄」と呼ばれるのはそうそう悪い気もしないシンだったが、それとこれとは話が別だ。

 

「いいか、チグサ。

 フレイに言われたろ。俺たちの目的はあくまで、アークエンジェルを止めることだ。ウーチバラに向かってくる奴らを。

 ミントンの中でまで、無駄に暴れるな!」

《じょーだんじゃない。

 アタシの目的は、それだけじゃないもんね。

 あそこにはティーダがいるんだ。この前かかされた恥は忘れないよ──

 今度こそとっちめて、フレイの前に突き出してやるんだから!》

 

 そう言うが早いかチグサは勝手に通信を遮断し、その機体からはミラージュコロイド粒子が展開され、瞬く間に肉眼では見えなくなる。

 この機能こそが、これまでルージュが隠密行動を自在に展開出来た理由でもあった。

 間もなく見えたものは、コロニー・ミントンの開口部で広がる小さな爆光。

 

「あっ、おい!! 

 ったく……」

 

 頭をかきむしりたくなる衝動にかられつつ、シンはため息をついてしまう。

 何度か訓練を一緒にやっていて、相当のじゃじゃ馬だとは思っていたが──

 実戦においても、訓練中と変わらずわがまま放題とは。

 当然だが、かつての妹・マユとはまるで違う。姿が似ているだけの完全な別人だ。

 だからシンも逆に、今ではそこまで気負わずチグサと会話出来ていたのだが。

 

「っていうか、キラさんも何とか言ってくださいよ! 

 あいつ勝手に、ミントンを撃ちやがって!」

 

 苛立ちを抑えきれず、シンは左から追従してくるストライクフリーダムを振り返った。

 同時に通信から流れてきたものは、落ち着いたキラの声。

 

《ティーダとアマミキョは、恐らく僕たちにとって脅威となりうる。

 だからオーブも連合も、彼らをここまで強引に連れてきたんだろう──

 彼らを利用される前に、何とかしなくちゃ。チグサの判断自体は間違ってないよ》

「だけど!」

《……それより気をつけて。

 来る!》

 

 そんなキラの声と同時に、鳴り響くアラート。

 

「これは──」

 

 モニターに映し出される、2機の敵性機体。

 メサイア戦で煮え湯を飲まされたインフィニット・ジャスティスと、アカツキ。

 シンはぎりっと歯噛みをしながら、真っすぐこちらへ向かってくる2機を睨みつけた。

 いずれもシンにとっては、因縁の機体には違いない。

 

「アスランに……

 ネオ・ロアノーク。あいつかよ!」

 

 シンは既にアカツキのパイロットについて、キラから聞かされていた。

 今でも覚えている。ステラを助けたい一心で、瀕死の彼女をネオ・ロアノークに託したあの時を。

 

 ──死なせたくなかったから、返したんだ。

 暖かくて優しい世界に、彼女を返すって……あいつは、約束するって言ったのに! 

 

 連合軍所属だったはずのネオ・ロアノーク。

 彼はシンとの約束を反故にし、ステラをデストロイガンダムに乗せ──

 破壊と殺戮の末、彼女は死んだ。

 そしてムウ・ラ・フラガとしての記憶を取り戻した後は、連合軍大佐としての身分を捨ててアークエンジェルに戻り、アカツキに乗りミネルバと敵対。

 デュランダル議長が失脚した後は、愛する恋人と共に過ごしていたという。

 

 ──ステラのことなどなかったかのように俺たちを叩き潰して、のうのうと自分だけ幸せになったってのか。

 

 キラからそれを聞いた瞬間のシンは、訓練用のダンベルもバーベルもぶん投げて壁を破壊するまで暴れたものだが──

 今なお、その時の怒りは忘れられない。

 フラガが陰でどれほど葛藤しようが苦悩しようが、シンにとって彼は裏切り者であり、ステラを殺した加害者の一人でしかなかった。

 

 ステラの直接の死因となったのはキラの攻撃ではあるが、既にシンはキラに関しては何とか心の整理をつけていた。あの時のひっ迫した状況を考えれば、やむを得ない行動だったと。

 しかしネオ・ロアノークに対しては、未だに憎悪と怒りが燃えていた。否、キラから事実を耳にして以降さらに燃え盛り、消える気配がない。

 最早フラガという人間はシンにとって、キラやカガリは勿論、アスランよりも許し難い存在となっていた。

 操縦桿を握る両手が、怒りで汗ばむ。そんなシンに、キラが冷静に呼びかけた。

 

《落ち着いて、シン。

 憎しみに呑まれて、やるべきことを見失っちゃいけない》

「分かってます! だけどっ」

《気持ちは、すごくよく分かるんだ。僕も、大切な人をたくさん失ったから──

 だからって、ムウさんを君に殺してほしくはない!》

「あいつらが俺たちの邪魔をしてきても、ですか?」

《そう。僕たちの目的は、相手を殺すことじゃない。

 相手を止める。可能なら、味方にする。それだけだ》

 

