【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
part1
ウーチバラから離れること──オーブのイズモ級戦艦なら、およそ30分といったあたりのデブリ帯。
無数に散らばる隕石のうち一つ、その裏側に
――地球連合第81独立機動軍・ファントムペインの母艦、ガーティー・ルーが取りついていた。
ユニウス条約で禁じられたはずの光学迷彩技術・ミラージュコロイドで艦全体を覆い、隠密行動を得意とする特殊工作艦である。つまり──
この船こそ、アマミキョとウーチバラを襲撃した連合の特殊部隊であった。
そのカタパルトには既に、先ほどの戦闘で中破したダークダガーLが収容されている。
そしてたった今、ウィンダムが仲間の同型機に助けられつつ、艦に激突せんばかりの勢いで着艦してきた。
カタパルトの奥で待機していたもう一機のウィンダムのコックピットでは、一人の少女が不安げにその様子を見守っていた。
既にパイロットスーツに身を締めつけられ、大きな瞳をバイザーの下で見開いている。
「ネオ!
アウルが泣いてる……!」
着艦したウィンダムから、ぐったりとしたままの少年が引きずり出されてくる。
何かに怯えながら中空を睨み、意味不明な言葉を叫び続けている水色の髪の少年。
まだ幼さの残る可愛らしい顔をしているが、その瞳孔は恐怖に縮みきり、唇の端からは泡の混じった涎が垂れ下がっていた。
――その痛々しい姿が、少女の目に焼きついていく。
さらに言えば、既に着艦していたダークダガーLからは、先ほど血みどろになった少年が担架に乗せられ、運ばれていったばかりだ。少女もよく知る、草色の短髪の少年が。
左腕と左脚部を失い無様な姿で倒れ、ちぎれた血管のようなケーブルを切断面から何本も露出させたままの機体。
そんな有様の黒いダガーLに取りつき、バイザーごしに怒鳴りあう整備士たち。
装甲の狭間で時折走る小さな閃光が、少女の不安を倍増させる。
「スティングもケガしちゃったのに……」
少女の乗るウィンダムの隣では、紫に染められた流線型のモビルアーマー・エグザスが待機していた。
4基の分離式兵器・有線ガンバレルを装備した麗しい姿の機体から、通信が入る。
《ステラ。アウルから伝言だ。
あんな状況でもアイツ、しっかり見てくれたよ
――》
流々と指示を伝えるその声に、彼女は徐々に落ち着きを取り戻していく。
パニックに陥りかけた心を、不思議と抱きしめて安心させてくれるような声が、少女の脳にこだまする。
大丈夫。ネオがいれば、大丈夫。
「ネオ……
分かった。光に気をつける!」
《遮光フィルタの調整をしておくように。いざとなればモニターを切る事態になるかも知れん。
大丈夫だステラ、俺がついてる――心配するな》
その言葉が切れた時には、もう少女の唇には微笑みが浮かんでいた。
「安心して。私、許さないから。
アウルとスティングを、傷つけた奴ら……!」
紫のモビルアーマー・エグザスの内部。
無邪気にコックピットに響くステラの声を聞きながら、ネオ・ロアノーク大佐は唇を噛んだ。
若干窮屈に締まり気味の、灰色の仮面が軋む。
《エクステンデッドの2機を残して全滅か。
例の『計画』とやらを死守すべく、奴らも必死というわけだ》
ガーティー・ルー艦長、イアン・リー少佐の声が響く。ネオもまた一人ごちた。
「──メンデルの皇女、か」
これはネオ自身が勝手に「彼女」につけた通称である。これから敵となる相手に。
いかにウィンダムやダガーLが量産機とはいえ、これほど簡単に撃墜されるとは。
しかもそのうち2機は、連合によって強化されたパイロット──通称・エクステンデッド──が搭乗しているはずなのに。
ウィンダムに乗っていたアウル・ニーダ。ダークダガーLを駆っていたスティング・オークレー――
いずれも命からがら帰還はしたが、手ひどく痛めつけられている。
「チュウザンのお嬢さん方……いるのは分かってるんだ。
可愛い部下を傷つけられた怒り、思い知れよ」
開かれたカタパルトの向こうの闇を見据える。静かな星空が広がっていたが、そのさらに向こう側にいるものをネオは仮面の下から睨んでいた。
視界は良好。誘導灯が次々に点灯し、エグザスのスマートな機体が、震えた。
「ネオ・ロアノーク、エグザス、出るぞ!」
PHASE-04 ドジっ子、出撃
ガンダム・ティーダ。型式番号MBF-T03。
かつて地球連合で製造されたブリッツガンダム、その改造型としてコロニーウーチバラにて、文具団とモルゲンレーテ社共同で開発された機体だ。
ロールアウト直後、傭兵部隊アマクサ組一番隊隊員、マユ・アスカがテストパイロットとしてこの機体に乗り込み、同時にティーダのデータバンクに、彼女が一人目のパイロットとして登録された。
ティーダは複座式であり、基本的には2名で操縦する機体であるが、二人目のパイロットはその時点で未定だった。
マユの兄であるカイキ・マナベがその第一候補として挙げられていたが、彼はナチュラル故、ティーダオリジナルのシステム・「黙示録」をうまく作動させることが出来なかった。
また、マユと同機体内にいたのでは彼女を外部から守れぬという理由から、カイキ自身が二人目の登録を辞退。
他に候補がおらず、ティーダは二人目の操縦席が空白となったままだった。
ティーダを搭載予定だったアマミキョは、そのまま出航の日を迎え──
テロリストの襲撃に遭遇する。
この時負傷したマユの代わりに、偶然居合わせたSunTVレポーター・ナオト・シライシがティーダに乗り込み操縦を行なうも、素人ゆえに窮地に陥り、マユの咄嗟の判断により、マユとナオトの2名で「黙示録」を作動させる。
ナオトがハーフコーディネイターだったからこそ可能な芸当だったが、これによりナオト・シライシの指紋・声紋・虹彩データがティーダの中枢に記録され、彼が二人目として登録されるに至る。
登録解除にはハードレベルでのパーツ交換か、登録データの書き換えが必須だが、前者は既に代替パーツが破損した為不可。後者は、コーディネイターによる解析技術をもってしても最低40時間以上かかる。
「黙示録──
それを作動させた者が、太陽(ティーダ)を動かす」
──それが、サイたちがフレイから聞かされた、ティーダの概要だった。
「つまり、40時間以内に何もなければ大丈夫なんですよね」
ティーダのコクピットで、慣れないパイロットスーツを身につけたばかりのナオトが呑気に言う。
パイロットスーツと言っても、比較的小柄なナオトの身体に合うパイロットスーツはなかった。今ナオトが着用しているのは、ノーマルスーツを無理矢理に改造してパイロット用に仕立てていたものを、倉庫から引っ張り出してきたものだ。
サイはティーダに取りつきながら、思わずナオトをしげしげと見つめた
――素直すぎる。
「君、それ信じるのか?」
「あの人が言うなら、信じるしかないでしょ。
アストレイの操縦ならやったことありますし、その時結構素質あるって言われ……」
脳天気に笑顔まで見せるナオトを、サイは遮った。「索敵チェックモニターの位置は大丈夫だろうな?」
デッキの上から、ハマーの声も響く。「間違って照明弾撃つんじゃねぇぞ!」
ナオトは真面目に反応してしまう。
「バカにしないで下さい、これでもジンの最新型とやりあったんです!」
「クッハハハハハ!
マユちゃんが、な!!」
ハマーの侮蔑がデッキ中に響いた。完全に馬鹿にしたような嗤いと共に。