【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part2 アスランVSフレイ、コロニー内での激突

 

 

 痛い。痛い。痛い──

 これまでないほどの左腕の激痛を感じながらも、サイは未だ、微かに意識を保ちながら空を見ていた。

 

 どうしてだろう。俺の左腕は麻痺が進行していて、今じゃ殆ど痛みなんて感じられないくらいだったのに。

 それに、左腕のあるはずの位置を探ってみても、空気を掴んでいるだけなのは──

 左半身が、奇妙に軽く感じるのは──?

 

 すぐそばに、ナオト・シライシの泣き腫らした目があった。

 自分は今、ナオトに抱きかかえられながら、情けなくも呻いている。ナオトの大きな目からいつもの輝きが消えているように見えたのは、気のせいだろうか? 

 上空には、一体どこからどうやって飛来したのか、ティーダZが浮かんでいた。

 その隣で、ティーダZと線対称になるような形で浮遊している、紅の機体は──

 

「フレイ……か?」

 

 思わずサイは声に出して呟いた。

 あの、巨大砲塔の如き背部装甲を負った紅の機体ははっきり見覚えがある。間違いなく、フレイの新しい機体だ。

 そして感じる──

 彼女を。彼女の憤怒を。鐘の音と共に機体全体から迸る、彼女の憎悪を。

 その底に秘められた哀しみを。

 

 ──フレイ、やめろ。

 俺はまだ、生きてる。大丈夫だ。

 君だって知っているんだろう。俺が、死ねない身体になっちまったこと。

 

「サイさん!?」

 

 微かに呻きながら目を開いたサイを、思わず覗き込むナオト。大粒の涙が零れ落ち、そのうち何粒かがサイの頬で弾けた。

 大気中に反響している戦闘音。そして、二つの相反する鐘の音。頭が割れそうだ。

 これは──

 ティーダZと、フレイの機体の不協和音によるものか。

 

 サイの目からでは、何が起こっているのか殆ど判別出来ない。キラがどうなったのかも、フレイが何故ここにいるのかも、チグサはどこにいるのかも、血でぼんやりとした視界では何も分からなかった。

 それでもサイはナオトの肩を掴むようにして、起き上がろうとする。

 川底から持ち上げた右腕は泥と血にまみれ、その手で思いきりナオトを掴んだせいで、彼のパステルブルーのパーカーはさらに黒く染まった。

 その耳に届いたものは、ヴィーノの叫び。

 

「ナオト! バカメガネ!! 

 返事しろ、大丈夫かー!?」

 

 声のする方向へゆっくり頭を回すと、いつのまにか橋から河岸まで降りてきたのか、確かにヴィーノが急いでこちらへと駆けてくるのが見えた。

 だが、その瞬間──

 首筋を、酷く冷たい悪寒が突き抜けていく感覚。

 自分の視界からではよく見えないが、すぐ近くからの──怒りに満ちた叫びを感じる。

 

 これは、アスランか。

 やはり援護に来てくれたのか、ここまで──

 

 そう悟った瞬間、ナオトの肩に右腕だけでしがみつくようになりながら、サイは声を限りに怒鳴っていた。

 畜生、俺の左腕は一体どうしちまったんだ。酷く痛んでいるのに、何も掴めない。何も触れない。

 

「伏せろ! 

 衝撃が来る……っ!」

「!」

 

 サイのその叫びに弾かれたかのように、反射的にヴィーノは全身で水面に飛び込むように身を伏せる。

 その直後──

 天へ向かって砲弾の如く飛び出した深紅が見えた。それは勿論、アスランの駆るインフィニットジャスティス。

 ビームブレイドを携え、神速と表現しても差し支えないスピードでセイレーンに飛びかかっていく。当然、セイレーンも再びドラグーンシステムを起動させ、羽ばたく鳥にも似た無数の光がジャスティスに向けて撃ち放たれた。

 

 爆砕される──

 

