【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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PHASE-48 告白
part1 これ以上、ヒトを馬鹿にするな


 

 

 ガンダム・セイレーンの放った鐘の音により、ミントン上空で静止させられたティーダZ。

 ヨハネの黙示録、その一節を呟き続けるフレイの声と共に、セイレーンはティーダZの正面へと舞い降りる。

 その光景を、アスランはただじっと見上げているしかなかった──

 ティーダZとセイレーンが互いに放つ鐘の音は酷い不協和音となり、アスランの脳髄までを激しく叩いてくる。機体には対黙示録用の防御策を施されてはいたものの、音や電磁波の全てをカットできるわけではない。事実、モニターの殆どには酷いノイズが走り、外部の状況確認すらおぼつかなくなっている。

 結果としてアスランは、自身も機体すらも満足に動かせない状態に陥っていた。それはジュール隊の二人も同じだったが──

 それでもアスランはノイズの向こうへと目を凝らし、ストライクフリーダムの姿を見据える。

 つい先ほど、アスランにとっては到底信じがたく、同時に絶対に許しがたい所業を行なった親友──キラの機体を。

 幾度の衝突を乗り越え、それでも絆を確かめ合い、共に激戦を戦い抜いたはずの機体を。

 ストライクフリーダムは大地に両腕をついた姿勢のまま、デスティニーに抑えられている。

 明確な攻撃を受けたわけでもないのに、何故か動かない機体。

 その胸部コクピットハッチが突如、どういうわけかゆっくりと開いた──

 アスランは固唾をのんで、その光景を見守る。

 

 

 ほぼうつ伏せになったストライクフリーダム。

 その胸部コクピットハッチを開き、上空を覗くように現れたのは──

 

 

 薄紅のパイロットスーツを着込んだ少女。

 メットを脱ぎ、解放された髪が優雅に空へと靡いている。パイロットスーツとほぼ同色の髪が。

 彼女はその両腕にキラを抱きしめながら、若干傾きかけたコクピットからじっと、セイレーンを見上げていた。

 その姿は間違いなく──ラクス・クライン。

 アスランがかつて将来を約束した彼女と、全く同じ。

 柔らかな物腰も、優雅な雰囲気の底に秘められた冷徹さも、揺るがない視線の強さも。

 ただ、三日月ではなく満月を象った髪留めだけが、彼女がラクス・クラインその人ではなく、母親だということを示していた。

 アスランは思い出す。ラクスが俺に、初めてその芯の強さを示したあの時も──

 あの、荒れ果てたコンサート会場で再会した時も、似たような満月の髪飾りをしていたな。

 

 

 ──敵だというなら、私を撃ちますか? 

 ザフトのアスラン・ザラ! 

 

 

 あの時のラクスと、今眼前にいるラクスの母親。アスランにはそれが別人に思えない。

 ミーア・キャンベルとラクスの区別はアスランにはそれほど難しくはなかったが、これは──

 考えてみれば当然だ。ラクスの芯の強さやカリスマ性、行動力はほぼ全て、このラクス一世から受け継いだもの。それも、ラクス一世が強引にコーディネイトさせた可能性が高いのだから。

 そんな彼女が今、セイレーンを見上げている。

 その腕に抱かれたキラはぐったりと彼女に頭を預けており、表情が見えない。

 突然現れたフレイ・アルスターの激昂は、明らかに彼女に向けられていた。サイをキラに殴らせた、ラクス一世に。

 にも拘わらず、ラクス一世は全くの無表情で──

 いや、薄い微笑みすら浮かべてセイレーンを見上げている。ティーダZとセイレーンの醸し出す不協和音、それすらも楽しんでいるかのように。

 コロニー内部を吹き荒れる嵐の中、フレイの怒りとラクス一世の冷厳が激突する。

 モビルスーツもそのパイロットすらも影響下におくこの怪音波の中、何故ラクス一世は平気でいられるのか。

 アスランは状況を注視しながらも、必死でその答えを探した。

 

 ──そうか。

 この音は、ひとつのメロディーを形成しているように思える。それも、確かに何度も聴いたことがある音色だ。

 これは……ラクスの歌か? 

