【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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※本パートはかなり激しい言葉が頻出します。苦手なかたはご注意ください。




part4 俺は、お前が嫌いだからな

 

 

 このキラの言葉に衝撃を受けたのは、サイ一人に留まらない。

 ストライクフリーダムのすぐ隣で、キラとサイの問答をじっと見守っていたシンも――

 思わずコクピットで一人、僅かながら驚愕の声を上げてしまっていた。

 キラとラクスの仲睦まじさについては、シンも二人でいる姿を見かけているから知っている。キラがわざわざ口で説明せずとも、二人が並々ならぬ絆で結ばれていることは想像出来た。

 恋人同士なのだろうし、することはしているのだろうと何となく考えていたが──

 

 下世話な考えに思い至ったと気づき、慌ててシンは頭を激しく振った。うら若い男女が共にいるからといってすぐそういう思考に結び付けるのは、阿呆のすることだ。

 今は──ただ、キラとサイの二人を見守るしかない。

 強引にナオトとサイを連れ帰ることも可能ではあったが、目的はティーダとアマミキョの拿捕でもある。二人を捕らえることで他艦の動きを抑えつつ、出来る限り穏便にティーダとアマミキョを手中にするのが、こちらの作戦でもあった。

 

 しかし──この、サイ・アーガイルという男。

 何の因果かアマミキョのハーモニクスシステムの要となってしまい、擬似的とはいえ不死の身体を手にしたナチュラル。フレイの元婚約者であり、キラの旧友。そこまではシンも聞いていたが──

 二人の問答を聞く限り、ただの旧友では片づけられない何かがある気がしてならない。キラも詳しく語ろうとはしなかったし、フレイも同様だ。

 ただ、フレイの周りにいた者たち──ミゲルやトールといった連中は、サイの名をフレイが口にするたびに、どこか哀しげな顔をしていた気がする。

 

 破壊された運河に佇みながらじっと自分たちを見上げているその姿は小さく、しかも血まみれだったが、何故かアロンダイトでも砕けなさそうな強靭さをシンは感じていた。

 キラすらも動揺させる何かが、この男にはある。この男と、フレイとの関わりの中に。

 囁くような通信が、ルージュから入ってくる。

 

《ねぇ……キラは何を言ってんだ? 

 これ、ちゃっちゃと動いちゃった方が良くない? シン兄》

 

 ルージュはナオトを捕らえたまま、まだルナマリアたちをライフルで狙っている。

 彼女の赤服がモニターの隅でちらちら動くのを見据えたまま、シンは呟いた。

 

「駄目だ、チグサ。まだ動くな──

 今はまだ、キラさんの様子を見るんだ。

 あと、出来ればルナたちは逃がしてくれないか」

《そいつは無理。今インパルスとジャスティスに出てこられたらキツイ、どっちかだけでも抑えとかないと》

 

 ──そうだよな。アスランもきっとこの騒動には気づいているはず、一体どこからどう出てくるか。

 しかもキラさんの元には、『あの』ラクス・クラインもいる。

 下手をすれば、フレイや俺たちがひた隠しにしてきたことも全て水の泡だ。彼女がキラさんのコクピットに強引に乗り込んできたのは、こっちの意図に勘づいたせいなのか──

 今のキラさんが何を言いだすか分からない以上、何かあれば()()自ら判断するしかない。

 

 シンはそう考えながら、改めて操縦桿を握り直した。

 

 

 

 

 

 

 ストライクフリーダムから流れる、キラの呟き。

 次第に深くなる夕闇の中で、サイはじっと耳を傾けていた。

 

《だから、ダウゴンでのラクスを見た時、思ったんだ──

 この世界はフレイだけじゃなく、ラクスまで僕から奪うのかって》

 

 キラの口から初めて語られる、ダウゴンでの出来事。

 わずかに震えるような声だけで、その凄惨さはサイにも十分伝わってくる。

 

《変われない僕を好きでいてくれたのは、ラクスだけだ。

 僕が究極のコーディネイターだと分かっても、受け入れてくれたのは。

 貴方が優しいのは、貴方だから。そう言ってくれたのは──

 なのに……なのに、ラクスは!》

 

 だが──すまない、キラ。

 俺は今のお前に、優しい言葉をかけるわけにはいかない。

 どれほど嫌われても、殴られても、お前の真意を問い質す。

 3年前、俺がキラとフレイに出来なかったこと。キラとフレイに真相を問い、余計な情けや甘っちょろい友情を抜きにして徹底的に話をすること──

 それが今、俺の為すべきことだ。

 

 

「だから、世界への復讐ってか? これは。

 フレイやラクスを僕から奪った世界への、って? 

