【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part2 自由と運命、来襲

 

 

 騒ぎを聞きつけてか、橋の周辺に人だかりが出来始めている。

 ふと顔を上げて初めてそれに気づいたサイだったが──

 先ほどまでそばにいたはずのチグサの姿は、何故か掻き消えていた。

 代わりとばかりに聞こえてきたものは、ルナマリアとヴィーノの声。

 

「サイ、ナオト! やっと見つけた、ここにいたのね!!」

「ナオト! みんな心配してるぞ、馬鹿なこと考えてないで早く上がってこい!!」

 

 興味本位で集まってきた群衆をかき分けながら、二人は橋の上から身を乗り出してサイたちに呼びかけている。ルナマリアはさらに、ざわめく人々を厳しい口調で制してもいた。

 

「ちょっと貴方たち、帰りなさい! 見世物じゃないのよ!」

 

 ザフト赤服たる彼女の叱咤が効いたのか、住民たちは物珍しげに水面の少年たちをじろじろ眺めながらも、帰途についていく。

 そんな光景を見上げながら、サイもナオトの頭を軽く撫でた。

 

「帰ろう、ナオト。

 このままじゃ風邪ひくぞ。気温調節されてるとはいえ、コロニーの夜だってそこそこ寒くなるんだから」

 

 じっと水面を見つめたままうなだれながらも、その言葉にこくりと頷くナオト。

 

「……やっぱり、優しいよ。サイさんは」

 だから、忘れたくない」

「俺は優しくなんかないよ。優しいふりして、誰かを追いつめてばかりの人間だ。

 考えてみりゃ、俺はお前に助けられてばかりだった──

 無茶をさせてばかりでこんなことになったのに、それでもナオトは俺を想ってくれる。

 ありがとな」

 

 ナオトにそう励ましの言葉をかけながら、サイはゆっくりと腰を屈めて水底に沈んだ眼鏡を拾い上げる。

 眼鏡をかけ直してふと水面を見ると、揺れる水に自分が映っていた。

 濡れているせいかも知れないが、やたらと前髪が伸びているように見える。濡れたままでは眼鏡を覆い隠してしまうレベルに。

 ちょっと手入れをさぼっているうちに、随分髪の毛も伸びてしまった。そんなことを考えながら、サイは何となく前髪を引っ張ってみた

 ――その時。

 

 

 ──待てよ。

 髪の毛。糸。神経──感覚を繋ぐもの。

 ハーモニクスシステム。ティーダとの繋がり。

 俺がその要というならば──俺がアマミキョと一体化したというならば。

 アマミキョがティーダと深くリンクしているのならば、もしかしたら。

 

 

 髪から落ちる雫が、ゆっくり流れる水面に波紋を描く。

 それはナオトの身体から流れ落ちる水も同様で、二人の身体から滴る雫は次々に波紋を生み、大きな流れの中でも確かに重なっていく。

 

 

 瞬間、脳裏に遠雷のように降りてきたものは──

 閃きというにはややぼんやりしていたものの、それは確かに一つの思考だった。

 

 

 ――ひょっとすると、俺が偶然手にしたこの力で、ナオトを助けられるかも知れない。

 アマミキョのブリッジに居ながらでも、ティーダを操りナオトを支えられるかも知れない。

 ナオトだけでは黙示録が起動できないあの問題も、この方法なら何とかなるかも知れない。

 勿論、酷い危険は伴うだろう。こうなる前の俺では到底無理な話だったろう。

 だが、並大抵のことでは死なない身体になった俺なら──!

 

 

 しかし、サイがその考えをまとめかけたその時。

 突如、コロニーの空に警報が響き渡った。

 

「え!?」

「まさか──また、キラたちが!?」

 

 ナオトもサイも、ほぼ同時に夕焼け空を振り仰ぐ。

 昏くなりかかった天空に舞い上がる、数機のモビルスーツ。恐らく迎撃に向かったのであろう、中には山神隊のウィンダムも見える。

 

「サイさん……?」

「行くぞ、ナオト。こうしてる場合じゃない」

 

 ナオトの手首を掴み、サイは強引に橋脚まで大股で歩き出した。

 橋脚にはちょうど、上まで昇る為のステップがついている。サイに引きずられるようになりながらも、ナオトも水をかきわけてよろよろ歩き出す。

 橋の上では、突然の事態に仰天した住民たちが蜘蛛の子を散らすようにその場から逃げ出していた。倒れてしまった老人を助け起こしながら、人々に避難場所を指し示すルナマリアが見える。

 

「畜生。

 コロニー内で戦闘する気か……キラは」

 

 橋脚にたどり着いたサイは、先にナオトをステップに押し上げるようにして上空を確認した。

 そんなサイに問いかけるナオト。

 

