【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part9 遺伝子操作の行きつく先は

 

 

 突然告げられた言葉に、さすがのフラガも一瞬意味を掴めなかった。

 いや、掴みたくなかったという方が正しいかも知れない。

 

 

 あの「フレイ」が、この娘の……母親だと? 

 そんな馬鹿な。フレイはああ見えても、まだ二十歳にも満たぬ年齢のはずじゃないのか。

 それにこの娘は少なく見積もっても、7~8歳ほどに見える。

 ということは──

 

 

 明らかに動揺したフラガに、それでもレイラは語り続ける。

 

 

「私は彼女が12歳の時、彼女とタロミの間に生まれた子。

 そして、メンデルに残されていたアル・ダ・フラガの遺伝子データを元にコーディネイトされ、この世に生を受けた者でもあります」

 

 

 メンデル崩壊時に散逸したと言われていた、親父のデータ。

 そんなものが、まだ残っていたのか。しかもよりによって、南チュウザンの手に渡ったとは。

 遺伝子データを元にコーディネイトされたなら、クローンではないのは当たり前だ。

 

「しかし……まさか、そんな。

 12歳で、しかもタロミとの間に、だと……?」

 

 いや、違う。この娘はろくでもない嘘を言っているだけだ。そう思いたい。

 何かが頑強にフラガの中で、レイラを否定する。

 何故なら親父は男。クルーゼも男。しかし──

 

「君は女の子……

 では、ないのか?」

 

 そんなフラガの表情をレイラは注意深く見つめていたが、やがて少し困ったように笑った。

 

「偶然の産物ではありましたが。

 タロミは自らの後継者に、こう望んだのです──

 コーディネイトの技術により、人が人の理をいかようにでも変えられる世ならば。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()を、手に入れられるのではないかと」

「へ?」

「つまりは、世で言うところの両性具有者ですね」

 

 両性具有。アンドロギュヌス。

 まさか、目の前のあどけないこの少女が……?

 

 到底信じられぬ話に、フラガはそれでも頑迷に抵抗しようとあがく。

 

「バカな……! 

 すると、何か? 単独で、命を紡ぐ?」

「えぇと、要は私の精子と卵子を……」

「言うな! 言わなくていい!!」

 

 フラガは思わずしゃがみこみ、レイラの両肩を抑える。

 

「いくら両性具有だからって、可能とは思えん! 

 一人で命を生み出す? そんな真似が……!」

「コーディネイトの技術が発達した今なら、不可能ではないはずと──

 タロミは常々、そう言っていました」

「他人ごとみたいに言うんじゃないよ!」

 

 そんなフラガの怒声にレイラは一瞬目を丸くしたものの、すぐに元の笑顔に戻った。

 

「そういった反応をなさるのも、致し方ありませんわ……

 ムウ様はやはり、世間の常識をお持ちのかたなのですね」

 

 安心したと同時に、少し寂しげにも見える笑顔。

 そんな表情を貼り付けたまま、レイラは呟く。

 

「私はまだ幸せなのです。姉上が──

 フレイ・アルスターが、いつも守ってくれますから」

「母上が……じゃないのか。全く信じられんが」

「ふふ。ずっと、姉上と呼ぶのに慣れてしまいましたので。

 それに、姉というのも間違いではありませんから」

「何だって?」

 

 フラガとレイラ。4つのスカイブルーの瞳が、白い部屋の中で真っすぐに互いを見つめ合う。

 そして、小さな唇から明かされた真実は。

 

「フレイ・アルスターは──今、フレイを名乗る彼女は。

 メンデルで生み出された、タロミ・チャチャの娘。

 タロミを父とし、彼の正妻であり第一王妃たるイチノ・チャチャを母としながら──

 ラクス・クラインに母を奪われ、母を乗っ取られ、元の名すら奪われ、その意のままに操られている女性です」

 

 さすがのフラガも、一瞬意味が理解出来なかった。

 タロミの娘? タロミが父? ラクス一世に、母も名前も奪われた? 

