【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
ミントン周辺宙域で勃発した争いに加わった不可視戦艦と、大量の南チュウザン軍モビルスーツ。
それによりザフトも連合もオーブも、ミントンまでの撤退を余儀なくされた。
中破したアークエンジェルの眼前で、捕捉され牽引されていくアカツキ。
ザフトのジュール隊という心強い援軍は得たものの、そこからなお南チュウザン軍やエターナルを相手に戦うのは、あまりにも無謀が過ぎた。
艦長のマリューは嗚咽をこらえながら、悲痛な面持ちで撤退を宣言する。
その無念は、セレブレイト・ウェイヴの阻止を目指していた他の艦もまた、同様だった。
「アークエンジェルを急襲したザフトの軍勢ですが、やはり引き上げた模様です。
あの南チュウザン軍を前にしては、当然でしょうか……」
アマミキョブリッジで──
ヒスイの報告に、トニーが腕組みしつつため息をつく。
「ここにきてザフトが仲間割れとは、厄介な話だ。
ろくなまとめ役が不在とくれば、致し方なしか」
そんな会話を聞き流しつつ、サイは自席にぐったりと凭れる。
「……一旦、作戦の練り直しになるな。
相手はオーブとザフトのエース級が3機に、エターナル。それに、モビルスーツという名の弾頭を何十発積んでるか分からない不可視戦艦。
フレイの乗っていた、ティーダと同性能の機体も気になる。
ティーダZの黙示録発動は、不安定だし……」
「副隊長に、またティーダに乗って頂くわけにもいきませんからね」
ヒスイの冗談にも、サイは笑えない。
ティーダZの最終兵器かつ存在意義とも言うべきブック・オブ・レヴェレイションシステム。その不具合については、勿論サイも把握していた。
そして先ほど、ナオトがシステムを発動させようとして失敗したのであろうことも。
──黙示録こそが現状、セレブレイトウェイヴに対抗しうる、こちらの唯一の手段なのに。
だからこそアマミキョもティーダZも、ここまで来たってのに。
しかし同時に、サイは思い出す。
──この件について俺が平謝りに謝った時、ヴィーノは言ってたな。
サブパイ登録時の俺のうっかりがなくても、いずれティーダのシステムは同じことになっていた可能性が高い、って。
元々、ナオトだけでは動作が不安定だったティーダだ。OSの安定起動の為に、複数人での操作が必要だったくらいに。
ヴィーノはこうも言っていた。ナオトやマユと同じレベルに、俺のデータがシステムの奥深くまで入り込んでいて、解除は容易ではなかったと。同様にサブパイ登録されたルナマリアのデータは、解除しようと思えばすぐに解除可能だったらしいが──
一体何故だろう。ティーダとの付き合いは確かに長いが、実際に乗ったことなんてそうそうないはずなのに。
──とにかく、今は……
途端に酷い疲れを身体の中から感じ始め、サイは背凭れにほぼ全体重を預けてしまっていた。
全く慣れない感覚を突然身につけてしまったせいか、世界が回転するかのような眩暈までしている。
そんなサイに、トニーとヒスイが心配そうに声をかけた。
「おい大丈夫か、サイ君? 汗びっしょりだぞ」
「顔色も酷くなってますよ。一度医療ブロックで診てもらっては」
自分を覗き込んでくる二人の前で、サイは何とか重い頭を上げた。
「……そうだね。
スズミ先生からも呼び出されてたし、行ってくるよ」
そう言いながら、サイは医療ブロックへと通信を繋ぐ。
幸い、看護師シルキーとすぐに回線は繋がった。
「ごめん、シルキー。今、スズミ先生と話をしたいんだけど」
《あ、副隊長! ちょうどいいや、先生も待ってたよ。
あと、出来れば一緒に、ナオトも連れてきてって》
「え? ナオトを?
構わないけど……」
少し戸惑ったサイに、通信の向こうでシルキーは声を落とした。
《あのね……
詳しくは何も聞いてないけど、結構ヤバイ話みたい。先生、話すの随分躊躇ってたみたいだし。
二人とも、それなりの覚悟しておいた方がいいかも》
同じ頃──
何とか被弾箇所の修復を一時的に終えたアークエンジェル。そのブリッジは当然ながら、酷く沈鬱な雰囲気に包まれていた。
フラガとアカツキをまんまと奪われ、キラたちとろくな交渉も出来ず、ただ無力さにうなだれるばかりのマリュー。
彼女に誰も声をかけられず、ブリッジには無機的な通信音が飛び交うばかりだ。
だがそんな中、ミリアリアはふと気づいた。
先ほど援護してくれたザクファントムから、また通信が入っていることに。
開いたままの回線から響いたものは、ディアッカ・エルスマンの声。
《おひさ、ミリィ。
こんなトコで奇跡の再会とは、よくよく俺もツイてるぜ》
「あのねぇ。もうその呼び方で呼ぶなって言ったの、忘れた?」
《ハハ。俺、もの覚え良くないから》
相変わらず、空気も読まないで。
そう愚痴りかけたものの、ミリアリアは姿勢を正して通信を続けた。
その口元には、自然と穏やかな笑みが浮かぶ。
「……でも、ありがとう。
貴方が助けてくれなければ、船は沈んでいたかも知れない」
《へへ。
んじゃ、礼がわりってわけじゃないが、ちょっと補給させてくれない?
