【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
宙域の隅で続けられる、張りつめた通信。
その内容は何故か、やや距離のあるアマミキョブリッジ──
サイの脳内にも直接、響いていた。
どうしてキラやアスランの会話がコロニー内部にいる自分にまで聞こえているのか、サイにはまるで分からない。
恐らく自分の身体も意識の在り方も、以前とはまるで違ってしまった。恐ろしく勘の冴えわたった別人に、自分が成り代わってしまったかのように。
キラの言葉はサイにはほぼ理解出来ないものばかりだったが、一つだけ分かることがあった。
それは、キラは全く嘘をついていないこと。
今語られた言葉は全てキラの本心であり、偽りはない。サイは何故か、皮膚感覚だけでそう確信出来た。
キラとアスランの意思が、稲光のように宙域で火花を散らす。
一瞬とも永遠とも思える時間、二人はそうして睨みあっていたかと思うと──
突如、ストライクフリーダムは姿勢を保ったまま、後方へ退き始めた。
「キラ! 逃げるかっ」
視界から消えようとする、ストライクフリーダムの青い翼。
即座にアスランは追撃態勢に入り、ビームライフルを構える──
しかしそこへ立ちはだかったのは、シンのデスティニー。
アスランが完膚なきまでに叩きのめした、運命の名を持つ機体。
ザフト最強とも言われたそのモビルスーツは完全に修復が成され、再び彼の前に現れた。
《キラさんの邪魔はさせない!
あんたにはまだ、言いたいことが山ほどあるんだ!》
「シン! 何故、お前までが……!?
惑わされるな! お前もキラも、ラクスの母親に騙されているだけだ!!」
《そんなことは分かってる!! 俺も、キラさんも!!》
「えっ……!?」
《全部、百も承知でやってんだ!
キラさんはラクスさんの味方でしかない!》
「お前に、キラの何が!!」
《あんただって、キラさんの何を知ってるってんだ!
キラさんが何を見たのか、どれだけ苦しんでいたか、何も知らない癖に!》
その叫びが、戦闘開始の合図であるかのように──
デスティニーとインフィニットジャスティスは、ほぼ同時に動いた。
あくまでキラを追撃しようとするジャスティスに、真っ向から立ち向かうデスティニー。
光の翼を展開しながらビームライフルを構え、頭部に装着された機関砲CIWSと同時に一斉射を開始する。
ジャスティスも躊躇うことなく、腰部からビームライフルを取り出した。
やがて、デブリがまだ多く散乱する宙域で、デスティニーとジャスティスの撃ちあいが始まった。
互いを正確に狙った閃光は、闇の宙域を幾度も交差する。時には衝突し、星のように輝く。流れ弾で次々に砕け散るデブリ。
激しい弾幕の中で応戦しながら、アスランはまだストライクフリーダムの光芒を視界の隅に捉えていた。
──来る!
アスランがそう確信するとほぼ同時に、フリーダムの翼が光を放ち──
青の光を帯びた無数の火線が、宙域中を乱反射するかの如くこちらへ向かってきた。
あまりにも正確に、相手の武装だけを剥ぎ取ろうとするキラの攻撃。
それが今、アスランとフラガ、そして背後のアークエンジェルやミネルバJrをも狙っている。
「これは……スーパードラグーン!?」
8基の飛行砲台を同時に制御しながら相手にオールレンジ攻撃を行う、ストライクフリーダムのメインウェポン。
マルチロックオンシステムとキラの空間認識能力とを組み合わせたら、これほど恐ろしい武装もない。
そのうちの半数近くがジャスティスを狙っていたが、咄嗟にアスランは左腕のシールドからグラップルスティンガー(有線式ロケットアンカー)を射出。
アンカーの切っ先を限界まで伸ばし、遠く離れたデブリに引っ掛けた。宙を切り裂き、伸ばされるワイヤー。
それを戻す力に引っ張られるようにして、アスランは機体を強引に離脱させる。直後に眼前を通過していく、幾筋もの閃光。
うち幾つかは、散らばる岩礁に着弾する。小さなものは微塵に砕け、大きいものには無数の穴が空く。
やや遠く、ミントンの方向でひときわ大きな爆光が幾つか見えた。
連合軍のウィンダムの爆発だろうか。キラのことだ、恐らく命までは取られていないだろうが──
ほぼ同時に、アークエンジェルへと直進するドラグーンの火線。
それを盾と機体そのもので敢然と防御するアカツキも確認出来た。
――やはりお前は、アークエンジェルさえも狙うつもりか。
若干の失望を覚えるアスランだが、嘆息する暇さえ彼には与えられない。
飛び散る火花がおさまるのも待たず、すぐにデスティニーが眼前に現れる。容赦なく構えられたビームライフル。
互いにデブリを躱しながらの、激しい銃撃戦が始まった。シンの声が、アスランのコクピットにも反響する。
《あんただって、出来るなら味方にしたいって、キラさんは言ってたんだ!
