【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part2 俺に出来ることは

 

 

「き、消えていく? ルージュが?」

 

 インパルスが蹴り飛ばされるのを、ティーダZのコクピットから茫然と見ているしかなかったナオト。

 しかしようやく衝撃から立ち直り、何とか機体を起こす。

 

「せっかく目の前にいるんだ。

 マユは確かに、そこに……!」

 

 ナオトの眼前で、最早爪先まで完全に消失しかかっているルージュ。

 だが分かった。チグサがまだ、アマミキョに──

 それも、サイに狙いを定めていることを。

 

「サイさん、気をつけて! 

 無理矢理にでも、ルージュはそっちに行くつもりです!!」

《分かってる! 

 しかしこんなところで無暗にヘルダートでも撃ったら、それこそ危険だ!》

 

 当たり前だ。何もない宙域ならともかく、今アマミキョのいる場所はコロニーと宇宙を繋ぐ接点である港口。

 一撃でも誤ればそれだけでコロニー崩壊に直結しかねない、非常にデリケートな場所である。復興したばかりのミントンを、間違ってもそんな危険に晒すわけにはいかない──

 そんなサイの意思を汲み取ったナオトは、即座に決断した。

 膝の間に鎮座している純白の球体──ハロに、反射的にナオトは視線を注ぐ。

 コロニーもアマミキョも傷つけずに、マユを取り戻す方法。

 これしかないじゃないか。

 そう判断したナオトは咄嗟にハロの上蓋を開くと、中から現れたキーボードパネルに必死で指を走らせる。

 

「コード403より、752、753同調。

 アクセスコード承認。主要値更新、確定完了……プランSRにてシステム起動の為、フェイズ3から5までを省略。

 ブック・オブ・レヴェレイション、オーバードライヴ──」

 

 勿論それは、ティーダZの黙示録発動の手順ではあったが──

 ナオトは何故か、自分の手つきがどうにも不自然なことに気づいた。

 どうしてだろう。あれだけ何度も訓練したはずなのに、黙示録の起動手順をところどころ忘れている。懸命に入力しているはずなのに、速さも以前より落ちている気がする。

 そんなナオトを嘲笑うように、ハロが突然叫びだした。

 

「エラーコード801、エラーコード801、モジュール構築不能! 

 パイロット認証に問題発生」

「えぇっ!? 

 あ……そうか。サイさんが……!」

 

 ハロの吐いたエラーによって──ナオトはやっと思い出した。

 サイがナオトと共に乗っていない限り、今のティーダZでは黙示録の発動が不可能であることを。

 ──いや。正確には、全く不可能なわけではない。

 セレブレイト・ウェイヴ攻略の鍵たるティーダZは、宇宙へ上がる間にもザフトの手によって何度もシステムの改良がなされてきたし、全くの偶然によってサブパイロット登録がなされてしまったサイの登録解除も、同時に行われたはずだった。

 しかし現実には、登録解除は出来たもののシステム自体が不安定になり、ナオト単独での黙示録の発動成功確率が3割以下まで落ちてしまったのである。

 勿論この大問題には、今なおヴィーノたちが必死で取り組んではいたが──

 

 ──そんな大事なことを、どうして僕は今まで忘れていた。

 

 どうしようもない不安が、ナオトの胸に押し寄せる。

 これだけじゃない。元々忘れっぽい僕だけど、最近特に酷くないか。

 いつも使っているはずの道を忘れたり、口を拭うのを忘れてたり、集合時間までしょっちゅう間違えるようになった。

 もしかして、僕は──

 

 憔悴のあまり、膝の間のハロを凝視してしまうナオト。

 気づかないうちに彼は、胸元にしまいこんでいるお守りをぎゅっと握りしめてしまっていた。

 だがそこへ、サイの通信が飛び込んでくる。

 

《ナオト! 

 大丈夫か、ナオト!!》

 

 ルージュに襲われる危険がまだ残っているにも関わらず、サイはナオトを気遣っている。

 一瞬でもその心に触れ、ナオトは何とか我を取り戻した。

 

「そう、まだ大丈夫だ……

 黙示録がなくたって、マユは感じられる」

 

 自分を鼓舞するが如く呟きながら、ナオトは強引に機体を跳ね上げた。

 見えなくても、分かる。アマミキョのブリッジへ、直接食らいつこうとしていくルージュが。

 他の乗員がどうなろうとも構わず、サイを強引に奪い去ろうとする、チグサの意思が。

 

「マユ! 

