【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
ミントン1及び2は、双子のように似た構造を持つ円筒型コロニーである。同じように居住区域や工業区域を持ちながら、常に並行する形で宇宙空間に浮遊している。
数カ月前にテロリストの攻撃により破損したミントン1は、大分復興はしてきたものの未だに修復中の部分も多く、一般人の入港は制限されていた。しかしアマミキョやアークエンジェルが入港したミントン2は通常通りに稼働を続けている。
夕方の時刻に空の色が変化しつつある、そのミントン2へ──
「ふぅ~……
意外と、時間かかっちゃったかなぁ」
昼の喧騒が終わり閑散としつつある工業区域。その片隅に屹立する銀色のビルの屋上から、一人の少女──
チグサ・マナベが、あたりを眺め渡していた。
既に彼女はパイロットスーツを脱ぎ、あらかじめ用意しておいたミントンの中学制服に着替えている。
以前着たこともあるオーブのブレザー型制服はベージュが基調色だったが、そのベージュの部分をそのまま濃いグレーにしたような制服だった。あとは胸のリボン幅がかなり広くなったぐらいしか違いはない。
「さーてと。
こっからどうやって、アマミキョに忍び込むかな~と」
彼女のいるビルは他の建物と違って窓らしき窓が殆どなく、まるでコロニーの地面からそのまま鉄の塔が突起物の如く生えたかのようにそそり立っている。
それもそのはずで、通常は完全に密閉されたこのビルは、外壁との接続口でもあった。
外壁を内側から覆うように造られた円筒型コロニーの大地。その地下を垂直に貫通するように建造された、外壁への接続口。
港口以外にも、こうしたビルのような外部への出入り口はコロニー内に数多い。通常は工業用モビルスーツや船舶などの搬入口として使われている。
管理塔からの必死の捜索の目すら巧みに潜り抜け、チグサはそのうち一つに辿りついたというわけだ。勿論、ストライクフリーダム・ルージュのステルス機能によって。
「ルージュ隠すのはちょっと骨が折れたけど──
オートでミラージュコロイド張ってるし、しばらくはもつでしょ」
チグサは一息つくと、朱色に染まりつつある空を睨みながら呟いた。
「──で? いい加減、話してもらうよ。
あんたは一体、何がしたいのさ」
そんな彼女に対して答える者は誰もいないように見える。コロニー内を吹き抜ける、涼しい風以外は。
しかしチグサは確かに、自分の中の声を聞き、言葉を交わしていた。
「会いたい?
……マユ、諦めな。
アタシ、嫌いなんだって。あのガキんちょ」
──どうして?
チグサはどうしてそんなに、ナオトが嫌いなの?
チグサの中から聞こえる声。
最初は酷い頭痛を伴ったが、今ではもう、彼女はそれを当然のことのように認識できる。
碁盤目状に区切られた工業区域。その向こうには居住区域が広がっているが、工業区域と居住区域の間は湖にも似た大きな運河で区切られており、水面には夕陽が反射して輝いている。
その岸沿いを走る白い通路には数多くの店が立ち並び、賑やかなショッピングモールを形成していた。
ごった返す人々を油断なく睨みながら、チグサは声との対話を続ける。
「当たり前でしょ。
あいつはいつだって、自分のことばっかり。
あんたのそばにいた時だって、あんたのことを考えているようで自分のことしか考えてなかった。
だからあんたに酷いことしたし、カイキ兄だって怒ったんだ。
あんたを酷い目に遭わせたってのは、アタシを酷い目に遭わせたのと同義。分かる?」
──私、ナオトに酷い目に遭わされた覚えはないけどなぁ。
「アタシがあるって言ってんの。
しまいにはあいつ、カイキ兄を……!!」
──チグサがカイキ兄ちゃんをずっと想ってるのは分かるよ。それでナオトが憎いのも。
でもそれは、お兄ちゃんがナオトのお母さんを……
「それなら安心しな。カイキ兄の恨みであいつを殺るってのは、もうありえないから。
確かに殺したいくらい憎いけど、それ以上に……
触りたくないくらい気持ち悪いんだ、あいつ。
あいつの血で自分の手やルージュを汚すなんて、死んでもごめんだね」
屋上のコンクリート床にどっかと腰かけながら、鼻息も荒くチグサはふんぞり返る。
その視線の先にあるのは、メインの大通り。そのさらに先、彼女から見て右手奥には、港へと繋がるトンネルがある。内壁を隔てたその向こうには、アマミキョが停泊しているはずだ。
チグサは行きかう人々を注意深く見つめながら、なおも呟く。
「いい? とにかくアタシは、あのガキが嫌いなの。
あんたがあいつを想うのは勝手だけど、そのたびに頭痛がするぐらい気持ち悪い。
それは、覚えときな」
──うん。チグサがナオトを嫌うのは、分かったけど……
それとは別に、ワケがある気がする。
「は? 別のワケ?」
──チグサの中に、感じるの。
ナオトとは違うけど、何か、暖かなものが。
「……やめろって。
言っただろ。いくら身体が同じでも、やっていいことと悪いことがあるって」
──あ。
そうか……なるほど!!