俺はイヤだけど!》
「バカを言うな!
俺は今もキラの味方だ、だが南チュウザンに与する気はない!」
《それが、矛盾してるって言ってんだ! この、裏切り者が!》
「ザフトを裏切ったお前が言えたことか!
ルナマリアは今でも、お前を待っているんだぞ!!」
「卑怯だろ! ルナのことを持ち出すな!!」
機体の重量をまるで感じさせない、ジャスティスの動き。
有線アンカーをデブリに刺しては、ワイヤーを使って瞬間移動の如く宙域を滑る。ワイヤーがなければ等速移動で宙の彼方に吹っ飛んでいってしまう機体を、アスランは巧みに制御しシンの銃撃を躱し続けていた。
魔術と見まがうほど、全く難なくデブリからアンカーを引き抜いては別のデブリにアンカーを射出し移動する。勿論、正確にデスティニーを狙い撃ちながら。
そのさまはシンの目にはまるで、サーカスの曲芸師のようにも見えた。
──だが俺だってもう、あんたに負けてはいられない。
こっちには、キラさんがいるんだ。
フレイの言葉を、彼女の目的を、シンは全て納得しているわけではない。
未だに残る疑問はいくつもあるし、そもそも、ステラやマユをどうするつもりなのかも分からない。
しかし、シンは一つだけ決めていたことがあった。
「キラさんとラクスさん──フレイもだけど!
あの三人、なんか、放っておけないんだよ!
誰かが見てないと、とんでもないことになりそうな気がして!!」
後方から自分を援護するキラの意思を感じながら、シンは素早くコンソールに指を走らせる。
デスティニーは右手にライフルを、左手ではパルマのビーム砲を構える。二丁拳銃、いや頭部のCIWSも合わせて三丁拳銃の如く斉射される火線。炸裂するマズルフラッシュ。
何度もデブリを盾にし、岩が破壊されても、機体ごと縦にも横にも回転しながら火線を撃ち続ける。幾度となく小さなデブリに衝突しながら。
それはジャスティスも同様だったが、さらにアスランが凄いのは、キラのスーパードラグーンまでもをギリギリながら躱し続けているという点だった。
オープンになったままの通信から、アスランの怒声。
《放っておけないのは同感だが!
お前がキラとラクスを見張ってどうする!?
キラよりよほど危なっかしいお前が!》
キラの使うマルチロックオンシステムは、止まっているか動きの鈍い相手に対してはほぼ無敵だが、今のアスランのように不規則な動きをする相手にはやや分が悪い。
キラの反応速度を上回る機体などそうそう出てこないからこそ、これまでマルチロックオンシステムは圧倒的な強さを誇ったわけだが、今彼が相手にしているのはあのアスランだ。
雲のように浮かび続けるデブリの間を、鞭の如くワイヤーをしならせ移動しながら、スーパードラグーンの閃光さえすり抜ける。
デブリを蹴り飛ばし、逆さになりながらも一気にシンの眼前まで迫るジャスティス。
そのライフルの銃口が、真っすぐにデスティニーを捉えた。
デスティニーコクピットに、激しいアラートが鳴り響く。
反射的に、左手のパルマを構えるデスティニー。
「――!!」
互いが互いのコクピットに照準を合わせたことに気づき、シンとアスランの間に、氷のような戦慄が走った。
──撃つな。
今ここで撃っちゃいけない!
