【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
※劇場版を見るだいぶ前に書いたものなので、ヒルダさんの性格がかなりキツめです。ファンのかたはご注意ください。
サイとナオトの救出をヴィーノに任せ、全速力でミネルバJrに戻ったルナマリア。彼女は赤服のままインパルスに乗り込み、緊急発進していた。
その時には戦況は大分変化し、既にジュール隊も山神隊もそれぞれ2機ずつ中破していた。さらに悪いことに、グフにレイダー、そしてドム3機の侵入を許してしまっている。
「あいつらだって……
一応、ザフトじゃなかったの?」
上空からドムトルーパーを睨みつけながら、ルナマリアは自分でもそれと分かるほど忌々しく表情を歪める。
あぁ、そうか。ザフトである前にバリバリのクライン派だったっけ。だから……
「こんな恥知らずな真似も、平気で出来るわけ」
ドムトルーパー隊が踏み抜いた運河の惨状をつぶさに見つめながら、ルナマリアは操縦桿を押し込んだ。
ティーダZから発振される鐘の音は先ほどより強力になったように思えるが、何故かルナマリア自身はそれほど頭痛を感じない。明らかに誰かの手が加わって、この音が少し優しくなった気がする。
背部装甲が半壊したセイレーン。それを護るように立ちはだかるレイダーにグフ。
モニターの隅では、インフィニットジャスティスがデスティニーを抑え込んでいた。
彼女が息を飲むより早く、飛び込んでくるアスランの通信。
《ルナマリア!
シンとデスティニーは確保した、君はサイとナオトの救出を頼む!》
「了解!!」
アスランの声に弾かれるように、インパルスはすぐに運河へと飛んで行った。
「フレイ。こいつは無理だぜ……
ドム隊とここでドンパチやるわけにいかねぇだろ」
グフ・イグナイテッドのコクピットで状況を見据えていたミゲルは、遂に諦めの声を上げた。
自分たちの目的はあくまで、ティーダとアマミキョ、そしてサイとナオトの確保だ。しかし、その為にミントンに派遣したチグサもキラも今や戦闘不能に陥り、シンはジャスティスに抑えられてしまっている。
その上こともあろうに、フレイが怒りのあまりラクス一世を狙撃しようとしている瞬間を、ドムトルーパー隊に目撃されてしまった。
彼女たちは何をおいてもまずラクス・クラインの守護を最優先する者たちであり、それはラクスの母親であっても同じである。
元から、ドムトルーパー隊を味方に引き入れるのはミゲルもトールも消極的ではあった。
根は決して悪くはないものの、平和の歌姫の守護者としては若干ガサツな面が目立ち、中でもヒルダ・ハーケンはラクスに対して過剰な愛情を抱いているようにさえ見えたから。
ラクスの恋人とされるキラには特にヒルダの態度は冷たく、必要時以外で滅多に彼女とキラは言葉を交わしたことがなかった。
そのような者たちに今の光景を見られては、ろくでもない勘違いを引き起こすのは目に見えている。恐らく今の彼女らはフレイの指示など、全く聞かないだろう。
ここでドム隊と本気でやり合うのは簡単だ。しかしそうなればサイやナオトの安全も保障出来ないのは勿論、コロニーの崩壊も避けられない。
そして眼前には黙示録発動中のティーダZが立ちはだかり、インフィニットジャスティスに加えインパルスまでが加勢している。黙示録に対抗可能なセイレーンの『歌』が使えなくなった以上、彼らにこれ以上抵抗するのは難しい。
ミゲルのグフもトールのレイダーも健在とはいえ、今は恐らくキラやチグサの救出で手一杯だ。
キラやシン、チグサに任せれば問題ない。そう確信しての奪取作戦だったはずが──
一体どこで、ここまで狂った。やはりラクス一世がフリーダムに同乗したのが、全ての過ちだったのか。
通信の向こうで、フレイの無感情な声が響く。
《……ミゲル、トール。
一旦退却だ。キラとチグサ、シンを確保した後、シュンテンへ戻る》
同時にセイレーンのスラスターが光を放ち、倒れこんだままのストライクフリーダム・ルージュの前に降り立つ。そしてそのままルージュを抱くように機体を抱え込むと、再び空へと飛翔した。
同様に降りたとうとしたグフのコクピットに届いたものは、シンからの切れ切れの通信。
《……すまない……フレイ……
だけど今は、チグサとキラさんを連れて、逃げ……ろ!