 やめろ、やめるんだ!!」

 

 ルージュに直接届けとばかりに、力いっぱいの大声でナオトは叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 再びアマミキョブリッジに襲いかかろうとしていた、チグサの耳を──

 ナオトの声が、またしてもつんざく。

 

「ぐぅっ……

 またお前か! うるさいって言ってるだろ!?」

 

 真横から直接飛びかかってくるティーダZ。機体が消え失せていようと、ティーダZはチグサを感じ取ってこちらにやってくる。

 チグサの──否、マユの気配がある限り。

 同時に彼女を襲ったものは、脳髄を叩き壊しかねないほどの頭痛。ナオトの声を聞くと頭痛がするというのは、誇張でも何でもなかった。

 ティーダZに襲われかかり、咄嗟に避けるルージュ。

 

「ちょ……

 ちょっと、静かにしろ、マユ……!」

 

 それでも何とか任務だけは全うするべく、チグサはルージュを必死でコントロールする。

 ──頭痛ぐらい、耐えろ。目的のサイ・アーガイルは目の前だ。

 ブリッジに正面からしがみついてみると、こちらを把握出来ず恐怖に顔を歪ませあちこちを見回すばかりのクルーたちの中で、ただ一人──

 サイだけはじっと、自分を睨み返していた。お前のことなぞ、とうに知っていると言いたげに。

 

「見えないはずなのに、こっちを分かってる? 

 ……まぁ、当然か。目覚めちゃったんだもんねー、()()()が」

 

 あの湖で見た時と同じ瞳が、眼鏡の奥から自分を睨み返している。

 どれだけ罵倒しても、どれだけ叩き潰しても、なお這い上がってきた男の視線。

 それがチグサの中で、憎悪とも興味とも取れる感情を喚起させる。

 何の力もなかった凡人の癖に、生意気な。でも、ちょっと弄ってみたら面白いかも。

 もう一度ルージュの掌で、叩き落してやりたい──いや、それだけじゃもう足りない。

 掌にそっと握りしめて、じわじわ握りつぶしたら、どんな悲鳴を上げるだろう? 

 それは生まれた時から、戦闘以外の教育をろくに受けていなかったチグサ・マナベの、幼さ故の嗜虐心から来るものだったが──

 その感情が湧き出た途端、またしても酷い痛みが彼女の目の奥まで突き刺さった。

 

「い……たっ!!」

 

 痛みはさらに加速し、操縦桿を握りしめていた両手で思わず額を押さえかかるチグサ。

 その指が、ヘルメットのバイザーに虚しく衝突する。

 

 ──駄目。

 サイを、どうするつもり? 

 サイに、みんなに何かあったら、ナオトが怒るよ! 

 

「い……や、やめろ、マユ……

 あんたとはいい加減、白黒つけなきゃ駄目みたいだね!」

 

 左手でバイザーを押さえながら、右手で何とか操縦桿を掴むチグサ。

 今すぐアマミキョのブリッジを叩き割ってサイを強引に拉致するのは簡単に思えたが、この頭痛が最早それを許さない。

 連合軍のウィンダムも次第にその数を増し、どんどんアマミキョの援護にやってくる。

 こちらの姿は捉えられないだろうが、一斉に撃たれでもしたら危険なのは百も承知だった。

 

「こーなったら、作戦変更。

 一旦、ここから出るよ!」

 

 誰にともなくそう叫びながら、チグサはアマミキョの船体をやけくそ気味に蹴り飛ばし、一息に機体を引き離す。

 大きく揺さぶられるブリッジと、なおも追いつこうとしてくるティーダZを後目に、チグサは思いきりルージュのスラスターを全開にした。

 スラスターを使えば熱源探知される為、ミラージュコロイドは無意味になってしまう。でも、構うもんか。

 ──とりあえずここから全力で逃げて、また作戦の練り直しだ。

 あまり好みじゃない戦法になるけど、しょーがないかな。ついでに、マユの奴とちゃんと話、しないと。

 どうやらこの娘、そろそろまともにアタシの頭に呼びかけてきてくれるっぽいし。

 

 

 

 

 

 

 メインモニターには何も映し出されていなかったものの──

 アマミキョに居ながらにして、サイには分かった。ストライクフリーダム・ルージュが、ようやくアマミキョを諦め港口から離脱したことを。

 熱源を探ってみると、明らかにルージュのスラスターからのものであろう噴射が確認出来た。

 スラスターの位置を示しているサブモニターを凝視しながら、オペレータ席で思わずディックが呟く。

 

「た……

 助かった、のか?」

 

 敵性機体を意味する紅の表示は、既に港口外部の宙域へ大きく離れつつあった。

 そんな彼の言葉に、ブリッジクルーの殆どがほっと胸を撫でおろした──

 しかしサイは間髪入れず、彼らの上から声を張り上げる。

 

「油断するな、まだ戦闘が終わったわけじゃない! 