「キラさんが……

 やっぱり、来ているんですよね。多分近くに、マユもいる」

「彼女なら、さっきまで俺と一緒にいたよ」

「えっ!?」

「俺とお前を捕まえに来た、とか言ってた。

 恐らく近くにルージュが潜んでいる、気をつけろ」

「……そうじゃないかと思ってたけど。

 やっぱりあの『チグサ』は、僕を拒絶してるんだ。

 マユの気配が薄いような気がしたけど、チグサが消してるのか」

 

 ナオトは言いながら、またしても俯いてしまう。

 

「……そんなに僕が嫌いなのか。マユは」

「マユじゃない。チグサだ、お前を拒絶しているのは」

「チグサは言ってたんです。

 僕のこと、ずっと嫌いだったって。

 気持ち悪くてたまらなかったって──もしかしたら、マユも……」

 

 ナオトの呟きに、サイもそこで思わず立ち止まってしまう。

 

「最初にチグサに会った時、本当に酷いことをたくさん言われた。

 ショックで何を言われたか殆ど覚えてないけど、酷いことを言われたのは確かです。

 彼女が、僕を嫌ってるのも」

 

 そういえばさっきチグサと話していた時、ナオトの話題になると彼女は酷く面倒げな表情をしていた。

 恐らくその性格からして、ナオトのような子供が大嫌いなのは本当だろう。

 しかしだからといって、彼女の中に潜むマユまでが彼を嫌いになるとは思えない。

 

「何言ってんだ……

 そこでウジウジしてたら、それこそマユもお前を嫌いになるぞ」

「だけど」

「だけども何もない。

 お前はマユを感じたから、もう一度ティーダZに乗った。それが俺を、俺たちを助けた。

 どんなにチグサに拒絶されても、それでもお前はマユを感じ続けてる。

 思い出せ。マユの微かな声を頼りに、お前はここまで来たんだ」

 

 それは、サイが自身に向けた言葉だったかも知れない。

 どれほどあのフレイに裏切られても、俺はまだ彼女をどこかで信じたい。だから──

 

「それとも、信じられずにここで止まるのか? 

 嫌われたってベソかいて引っ返して、別の彼女でも見つけてオーブに隠居するか? 

 俺はそんなのはもう嫌だ。だから信じる」

 

 そう言いながら、サイは右腕で思いきりナオトの腰を押し上げる。

 やはり右腕の力が異様に発達してきているのか、その身体は思いのほか軽かった。

 もう少しで、ナオトを助けられる。そうしたらすぐに一緒にアマミキョまで突っ走る。

 濡れた服を乾かしたり着替えたりする時間はないが、緊急事態だ。ブリッジの皆も少しは大目に見て──

 

 

 だがサイの思考は突如、そこで中断された。

 二人の間に割り込むように、水底を割って飛び出してきた鋼鉄の腕によって。

 その装甲はコロニーの空を映し、元の紅がさらに朱に染まって見えた。

 

 

「──ルージュ!? 

 チグサ、君は……っ!!」

 

 

 その紅の腕がナオトとサイの間を遮断するのと、サイがもう一度川へと投げ出されたのは、ほぼ同時だった。

 

 

「サイさんっ!!」

 

 

 空に響いたものは、ナオトの悲鳴。

 それを認識するかしないかのうちに、サイは割れかけた川底に思いきりこめかみを打ちつける。

 瞼の裏に激しく火花が散り、意識は飛んだ。

 

 

 

 

 

 

「──悪いね、サイ」

 

 ミントンの運河の底を叩き壊して現れたその鋼鉄は、ストライクフリーダム・ルージュ。

 そのコクピットでごうごうと荒れ行く運河を眺めながら、グレーの制服姿の少女は静かに呟いた。

 

「ソフトクリーム、もうちょっと食べてほしかったよ。

 でも……もう、遊びの時間は終わりだ」

 

 思わず漏らしたその声に若干の寂しさが含まれていたことに、チグサは自分でも驚いた。しかし、今はそれに拘泥している時ではない。

 外壁との接続口となっている銀色のビル。そこには今の今まで、チグサの手でルージュが隠されていた。そして今、彼女の手で接続口は半分開放されていた。

 ビル屋上の床が落ちるように内側へと開き、何重にもロックされていたはずの接続口が露わになる。これにより一瞬だけコロニー内部の気圧が大きく落ち、瓦礫を含んだ突風がビルの上空から接続口へと吹き付けたものの──

 すぐに何者かの手で、その風は幾分弱まった。恐らく内側から閉ざされたのだろう──

 その数秒後に接続口から飛び出してきたものは、煌めく翼を持つモビルスーツが二機。

 まるで双子のように同じ形状の、大きく広がる紅と蒼の翼。頭部意匠もほぼ同じ。

 

 ――自由(ストライクフリーダム)と、運命(デスティニー)

 

「ハハ。こうして見ると、ホントそっくり。

 お互い、敵同士だったはずなのにね」

 