急いできたモンだから、母艦から少し離れちまってさ》
調子の良さも相変わらずね――
呆れたように彼女は突っ込みかける。
しかしそれより早く、回線ごしに怒声が響き渡った。ディアッカ機に追突せんばかりに滑り込んできた、純白のグフイグナイテッドからだ。
《待て、ディアッカ!
またその船に乗ろうというのか!? いくら何でも虫が良すぎだろうが!》
《何言ってんだよ、イザーク。
お前だって一度は乗った船じゃないか》
《だからといって……っ!?》
虚空で口喧嘩を始めかかった両者の下をすり抜けるように、アークエンジェルに帰還していく紅の機体──インフィニットジャスティス。
それを確認した瞬間、イザークの怒声も止まった。苦笑を含んだディアッカの声。
《ほら、アスランも帰ってきてるぜ。
ちょうどいいから、積もる話でもしてみれば?》
《……そうだな。
現状把握の必要もある。一時的に足つ……
アークエンジェルに寄らせてもらおう。
シホ。お前は隊を率いて、一旦母艦に戻り報告を頼む。我々もすぐ戻る》
それを受け、イザーク機のすぐ横にいた一機のザクウォーリアが、了解の合図を送った。
2機を残して、ジュール隊は統率も見事にアークエンジェルから離れていく。
ほっとため息をつきながら、ミリアリアはマリューを見やった。
通信をしっかり聞いていたのか、振り返りもせずに彼女は言う。感情の伴わぬ声で。
「構わないわ……着艦を許可します。
こうなった以上、味方は多い方がいい」
──そうだ。思わぬ再会に浮かれている時ではない。
状況は、確実に悪化しつつあるのだから。
数時間後、アマミキョ医療ブロックの片隅──スズミの医務室で。
「単刀直入に言うとね。
まず、サイ君──貴方はあの湖で、一度死んでいたの」
サイとナオトに向けてスズミが発した言葉は、第一声からして衝撃的なものだった。
何を言われたのか一瞬理解しかねて、サイは椅子に腰かけたまま呆然とするしかない。
代わりとばかりに、大きく目を見開いたナオトが聞き返す。
「ど、どういうことですか?
サイさんはちゃんと生きてます! なんで……!?」
「今のサイ君は、アマミキョによって生かされている状態なの」
そう言いながら、スズミはデスクに数枚の写真とカルテを並べて説明していく。
「左側頭部打撲による頭蓋骨骨折、内臓にまで及ぶ右腹部の裂傷、左上腕部骨折及び裂傷。
これに伴う大量出血により、サイ君──
貴方の脈拍も呼吸も、あの時完全に停止していた。対光反射もなかった。
それなのに今、貴方はこうして生きている。
どういうことなのかずっと考えて、モルゲンレーテとも連絡を取ってみた。
エリカ・シモンズ主任も、サイ君の身体とアマミキョについて、色々調べてくれてね。
その結果、分かったのが──」
そこでスズミは顔を上げ、改めてサイに向き直った。
「分かりやすく言えば、サイ君の身体は、アマミキョと一体化したということなの。
アマミキョを構成するパーツの一部になったということよ」
分かりやすくと言われても、全く意味が分からない。
瞬きすら出来ずにいるサイに、スズミはあくまで淡々と説明する。
「現在のモビルスーツや艦船には、機体の一部が破壊されても、ナノマシンによって自動的に修復する機能を持つものも存在する。
人間が傷を負っても、ある程度は自力で治してしまうのと同様にね。
同じ機能が、アマミキョにも──
それも、人間の表皮修復や血管新生、組織再生と同様に、有機的に修復していく機能があるそうなの」
「有機的にって……
機械が、人間と同じように、ですか?」
ようやく声を出せたナオトの問いに、スズミは頷く。
「そう。
ここからは、ほぼシモンズ主任の推測なのだけど……
最早アマミキョは、ただの艦船じゃない。人間同様、成長するシステムを持つ生き物と考えても差し支えない──ティーダと同じにね。
サイ君はそれより大分前の段階から、アマミキョのメインオペレーティングシステムによって、船の核の一部として認識されかかっていた。
そしてあの湖で、貴方が死亡同然の状況に陥った時。
湖まで接近していたアマミキョは、恐らく『主幹システムの一部が破損している』と認識したのでしょうね。あの時同時に黙示録が発動したのも、何らかの関係があるのかも知れない。
だからアマミキョは、システムの一部を……
つまりサイ君。貴方を、再生させた」
サイの脳裏で、チグサの言葉が再び反響する。
──もう分かってんでしょ? あんたが、アマミキョのハーモニクスシステム。その中心だってことぐらい!!
