【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part4 『トール』なら、どうする?

 

 

 味方が次々と退却していく中、1機だけ取り残されたストライクフリーダム。

 ラクス一世がドム隊に保護された後もなお、キラはじっとその場に蹲って動かなかった。開け放したコクピットもそのままに。

 その眼前に舞い降りる、黒の機体──レイダーガンダム。

 キラの様子を見るなり、そのパイロット──トール・ケーニヒは大きなため息をついてしまった。

 

「全く。御方様と一緒にあいつら、回収してくれりゃ良かったのに……

 って、無理か。今のヒルダじゃなぁ」

 

 自らもコクピットハッチを開放し、キラに正面から呼びかける。

 あれだけコロニー内を混乱させていた黙示録の鐘の音は既に消え、サイたちもインパルスに救出されたのか、モニターでいくら探っても発見できなかった。

 住民たちは屋内に避難したのか街に人気はなく、コロニー内を吹き荒れる突風だけがそのままだ。

 さすがにこのストライクフリーダムを拿捕する余裕はなかったのか、インパルスはそのまま港へ飛んでいったようだが──

 それでも、時間がない。特にアスランなど、いつ舞い戻ってこられてもおかしくない。

 

「なぁ、キラ。

 このままだと、お前もあいつらに捕まっちまうぞ? 

 それともその方がいいか。アークエンジェルに戻ったほうが……

 いっそ、俺もそーしよっかなー。またミリィにも会えるだろうし」

 

 そんなトールの言葉に一瞬身体を硬くし、無言で首を横に振るキラ。

 仕方がない。トールは軽くため息をつきながら、風に逆らうようにキラへ手を伸ばす。

 ──多分、『本来の』トールなら、こうするだろうから。

 

「とにかく、シュンテンに戻ろうぜ。

 お前が嫌って言っても、俺はお前を連れてくけどな」

 

 そんなトールの言葉に、キラはほんの少しだけ顔を上げる。

 完全に気力を失った紫の瞳が、彼の視線とかち合った。

 

「……君がそこまでする必要、ないよ。

 僕は、ちゃんと戻るから。フレイと、ラクスの為にも」

 

 一瞬視線は合ったものの、すぐにキラは顔を逸らしつつコクピットへと戻ろうとする。

 風で足を取られそうになりながらも、トールはそんなキラをしばらく見据え、考えを巡らせていた。

 

 ──トールなら、こんな時、どうする。

 

 目の前で失った、一番大切な存在。その幻影に翻弄され、キラはこんなところまで来てしまった。

 ずっとそばにいたラクスを守れず、封じていたはずの彼のトラウマは完全に蘇り──

 その結果、彼は親友やかつての仲間たちや船、全てを敵に回した。

 かつて守り切った友を、その手で自ら傷つけた。

 今キラの周りにいるのは、彼の力を利用しようとする亡霊たちばかりだ。トール自身も含めて。

 奇跡の復活を遂げたかに見えたフレイでさえ、その正体は亡霊であり別人。しかも彼女の心はキラではなくサイにある。

 サイにフレイの真実を指摘された結果、キラは遂に壊れてしまった。否、大分前から壊れていたのかも知れないが。

 ──こんなキラを今見たら、トール・ケーニヒは何と言う? 

 

「なぁ。

 ひとつ、いいか?」

 

 伸ばした片手もそのままに、改めてキラに言葉をかけるトール。

 

「キラの生まれが結構複雑なこと、俺はとっくに知っちゃってるよ。

 だってお前の為に、俺は生み出されたようなもんなんだから。

 自分の存在意義って何だろうって、悩んだことだって何度もある。

 だけどさ──俺、思うんだ」

 

 目の前のキラに、俺の言葉は届かないかも知れない。

 だけどそれでも、今は言うべきだ。この言葉を──

 サイが命を賭して、フレイの真実をキラに突き付けたように。

 自分と同じような立場だったニコルが、明確にアスランを見限り、自らの意思でフレイの為にその身を捧げているように。

 

「誰が何を言おうと、キラはキラで、俺は俺。

 誰に否定されようが肯定されようが、スーパーコーディネイターだろうがナチュラルだろうが何だろうが、そいつはずっと変わんない。

 俺にとってキラは、ちょっと引っ込み思案だけど、優しくていい奴。それだけだ。

 ──こいつは、天国からの、俺の言葉」

 

 慣れないウインクまでしてみせながら、トールは無理矢理にでも笑顔を作る。

 そんな彼の言葉に、キラの瞳にほんの少しだけ、光が戻った。

 