 

 だが、アスランがその答えに至った瞬間、一気に状況が動いた。

 セイレーンから響きわたったものは、フレイ・アルスターの決然たる声。

 

《ラクス・クライン一世よ。

 私はこの時をもって、貴方を母とは思わない。

 否、私の母は生涯、たった一人だけだった──タロミ・チャチャ第一王妃たる、イチノ・チャチャ。貴方が殺した、タロミの正妻。

 私は彼女の、ただ一人の娘だ!!》

 

 潰れかけた肺から絞り出すかの如き声が、空へと響く。

 同時にセイレーンの構えたビームライフルが、まっすぐにラクス一世を、ストライクフリーダムを狙った。

 思わずアスランの手が動きかける。ラクス一世が撃たれれば、ストライクフリーダムも、彼女が抱いているキラも撃たれる──

 しかしセイレーンは動かない。いや、動けない。

 銃口をラクス一世に向けたまま、空中に棒立ちになってしまっている。

 

 アスランにも分かった。フレイが撃てないのは、キラがラクス一世のそばにいるからではない──

 勿論それもあるだろうが、最大の理由は、彼女に施された服従遺伝子だ。

 ミリアリアの語ったフレイの遺伝子の話が真実なら、今、ラクス一世に向かって放った言葉だけでも、フレイにとっては最大限の努力を費やしたはずだ。ラクス一世に銃口を向けるなど、自分の心臓を撃つ行為に等しい。恐らくフレイに出来るのは、ここまでが精一杯なのだろう。

 そんなセイレーンに、優しく微笑むラクス一世。

 

「いいえ、フレイ。貴方も分かっているはず──

 イチノ・チャチャを死に至らしめたのは、わたくしではありませんよ。貴方が彼女を母親として認識しなかったから、ではないですか?」

《そうさせたのは、誰だと思っている!!》

「あら。その年になってもまだ、親に責任を押し付けるおつもりですか?」

《言ったはずだ。貴方は最早、私の母ではない! 

 ――否。最初から、私の母ではなかった!!》

「いいえ、フレイ。貴方は今でも大切な、わたくしの娘です。

 争いの絶えぬ世界に平穏をもたらす為に生まれた、革命の皇女。

 その為に、貴方はここまで来たのです。くだらぬことの為に、心を乱されないでください」

《……くだらぬこと? 

 それはまさか、サイのことを……?》

「サイ? あぁ、そんなお名前でしたわね。

 何の能力もないのに、キラの心を傷つけ、貴方の心をかき乱し続けた人間。

 まだ拘っていたのですか? あのようなつまらない男に」

《──初めて聞きました。

 貴方にはサイが、そのようにしか見えていなかったのですね》

「他にどのように見ろというのです? 

 ずっと分かりませんでした。貴方が彼に拘り続ける理由が。

 あのような平凡な人間なら、いくらでもいるではありませんか。

 貴方はそのような器ではない。貴方にふさわしいのは……」

 

 ラクス一世の言葉を遮るかのように、セイレーンから響く怒声。

 

《いい加減にしろ! 

 他のどこにいるというのだ、サイのような男が!!》

 

 その叫びと同時に、ライフルを構えたセイレーンの両腕が、わずかに機動した──

 だがその瞬間、アスランさえ予想もしなかった方向から、閃光が走る。

 それはセイレーンのカメラアイ付近を直撃し、小さな爆発を起こした。

 同時にこだましたものは、スピーカーごしの女性の声。

 

《妙な音で、人を惑わせて! 

