【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
数分後。
アマミキョ・カタパルトデッキでは、またしてもひと騒動が発生していた。
治療もそこそこに、医療ブロックから無理やり連れてこられたナオトが、ティーダの前に引きずり出されている。
強引に連れてきたのはカイキであったが、勿論その後ろからサイも追いかけていた。
そして、ティーダの前ではフレイ・アルスターが整備士に指示を出しながら、ナオトを待っていた。
「だから!
偶然最初に触った人間しか動かせないなんて、モビルスーツとしてどうなんだって
――ぐっ!?」
サイはナオトの代わりにフレイに怒鳴ったが、途端にカイキに殴られた。
さっき医療ブロックでも避難民に何度か殴られていたが、カイキの一撃はそんなものと比較にならない。
ちなみにカイキはナオトをここまで連れてくる間に、若干抵抗したナオトを2発殴っていた。顔と腹を1発ずつ。
ティーダに取りついている整備士二人と顔を見合わせつつ、フレイが言う。
「またお前か――
試験機体だったと、何度言えば理解するのだ?
さっさとパイロットスーツを持って来い、でなければまた子鼠を背広で乗せることになる」
フレイに整備士の一人が近づき、注意深くバイザーを上げて小声で囁く。
赤茶けた前髪が印象的で、まだあどけなさの残る顔立ちの青年だ。
「やっぱ駄目だ、フレイ。
解除にはどうやっても40時間以上かかるって――ニコルが」
もう一人の整備士の方は、バイザーを上げないままフレイに叫ぶ。
「ティーダを今すぐ使いたいなら、ハードから交換するっきゃねぇ!」
「交換パーツは?」フレイがカイキに尋ねたが、彼はぶっきらぼうに呟くだけだった。
「ぶっ壊されちまったよ。襲撃で」
そしてカイキは強引にナオトの髪の毛をつかみ、ひきずり上げる。
「マユが動けない以上、こいつが動かすしかねぇんだ、ティーダは!」
なされるがままのナオト――
そんな彼を冷静に見つめたまま、フレイは言い放った。
「今すぐ着替え、コックピットでマニュアルを確認しろ。
貴様を出すような事態だけは避けるが、戦況によっては分からん。何しろ相手は不可視戦艦だ」
それだけ言うと、フレイはすぐ奥のアフロディーテの方へ身体を流していった。
赤茶髪の整備士がついていく。
「アフロの首回りはどうだ?」
「いつものことだけど、無茶して使いすぎだよフレイは。
ダガーLとIWSPとの相性は、社長が言うほど悪くないけどね」
「モビルスーツは人型だが人間ではない。関節が人間のそれと同様に動くわけではない。
その理論を最大限に活用するのがパイロットの務めだ」
そのまま重力に乗って飛び去ろうとするフレイ――
だがサイは勿論、黙っていられない。
「ちょっと待てよ!」
ナオトを庇いつつ、サイはなおもフレイにくってかかった。
離れようとする恋人を、女々しくどうにか引き留めようとする男だ、これじゃ──
そんな情けない思いを抱きながらも。
「情報漏洩防止措置にしては無茶すぎる。
こんなのあるかよ、ナオトとマユ以外受けつけない兵器なんて!」
だがフレイの反応は相変わらずだ。眉一つ動かさない。
「これは心外だな――」カタパルト全体に響くが如き強い声。
「ヘリオポリスのモビルスーツ強奪現場に居合わせた者から、そのような戯言を聞くとは!」
ちょうどその時、カタパルトに既に着船していたザクウォーリアのハッチが開き、ディアッカ・エルスマンが顔を出した。
彼は少し離れた場所に、ストライク・アフロディーテを発見する。そしてその足元を見て
――仰天させられた。
そこにどういうわけか、サイ・アーガイルがいたから。
元々敵同士でありながら、何の因果かアークエンジェルで共に戦った仲間──
ミリアリアの顔が頭の隅をよぎったが、次の瞬間のフレイの言葉に彼は身体を硬直させた。
無理もない、かつての自分のことを言われたのだから。
──ヘリオポリスの、モビルスーツ強奪。それをやったのは、他ならぬ自分たちだ。
それにより図らずもミリアリアやサイ、そしてフレイの運命をも変えてしまったのも。
「何であいつら、ここにいんだよ?」
イザークのザクファントムとシホのゲイツRが奥に固定されているのを確認し、ディアッカはほっと胸をなでおろす。機体の損傷は酷くはない。