 可哀そうな生まれの僕が頑張ってみんなの自由を守ったのに、その自由でみんなはラクスを傷つけた。

 だから壊すのか? 最後の革命とやらで?」

 

 

 酷い言葉だ。

 収容所でカズイを守ろうとして、カズイを自分から引き離そうとして、彼に敢えて投げつけた言葉以上に。

 トノムラさんには見破られた俺の偽悪者っぷりが、キラに通じるのか。

 でも、やるしかない。どんなに無理と分かっていても、やらなきゃいけない時はある。

 

《……違う》

「何が違う? 

 今の説明を聞く限り、そうとしか受け取れないね」

《サイ……お願いだ。

 僕と一緒に来てほしい。そうすれば、全部説明できるから……っ!》

 

 それは恐らく、キラの本心なのだろう。

 明らかに、今は話せない事情がキラの側にはある。それはシン・アスカやチグサ、それからナオトにも話せないようなことなのか。それとも他に誰か──

 いずれにせよ、そう簡単にキラの要求を呑むわけにはいかない。

 サイは大きく息をつきながら、敢えて嘲笑に似た形に頬を歪めながらフリーダムのカメラアイを睨み続けた。

 

「……嫌だね。

 言っただろ。明確な理由が分からない限り、俺はそっち側にはつけないって。

 俺もアマミキョも、南チュウザンに何度消されかけたと思ってるんだ? 

 実験船として利用されまくっていた頃、アマミキョの皆がどれだけ苦しみ抜いたと思ってる。その挙句に船ごと消そうとする連中なんざ、信じられるわけがないだろ。

 しかもフレイを、フレイの存在を、いいように利用しやがって……!!」

《──サイ、聞いてくれ。

 どうしても君が嫌だというなら……》

「力づくでやろうとするなら、すればいいさ。

 だが今の俺は、もう昔の俺じゃない。

 お前に彼女取られて腕捻られて、モビルスーツのひとつも動かせずに膝抱えて情けなく泣きじゃくっていたガキなんざ、もうどこにもいないんだ」

《サイ……!》

 

 フリーダムのカメラアイが、激しい動揺を示すように瞬く。

 ――多分、俺がこんな言葉を吐くなんて予想もしなかったのだろう。

 

 それはキラのみならず、ルージュに捕らえられているナオトも同様だったのか。

 ルージュの拳の上から少年はその大きな両目をいっぱいに見開いて、サイだけを見つめていた。

 その視線を痛いほどに感じながらも、サイはフリーダムに怒鳴りつける。

 

「やってみろ。俺は全力でアマミキョとナオトをお前たちから守る。

 今の俺には、それが出来るからな!」

 

 そんなサイに向かって返された答えは、やはり即座には理解が難しいものだった。

 

《……やっぱり、サイは、幸せだね》

「あ?」

 

 サイは思わず、戸惑いと苛立ちがない交ぜになった声を上げてしまう。

 何故お前はこうも、回りくどい言い回ししか出来なくなったんだ。そう怒鳴りたいのを抑えながら、キラの言葉に耳を澄ます。

 ラクスの言葉がそうだったように、キラの言葉も、きちんと聞けば筋が通っているはずだ。

 そいつを掴んで、揺さぶりをかけろ。

 

 ――その時、サイの脳裏に閃光のように広がったのは、一つのヴィジョン。

 停泊中のアマミキョとアークエンジェルの中で、はっきりとこちらに向けて動く意思。

 この感覚が正しければ、恐らくアマミキョも今、動いている。少しでも長く、キラの注意を俺に引きつけろ。

 俺に、キラの真意を引き出す力を。アマミキョとナオトを守る力を。

 足の震えを悟られるな。高まる心音を気取られるな。出血による眩暈も酷いが、構っていられるか。

 