「なるほどって何。変なこと言ったら、あんたでも許さないからね」
──で、でも、そうしたらこれ、どうしよう?!
同じ身体なのに、違う人を好きになるってアリなのかな?
「知らないって。
てか、誰が誰を好きになるって!?」
──だって今、見えたの。見えちゃったの。
チグサは、……
その瞬間、チグサの視線が鋭敏に何かを捉える──
それ以上声に耳を貸すことなく、チグサは腰を浮かせた。
「ちょっと待ちな。
今、見えた。わざわざ行かなくても、あいつ、自分から来たよ!」
「とりあえず、俺たちはシュンテンに戻れたけどさ。
チグサはどーするんだよ」
「彼女なら大丈夫。多分、僕らよりかもうまくやるんじゃないかな。
今はムウさんを連れてきただけでも、よしとしようよ。もう数時間したら援護に出るし……」
頭上で交わされる、少年二人の会話。
聞き覚えのある声に無理矢理叩き起こされるように、頭を振ってみる。
「う……
俺ともあろう者が、ヘタ打っちまったなぁ」
誰にともなくそう呟きながら、重い瞼を開いた時──
ムウ・ラ・フラガが最初に見たものは、目を刺すほどに白い蛍光灯の光。
そしてそれを遮るように自分を覗き込んでくる、紅の髪の少女だった。
光の陰となり表情はよく見えないが、その灰色の瞳は殆ど感情を伴わずに自分を眺めている。
彼女は南チュウザンの黒い軍服を着用していたが、気のせいか、以前映像で見たものよりも何故かサイズがゆったりめのように思えた。
「よぉ、久しぶりだな。フレイ・アルスター──
いや。メンデルの皇女様、とお呼びするかい?」
まるで旧知の仲であるかのように、彼女に声をかけるフラガ。
それはあながち間違いでもない。フレイ・アルスターとは3年前、アークエンジェルに共に乗艦していたのだし──
「この」フレイとも、面識はある。ネオ・ロアノークとしてだが。
その時、フラガの視界の外から別の声が響いた。
「メンデルの皇女?
