【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part9 ミリィの想いとディアッカの激励

 

 

「で? 

 手に入ったのかよ。やりたいことをやれるだけの、力ってのは」

 

 何とかミントンに帰還を果たしたアークエンジェル。

 その食堂でミリアリアは、久しぶりにディアッカ・エルスマンと顔を合わせていた。

 正確には彼女が一人で食事をしていたところに、無理矢理ディアッカが真正面にどっかと座ってきただけなのだが。

 互いに事務的な状況報告をした後に、彼の口から飛び出した言葉。

 それに対してミリアリアが出した答えは、自分でも意外に素直な気持ちだった。

 

「……分からない。

 アークエンジェルに再搭乗した時は、もう一度力を手にしたと思ってた。

 でも、キラがいなくなって分かったの。借り物の力を利用しようとするなら、そのつけを覚悟しないといけないって」

 

 そんな彼女を見つめながら、ディアッカは多少気まずげに切り出した。

 

「最後に会った時、ミリィ……あ、いや、ミリアリアは言ってたよな」

「……別にいいわよ。もう、ミリィって呼んでも。

 いちいち言い直してたら、通信にも支障が出るでしょ」

「そ、そっか」ひとつ咳払いをしながら、ディアッカは呟く。

「ナチュラルの、それも女ってなったら、どうしたって物理的な力は劣る。

 しかも男のコーディネイターには、どんな分野だって勝てない……って」

「そうね」

「だけどさ。

 そもそも、勝つ必要がどこにある? 

 俺はミリィに対して、何かで勝って嬉しいとか、負けて悔しいとか思ったことはないぜ。

 そりゃ、料理は俺の方が手際も味も上かもしれないが、ミリィだって、その……

 ほら、独創性って点では断然上だし」

 

 一瞬、ナイフのような視線でディアッカを見上げるミリアリア。

 

「それ、私の料理センスが壊滅的って言いたい?」

「あ。

 いや、その、違……」

 

 まさに蛇に睨まれた蛙の如く、慌てふためくディアッカ。そんな彼を眺めながら、彼女はひとつため息をついた。

 

「……やっぱり分かってない」

「ん?」

「確かに、ディアッカとお付き合いするって言った時──

 周りからも親からも、散々言われた。コーディネイターってだけならともかく、ザフトの兵士と付き合うなんてうまくいくわけないって。

 それだけ、プラントで叩きこまれるナチュラル蔑視の思想教育は酷いものなんだって。

 一緒になるぐらいなら縁を切るって、言われたことまであるわよ」

「……キッツイなぁ」

「でも、貴方と離れる決意をした理由は、そこじゃない。

 ……本当はね。何もかもが劣っている自分を自覚するのが、嫌だったから」

 

 殆ど手をつけられていないオートミールを眺めながら、ミリアリアは訥々と話す。

 

「ディアッカと少し一緒に過ごしてみて、分かったの。

 自分の中に、酷い劣等感があるってことが。

 体力や腕力、反射神経は勿論、頭の回転だって貴方には叶わない。

 貴方が知らなくて私が得意なものがあったって、貴方が手を出しさえすればすぐに追い越されてしまう」

「あのさ、ミリィ。料理のこと言ってるならあれ、俺だって元々得意だし。

 ていうかお前まさか、あの料理を自分の得意分野だとか……」

「は?」

「い、いや、何でもない!!」

 

 口を滑らせたディアッカに、少しだけ頬を膨らませながらも──

 ミリアリアは思わず苦笑を浮かべた。

 

「そりゃ、コーディネイターだって最初の調整によって色々違うのは知ってるわよ。

 病気にかからず健康体でいられる以外は、ナチュラルと殆ど変わらないコーディネイターもいることぐらいは知ってる。それに、どれほど優秀なコーディネイターだって、ナチュラルで生まれた天才には叶わないってことも。

 だけど──

 貴方は結構何をしても優秀だし、私は天才でも何でもない。

 それが、単純に悔しかった。

 もっと勉強して、色々知って、力をつけたい。そう思った」

「──それで、フリーカメラマンか。

 分かるような、分からんような……」

 

 ミリアリアはそこでフォークを静かに置き、テーブルの上で何となしに両手を組み合わせる。

 

「それにね。

 私にもっと力があれば──

 トールを助けられたかもしれない。ずっと、そう思ってた」

「……そうか。

 やっぱり、まだ……」

「忘れられるわけない。ふとした時に、頭に浮かんでしまう。

 さすがに一緒に支援に出るのは無理でも、もっときちんとオペレートが出来ていたんじゃないか。

 それ以前に、彼を戦闘に出さないようには出来なかったのか。

 もっと機転が利いていれば、もっと知恵があれば、力があれば──

 そもそもあの時は、私たちみんないけなかったのよ。戦争がどんなものかも知らないで、力もない癖にみんな調子に乗って、キラばかりを頼って戦いに行って──

 トールだけじゃないわ。フレイだって助けられたかも知れないし、キラもサイもあんなに酷いことにならずにすんだかも知れないのに!」

 