 紅の空に流れる、キラの声。

 

《きっと、今でも君には分からない。分からない方が幸せなんだ。

 僕がずっと、どんな気持ちで戦っていたかなんて──

 ここで終わりと決められた心と身体で生きることが、どういうことかなんて──》

 

 そんなキラの言葉を、サイは自分でも驚くほどはっきりと拒絶した。

 

「あぁ、分からんね」

《……!?》

 

 キラがどれだけ動揺したかは、全く動かないストライクフリーダムを見ているだけでは読み取れない。

 読み取れない、分からないからこそ、俺はこんな酷い言葉を吐けるのかもな。

 本人を直接目の前にしているわけじゃないから──

 そう自嘲しながら、サイはなおも思いつく限りの言葉をぶつけていく。

 それは間違いなく、罵倒以外の何物でもなかった。

 

「キラ。お前も、幸せな頭してるな。

 進化の究極だ? 心身共に最高のコーディネイターだぁ? 

 笑わせんな。人の彼女寝取ってふんぞり返る奴のナニが究極だ、勃起不全野郎」

 

 あまりの言葉に、キラより先にデスティニーやルージュの方が動揺したらしく、2機は思わずカメラアイを一斉にサイに向けていた。

 悲痛に響くキラの声。

 

《……サイ、僕は!》

 

 その声に、何故かカズイの姿が重なる。

 カズイを守るべく、敢えて彼を傷つける言葉を放った時の、酷く歪んだ表情が。

 目の前で起こっていることの何もかもが信じられず、イヤイヤをする赤ん坊のように必死で自分に縋ってきたカズイの顔が。

 それでもサイは、強引にカズイを自分から引き離した時と同様、あらん限りの声でキラを怒鳴りつけた。

 

「いっぱしに不幸気取ってんじゃねぇぞ。

 俺もお前も3年前は、等しく何も知らない小便ガキだったんだよ! 今だってそうだ、俺もお前もまだまだ何も知らない若造だろうが!! 

 それを何だ、ちょっといい遺伝子持ってるからってジジイみたいに悟った風なツラしやがって。

 俺が羨ましかった? 俺が幸せ? 冗談もたいがいにしろ。

 俺がどれだけお前を憎んで羨んだか、本当にお前分かってんのかよ!?」

 

 叫び続けるサイの脳裏に、今度はトノムラの声が反響する。

 

 ──出来ないはずのことが出来てしまった結果が、この俺だ。

 

 家族の為に、死の収容所で敢えて暴虐を振るわざるを得ず、次第に血に汚れて変わってしまったトノムラ。そんな彼の自嘲が。

 自分もそんな憎悪に今、囚われつつある。俺の言葉には確かに、本音が含まれている。

 そう自覚しながら、それでもサイは叫んだ。

 

「あぁ、そうさ。

 俺は今だってお前が憎い。フレイを奪った上に守れなかったお前が憎い。

 コーディネイターなんてこの世から消えてしまえって、思ったことだってあるさ!」

 

 リンドー副隊長──俺は今度こそ、出来るでしょうか。

 アマミキョの為に、敢えてキラを突き放すことが。真実を探る為に、敢えてキラを傷つけることが。

 

 

「俺が自分の無能っぷりにどれだけ苦しんだか、ここまで来るのにどれだけのものが犠牲になったか。知らないからお前は、俺が幸せだなんて言えるんだ。

 お前の苦しみが俺に一つも分からんように、お前こそ俺を何も分かってない! 

 人を集めてみんなと笑い合える? そうなるまでどれだけの奴から嫌われて蔑まれたか、そうなってからもどれだけのものを失ったか、本当に分かってるのか、お前は!」

 

 

 キラからの答えはない。

 両の拳を握りしめながら、サイは憎しみの言葉をさらに叩きつける。

 それが本心なのか、偽悪者たる演技から来るものなのか、もうサイ自身にも分からない。

 本心がこんなに醜かったからこそ、これほどまでにすらすらと汚い言葉が俺の口から出てくるのだろうか。

 

「分からないよな。そりゃ、キラには分からんだろうさ。

 人間の究極体ともあろう御方が何で、こんなちっちゃな俺の悩みを理解できんのか、俺にはさっぱり分からんが」

 