それって、一体どういう……?」
それは間違いなく、キラ・ヤマトの声だった。
フラガは慌ててそちらに首を向けようとするが、四肢を厳重に縛り付けている拘束具がそれをさせなかった。
――どうやらアカツキであのビーム多重攻撃を受けて、自分は情けなくも衝撃で昏倒していたらしい。目立った外傷はないようだが、捕虜になってしまったようだ。
素早く気配を探ると、フレイとキラの他にどうやらもう一人、フラガを真っすぐ睨んでいる人物がいた。視線に燃えるような憎悪を感じる。
眼で確認せずとも、フラガには分かった──
それが、自分を倒したデスティニーパイロット、シン・アスカであることに。
フレイはほんの少し、唇に薄い笑みを浮かべる。
「そういえば、そんな話もこの男にしていたな。
まだ覚えていたとは、驚きだが──
確かにキラにしてみれば、気になるだろう。
何、大した話ではない。キラと私の生まれが、たまたま同じだったというだけだ」
彼女はそう呟き、ふとキラとシンを交互に見る。
少々の沈黙の後、シンは彼女の意図を悟ったのか、はっきりと答えた。
「大丈夫だ、フレイ。俺ならもう、キラさんから話は聞いてる。
何故、キラさんが戦いに巻き込まれることになったのか。何故、力を利用されることになったのか。どうしてレイがクローンとして生まれたのかも──
その大元の理由、メンデルにあるんだよな」
「そうか。なら、話は早い」
言いながら、フレイは淡々と語り始める。
「世界最高のコーディネイターを作り出す為に、ユーレン・ヒビキがメンデルで人工子宮の研究を続けていたのは、知っているだろう。
長年の不妊に悩んだ末、苦しんだ分だけ優秀な子供を求める夫婦が何組もヒビキの元を訪れ、金を積んではその研究に賭けた。私の父母もそうだった──
そして私の親は、見事にその賭けに勝った」
「勝った……って?」
戸惑うキラに、シンも続く。
「でも……
スーパーコーディネイターの成功例って、キラさんだけって話だったよな?」
「あくまで、勝ったのは私の両親だ。
ユーレン・ヒビキから見れば、私は失敗作扱いだった。
しかし自分で言うのもおこがましいが、当時のヒビキ博士の理想に限りなく近い実験体だったのは事実だ。
ただ一点、女だったということを除けばな」
「女の子だったから、失敗作……?」
「酷いな、そいつは。男尊女卑の最たるヤツじゃないか……
って、それ以前に倫理観なんてぶっ壊れまくってるけどさ。ヒビキの野郎は」
吐き捨てるシンに、俯くキラ。
「だがその男尊女卑のおかげで、私は親元へ返された。
それ以外にも、イレギュラーは発生していたのだが──
いずれにせよ、キラと私が同じメンデル生まれなのは間違いない」
フラガはその話を聞きながら、ようやく記憶の糸をたぐりよせつつあった──
そうだ。3年前、廃墟となったメンデルを見た時から、俺の中ではずっとあのコロニーが引っかかっていた。
キラ・ヤマトというスーパーコーディネイターを生み出した人工子宮。その資金を生み出す為に、ユーレン・ヒビキはアル・ダ・フラガ──俺の父親に縋った。
自分と全く同じ遺伝子を継ぐ者を欲していた親父は、自分のクローンの作成を条件に人工子宮の資金を捻出した。母親の血が入っているという理由だけで、実の息子たる俺さえ無視して。
そして生まれたのが、ラウ・ル・クルーゼ。
親父と同じ寿命しか持たずに生まれた奴は、それを理由に親父に捨てられ──
自らの家ばかりか、その手で世界中を焼きかけた。
そして3年前、ストライクでアークエンジェルを陽電子砲から庇った直後に──
爆散して死んだはずの俺は、何の因果か、このフレイ・アルスターの元にいた。
記憶は全て抜け落ちていたが、何故かこの女には感じるものがあった。メンデルに関わる何かを。
それは俺の、親父からの呪われた贈り物たる「空間認識能力」とやらのせいか。
戸惑う俺に、彼女は自ら告げたんだ──自分は、メンデル出身の人間だと。
その後そんな記憶すらも消され、気が付いたら俺は連合に──ロード・ジブリールの元へ売りつけられた。
それでも無意識のうちにメンデルが気になり、この女が気になり、「メンデルの皇女」とまで名付けていたのは──
クルーゼ。やはり、お前が結んだ呪いの縁か。
灰色の瞳をじっとムウに注ぎながら、フレイはぽつりと呟く。
「この男の空間認識能力は、SEEDと同じく貴重なものだ。
セレブレイトウェイヴを生むに至った、アマミキョのハーモニクスシステム。その基礎理論の元となったのが、この男の──フラガ家の遺伝子だからな」
そんな彼女に、フラガは皮肉めいた笑いを作った。内心の焦りに気づかれぬように。
「それで? 俺を捕らえて、どうするつもりだい?
まさか坊主どもと同じように、俺にも南チュウザン軍として、アークエンジェルと戦えと?」
「誰もそうは言っていない。
ただ──お前に、会わせたい人間がいる」