 納得はいかないが、仕方がない。

 確かに、キラさんの言う通りだ。今、自分たちが成すべきことは──

 

 その時、反論をぐっとこらえたシンの手元に、新たな通信が入った。

 国際救難チャンネルによる、緊急通信。送信者欄には、『アスラン・ザラ』の名が明滅していた。

 そこから響いたものは、懐かしくも許し難い、元上官の声。

 

 

《キラ、シン。そこにいるのなら、答えてほしい。

 お前たちも聞いたはずだ。今の、カガリ・ユラ・アスハの声を。

 彼女が宣言した通り、オーブは決して、南チュウザンのセレブレイト・ウェイヴの存在を許さない。

 聞かせてほしい。何故、お前たちはそこにいる? 

 何故、オーブに背を向け、俺たちに銃を向けるんだ? 

 報道された通り、セレブレイト・ウェイヴは危険な兵器だ。たとえラクス・クライン一世の語った通りの効果が出たとしても、俺たちはそれを許すわけにはいかない!》

 

 

「アスラン……! 

 やっぱり、何も知らないで!」

 

 ぐっと唇を噛みしめるシン。そこへ、囁くようなキラの通信が入る。

 

《シン。アスランが何も知らないのは、当たり前だよ。

 僕たちは、()()()()()()()()()()()()()行動している。そうだろ?》

 

 彼を守るように、前に出るストライクフリーダム。煌めく青い翼がモニターごしに見えた。

 

「ですけど……

 でも、いいんですか!? だって相手は、キラさんの……」

《そう、友達だよ》

 

 ほぼ動じずにそう呟くと同時に、キラもまたチャンネルを開きアスランと通信を開始した。

 

《アスラン──僕だ。

 こんな形で会うことになって、残念だよ。

 僕も、今のカガリの声は聴いた。とても強くなったね──カガリは》

 

 そんなキラの言葉に構わず、アスランは冷たく続けた。

 

《分かっているのか。今お前たちは、その彼女にさえ銃を向けているんだぞ。

 ラクスに何があったかは、こちらも情報として知っている。お前が激してしまうのは理解できる》

 

 それを聞いて、キラはほんの少し安心したかのようにほっと息をついた。

 

《君が知ってくれて、良かった。

『トール』はちゃんと、伝えてくれたんだね……ミリアリアに》

《許せないのは、俺だって同じだ。しかし──》

 

 かつては最強のコンビとして名を馳せた、ストライクフリーダムとインフィニットジャスティス。その2機が今、宙域の片隅で真正面から対峙し、静かに睨みあっている。

 機体関節部から発される高熱にも似たアスランの怒気に、さすがのシンも口を挟めず押し黙るしかなかった。

 アスランの手厳しい口調は変わることなく、キラを責め続ける。

 

《何故それが、南チュウザンの援護に繋がるんだ!? 

 ラクスを傷つけたのは、南チュウザンの人民だろう!! 

 どうあってもお前たちは、セレブレイト・ウェイヴを守るつもりか!》

《違うよ。

 僕たちは、ラクスを。そして皆を、守りたいだけだ》

《あのラクスは、お前の知っているラクスじゃない! 

 もう分かっているだろう、あの映像のラクスは彼女の母親だ》

《うん、知ってる。

 その上で、僕たちは行動してる。

 この前言ったはずだよ。僕たちがやっているのは、戦いをなくす為の、最後の革命だって》

 

 きっぱりと言い切るキラ。その言葉に、一切迷いはない。

 アスランのインフィニット・ジャスティスは、それに呼応するようにシュペールラケルタ・ビームサーベルを抜き放った。

 

《……これ以上、言葉を交わしても無駄なようだな。

 だが、俺は諦めない。キラ──

 お前も、シンも、ラクスも皆、殺しはしない。

 どんな事情があるか知らないが、必ず取り戻す!》

 

 そんなアスランを抑えるように、アカツキがそっとインフィニットジャスティスに寄り添った。

 オープンチャンネルを通したフラガの声が、キラとシンのコクピットにも届く。

 

《穏やかじゃないねぇ。キラ──

 お前さん、自分が何をしているか、分かっているのか? 

 悪いことは言わん──今すぐ帰ってくるんだ。

 でなければお前は、アークエンジェルや俺とも、戦うことになるぞ》

 

 脅しではなく本気の、フラガの言葉。

 だがそれでも、キラは引かない。

 

《ムウさん。これが最後の警告です。

 ウーチバラに手を出さず、オーブへ戻ってください。

 セレブレイト・ウェイヴの存在を、世界中が否定し、結束し、僕らを止めようというのなら。

 僕らは、いつまででも戦う。その為に、僕らは彼女の元に集められたんです。

 フレイと、ラクスと、皆の為に──僕は戦います。

 たとえその相手が、……アークエンジェルでも!》

 

 

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