サイに声をかけようと考えたが、あまりの張りつめた雰囲気に、ディアッカは喉まで出かかった声を抑えた。
「俺もちょっとは空気読むこと、覚えなきゃあ……さすがにね」
そんなディアッカをちらっと見やった赤毛の整備士が、急いでバイザーを下げたことには誰も気づかなかった。
作業員たちがサイの姿を、ある者は好奇心をもって、ある者は嫌悪感をこめて見つめる。
オーブの伝説的存在・アークエンジェルにサイが乗っていたことは、ほぼ全てのアマミキョ乗員に知れ渡っている。
それだけに──
サイの行動は、必要以上に注目の的になっていた。
しかしサイは自分に注がれる視線を意識しながらも、フレイに反論せずにはいられない。
「最初に乗った人間が強奪犯だったらどうする気だった?」
「ロールアウト直後にマユが乗り込み、一人目の登録はすませてあった」
フレイは無感情に答えるだけだ。
カイキがナオトを突き放しながら、付け加える。
「つまり、マユがいなきゃティーダは動かねぇってこった。
もっとも、黙示録を作動させないという条件下なら、今のこいつだけでも操縦はできる」
そう言いながらナオトを見下げるカイキの目に、憐憫は全くない。
「あぁ、そう……
要するに、マユ・アスカが認めた者でなければ乗れないから、セキュリティはそれで問題なかったということだね」
サイが冷静さを保つよう懸命に努力しつつ、呟いた一言。
だがその言葉に、カイキは一瞬顔をそむけた。
今の言葉の、何かが気に障ったのか。そのままカイキは何も言わず、自機であるソードカラミティの方へと身体を流していく。
ソードカラミティは破損したパンツァーアイゼンのワイヤー付け替え作業中だったが、カイキはその整備士たちに声をかけた。
「今の作業を、中断してもらうかも知れん。
次は砲撃戦装備で出る可能性が高い……それより左腕の修理を最優先だ」
サイはそんな彼の背中を眺めながら、殴られた頬を押さえつつフレイに言った。
「分かったよ。
君たちアマクサ組は、アマミキョを絶対的に護る──
君の言葉と力は、さっき証明されたばかりだ。俺は信じる」
サイが言い切った時、奥に待機していたザクウォーリアから声が響いた。
「俺も出るよ。
安心しな、お嬢さん方」
――ディアッカ・エルスマンだ。
ザクウォーリアが着船していたのは知っていたが、フレイやナオトに気を取られたサイは、彼への礼を忘れていた。
思わず駆け寄ろうとしたサイだったが、ディアッカは目くばせとジェスチャーだけで彼を下がらせる。
「ところでさ。
先に着いたはずの、ジュール隊長らの安否確認をしたいんだが」
サイはディアッカの心遣いを思い、心底頭を下げたくなった。
いくら助けてくれたとはいえ、ザフト兵と懇意にしている場面を大勢の人間に目撃されては、サイを取り巻く状況がどうなるか分かったものではない
――特に今は。
「二人とも無事だ、ただ女性兵士が負傷している。
医療ブロックに収容ずみだ」
「了解。サンキュー!」
サイの言葉に、ディアッカは礼を言いつつハッチの内側に姿を消した。
フレイはその様子を注視していたが、やがてアフロディーテの方へ戻っていく。
その時──
「僕……
乗ります!」
ナオトの声が、サイの背中を打った。
「運が良ければ、マニュアル読みながら座ってればすむんでしょ。
パイロットスーツ、取ってきます」
サイは慌てて呼び止めようとしたが、ナオトはもう走り出していた。
「僕、何となく分かります。
あの機体で、もっと出来ることがあるような気がするって!」
時は、コズミック・イラ73年、4月。
ユニウスセブン落下の日まで、残り半年のことであった。
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次回予告
発進するアマミキョに襲いかかる、不可視戦艦。
宙域に響くかつての死者たちの声は、今を生きようともがく者たちを惑わす。
様々な思惑が交錯する中、フレイのとった思わぬ行為は、ファントムペインの少女を窮地に追いつめる。
憤怒に燃えた少年は、遂に──
次回、機動戦士ガンダムSEED Revelation 「ドジっ子、出撃」
暗黒の宙域、貫け、カラミティ!