 ディックは熱源分析を怠るな、マイティは引き続き周辺宙域の解析を頼む。

 ヒスイ、アークエンジェルからの通信は?」

「現在、応答を待っていますが……」

 

 気になるのはフラガとアカツキの動向だ。恐らく撃破されたのであろうアカツキからは、それ以降『サイのレーダー』にも何の反応もなく、勿論アマミキョのモニターにも何も映らない。

 キラは、アスランは──

 だがその時、ヒスイが思わず声を荒げた。

 

「え……そ、そんな!? 

 アークエンジェル、単艦で前進を開始! 戦闘空域へ向かっていきます!!」

「何だって!?」

 

 驚くトニー隊長を後目に、サイは唇を噛む。

 ラミアス艦長なら予想出来た行動だ。奇跡的に帰還を果たしたフラガ一佐を、また失うようなことになれば──

 おまけにキラが敵側に回っているとくれば、どんなに危険だと分かっていても行かないわけがない。

 あの、ラミアス艦長なら。

 

「無謀すぎる……

 裸であのストライクフリーダムと戦うつもりか、アークエンジェルは!?」

 

 サイの横で拳を握りしめるトニー。恐らく当事者でなければ、誰もがそう考えるだろう──

 いや、下手をすればアークエンジェル乗員であっても、艦長以外には理解出来ない行動かも知れない。

 

 ──動じている時ではない。現実に、アークエンジェルは自ら危機に突撃しようとしている。

 感覚を研ぎ澄ませ。今、自分に出来ることは何だ。

 さっきのチグサの言葉を借りれば、俺はアマミキョの『ハーモニクスシステム』の中心となってしまったらしい──

 今俺の頭の中で起きている現象も、そのうちの一つだとすれば。

 ──何も出来なかったはずの俺に、状況を見つめていることしか出来なかったはずの俺に、何かが出来るのだとすれば。

 

 サイは大きくひとつ腹で息をすると、手に入れたばかりの自分の『レーダー』を解析し始める。

 慌てるな。分析すべきモニターが、一つ増えただけと思えばいい。

 現実の肉眼で見えているものとは別の光景に目を凝らすよう、じっと集中する。

 自分の中で拡大していく、もう一つのモニターに。もう一つの宇宙に──

 

 その時、ブリッジへまた別の通信が入った。

 インパルスからのルナマリアの声が、ヒスイたちの手元で直接響く。

 

《アークエンジェルは私が援護する。

 アマミキョはしばらく、ナオトと山神隊に任せるから!》

 

 同時に閃光の如く、港口から飛び出していくトリコロールの機体。

 先ほどのルージュとの戦闘で何があったのか、しばらくインパルスの動作は不自然に鈍かったが──

 自分の取り越し苦労だったか。

 サイがほんの少し胸を撫でおろし、闇の宙域へと遠ざかっていくスラスターの光を見送っていた、その時──

 

 

「……!?」

 

 

 サイは感じた。闇に微かに浮かぶ星々の向こうに、確かな気配を。

 首筋を冷たい舌で舐められるような、酷い戦慄を。

 それが自らの戦闘経験による勘なのか、それともアマミキョの力によるものなのか、それは分からない。だが確実に、多くの人の気配が塊となって、自分たちを注視している。

 しかもその塊は一つではなく、二つだ。そのうち一つは明確に、戦場から飛び出したアークエンジェルを狙っている。

 

 いや──まだ、他にもいる。

 もっと集中しろ、もっと。3年前、アークエンジェルで必死で生き抜いた時のように。

 あの時みたいに極限状態にまで感覚を研ぎ澄ませば、さっき映像でしか見えなかったエターナルも……

 もしかしたらフレイの感覚も、捉えられるかも知れない。

 

 それは願望ではなく、確信に近かった。

 その確信が脳裏で一つの画像となって結びついた瞬間、サイはすぐさま通信へと叫んでいた。

 伝えられるだけの情報を、洗いざらい全てぶちまける。

 

「これは……

 ラミアス艦長! 

 アークエンジェルより距離800、オレンジより、不明艦1が接近中!! 

 さらに直進方向、ストライクフリーダムの後方距離500にも船籍不明艦1。ミラージュコロイド搭載艦と思われます!」

 

 

 

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