 これ以上、コロニーを荒らさせはしない!!》

 

 そんな絶叫と共に飛び込んできたものは、連合のウィンダム2機。ジェットストライカーでコロニーの空を自在に飛び回っている。

 

《気をつけろ、霧山! 

 俺たちの機体も、完全にこの音波を遮断出来てるわけじゃないんだ》

 

 それは明らかに、山神隊・霧山少尉と伊能大佐の声だった。

 突然の急襲に、僅かにセイレーンの上体が傾く──

 同時にコクピットに響いたのは、イザークとディアッカからの通信。

 

《もしや、ティーダZとあいつの音波が拮抗しているのか? 

 互いに音を弱め合っている……?》

《なら、行けるんじゃねぇの? 今すぐあいつを撃ち落とせば……!!》

 

 

 その刹那、アスランは勘づいた。イザークとディアッカが、双方連携しつつセイレーンを狙っているのを。

 ディアッカのザクファントム、そのカメラアイが二、三度瞬く。ほぼ同時にイザークのグフもセイレーンを狙い、スレイヤーウィップを構えた──

 セイレーンの死角となるほぼ真下から、機体を絡めとり砲撃を食らわせる。恐らく二人の作戦はそんなところだろう。

 しかしそれを理解した瞬間、アスランは叫んだ。本能で危険を感じて。

 

「駄目だ、二人とも! 下がれ!!」

 

 その叫びも間に合わず、グフのスレイヤーウィップがセイレーンに向けて真っすぐ放たれる。

 同時に、くぐもったようなフレイの怒声が響いたと思ったのは、決してアスランの気のせいではなかった。

 

《……下衆が! 

 邪魔を、するなぁっ!!》

 

 その叫びと共に、セイレーンの背部装甲が光り輝く──

 次の瞬間にはコロニーの夜空に、幾筋もの光条が放たれていた。

 アスランも見たことがある。あれはレイの搭乗機体であり、自分が乗るはずの機体でもあった、レジェンドガンダムと同じ武装

 ──ドラグーンシステム。

 多数の攻撃端末を同時に制御しつつ、広範囲へと攻撃を行なう兵装だ。

 このシステムはレジェンドのみならず、ストライクフリーダムやデスティニーの武装にも応用されていたが、南チュウザンにも技術が流出していたとは。しかもレジェンドと同様に、大気圏内でも使用できるとは。

 

 ──しかし、アスランには歯噛みをする間すら与えられない。

 セイレーンの放った光弾は天に弧を描きながら、綺麗に着弾していく──

 勿論、黒灰のザクファントム、そして純白のグフイグナイテッドへ。のみならず、山神隊のウィンダム2機までも。

 

《うわぁああああっ!? み、見えねぇ……っ!?》

《ディアッカ! 駄目だ、ここは離だ……ぐぅっ!!》

《霧山! 回避しろ、きり……っ!!》

《伊能大佐!? 大佐ぁあっ!!》

 

 通信から外部から交錯する、味方の悲鳴。

 瞬きをする間もない。ザフトや連合の代表とも言える手練の戦士たちが、最新鋭の機体が、ほぼ一撃で粉砕されていく。

 スレイヤーウィップは両腕ごともがれ、ガナーザクファントムのビーム砲は爆砕され。

 滑空していた2機のウィンダムは、片方がもう片方を庇うようにして爆発を起こした。サブモニターからの情報と直前の肉声から判断する限り、恐らく伊能機が霧山機を庇ったのだろう。

 

「な……っ!?」

 

 これほどの技量を持つ者が、まだいたというのか。

 さほど練度もなく才にも恵まれないパイロットが一度に多数撃墜されるならともかく、イザークもディアッカも、ザフトでは白服に相応しい技量を持つ者だ。山神隊もナチュラルでありながら、相応の戦闘経験を積んでいる者たちと聞く。

 それが、鐘の音に惑わされたとはいえ、こんな一瞬で──

 

 中破した伊能機は左脚部とジェットストライカーがまるごと吹き飛んでおり、虚空へ黒煙を吐きながら力なく落下していく。それを何とか下から支え、2機分の重量を担ぎながらよろよろと飛行する霧山機。彼女の機体も、関節のあちこちから火花を噴いていた。

 恐らく2機とも、これ以上の戦闘継続は不可能だろう。そう判断しつつ、アスランはイザークとディアッカに通信を送る。グフの様子はアスランの肉眼でも確認出来たが、大量の煙を吐きながら両膝をつき、大地に崩折れかけている。

 

「イザーク! ディアッカ! 