 そう笑いながらチグサは、ルージュの右拳に握りしめられたものを確認する。

 そこではパステルブルーのパーカーを着た少年が、ずぶ濡れのままじっとこちらを睨んでいる。

 恐らくルージュのカメラアイを睨んでいるのだろうが、チグサにはそれが自分を睨んでいるように思えて、酷く不快だった。

 その大きな瞳を見た途端思わず怒りに任せて握りつぶしてやろうかとも思ったが、すんでのところで感情を制する。

 

 ──いけないいけない。また、マユに暴れられても困るしね。

 

 

 

 

 

 

 不幸中の幸いか。サイが気絶していたのは、ほんの数秒にすぎなかったらしい。

 しかも底が半分抜けた川に落とされたにも関わらず、流れに飲まれることもなかった。気が付いた時には下半身を水流に晒したまま、大きく破壊された岸壁に横たわっていた。

 耳の奥がキィンと鳴る感覚に、サイは無理矢理に頭を上げる。コロニーのどこかに穴でも開いたか──

 右のこめかみから何かが流れていく。水にしては妙に生温いその液体に思わず右手を触れてみると、その瞬間掌のほぼ全てが真っ赤に染まった。チグサに巻かれたハンカチまでが汚れていく。

 身体を見回すと、サックスブルーのワイシャツはその右半分がネクタイと同じ紅に変貌していた。どこで引っ掛けたのか、左袖も大きく裂けて二の腕が露出している。

 だがサイは、どういうわけか酷く冷静に状況を分析することが出来た。

 ――この程度では死ねない身体だと、諦めにも似た認識が出来てしまったせいかも知れない。

 

 額の傷口を抑えながら、サイは頭を上げる。

 見えたものは、自分を見下ろしている紅のモビルスーツ──ストライクフリーダム・ルージュ。

 それを守るように現れた、紅と蒼に彩られた翼。あれは──

 キラの乗るストライクフリーダム。それに、シン・アスカが搭乗するデスティニーか。

 その3機が、夕闇を背にしてじっと自分を見降ろしていた。

 

「サイさん!! 

 に……逃げて!! 逃げてください!!」

 

 空に響いたものは、ナオトの悲鳴。

 その出処を確かめるべく、サイはさらに頭上を振り仰ぐ──

 そして気づいた。事態は考えうる限り、最悪になってしまったことに。

 空に掲げられた、ルージュの腕。その拳に捕らえられたパステルブルーは──

 

 

「ナオト!?」

「なんてこと──!!」

 

 

 壊れかかった橋の向こうから響きわたる、ルナマリアの叫び。

 咄嗟に彼女は踵を返し、ミネルバJrへ走りだす――当然、インパルス出撃の為に。慌ててそれを追いかけるヴィーノ。

 しかし同時にルージュの反対側の拳に携えられたライフルが動き、真っすぐにルナマリアの背中を捉えた。

 嘲笑うように響く、チグサの声。

 

《おっとぉ、そうはさせないよ。

 今インパルスに動かれちゃ、面倒だからね~》

「ちっ……!!」

 

 ルージュのスピーカーからの堂々たる脅迫に、さすがのルナマリアもヴィーノも立ち止まらざるを得なかった。

 戻ることも叶わず立ち往生してしまった彼女らと、捕らわれのナオトを交互に見定めながら、サイは脳細胞をフル回転させて考えを巡らせる。

 恐らくこの騒動は、アマミキョや山神隊も察知しているはず。だとすれば、インパルスやティーダZが動けなくとも、他の機体が出撃してくれれば何とかなるかも知れない。

 こちらにはまだ、インフィニットジャスティスに山神隊もいる。偶然にも、ジュール隊の二人も来てくれている。

 

 ――ならばまだ、希望はある。

 相手が世界最強のモビルスーツ3機であろうとも。コロニーを出来るだけ傷つけない形で、この3機を抑えるには──

 可能な限り、ここで時間を稼ぐんだ。

 おぼろげにしか分からなかったキラの本来の目的も、ここで分かるかも知れない。俺が、うまく立ち回りさえすれば。

 

 水面に落ちた眼鏡を拾い上げ、かけ直してみる。レンズが両方ともひび割れて、右側は半分以上が砕けていた。

 ほぼ役割を失ったレンズに、3機の影が映る。その威容を直視しながら、サイはゆっくりと立ち上がった。

 酷い頭痛と共に、水面に落ちる血。

 それでもサイは、ストライクフリーダムのカメラアイを睨みながら、一言一言をはっきりと口にした。相手に届くように。

 

「……キラ。

 今すぐナオトを離せ。何が目的だ、お前ら!!」

 

 恐らくキラたちの目的は、チグサもはっきり言っていた通り――

 ティーダとアマミキョ、そして俺とナオトを手に入れることだ。

 だけど、俺は知りたい。何故キラが、フレイと共にこんな真似をするのか。

 キラが南チュウザンに加担する理由は。

 チグサは言っていたな。フレイと、ラクス一世の目的は微妙に食い違っていると。

 それとキラの行動は、何か関係があるのか。

 ならば──ここで俺が、それを問い質す。

 

 

 

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