 サイは一瞬そう思い頭を伏せたが、それはあくまで常人の感覚にすぎなかった。

 正面で大爆発が起こった瞬間には既に、ジャスティスはビームキャリーシールドを掲げて全ての着弾から機体を守りきった──

 かと思うとジャスティスは、防御に使用した盾をそのままセイレーンの頭部付近へと投げつける。

 あの盾はビームブーメランにアンカーも内蔵されている複合武装だ。その為、通常のビームシールドよりも相当な硬さを誇る。

 あれに直撃されては、いくらフレイでも──

 

 サイが思わず叫びかけた時、ジャスティスはさらに驚愕の機動を見せつけた。

 投げつけられた盾を、恐るべき反射神経でいとも簡単に躱すセイレーン。が、アスランはそのまま機体を大きく縦に空中で回転させ、脚部から飛び出したビームブレイドでセイレーンを蹴り上げていた。見事なサマーソルトキックの要領で。

 しかしそんなアスランの動きまで見切っていたのか、その蹴りすらもフレイは躱し、ビームブレイドはほんの少しセイレーンの右脚部を掠めたに留まった。

 

 ──だが、アスランの戦術はそんなフレイの読みをもさらに上回っていく。

 

 セイレーンがジャスティスの蹴りを避け、ほんの僅かな怯みを見せた瞬間──

 数瞬前にジャスティスがぶん投げたビームキャリーシールドが、恐ろしい速度でブーメランの如く舞い戻り、その機動は完全にフレイの隙を衝いた。

 凄まじい金属音を大気中に響かせ、セイレーンの背部装甲へと激突する複合兵装盾。

 さすがに大破には至らなかったものの、背部装甲──ドラグーンシステムの砲塔、そのうち2基が爆砕され、セイレーンは大きくのけぞった。

 同時に、セイレーンから放たれていた鐘の音も、不自然なほどぶつりと途切れていく。

 

《ちぃっ……外したか!!》

 

 スピーカから流れる、アスランの呟き。

 インフィニットジャスティスの右掌部には、ビームキャリーシールドから伸ばされたワイヤー、その先端部分のアンカーが半ば強引に握られている。シールドに内蔵されたグラップルスティンガーを利用して、アンカー部分を握った状態で盾の方を投擲武器の如く投げたのだろう。

 しかしあくまでアスランの狙いは、セイレーンの撃墜だ。背部から黒煙を上げながら体勢を整えようとするセイレーンに、再び飛びかかろうとするジャスティス。

 その時──

 

《そう簡単に、フレイをやらせるか! 

 アスラン! あんたの相手は、俺だ!!》

 

 ずっとストライクフリーダムを抑えながら静止していたデスティニーが、突如動いた。

 空中へ飛び出そうとするジャスティスに強引に組みついていく、紅の翼。

 さすがにこのデスティニーの動きは予想していなかったのか、予想していても避ける余裕がなかったのか。インフィニットジャスティスは空中で真横からデスティニーに食らいつかれ、そのまま2機は運河へと落ちていく。モビルスーツ2機が水底に激突した衝撃で、またしても付近の工業区域全体が大きく揺れた。

 上からのしかかるようにして、ジャスティスを押さえつけるデスティニー。

 ほぼ同時に、空で棒立ちになったまま静止していたはずのティーダZから、再び鐘の音が鳴り響く──

 セイレーンからの波動が停止した為か、もう一度ティーダZが動き始めていた。正確には、ティーダZの秘めた黙示録の力が。

 デスティニーのスピーカーから零れる呻き。それは、音による痛みに耐えるシンの叫びだった。

 

《ぐ、う……っ! 

 フレイ! キラさん! アスランは俺が抑える!! 

 早く、ティーダとチグサを……!!》

《シン、離せ! 

 お前はいつまでそこにいるつもりだ!?》

《あんたに言われたかない! 