 考えようとするが、脳がその答えを拒絶するような感覚に襲われる。

 そんな彼の心を見抜いたように、事実を語り続けるレイラ。

 

「ラクス・クラインの母親が行方不明になったのは、事故でも病でもなく、本人の意志です。

 ラクス一世はタロミの『神の復活計画』に惹かれ、それまでの家族を捨て、自ら死を装いプラントから姿をくらまし、タロミの後宮へ入った──いわば側室です。

 一方、タロミとイチノ夫妻はかつて不妊に悩み、人工子宮での研究により子供を授かろうと考えた。長年悩んだ分だけ優秀な子を望んだ夫妻は、人工子宮研究の第一人者たるユーレン・ヒビキに希望を託し──

 そして、女性であること以外は全て理想的な子供が生まれようとしていた。

 皮肉なことにタロミは娘を望み、ヒビキ博士も他の資金提供者も、女性での人工子宮の成功を認めなかった。何だかんだでヒビキ博士たちは、男子が欲しかったようですので。

 従って子供は、研究の成功による理不尽な争いに巻き込まれることもなく、平穏に生まれるかと思われた。

 しかしその寸前、ラクス・クラインの母は、その子供にある操作をしたのです」

 

 まさか。

 まさかそれが、フレイに施された──

 

「イチノへの嫉妬か、あるいは純粋な興味からかは分かりませんが──

 ターミナルの豊富な資金をちらつかせ、彼女はヒビキ博士に指示しました。

 自分が娘の母と成り代われるよう、その遺伝子から本来の母たるイチノの痕跡を可能な限り消去することを。そして、『弱めの』服従遺伝子を入れることを」

 

 フレイが服従遺伝子を持って生まれた可能性が高いという件は、フラガもミリアリアから既に聞いていた。それ故、服従遺伝子自体はそこまで驚きではなかったのだが──

 

「弱めの……服従遺伝子だと? 

 そりゃ、何故?」

「自分に従順になるよう、娘を仕向けると同時に。

 自らの意思に関わらず命令に従わねばならない、逆らってはならないという苦痛を、イチノの娘に味わわせる為です。

 完璧な服従遺伝子なら、命令に逆らえない苦悩など存在しない。連合でソキウスに施された遺伝子操作は、ナチュラルにどれほど嬲られようと殺されようと、抵抗の意思さえ一切生まれないほどのものですから。

 それではつまらないと……あのかたは仰っていました」

 

 つまらないから? 

 ただ、それだけの理由で? 

 

「そして生まれたのは、母たる自分に決してなつかず、愛人と夫にだけ何故か従順な娘。

 結果、第一王妃イチノ・チャチャは心を病み、死亡しました。

 幸か不幸か、ラクス一世は見事にタロミの寵愛を受け、勢力を伸ばしていったのです」

 

 それは世代を超えた怨念か、もしくは単なる興味か。

 この信じがたい話をフラガはただじっと聞いているしかなかったが、おぞましいことに後者の方が近い気がした。嫉妬や愛憎から来る行動であればまだ人間らしいし、そうであってほしかったが。

 どちらにせよ、こいつは──

 

「狂ってる」

 

 まさに今、この形容が正しい。

 そしてさらに、この話が狂っているのは……

 

「なぁ、俺の聞き違いかい? 

 君は今、フレイが、タロミの娘だと言ったな?」

「はい」

「しかしその前に、タロミはフレイを妊娠させたとも言ったな? 

 というかフレイは、タロミの第三王妃だよな? 王女ではなく」

「はい」

「矛盾、してないか?」

「ムウ様がそう思いたいのは当然だと思います。

 しかし、事実であり、矛盾でも何でもありません」

「…………。

 つまり、その、タロミの野郎は……」

「近親間の出産は、純粋な血を守るという目的から、古代の王族間では当たり前だったと聞きますよ。

 それに元の姉上は、イチノ・チャチャによく似ていましたから。

 面影を残す姉上を見ているうちに……というのは、ありえない話ではないでしょう」

「ありえんだろ! 