俺なら、自分で……何とか……!!》
デスティニーからの通信はそれきり、途絶した。
機体を完全にジャスティスに抑え込まれ、引きずられるようにして空へと牽引されていくデスティニー。そのコクピット付近はフェイズシフト装甲でほぼ無傷に見えたものの、内部への衝撃がよほど激しかったのか、僅かに黒煙が上がっている。生きているのが不思議なほどのダメージを集中的に叩きこまれたに違いない。
「俺こそすまん、シン。
ちょっと今は、お前にまで手が回んねぇ……」
ため息とともに呟くミゲル。無理矢理デスティニーの救出に向かったとしても、今のアスランに自分がかなうとは思えない。
モニターの隅では、倒れたままのストライクフリーダムの元へ集まっていくドム隊が映し出された。恐らくラクス一世を保護しに行ったのであろう──
それに応じて、コクピット付近でキラが僅かに頭を上げるのが見えた。ドム隊が彼をどうするかは分からないが、今は自分たちの脱出を優先するしかない。
気絶していないのなら、キラも恐らく彼自身の意思で動くだろう。彼が俺たちに牙を剥く可能性も否定は出来ないが。
だがミゲルは心のどこかで、妙に安心した自分を感じていた。
俺たちの姫もやっと、母親離れ出来るようになったってことか──
俺たちアマクサ組にとっては後退であっても、フレイにしてみれば大きな前進だ。
これまで母親の操り人形でしかなかった彼女が、母親に銃口を向けた。母親に殴りかかろうとした。それだけでも──
「──これで、サイが生き残ってさえくれればな」
ミゲルが誰にともなく呟いたその時、トールからの通信が、コクピットに響いた。
《一応俺、キラを見てくる。
ちょっと心配だし》
「おう……無理すんなよ」
ストライクフリーダムの元へ飛んでいくレイダーを確認しつつ、ミゲルもまた自機を飛翔させた。地上に残ったティーダZを、どこか寂しげに見守りながら。
「ラクス様! ご無事ですかっ」
完全に夜の時間帯になったミントン・中央運河。
戦闘によりすっかり荒れ果てた河の上で、ヒルダ・ハーケンは自ら機体を降り、ラクス・クライン──即ちラクス一世の救出に赴いた。
うつ伏せの姿勢で倒れこんだままのストライクフリーダム。そのコクピットで優雅に立ち上がっているのは、間違いなくヒルダの憧れ──ラクス・クライン。
ヒルダにとってはラクス本人もその母も同じ憧憬の対象であり、無償の尊敬を送り最優先で庇護すべき人物だった。ラクス・クラインに起こった不幸な事件を勿論ヒルダも知っていたが、やったのは南チュウザンの心無い暴徒たちだと信じて疑わない。母親が娘にそう仕向けたなどとは、夢にも思わない。
それどころか彼女は、一番にラクスの救出に飛び込んだフレイが事件の真犯人だと疑っていた。ラクス一世の願いを受けて南チュウザンに与したものの、フレイの元で働くのは彼女も、ドムトルーパー隊の二人も納得がいかずに戦っていたのである。
そしてフレイがラクス一世に銃口を向けたことで、ヒルダの中でフレイへの敵意がはっきりと強固なものとなった──
それを知ってか知らずか、ラクス一世は優しくヒルダに微笑む。
「ありがとう……わたくしなら大丈夫です。
それより、キラを」
言いながらラクス一世は、慈しみ深い眼差しで自らの左腕を見つめた。左腕に優しく抱きかかえたキラを。
それを見て、ヒルダの中で強烈な怒りが目覚める。
──ラクス様にずっと付き添っていながら、この男は一体何をしていた。
ラクス様が襲われたという忌まわしい事件にしてもそうだ。この男は何も出来ず、ラクス様を発見した時叫んでいただけという話じゃないか。
今もなお、ラクス様が戦闘のさなか気丈になさっているというのに、これほどの腑抜けになるとは──
いかに無敵のストライクフリーダムとはいえ、所詮は子供。まだまだ小僧っ子ということか。
ラクス一世を庇うようにしながら、ヒルダは強引に彼女からキラの腕を取り、引きずり上げる。
「何をしている!
ラクス様のそばについていながら、貴様は!!」
だがキラはそんなヒルダに対しても、何の反応も示さなかった。
ただ、ずっと俯いたまま力なく呟いただけ。
「……フレイは……死んでない……
彼女は言ってくれたんだ。私の想いが、貴方を守るって……」
そんなキラの呻きに、ヒルダの怒りが爆発する。
「情けない奴……!
お前のような子供に易々とラクス様を委ねていたなど、このヒルダ、一生の不覚!!」
ラクス一世を身体ごと抱きこむようにキラから引き剥がすと、ヒルダはそのまま彼女だけを両腕で抱えて自機のコクピットへと舞い戻っていく。当然のようにキラは放置して。
背後からヘルベルトの突っ込みが響いたが、ヒルダは全く意に介せず、ドムトルーパーを起動させた。
「いいのかい? あいつ、連れて行かなくて」
「しばらく頭を冷やさせる! 全く……!」
ティーダZが無人のまま黙示録と思しき力を発動させていたのは、時間にするとほんの数十秒にすぎなかった。それでも侵入してきた者たちを威迫する力は十分にあったのか、次々と空から地上の侵入口へと舞い戻っていくモビルスーツの群れ。
鐘の音が未だ残響を轟かせる中、セイレーンやオレンジのグフ、ストライクフリーダム・ルージュも、ドムトルーパー隊も、やがてミントンから姿を消していった。
インフィニットジャスティスも、キラをどうするか若干躊躇っていたようだが──
やがて無抵抗のデスティニーを抱え、港へと飛んでいく。
それを確認するとほぼ同時にナオトは力尽きたのか、ぷつんと糸が切れたかのようにサイとヴィーノの前で崩れ落ちる。ヴィーノの軽い悲鳴が響いた。
だが、サイにしてももう、ナオトを心配している余裕はなく。
急激に身体から血の気が引いていく感覚と共に、その視界が真っ暗になる。
ぶり返してくるのは、左腕の激痛。
意識を失う刹那に見えたものは、空の向こうに消えていく、セイレーンの紅。
──フレイ。
俺、何となく、分かったよ。
君が本当は何をしたいのか。一体何が目的で、こんなことをしているのか。
そういうことか。全部、繋がっていたんだな。
今になって、気づくなんて……俺、本当に、バカだ。
直後にインパルスが3人の救出に来たのも気づかぬまま、サイの意識はそのまま、闇に呑まれていった。