 フレイ! 俺は後回しでいい、キラさんとチグサと、ティーダを

 ……っ!?》

 

 空中のセイレーンに向けて、デスティニーが叫んだその瞬間──

 組み伏せられていたジャスティスの右腕がデスティニーの腕を叩き払い、そのままの勢いで相手の胸部に掌を叩きつけた。グラップルスティンガー、その鋭いアンカー部分を握りしめたままの掌を。

 ちょうどそこがコクピットに近かったのか、酷い衝撃音とノイズが空へと吸い込まれていく。シンの絶叫と共に。

 

 

 

 

 

 

 それと時を同じくして──

 サイははっきりと見た。フレイたちとはまた別の機体が、コロニー内を滑空していくのを。

 その数、少なくとも4~5機。そのうち2機は既にティーダZの直上に占位し、純白の機体を捕らえようと狙いをつけている。

 

 あれは──間違いない。一度は俺を殺そうとした、レイダー。

 そして、目の覚めるような橙に塗られたグフ・イグナイテッド。

 

 反射的にサイはナオトの肩をもう一度掴み、声を限りに叫んだ。

 叫んだつもりが、微かな呻きにしかなっていなかったが。

 

「ナオト……あいつらを、引き離せ!」

「えっ?」

 

 ずっとサイを見つめながら涙していたナオトは、突然の指示に戸惑いを隠せない。

 ちょうどその時、ようやくヴィーノが二人の元へたどり着き、ナオトの背後からサイを覗き込んだ──

 

「って、おい、バカメガネ!! 

 お前今、自分がどういう状況か分かってんのかよ!? その腕……!!」

 

 先程水面に思いきり伏せた為か身体中泥まみれだったが、それでもヴィーノの顔が一瞬で青ざめるのは、サイにも分かった。

 自分の左腕がどうなったのか──もうこの時点でサイ自身にも想像出来たが、痛みを無理矢理引き剥がすようにサイはヴィーノにも叫ぶ。

 

「君も、頼む。

 このままじゃ、ティーダZはあいつらの餌食だ! ナオトに掴まれ!!」

「えっ?」

 

 ナオトもヴィーノも、一瞬ではサイの言葉の意味が理解出来ず、二人はまじまじと彼を見つめた。

 

 ――それはそうだろう。俺だって自分が何を言い出したのかよく分からない。

 だが、そうしろと何かが俺に呼びかける。それもティーダZの力なのか、フレイがいるからなのか、それとも──

 

「いや、お前……それより、早くその腕……!」

「そうですよサイさん! すぐに治療しないと、このままじゃ!!」

 

 そんな二人の言葉を強引にぶった切るように、サイは怒鳴った。

 

「説明してる時間はない。

 ヴィーノ、君が自分で言っただろう。

 ティーダZが君を受け入れないはずがないって!」

 

 サイの言葉で、ヴィーノの表情がぐっと引き締まる。

 その意図に勘づいたのか、彼もサイと同じようにナオトの肩に両手をかけた。

 

「よく分かんねぇけど……

 とにかく、あいつらをティーダZから遠ざけりゃいいんだな!? 

 任せろ。絶対に、指一本触れさせない!」

 

 こくりと頷くサイ。何が起こるかは自分でも分からないが、やるしかない。

 そんな彼とヴィーノの意図をナオトも感じたのか。二人に掴まれながら、ナオトは天を見上げた──

 

 

 上空に留まったままのティーダZ。その純白の装甲が再び、光を放ち始める。

 橙のグフ・イグナイテッドがスレイヤーウィップを構え、今まさにティーダを捕らえようとしていたところだったが──

 瞬時にティーダZの左腕が動き、装着された空力防盾で見事にウィップを防いだ。

 

 

《なっ……!? 

 ナオトはあそこだろ? 無人のまま起動したってか!》

 

 

 驚愕に思わず声を荒げるパイロット──その声にはサイも聞き覚えがあった。アマクサ組の隻腕整備士・ミゲルだ。

 かつては共に戦い、サイに対しても気さくだったミゲル。その少し横には黒のレイダーも構えている。恐らくあれに乗っているのはトール・ケーニヒだろう。

 キラも、フレイも、マユも、ミゲルにトールまで。

 かつて共に命を賭して戦ったはずの仲間が、今は敵に回っている。

 この状況にサイは改めて歯噛みをしながらも、ティーダZから決して目を離さなかった。

 

 

 ――今の俺にもまだ、新たな仲間がいる。

 それに、キラ、フレイ、マユ──俺はお前たちを諦めたわけじゃない。

 お前たちは決して、俺の敵なんかじゃない。

 だから俺は、助けるんだ。ナオト、お前だってそうだろう。

 

 ──当たり前です。

 僕は今だって、マユを諦めてなんかいない。

 何を忘れたって、僕は──!! 