シンの知らない、誰かの声が脳髄に響いた──
と同時にシンとアスランの中で、SEEDが揃って弾け飛ぶ。
互いが互いを
敢えて狙いを外した二筋の閃光が、ジャスティスの右脚部、デスティニーの左肩部を掠める。
その衝撃で、果てしない撃ち合いを続けていた2機は大きく吹き飛ばされた。
「ぐぅっ……!!」
絶望的損傷にはほど遠いものの、脳と内臓がミキサーにかけられたと錯覚するほど揺さぶられるコクピット。シンの喉から思わず飛び出す呻き。
だが体勢を整える間もなく、別角度からのアラートが鳴り響く。
「これは……!!?」
すぐにメインモニターを確認すると、つい先ほどまで戦っていたはずのジャスティスは既に戦闘から離脱し、デスティニーの後方──キラのいる方角に一直線に向かっていた。
畜生、逃げる気か!
そう叫ぼうとしたが、そんなシンの視界に、無理矢理入ってくる金色の光。
オープンになりっぱなしの通信から、聞き覚えのある声が響いた。
《お前の相手はこっちだ、坊主!》
立ちはだかったのは勿論、オーブの象徴たるモビルスーツ──アカツキ。
宇宙戦用ユニット『シラヌイ』を装着し、日本刀にも似た双刀型ビームサーベルを構えるその姿は、デスティニーよりもやたらと大きいように思えた。
しかしそんな威圧にも、シンは怯まない。
今の彼は憎悪を胸に抱きながらも、どこか冷静にそんな自分を見つめる余裕があった。
──ネオ・ロアノーク。
俺は、あんたは殺さない。
そのかわり……
「何としても、ステラの前で土下座させてやる!
元はと言えば、あんたが一番悪いんだからなァ!!」
そう叫ぶが早いか、肩部からビームブーメランを抜き放ちアカツキに斬りかかるデスティニー。
咄嗟にアカツキが突き出した71式防盾と、ブーメランの光が激突する。
激しいノイズにかき消されつつも、通信から切れ切れに聞こえるフラガの声。
《ステラに、スティング……アウルも……俺がいながら……
忘れたことなど、あるものか!》
その言葉に、シンの心は僅かに動揺する。
しかし、機体の挙動は止まらない。左腕に持ち替えていたビームライフルで、即座にアカツキの頭部を狙い撃つ。
「今更、遅い!!」
咄嗟に上半身を翻し、火線を躱すアカツキ。その反動を利用し、デスティニーの左腕を盾で強引に叩き落す。
だがシンは打撃にも怯まず、なおもライフルを執拗にアカツキに向ける。それでもなお──
アカツキは機体を大きく屈め、そのライフルごと強引に蹴り飛ばしに行った。
「!!」
アカツキの黄金の蹴りが見事にデスティニーの左腕にヒットし、ビームライフルはそのまま宙に舞った。
──悪く思うなよ、坊主。
フラガの目からは、デスティニーは完全に裏をかかれたかのように、弾き飛ばされたライフルを見上げているように見えた。
機体を低姿勢に保ったまま、ビームサーベルを抜き放つアカツキ。
だがフラガの勘は、アラートより早く気が付いた。差し迫った危機に。
「──!?」
ライフルごと弾き飛ばしたはずのデスティニーが、飛ばされたままの体勢で両肩部から双対のビームブーメランを抜き放ち、両方とも投擲する。
勿論、アカツキに向かって。
「ビームでは、アカツキには効かん……っ!?」
迫る光の刃。咄嗟に盾を構え直し、フラガは衝撃に備える。
だがその向こうに見えたものは、大きく反り返りながらもこちらに真っすぐ向けられる、デスティニーの掌部──
その中心に宿るは、魂まで燃やすような激しい光。パルマ・フィオキーナ。
「何をする気だ……
まさか!」
フラガの眼前で、容赦なく放たれる膨大な火線。
その光はアカツキのすぐそばに迫った2刃のビームブーメランに衝突し、それは電磁場の大きな混乱を巻き起こす。
腕と言わず頭と言わず、アカツキの装甲四方八方に反射しては、拡散していく閃光。
咄嗟にシラヌイの誘導機動ビーム砲塔システムを起動させ、7基装備された3連装ビーム砲を射出するアカツキ。ドラグーン・システムと同様の攻撃端末を機体の周囲に巡らせ、防御フィールドを展開する。