「結果、サイ君は奇跡的に生還を果たした。
だけどその代償として、貴方の身体は完全に、アマミキョのパーツの一部となってしまった。文字通りの──生体パーツにね。
それ以降、貴方は
その証拠に、貴方の回復速度は通常より恐ろしく速かった。当初の怪我の具合からすると、今でもベッドから起きるのがやっとでも不思議ではない。
あの回復力も、アマミキョの自動修復機能による可能性が極めて高いそうよ」
「ですが!」
サイはそこで思わず反論する。未だに思うように動かない、左腕を押さえながら。
「先生ならご存知でしょう。俺の左腕は、今もこんな状態です。
俺の身体がアマミキョによって修復されたんだとすれば、この腕だって、元通りになるはずじゃないですか!?」
「それに関しても、主任はこう報告してきた。
サイ君の身体の情報は、アマミキョのシステム内部に電子データとして保存されている。それは定期的に更新されていて──
あの湖の事件が起こった時点で、貴方の左腕データは最新状態に更新されていた。
つまり、傷を負って末梢神経に障害が発生し、回復不能と判断されていた為に……その……」
「そんな……!!」
刹那の希望とばかりに思いついたサイの反論さえ、簡単に封じられていく。
スズミが思わず口ごもった言葉も、何となく想像はついた。
既に傷を負っている俺のデータを使って修復を試みた結果、傷ついた左腕は不要と――
つまり回復させるより放置しておいた方が効率的と『アマミキョが』判断したから、治ることはなかったってのか。
アマミキョ自体もそうだ。戦闘などで大破したブロックは放置、もしくは破棄せざるを得ないという事態はこれまで何度もあった――それと同じように。
ふざけるな──
信じられない。信じたくない。
それじゃ、今ここにいる自分は一体何だ。
まともな人間なのか。
今の言葉をそのまま解釈すれば、死体を無理矢理電気的に動かしているようなものじゃないか。
「落ち着いて聞いてほしいといっても、無理だとは思うけれど……
貴方が今のように、他の人たちと同じように生きられているのは。
アマミキョに保存されていた、貴方の魂とも呼ぶべきその電子データが、貴方の身体に再び移行したから──恐らく、ティーダを介して。
それが、私とシモンズ主任の意見」
ならば──
あの戦闘中に感じた不可思議な感覚も、自分がアマミキョそのものになってしまった影響だってのか。
自分の中に、ティーダZを抱えていたように思えたのも。
戦闘宙域に浮かぶ、数々の陣営の動きを捉えられたのも。
アマミキョの機能を考えれば、納得せざるを得ない。
「で、でも……
そもそも、おかしいですよ!」
サイに突き付けられたあまりの現実に、ナオトが激しく頭を振る。
「サイさんはパーツなんかじゃない、人間です!
アマミキョと一体化とか、魂の移行とか……
何なんですか、そのオカルト!?
だいたい僕は、今でも信じられません。人の精神の境界をなくすとか、感情をエネルギー化とか……この船のシステム自体が!
今時、三流オカルト番組でも取り上げませんよ、そんなの!!」
しかしそんなナオトの叫びにも、スズミは極めて冷静だった。
「ナオト君。今まで散々人の心に触れてきたはずの貴方が、それを言うの?
最初は私も信じられなかった。だけど、黙示録とそれによる現象を体験してしまった以上、もうオカルトという言葉だけでは片づけられない。
特に貴方たちだけじゃなく、アマミキョに関わる人々皆が体験した、心を剥がされるような感覚──人の気配や意思が読めてしまうような感覚はね。
オカルトでも何でもなく、今の科学でも可能だと証明されていることなの」
「科学で……実現可能なんですか?」
「言語によるコミュニケーションを介さずに人の意思を読み取る技術自体は、既に100年近く前に実用化されている。
脳のニューロンに直接デバイスを埋め込むことで、言葉を発することなく、頭の中で考えただけで機械を動かすことの出来る技術がね。
主に介護や医療の分野で、その技術は発達してきた。義手でも普通の手と同じように動かせたり、感覚さえあったりするのはその賜物。
──今その技術は軍事にも活用され、その一端がモビルスーツ開発でもある。
だから当然この技術は、実用化当時より遥かに進歩している。ひと昔前には、人の心を読む能力はテレパシーという超能力としてオカルト扱いされてきたけれど、それすらも実用化一歩手前まで来ていたと言われている。エイプリルフールクライシスによって、その研究も一時中断を余儀なくされていたようだけど──
今のアマミキョの状況を見る限り、公にならない処で研究は進んでいたようね。
人の意思が読めてしまうかのような感覚も、感情のエネルギーを物理的な力に変換する技術も、魂の電子データ化も、それによるサイ君の蘇生も──
その応用ではないかしらね」