【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part3 対峙――シンVSアークエンジェル

 

 

 単独で前進を開始したアークエンジェルブリッジ。

 そこにもサイの通信は確実に届き、チャンドラとメイリンが分析を完了していた。

 

「間違いありません! 

 距離600、オレンジ23、マーク140デルタより、大型の熱量接近中。恐らく戦艦クラスです! 

 ……ドンピシャじゃないか。一体どうしたんだ、あの坊主」

「ストライクフリーダムの後方、ブルー12マーク30デルタにも、微小ながら熱量を探知。

 ミラージュコロイド艦の可能性があります」

 

 その報告にも、マリューは一切方針を変えようとはしなかった。

 

「私たちの目的は、キラ君の意思を確かめること。それは変わらない! 

 とにかくアカツキの救出、急いで」

 

 クルーが肉眼でも機体を確認出来るレベルで、アカツキの戦闘空域内にアークエンジェルは接近していた。

 しかし状況を目にした瞬間、ミリアリアを始めとして多くのクルーたちが息を飲んでしまう。

 

「──あれは!」

 

 メインモニターに大きく映し出されたものは、

 胸部が大きく縦に斬り裂かれた、金色の機体。オーブの獅子の象徴。

 ぐったりと水平方向に流れようとするその機体を──

 紅の翼を持つトリコロールの機体、デスティニーガンダムが、掌部から伸ばしたワイヤーで胴体からしっかりと抑え込んでいる。

 鏡面装甲による絶対無敵を誇り、ミネルバの陽電子砲さえ弾き返した、オーブの守護神が――

 今、完全に無防備になって捕らえられていた。

 恐ろしい沈黙が一瞬ブリッジに流れたが、弾かれたようにメイリンが報告する。

 

「あ……! 

 デスティニーより、国際救難チャンネルによる通信が入っています!」

 

 彼女が思わずデスティニーと呼んだのは勿論、機体のコードネームを知っているからであるが、南チュウザン機と呼ぶのには抵抗があったというのもある。

 シンと少しでも会話が出来るかも知れない。僅かにそう期待してのメイリンの報告だったが、マリューは震えを抑え込むかのように指示を続けた。

 

「……回線、繋いで」

 

 そして間もなく、思いのほか冷静なデスティニーパイロット──

 シン・アスカの音声が、アークエンジェルブリッジに流れ出した。

 

《こうして挨拶するのは初めてだな、アークエンジェルとは……

 俺、交渉事って慣れてないから、どういう言い方すればいいか分からないんだけどさ。

 とりあえず、この機体のパイロットは無事だから、安心してほしい》

 

 ほぼ飾り気のないシンの、意外なほど素直な声。メイリンはほっと胸を撫でおろした。

 しかし最も安心したのは勿論、フラガの恋人たるマリューには違いない。

 彼女はシンの言葉に一瞬泣き笑いに近い表情になったものの、すぐに唇を引き締めてデスティニーと相対する。

 

「私はアークエンジェル艦長、マリュー・ラミアス。

 デスティニーガンダムのパイロットに告げます。本艦の目的はラクス・クラインの救出、及び大規模神経兵器の阻止。

 ラクス嬢を隠匿し、セレブレイト・ウェイヴ使用を擁護しようというなら、何者であろうと戦闘は辞さないつもりです。

 しかしその前に、そのオーブ機とパイロットを返還していただきたい。

 そして……どうかそのまま、降伏を願います」

 

 マリューの毅然とした言葉に、一同は固唾を呑んで成り行きを見守る。

 だが相手から返ってきたものは、不器用ながらもはっきりした否定。

 

《それは無理ってもんだ。

 降伏はありえないし、このパイロットも機体も、返すつもりはない。

 それにはちゃんと理由があるし、それに──

 あんたらは知らないかも知れないけど、このパイロットには俺、貸しがあるから》

 

 この時点で、マリューは気づいた。

 間違いない。デスティニーに乗っているのは──

 ムウがよく後悔と共に呟いていた、ザフトの少年の名。

 彼が悪夢を見て飛び起きた時に、ステラやアウル、スティングといったかつてのエクステンデッドたちと一緒に呻いていた、少年の名。

 その名前を、彼女は敢えて口にする。

 

「シン・アスカ──

 貴方のことは、フラガ一佐から聞いています。

 彼はずっと、貴方を気にかけていた。貴方とステラ・ルーシェのことも……」

 

 そんなマリューの言葉に、デスティニーのカメラアイが僅かに碧く煌めいた。

 シンの感情の揺れを示すように。

 

《……だから何だよ。

 だったら、俺があんたらにどういう気持ちでいるかぐらい、分かってるんだろ? 