 

 

 そんなナオトの声が、脳裏に響いたと思ったその時。

 ティーダZから発振された音波が、一段と強くなる。目の眩むような白の輝きと、嵐と共に。

 ヴィーノが叫ぶ。

 

「ナオト! 

 気持ちは分かるが、少し出力の調整は出来るか!? 電磁波がこれ以上きつくなったら、コロニー自体が危ねぇ!!」

「──!!」

 

 やってみます、と言いかけたのか。ティーダZを見つめたままのナオトの表情が、少しだけ歪む。

 その想いが届いたのか。コロニー中に響きわたる鐘の音が、少しだけ抑えられる。

 それでも十分にレイダーやグフの動きを封じる効果はあるのか、ティーダZを眼前にしたまま、両機は足止めを食らっていた。

 

《こいつはヤバイな……

 フレイ、トール、ここは一旦退散だ。セイレーンの『歌』が使えなくなった今、あいつを捕まえるのはちょい厳しいぜ》

《仕方ないね。フレイ、行くよ!》

 

 ──しかしそんなトールの声にも、フレイはじっとセイレーンを空中に留めたまま動かない。

 セイレーンの両腕は再びライフルを構え、その銃口は──

 ストライクフリーダムのコクピット。そこに未だ立ちはだかる、ラクス一世に向けられていた。

 

《今撃たねば……

 私はもうこれ以上、許すことは出来ない。

 今、貴方を撃たねば、貴方はいずれ私から全てを奪う!!》

 

 それでも動かないラクス一世。

 フレイが自分を撃てないと分かっている余裕からか、微笑みさえ見せつける。

 

「奪うも何も……

 母は娘のもの。娘は母のもの。

 貴方は世界のものであり、世界は貴方のもの。

 ずっと前から、そう教えているではありませんか」

 

 そんなラクス一世の声に応じるが如く、突如として上空から舞い降りてきたものがあった。

 フレイから彼女を護るように。

 

《ラクス様! ご無事ですか》

 

 そんな声と共に、酷い重量を伴って上空から無遠慮に、川を踏み砕くように着陸したのは──

 ヒルダ・ハーケンの操る、ドムトルーパー。彼女の率いる他のドム2機も、彼女に付き従うように降りてくる。あまりに荒っぽい着地で、サイたちのいる河岸もまた大きく揺れ、3人とも頭から水飛沫を被ってしまった。

 同時にドムの単眼が異様な紅に輝きながら、上空のセイレーンを睨みつけた。

 

《フレイ・アルスター……

 やはりラクス様に牙を剥くか! 我らの歌姫ラクス・クラインのみならず、そのご母堂までも手にかけようとは!! 

 ラクス様を母娘ともども暗殺し、エターナルやターミナルまでもまんまと手中にしようという算段か!》

《そこをどけ! 貴様のくだらぬ妄想に付き合っている暇はない!!》

《所詮、連合の薄汚いメス犬の名を名乗る痴れ者よ!!》

《何だと……!!》

 

 今度は情け容赦なく、ドムトルーパーに銃口を向けるセイレーン。

 サイには分かった──恐らくフレイの冷静さは今、完全に吹き飛んでいる。それは俺がキラに傷つけられたことによるものか、それとも他の要因によるものか。

 アフロディーテを操っていた時の冷静さや狡猾さ、器用さが殆どないように思える。先ほどのアスランの攻撃にしても、アフロディーテの頃の彼女ならば回避出来た気がするのに。

 フレイの動きは、明らかに以前より鈍重になっている。それは一体──

 鐘の音と左腕の痛みに耐えながら、サイが考えを巡らせたその時。

 

《やめなさい! 

 これ以上コロニーで暴れたら、本当にみんな、死ぬわよ!!》

 

 ティーダZを護る光の如く港口から飛来したのは、デスティニーと同じトリコロールカラーのモビルスーツ──

 フォースインパルスガンダムだった。

 

 

 

 

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