 少なくとも、俺の生きてきた世界の常識じゃ、ありえん!!」

 

 思わず声を荒げるフラガ。

 しかしレイラはあくまで静かに、それでいてはっきりと告げる。

 

「それが、あるのです。

 理論上は少なくとも2度、タロミは姉上を抱きましたから」

「……え?」

「一度目は、ラクス母は姉上に堕胎を命じました。

 姉上は激しく抵抗しながらも、結局はその命令に逆らえなかった。

 しかし二度目に子を──つまり私を孕んだ時。

 タロミは姉の身を案じ、堕胎ではなく生むよう命じました。それも、可能な限り優秀な子供が出来るようにと──メンデルから回収されたアル・ダ・フラガの遺伝子データを、タロミは密かに入手していたのです」

「それで生まれたのが、君か。その……」

 

 言い淀んだフラガに、レイラは平坦な口調を変えずに語った。

 

「タロミを擁護するわけではありませんが──

 私が両性具有と呼ばれる身体となったのは、当初からタロミの意思だったわけではなく、あくまでコーディネイトの過程で発生した偶然でした。

 それでも、タロミは考えたのです。優秀な子供が『自力で』子を育むことが出来れば、血を純に保ったまま、より優秀な子孫が生まれるのではないかと。

 これは決して事故ではなく、天祐なのだと」

 

 そうか。

 従来、近親交配による大きな問題とされていた点は遺伝病だが、コーディネイト技術によりその問題は解決出来る可能性がある。さらに血の純潔も保たれる。

 その上、他者の存在なしに出産が可能だとなれば──清らかな血を保つ為に、これ以上理想の身体はないということか。

 しかしそんなものは所詮机上の空論にすぎず、現実の遺伝子操作がそこまで万能だとは思えない。遺伝病が消滅しても、出生率の問題は未だ解決していないのだ。

 そもそも、純血の保持がそこまで重要か。

 フラガの中で、父親の姿がまざまざと蘇る。母の血が入ったからという理由で、自分を捨ててクローンに走った父を。

 似たようなクズに、ここでまた遭遇するとは。

 

「タロミは私に、こうも言っていました──お前は神の子であり、処女受胎が可能な身体だと。

 その時のタロミの顔は、子供みたいに得意げでした。処女受胎は不死と並び、彼の憧れでしたから」

 

 あまりのことに、ついにフラガは絶句してしまった。

 そんな彼の前でレイラは、ふうっと息をつく。肩の荷が少しだけ降りたと言いたげに。

 そして彼女は初めて視線を逸らし、すぐ横のガラスの箱に目を落とした。

 箱の中ではやはり、無数のチューブに繋がれた子供が水中に寝かされている。透き通るような白い肌と、やや縮れた薄緑の髪。胸の薄さから考えて恐らく少年だろうが──

 どういうわけかその下半身は両脚らしきものがなく、そのかわりに無数のチューブに覆われている。

 分厚い強化ガラスで外界と隔てられているその顔を慈しむように、レイラはそっと撫でた。

 

「ムウ様──貴方にお伝えしたいことは、これで全てではありません。

 生まれた時より人倫を外れた私たちが、どこへ突き進んでいるのか。

 姉は、ラクス一世は、何が目的なのか──

 それをお話する為に、もう一人──貴方に会って頂きたい人物がいます」

 

 するとレイラは、メディカルルームのさらに奥──

 関係者以外立入厳禁と思われる白い扉へ、彼を招いた。

 レイラが扉脇のモニターに視線をやり、続いて画面に小さな手を触れ、その扉は開いていく。奥は下層に続くエレベータとなっているようだ。

 この先に、一体誰が、何が待っているのか。

 何となく分かる。それがオギヤカの中枢であると同時に、ネオ・ロアノークとしての俺の罪にも繋がるものだと。

 フラガは覚悟を決めながら、一歩を踏み出した──

 

 

 

 ~~~~~~

 

 

 次回予告

 

 

 遂に振り降ろされた拳

 鳴り響く鐘はティーダをも覆い隠した

 それでも彼らは絶望の中、アマミキョと共に立ち上がる

 知る為に、話す為に、助ける為に

 少年の言葉とサイの決断は、人々の希望となるか

 

 次回、機動戦士ガンダムSEED Revelation

「告白」

 

 揺れ動く宿命、掴み取れ。デスティニー!! 

 

 

 

 

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