 そっちにはどうせ、アスランもいるんだろうし》

 

 吐き捨てるように呟きながら、デスティニーはアカツキを拘束したまま、背後をちらりと振り返る。

 遥か彼方の宙域では未だに、青の閃光が花火の如く飛び交っているのが見える。明らかに、キラとアスランの戦闘だった。

 ストライクフリーダムを相手に、随分長いことアスランは粘っている。そう感じたのは、マリューだけでなく他のクルーも同じだった。

 

《正直、今すぐにでも叩き潰したいとこだけど……

 この通信繋いだの、メイリンだろ? だから出来るだけ、穏便に行こうと思ってる》

「……!」

 

 そんなシンの声に、メイリンは思わず顔を上げてマリューを見つめてしまう。

 激しやすいシンの性格を知るからこその警戒心。同時に、彼の優しさを知るからこその葛藤がない交ぜになった、メイリンの瞳。

 しかし彼女の視線を感じつつも、マリューは決して方針を曲げはしなかった。

 

「こちらはこれ以上、戦火を広げるつもりはない。

 今すぐ機体とパイロットを返還し、投降を勧めます。さもなくば、然るべき手段に出る!」

 

 そんなマリューの回答に、シンがハイそうですかと従うはずもなく。

 

《だから、そりゃ出来ない相談だっつってんだろ。

 それとも──

 今すぐ、俺にキレ散らかされたいか?》

 

 デスティニーがアークエンジェルに向けて、威嚇するかのようにビームライフルを向けた。

 あくまで威嚇にすぎなかった、その動作。

 しかしそれだけでも、今のアークエンジェルにとっては脅威には違いない。何しろ今、艦を護るべき機体がほぼない状態で直進してきてしまったのだ。

 インフィニットジャスティスはキラの追跡で手一杯。今ここで何かされては──

 一瞬マリューが奥歯を噛みしめた、その瞬間。

 

 

《私はとっくのとうにキレてるわよ、この馬鹿! 

 次メイリン撃ったら、今度という今度は許さないからね! シン!!》

 

 

 そんな叫びと共に、デスティニーの真横から突如飛び込んできた機体。

 それはデスティニーとまるで兄弟のように、トリコロールに彩られたモビルスーツ──

 フォースインパルスガンダムだった。

 ライフルを一切使わず、スピードとパワーにまかせてデスティニーに突っ込みながら、インパルスは相手の顔面を強引に殴りつける。何度も、何度も。

 

《る、ルナ!? 

 お前、なんで!?》

 

 オープンになったままの回線から流れる、完全に動揺したシンの叫び。

 ルナマリアの怒号がそこへ重なる。

 

《こっちの台詞よ、なんであんたがそこにいるの!? 

 御大層にセレブレイトウェイヴなんか守っちゃって、世界中を腑抜けにさせるつもり!?》

《違う! こっちには、ちゃんと考えがあって……》

《どうせまた! お前には! その力がある! とか言われたんでしょーが!!》

 

 言葉に合わせるように、やたらリズミカルにデスティニーをぶん殴ってくるインパルス。

 彼女の言葉の勢いに、シンも反論が出来ない。

 その拳を必死に右腕部で防御しながら、デスティニーはそれでもアカツキの拘束を解こうとしなかった。

 

《ルナ、落ち着けよ! 

 何でお前が、そこまで怒るんだよ!?》

《当たり前でしょ!? 

 ボロボロになったままのあんたが連れ去られたと思ったら、今度はザフト裏切ってワケの分からない神経兵器を守ります降伏はしませんって、こっちの身にもなって考えろっつーの!!》

《待てよ! 俺は今でも、ルナは敵じゃないって思ってる!! 

 キラさんだって俺だって、ルナもメイリンもミネルバJrも、みんな敵じゃないと思ってる!!》

 

 

 

 

 

 

 それを聞いた瞬間、インパルスのコクピットで──

 ルナマリアは、確かにほのかな安堵を感じたものの。

 気が付いた時には、自分でも驚くほど冷たい声で呟いていた。

 

「へぇ~……

 貴方たちは敵じゃありません。でも、ウーチバラに向かってくるなら誰でも撃ちますって?」

 

 デスティニーを殴り続けていた拳を一旦納め、躾のなっていない子供を見る目で相手を見下げる。

 

「キラは敵じゃないってアスランが言った時、あんた自分がどんな態度取ったか覚えてる? 