 落ち着いて話していたはずが、いつの間にか感情が荒ぶっていくミリアリア。

 その両手は次第に強く握りしめられていく。まるで、組み合わさった手指を折らんばかりに。

 だがその両手に、ひと回り大きな褐色の手が、そっと乗せられた。強引に掴むのではなく、あくまで優しく。

 

「……え?」

 

 思わずミリアリアは顔を上げる。

 目の前にあったのは、真っすぐに自分を見つめてくる、薄紫の瞳。

 

「じゃあ……

 今度こそ、何とかしようぜ」

 

 ミリアリアの手に触れたまま、ディアッカは力強く宣言する。

 

「昔のことをタラレバ言ったって、今更始まらないが──

 これからなら、まだ何とかなる。

 俺の力ぐらいなら、いくらでも貸してやる。

 キラほどは頼りにならんかも知れないが──

 その力で今度こそ、キラと、ラクス・クラインを、みんなを助けるんだ」

 

 いつになく強い意志を秘めた、金の眉。

 それを間近に見つめながら、ミリアリアは思わず笑ってしまう。

 

「……相変わらず、馬鹿ね。

 でも……ありがとう」

 

 その唇から漏れた礼には、どこか涙声が混じっていた。

 

 

 

 

 

 

「こんなことやってる場合じゃ、ないんだがなぁ……」

 

 運河沿いのベンチに腰かけながら、サイはチグサと並んでソフトクリームを舐めていた。

 時間はそろそろ夕刻を過ぎる。あと30分もしたらミントンを満たしている陽の光は消え、夜の時間帯になるはずだ。

 

「気にすんなって。あのガキならまだ大丈夫だからさ」

「どうして分かる?」

「もう知ってるでしょ、アタシとマユが一心同体ってことぐらい。

 マユがティーダとあいつを感じられるから、必然的にアタシも感じるってわけ。

 ……出来れば、感じたくなんかないけどね」

 

 最後の一言だけ吐き捨てるように言うと、チグサは美味しそうに、黄金色と薄紫、半分ずつに彩られたソフトクリームを舐めていく。

 その姿は普通の女子中学生と、何も変わらない。彼女が世界中を飛び回り、手当たり次第に爆撃を仕掛けたストライクフリーダム・ルージュのパイロットだなんて──

 生身の自分とルナマリアを、ルージュで殴り飛ばした張本人だなんて。

 

 サイはソフトクリームを持った自分の右手を見る。

 チグサに傷つけられた手は、彼女自身が手早く応急処置し、厳重にハンカチが巻き付けられていた。しかもサイに代金を出させただけで彼女は一人でソフトクリームを買いに行ったので、店員に手の傷を訝しがられることもなかった。

 勿論、血も痛みもとっくに止まっている。

 

「あー、超うまい!! 

 やっぱ、運動した後のスイーツはサイコーだね!!」

 

 ソフトクリームを頬張りながら、両脚をベンチの端からぶらぶら揺らすチグサ。

 そんな彼女に、サイはふと尋ねた。

 

「……俺には分からない。

 どうして君みたいな子が、セレブレイト・ウェイヴなんかに関わっているのか。

 あの湖で、君は言ったよな──戦いたいなら戦いたいヤツだけ戦えばいい。

 変わりたいなら変わりたいヤツだけ勝手に変われ、って」

「よく覚えてるねぇ。根に持つタイプ?」

「あれだけ強烈に言われたら、そりゃ覚える。

 あれは、君の本心なのか?」

「そりゃそうだよ。

 いくら戦う為に生み出されたからって、命すり減らさずにすむならそっちの方がいいに決まってるじゃん。

 戦争行くかスイーツかどっちか選べって言われたら、誰だってスイーツ選ぶでしょ。血を見たくてしょーがないなんて奴以外は。

 戦いなんて、そーいうサイコパスに任せておけばいいんだよ」

「冗談じゃない。

 戦争をそんな連中にばかり任せてたら、3年前が比較にならない滅茶苦茶な戦いになってしまう」

「だったら最初から、戦争なんてやめりゃいいんだ。

 その為の、セレブレイトウェイヴだろ?」

「だから君は、フレイに協力しているのか」

「成り行き上、だけどねー」

 

 溶けかけたアイスを何となしに見つめながら、サイはさらに尋ねた。

 

「だけど、フレイは本当に──

 そう思っているのか? 本当にセレブレイト・ウェイヴが、世界の変革になるって?」

「え?」

「人間の、というか、生物の本能は闘争だよ。

 闘争本能をなくしてしまったら、それはもう人間どころか、生物ですらない。

 彼女だって、分かっていると思うんだ」

「だから、セレブレイトウェイヴは駄目だって? 