しかし──
「ここで来るかよ……キラ!」
再びけたたましく鳴り響くアラートと共に、遥か直上から来襲する4基のドラグーン。
間違いなく、ストライクフリーダムのスーパードラグーンだった──
アカツキの攻撃端末を一瞬のうちに全て正確に撃ち抜いていく、青の閃光。まるでこの瞬間を待っていたとばかりに、恐ろしい精度で。
フィールドが消失し、再び無防備になってしまうアカツキ。
デスティニーの生み出した光の渦はさらに拡大し、一気にアカツキに迫る。
ヤタノカガミに覆われたアカツキ自体は、ビームに対して絶対無敵を誇るものの、そのパイロットの肉眼にとってこの光の乱流は耐え難いものだった。
モニターの光量修正により可能な限り抑えられてはいたものの、コクピット中に溢れだす光。フラガの眼球に走る、焼けつくような痛み。
コクピット自体が、熱い。ミネルバの陽電子破砕砲を受け止めた瞬間以上だ。
鳴り響くアラートは単に機体の危機を知らせているだけでなく、相手にビームを反射させる鏡面装甲の能力が大きく低下している事実をフラガに教えていた。反射は可能だが、デスティニーに向けて反射させるに至っていない。
「ぐ……
これしきのことで、俺は!」
それでもフラガは操縦桿を握り直し、一旦アカツキを後退させんと試みる。
だが──
《約束を破ったまま、自分だけ幸せになるなんて──
そんなの、俺が許さない!!》
響いたものは、いつか見た紅い瞳の少年の、哀しい絶叫。
光の嵐を突き破って眼前に迫ったものは、デスティニーの誇る超巨大対艦刀、アロンダイト。
その輝く刃はとても正直に、真正面からアカツキのコクピットに向かって振り下ろされた。
「フラガ一佐!?」
その瞬間、アマミキョに居ながらにしてサイは感じた──
激戦のさなか、アカツキが事実上、撃破されたことを。
モニター上ではまだアカツキは健在だ。機体も大破していないように見える。
だがアカツキのような機体の場合、機体は無事でも中のパイロットは衝撃で死に至ることもありうる。ビームの直撃によるダメージまでも完璧に防ぎきることが出来るとは思えない。
加えて、ヤタノカガミはビームサーベルのような斬撃には効果がない。
モニターでは確認出来なかったが、サイの感じたものは、確かに膨大な威力を伴う斬撃だった。
何故かは全く分からないが、身体中に燃えるような熱さと痛みを感じ、思わず椅子から崩れ落ちかけるサイ。
それでも──
痛みをこらえながら、アークエンジェルへの通信に向けて叫んだ。
「ラミアス艦長! アカツキ、戦闘不能です!
すぐに機体の回収と、医療班を!!」
しかしその瞬間──
アークエンジェルからの返信を待っている余裕もなく、背筋が冷えるような戦慄がサイの全身を走った。
激しい敵意に狙われている。そう感じたのは、一瞬。
《アマミキョは、やらせない!!》
通信ごしのナオトの絶叫と共に、メインモニターにティーダZの白い機体が飛び込んでくる。
一見、何もない場所へ真横から食らいついているように見えるティーダZ。
しかしサイには分かった──
ティーダZが掴みかかった相手が紛れもなく、姿を消したストライクフリーダム・ルージュであることを。
掴みかかられたと同時に観念したか、それとも挑発か。
巧妙にルージュを隠していたミラージュコロイドの粒子が消え、何もないはずの空中から紅の装甲が姿を現す。
悲鳴とどよめきが、アマミキョブリッジに交錯する中──
チグサ・マナベの声が、外部スピーカーから響きわたった。
《観念しなよ~、サイ・アーガイル。
あんたとティーダと、アマミキョを貰いに来た!》
~~~~~~
次回予告
互いの目的も分からず、激しくぶつかりあう意思
その中で交わされる、思いがけない出会い
敵味方入り乱れる混戦で、少年たちは自らの力の真実を知る
人ならざる力を手に入れた、その代償は
次回、機動戦士ガンダムSEED Revelation
「生者の定義」
漆黒の絶望、撃ち抜け。ザク!