 それ聞かされた相手の身になりなさいよ」

《あの時とは状況が全然違う! 

 ルナは分かってないだけなんだ。ちょっと落ち着いてくれよ! 

 何キレてんだよ!?》

「偽の姉貴呼ばわりまでされて、こんなの、キレないわけないでしょ!?」

《な、なんだよそれ。偽の姉貴?》

 

 そんなシンの答えに、操縦桿を握るルナマリアの手も一瞬止まる。

 

 ──そっか。シンは知らないんだ。

 

 チグサという娘の言葉が、どこまで真実かは分からない。だが彼女の言動が、今のルナマリアを酷く動揺させているのは事実だった。

 その心の揺れは激しい怒りとなって、ようやく目の前に現れたシンに叩きつけられる。

 何があったのか、どうしてそこにいるのか、お互い話し合いたかったはずだった。

 仕組まれた恋人だろうが何だろうが関係ない。ただ、目の前のシンを引き留めることさえ出来れば──

 その焦りが却ってルナマリアを、突飛な行動に走らせていた。

 ザフトで培ってきた自分の努力も、射撃が苦手で苦労したことも、それでも赤服として認められて嬉しかったのも、シンと心を通わせたのも。

 全部みんな、デュランダル議長の──

 そんな想いを強引に振り切るように、彼女は叫ぶ。

 

「関係ないでしょ、そんなこと! 

 とにかく、あんたを引きずりだすまで、私はここから……っ!?」

 

 インパルスがデスティニーに掴みかかった瞬間──

 友軍機接近のアラートが響いたのと、メイリンからの通信が飛び込んできたのは、ほぼ同時だった。

 

《お姉ちゃん、気をつけて! 

 距離500、オレンジ14、マーク120デルタより、熱紋5確認! 

 これは……ザフト機です! カオスγ(ガンマ)と、グフ・イグナイテッド! 

 他、ザクウォーリアが3機!!》

 

 援軍かと一瞬ルナマリアは思ったが──

 メイリンの強張った口調で、何か嫌な予感がした。

 ザフトから援軍が来ているという連絡は受けていない。そもそも、ミネルバJr以外に援軍を寄こす余裕が、今のザフトにあるのか。あるとすれば、ラクス・クラインの救出を阻もうとする元議長派か。

 そうでなくとも、ザフトにしてみれば現在のデスティニーにストライクフリーダムは、明らかに敵性機体だ。そこまで考えたからこそ、メイリンはルナマリアに警戒を促したのだろう。

 ルナマリアは反射的に盾を構え、デスティニーを庇うように、迫ってくるザフト機の方角へ立ちはだかる──

 その直後、炎を帯びた閃光が幾つも宙を切り裂き、デスティニーとインパルスめがけて直進してきた。

 

「シン! 

 アカツキは諦めて、下がって!!」

 

 ルナマリアが叫んだ瞬間──

 インパルスの機動防盾に、火線が直撃する。明らかにデスティニーを狙ったものだ。

 

「ぐぅ……っ!!」

《ルナ!?》

 

 予想外の衝撃に、機体と共に大きく揺れるコクピット。シンの叫び。

 激しく揺さぶられながらも、ルナマリアがモニターを確認すると──

 炎の向こうに見えたものは、濁った血の色を持ち、まるで兜を被った獣の如き形状のモビルアーマー。

 

「カオスγ(ガンマ)……

 アムル・ホウナ!?」

 

 間違いない──

 オギヤカとの会戦直前、ヨダカ隊長につき従い離れようとしなかった女。

 あの時から、あの女にはいい印象はなかった。

 しかもあの女は──

 サイを徹底的に痛めつけ、自分の乗っていた船・アマミキョを裏切った。

 ルナマリアは今でも鮮明に思い出せる。アムルのことを語っていた時の、痛みに満ちたサイの表情を。

 

 ──船に致命傷を与えたのは、君の射撃じゃない。

 アムル・ホウナの手で仕掛けられた、船のメイン航行システムエラーによるものだ。

 君が撃たなくても、いずれアマミキョは沈没していた。

 

 サイをあそこまで傷つけて、アマミキョを沈めて、ヨダカ隊長に取り入って。

 あいつは確かオギヤカ戦の時、執拗に何かを追い続けてた。あれってまさか、オギヤカから飛び出したサイたちのことを……? 

 分からない。あいつがそこまでサイを追う理由が、全然分からない。

 だけど──! 

 

「なら……

 もう絶対に、アマミキョには手出しはさせない!」

 

 

 

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