 もう生物じゃないアンタが、それ言うんだ」

 

 そんなチグサの皮肉はとりあえず無視して、サイは呟く。

 

「本当にフレイが、そんな世界を望んでいるのか。

 俺にはとても、そうは思えない。何か別の目的で動いている気がしてならない」

「直接聞いてみたら? アタシにはよく分からない」

「だから今、聞きに行こうとして君らに止められてるんだが?」

「なら最初から、オギヤカから逃げ出さなきゃ良かったじゃん」

「あの時脱出してなけりゃ、アマミキョもチュウザンもどうなったか分からなかった」

「んなもん言い訳だよ。結局、アマミキョは撃たれなかったんだし」

「そりゃ結果論であって──」

 

 いきり立つサイに、チグサはつんと鼻を逸らす。

 

「弁解すんな。あんたが逃げ出さなきゃ、アタシがこんな風にあんたをわざわざ捕まえに来る面倒もなかったんだ」

「君が俺を捕まえに……か。

 因果なモンだな。あれだけぶん殴った俺なんかを」

「あんたはアマミキョの要。今アマミキョに色々動かれちゃ、こっちも困るから──

 こうして、アタシが来たの。あんたを回収して、アマミキョを止める為にね」

 

 サイは一瞬目を丸くしたものの──

 すぐに観念したように、乾いた笑いを浮かべた。

 

「俺の身体のことなら、君も知ってるんだろう。

 一定以上アマミキョと離れたら、俺はどうなるか分からないんだ」

「知ってるよ。気絶して、死体と変わらない状態になるんだってね。

 だけど大丈夫。出来るだけ早くアマミキョか、それに類するハーモニクスシステムに繋げば回復可能だから」

 

 モバイルの電池が切れたら、バッテリーを充電すればいい。まるでそれと同じことのように、チグサは言い放つ。

 

「アマミキョに類する、ハーモニクスシステム……?」

「そ。その一つが、シネリキョでもある。

 アマミキョによる実験を経て、南チュウザンじゃその研究開発が急速に進んでるんだ。あんた一人くらい、どうにでもなる」

 

 既に半分近くが溶けているソフトクリームに手をつけぬまま、サイは肩を落とす。

 

「なんだ、それ。

 本当に、生体パーツだな……化け物だ」

 

 吐き捨てるように呟いたサイ。

 その横顔を、チグサは一旦食べるのをやめ、じっと見つめていた。

 やがてそっと長い睫毛を伏せると、囁くように言う。

 

「あんたのことはさ、キラやフレイやトールから色々聞いた。3年前のこともね。

 最初聞いた時は、キラに酷いこと言った奴らに腹が立ったけど──

 一番ヤな奴だなって思ったのは、あんただったんだ。

 キラを正面から責めたてる奴らの陰に隠れて、自分はいい人のふりをして、キラを盾にして戦わせてばかり。

 今でもあんた一応、アタシ相手でさえ結構優しいよね。心の底でナニ考えてるか知らないけど。

 そういうあんたに縋られたら、キラだって戦わないわけにはいかなくなって……

 そんなあんたが、今でもキラに説教しようとしてる。頭に来てさ」

「そうだよな。

 君の言う通り、俺は偽善者だ。だから殴ったんだろ? 俺を」

 

 当たり前のようにこくりと頷くチグサ。

 

「あの時の気持ちは、今でも変わってないよ。

 だけど──ひとつだけ、教えときたいんだ」

 

 ふと顔を上げ、サイをじっと見つめる黒い瞳。

 

「アタシにも、よく分からないんだよ。フレイやキラたちの考えてること。

 お前は御方様を信じていればいい。ずっと、そう教えられてきたけど──」

「御方様って、ラクス・クラインの母親のことかい?」

「うん。

 御方様は、アタシらの絶対。タロミがいた時だって、実質御方様がずっと色々仕切ってたようなもんだった。

 だけど、フレイの考えは……御方様とは何となく、違う気がしてる。

 ラクス・クラインを助けに行った時、思ったんだ。

 フレイの望んだのは、こんなことじゃないって……」

 

 ラクスを助けに行った時──

 つまり、ダウゴンでのラクスを目撃した時か。

 確かミリアリアは言っていたな。ラクスを見失ってから発見するまで、チグサは酷く混乱していたって。

 