 キラは不気味なほどに沈黙を守ったままだ。

 ナオトもわけが分からないとばかりに、サイを不安げに見つめていたが──

 それでもその真意に何となく勘づいているのか、決して不必要に喚きたてはしなかった。

 

 ──ナオトが気づくくらいだから、キラも悟っちまってるか。俺の狙いを。

 しかし残念だが、キラ──この言葉は、俺の本心でもあるんだ。

 俺自身にさえ嘘と真の境目が分からないぐらいに、本心が混じってる。

 

「俺に言わせればさ。

 キラ。お前は、究極体でも最高の人間でも何でもない。

 世界を敵に回して妙にイキってるだけの、馬鹿な子供だよ。

 お前がどれだけ強くなろうと、それは今でも変わらない。戦いなんて大嫌いな癖に、他人の為なら何をおいても戦いに出てしまう。

 本当に最高の人間だってんなら、まずその馬鹿な自己犠牲精神から叩き直しやがれ」

 

 ちょっと前まで自分が死にたがりとか言われてた癖に、何を言ってるんだろうな、俺は。

 ふと心中で笑ったその時、キラの呟きが流れてきた。

 

《……違う》

 

 その声は先ほどより、明らかに震えていた。

 まさか、キラ──泣いているんじゃないだろうな。

 

《3年前のサイだって、馬鹿だったろ。

 サイもトールも、ミリアリアも、カズイも──フレイも。

 みんな、馬鹿みたいに優しすぎた。

 だから、守らなきゃって思ったんだよ! だから、僕は!!》

 

 そうだったよな。

 そもそも、キラは戦いから離れるチャンスもあったはずだった。それが出来なかったのは、俺たちが積極的にアークエンジェルで戦おうとしたせいだ。俺は、志願したフレイを守る為でもあったけど──

 結局そんなものは、チグサも言った通り、ただの弁解。言い訳にすぎない。

 キラは俺たちを守る為にアークエンジェルに戻って、さらに過酷な戦いへ投げ込まれることになった。

 そして守ろうとしたものが──

 

「残念だったろ? 守ろうとしたものが、こんな俺で。

 モビルスーツ一つ満足に動かせない、馬鹿の無能で。

 おまけに、ラクスさんの歌をさ。遺伝子弄って出来た歌声って暴言吐いたこともあったっけ」

《……覚えてたの?》

「失望したんだろ? あの時、俺に。

 命張って、親友裏切ってまでこんな奴を守ってたのかって、思ったんだろ? 

 がっかりしたんだろ。俺が、偽善者で」

《違う、サイ。僕は君にそんなこと……

 ただ、僕はあの時……とても淋しかった。

 君でさえ、分かってくれないこともあるのかなって》

 

 やっぱりな。

 あの時、誰よりもキラの心を傷つけたのは、俺なんだ。

 フレイでも連合の軍人でもない。いい人の顔をして、何気なく偏見を口にした俺だ。

 キラに優しい友人の顔をしながら、自覚もなく後ろからキラを刺していた。

 それは俺が絶対に分からない、キラの孤独。

 ――だが、キラ。お前にだって、俺の屈辱は分からない。

 どこまで行っても、お前の淋しさと俺の憎悪は平行線のまま、交わらない。だからこそ、コーディネイターとナチュラルはいつまでだって争い続けるのかもな。

 

 そんな想いを強引に断ち切るように、サイは言葉を吐く。

 

「そっか。

 今でも、その認識は変わっちゃいないって言ったら、もっと絶望するか?」

 

 そんなサイの、暴言とも取れる言葉に──

 キラのみならず、デスティニーも明らかに反応した。

 明確な動きを見せたわけではない。ただ、機体を通じてパイロットから発散されている空気が、ぶるっと震えると同時に色を変えたように思えた。

 ルージュの拳に握られたままのナオトすら、一瞬信じられないものを見る目つきでサイを睨んだ。

 そんな感情の数々を汲み取りながらも、サイはもう止まらない。

 

「遺伝子を弄ったから、頭も顔もいい。

 遺伝子を弄ったから、やる気さえ出せばどんなスポーツでも勉強でも一番になれる。どんな仕事だって楽々こなせる。

 遺伝子を弄ったから、モビルスーツで戦える。

 遺伝子を弄ったから、どんな相手にだって勝てる。

 遺伝子弄った相手に、勝てなくたって仕方ない。遺伝子弄った相手に、勝てるわけがないんだからって──

 俺は確かに、気づかないうちにコーディネイターに対してずっとそう思ってた。ていうか、気づいた今でもそう思ってる。

 だけど、()()()()()()()()()()()? 