 応答しろ、ジュール隊!!」

 

 アスランの呼びかけに対し、しばらくは沈黙を保っていた通信だったが──

 やがて、酷いノイズに交じって切れ切れの会話が聞こえた。

 

《……うぐ……ミスった……ぜ……》

《ミスでは……ない! 相手を、見誤っただけ……だっ》

《それが、ミスだっての……馬鹿……》

《ば、馬鹿とは何だ、貴様ァ……こっちは、たいちょ……》

 

 こんな時でも口喧嘩を始めそうなその声を聞いて、アスランはほんの少しだけ胸を撫でおろした。

 あいつらだって、あのヤキンを生き抜いたんだ。そう簡単に、どうにかなるはずがない。

 アスランは改めて、上空のセイレーンを見上げる。

 

 奇跡か偶然か、たまたま動かなかったからか、俺は撃たれずに済んだ。

 ならば今、俺に出来ることは──

 

 次いでアスランはストライクフリーダムに視線を戻す。

 大地に這いつくばり、未だに動けないキラの機体。開かれたままのコクピットでは、ラクス一世は動じることなくキラを支えながら、じっとセイレーンを見上げていた。

 フレイはセイレーンの中でまだ葛藤を続けているのか、ラクス一世に銃口を向けながらも、そのトリガーを引くことは決して出来なかった。銃口を降ろしもしなかったが。

 荒れ狂うコロニーの大気の中、フレイとラクス一世が互いの意地を賭け、真正面から対峙している。その緊迫した空間に強引に入り込もうとした結果がこれだ。

 

 

 だが──

 俺にだって、意地がある。

 お前たちは一体何のつもりだ。何がしたくて死者を名乗り、キラやラクスやシンを奪い、赤子の手をひねるように仲間たちを墜とし、奇妙な神経兵器で世界を牛耳ろうとする? まさか、自分たちの身勝手な親子喧嘩に、世界中を巻き込もうというのか。

 力を持つ者が個人的な憎悪や妄執に囚われた時の惨劇を、俺は嫌という程知っている。

 世界平和の為? 地球を、プラントを守る為? 正義の為? 人の幸福の為? 

 父も、シンも、デュランダル議長も、俺自身も皆そう思っていた。皆そう願った。

 皆そう願いながらも、感情に任せて力を振り翳し、大量の血を流したじゃないか。お前たちがそうならないと、何故言える? 

 だからこそ、俺は──

 

 

 その時アスランの脳裏に浮かんだのは、首長としての威厳に満ちたカガリの言葉。

 

 

 ──これらは全て、オーブとその国民の誇りのみならず……

 人として当たり前の、親子の営みまでもを踏みにじる暴挙である! 

 

 彼女の言う通りだ。フレイとラクス一世のどちらが正しいかなど、今の俺には関係ない。

 お前たちの行為そのものが、人としての尊厳を冒涜している。

 

 倒されたグフを守るように、再び立ち上がるインフィニットジャスティス。

 同時にアスランの唇から零れた、静かな叫びは。

 

「これ以上、俺を……

 ヒトを、馬鹿に、するなァッ!!!」

 

 瞬間、アスランは幻視した──

 自らの内で弾ける、エメラルドの種子を。

 

 

 

 

 

 

 PHASE-48 告白

 

 

 

 

 

 

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