 それを思い出すのさえも苦痛なのか、チグサの眉間に、幼さに似合わぬ深い皺が刻まれた。

 

「だけど、どう違うのか、違うならどうするつもりなのか、そこが分からない。何かやろうとしてるのは、確かなんだけどね。

 キラやシン兄は知ってるっぽいけど、教えてくれないんだ。だけど遅かれ早かれ、御方様は気づいてしまう。アタシが勘づくくらいなんだから。

 だからさ。フレイを想うなら、早くしな。でなきゃ、何が起こるか分からないよ」

「勿論、そのつもりだ。だけど──」

「要は、今すぐアタシに捕まるのが手っ取り早いってこと!」

 

 最後は悪戯っぽい調子に戻りながら、チグサはサイの手元のソフトクリームを見る。

 とっくにチグサはコーンの部分まで平らげていたが、サイのそれは二、三口分ぐらいしか減っておらず、溶けるままだ。

 

「てか、何してんの。せっかく買ってきたのに、溶けちゃってんじゃん!」

「君が強引に俺に金を出させたんだろ? いらないって言ったのに二人分も」

「しょうがないな、代わりに食べて……」

 

 サイの反論も聞かず、チグサは強引にその手からソフトクリームを取り上げる。

 だが、その瞬間──

 

「──っつぅ……痛っ!!?」

「!? おい、大丈夫か?」

 

 突然、両手を額に当てて小さく悲鳴を上げるチグサ。

 彼女が手にしたソフトクリームも、力なく地面に落下する。

 慌てて身体を支えようとしたサイにも気づかず、チグサは呻きながら、押さえた指の間から運河の流れる先を睨んだ。

 

「まずい……

 あのガキまさか、河に飛び込む気か!?」

「あのガキって……ナオトか!?」

 

 サイはすぐにチグサの視線の先を追う。

 既に夕刻から夜の時間帯へと変わろうとしているコロニーの空。サイたちがいる橋からは200メートルほど離れた場所に、同じような橋が運河に渡されている。

 その橋のたもとに、小さな人影が見えた。夕陽の反射ですぐには見えないが、よくよく目をこらせば確かに──

 パステルブルーのパーカーを着ている。

 全く気付かなかった。あそこにいたのか、ナオトは! 

 ずっと石のように静かで、景色の一部にしか見えなかったはずのその人影は、突然何かを思いついたかのように動き出し、橋の手摺に足をかけていた。

 片足がやがて手摺を越え、次いでもう片方の足も越える。この時点でサイはもう、何も考えずに走り出していた。

 

「ナオト!!」

 

 一気に橋を渡り運河脇の道路を駆けながら声を限りに呼ぶが、人影は行動を止めようとはしない。もうその身体はほぼ手摺を越え、小さく丸まりながら上半身を乗り出し手摺を掴んでいる。

 その両手が離れれば、身体は一息に運河に叩きつけられてしまうだろう。橋から水面への距離はそこまでではないが、水深がどれほどあるかはサイも知らない。

 

「ナオト! 

 やめろ、それだけはやめるんだ!!」

 

 サイのその叫びがようやく届いたのか──

 小さな人影は、手摺にしがみついたままぴくりと身体を震わせる。

 だがその瞬間、脳裏にまた、直接声が響いた。

 

 

 ──サイさんを、忘れてしまうぐらいなら。

 

 

 思い詰めた少年の思考。

 それを感じると同時に、人影は、ずっとしがみついていた手摺からふっと両手を放す。

 夕闇の中、身体全体がゆらりと橋から離れて宙に浮き──

 水面へ吸い込まれていく、パステルブルー。飛び散る水飛沫。

 その時にはもう、サイも道路脇の転落防止用柵から身を乗り出していた。

 すぐ下の水面を見た時は、微かに足が震えるのを感じた。思ったより結構な高さがある。

 だが──

 

 どうせ、簡単には死ねない身体になったんだ。

 それなら──! 

 

 自暴自棄ともいえるそんな想いと共に、サイは思いきり柵を後ろへ蹴り飛ばした。

 背後でチグサの叫びが聞こえたが、その時にはもう、身体は水面に向かって落下していた。

 飛沫を上げて落ちたきり、浮かんでこない少年を追って。

 

 

 

 ~~~~~~

 

 

 次回予告

 

 

 傷つけあい、一度は分かりあい、しかし道を違えた友

 その傷は未だ癒えることなく、互いの痛みとなる

 コロニーの片隅で対峙を果たす二人、その決断が齎すものは

 苦悩する少年の叫びは、誰に届くのか

 

 次回、機動戦士ガンダムSEED Revelation

「断罪」

 

 過去からの慟哭、受け止めろ。フリーダム! 

 

 

 

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