 全部事実だろうが。黒いものを黒、白いものを白と言って何が悪い!!」

 

 さすがにそんなサイを見かねたのか、ナオトが思いきり声を張り上げる。

 

「──サイさん! 

 確かに、事実かも知れない。だけど、言っていいことと悪いことがありますよ! 

 それに、ナチュラルがコーディネイターに絶対に勝てないわけじゃないでしょ!? 

 僕は聞いてます。コーディネイターは秀才にはなれても、ナチュラルで生まれた天才には勝てないって!!」

 

 しかしサイはストライクフリーダムの頭部を見据えたまま、ナオトの反論を叩き伏せる。

 

「少し黙ってろ、ナオト。

 俺は天才でも何でもないんだよ」

「でも!!」

《いいんだ、ナオト君》

 

 ルージュの拳の中で力なくもがくナオトを、キラが制止した。

 

《サイの言う通りだ──事実だからこそ、僕は虚しかった。

 コーディネイターの能力は、どこまでが自分自身の力で、どこからが遺伝子の力なのか分からない。僕の場合、勉強も運動もほぼ全てがそうだから、一時は何もやる気が起こらなかったよ。

 だけど、他のことはともかく──

 みんなが僕についてきてくれるのも、僕を支えようとしてくれるのも気遣ってくれるのも、全部遺伝子のおかげなんじゃないかって思えてしまうのが……

 一番、虚しかった》

 

 昔から本心をなかなか示さなかったキラが、素直な感情を口にしている。

 それだけでサイは、この言葉がとても貴重なものに思えた。

 

 ――キラ。人ってのは、なんて面倒なもんに自分を変えちまったんだろうな。

 宇宙との懸け橋となる為に、人はコーディネイターを生み出したのに──宇宙どころか、人同士ですらこんなにも分かり合えなくなるとは。

 仮に俺が同じ状況に置かれたら、これ以上虚しい進化をしないよう、ついついセレブレイトウェイヴに加担してしまうかもしれない。

 だけど──お前の真意は、多分そこじゃないんだよな。

 

 サイはさらに一歩を踏み出す。

 波立つ川面に飛沫が立った。

 

 今口にしようとしている一言だけで、俺は叩き潰されても文句は言えない。

 かつて命がけで自分たちを守った友に対して、あまりにもあまりな言葉に違いない。

 だが、キラ──

 多分、今のお前が求めているのも、この言葉なんだろう? 

 

 ──ポケットの中で拳を固く握りしめたまま、サイは真っすぐにストライクフリーダムを見つめ、一言一言、はっきりと口にした。

 

 

「それなら大丈夫だ、キラ。

 俺はお前が嫌いだからな」

 

 

 眼前の黄金のカメラアイの中で、明確に感情が揺れた。

 

《……えっ?》

 

 驚愕と失望が乱雑に混ぜられたような、キラの戸惑いの声。

 その中に、ほんの僅かに喜びの感情が混じっているように思えたのは──

 俺の、思い上がりだろうか。

 

「こうして、お前を嫌っている奴が一人でもいるってこと自体──

 お前に施されたコーディネイトが、そこまで万能じゃないって証だろ」

 

 空は次第に、紅から菫色、そして濃紺へと染まっていく。

 相変わらず鳴り響いている警報、まだおさまらない突風。

 そんな中でもサイの声は静かに、しかし確かな重さをもって響いていく。ストライクフリーダムに、そしてナオトに、デスティニーに、ルージュにさえも。

 

 キラ──頼む。

 俺たちにずっとひた隠しにしてきただろう、お前の真実を見せてくれ。

 

 そんな願いをこめ、サイが再びストライクフリーダムを見上げたその時──

 

 消え入るようなキラの声が、降ってきた。

 

《……サイ。

 君は、嘘をついてる》

 

 

 

 

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