 ──トール・ケーニヒ。お前がずっと生きてキラのそばにいれば。

 こう言えるお前が今でも生きていれば、キラもこんなことにはならなかったかもな。

 

 そんな想いを抱きながら、トールはキラへもう一度、ぐっと手を伸ばす。

 やがてキラは意を決したように眉を上げ、彼の手を取った。

 

「……ありがとう。

 君がいてくれて、良かった──トール」

 

 そんなキラの言葉に、トールの胸は思いがけず熱くなる。

 

 ――こちら側に来てからも、キラは滅多に俺たちアマクサ組の名前を呼ぶことはなかった。

 フレイに対してでさえも、必要時以外は決して彼女をフレイと呼ばなかった。

 だけど今──キラは俺を、ちゃんとトールと呼んでくれた。それが、単純に嬉しい。

 そりゃそうだ。だって俺は、いくら仕組まれて生み出されたとはいえ、死者のコピーとはいえ、トール・ケーニヒでしかないんだから。

 

 こみ上げた感情に任せ、トールは思いきりキラの手を握り返した。

 

 

 

 ミントンからレイダーとストライクフリーダムが脱出を果たしたのは、それから僅か1分もなかった。

 インフィニットジャスティスで再びアスランが駆け付けた時には既に、2機はコロニーから遥か向こうの宙域へと、光芒を残して飛び去っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 L3宙域に浮かぶコロニー・ウーチバラ。そして、それを守護する機動要塞・オギヤカ。

 オギヤカの主幹部分に位置するメディカルルーム、その最深部に──

 ムウ・ラ・フラガはたどり着いていた。レイラ・クルーに誘われる形で。

 

「こ……これは!?」

 

 その中心部にあるものを目撃した瞬間、フラガは思わず一歩後ずさる。

 レイラにあらかじめ警告され、覚悟はしていたはずだった。しかしこれは──

 

「何故……

 ここに、ステラが……?」

 

 フラガの眼前に展開されていたものは、

 どこまでの高さがあるか分からないほどの空間から、巨大な試験管の如く吊り下げられたガラスの筒。中身は紅を帯びた液体で満たされていたが、そのほぼ中心に、女神像のように眠っていたのは間違いなく──

 生まれたままの姿の、ステラ・ルーシェだった。

 紅の液体に漬けられたまま、無数のチューブが彼女の身体から生えている。

 ほっそりした身体はどういうわけか一切腐食しておらず、それどころか胸元が微かに動いて呼吸をしているようにすら見える。

 ネオ・ロアノークとしての、フラガの罪の証。

 それが今、微かに息づきながら眼前に降り立っている──こいつは一体、何の皮肉だ。

 

「俺に、会わせたい人物ってのは……」

 

 フラガはそっとレイラを振り返る。彼女は静かにうなずいた。

 

「ここは、オギヤカの最深部。同時に、セレブレイト・ウェイヴの核となる場所でもあります。

 私たちは、ここを『子宮(ユテルス)』と呼んでいます」

「そりゃまた……デリケートな命名なことで」

 

 精一杯軽口を叩こうとしたフラガだったが、どうしても声が震える。

 

 ――このステラは一体何だ。生きているのか。

 ベルリンでステラと共に出撃した時、俺は情けなくも撃墜されてアークエンジェルに拾われた。ステラの死亡を知ったのはかなり後になってからだが──

 俺の元にいたファントムペインの子供たち、3人。スティング、アウル、それにステラ。

 彼らの誰一人として、俺は守れなかった。それどころかステラをデストロイに乗せるのを止めることすら出来ず、彼女が恐怖に泣き叫びながらデストロイで大量殺戮を犯していくのを、ただ見ていることしか出来なかった。

 優しくて暖かい世界にステラを返す。そんなシン・アスカとの約束も、一切守れなかった。

 ──それなのに何故、ステラは。

 

 茫然と見上げるしかないフラガに、レイラは淡々と話した。

 

「彼女には今、アマミキョの魂と言えるデータが封じ込められています」

「何だって……アマミキョの?」

「正確には、アマミキョが撃沈される直前のデータです。

 数多くの人々の感情を分析し、人の『魂』をデータ化し集積したものが、アマミキョのハーモニクスシステム。

 アマミキョの遭遇した多くの事件により、ハーモニクスシステムには理想的なデータが次々と集められた。ティーダの力も、それに大きく貢献した。

 ステラ・ルーシェが媒介となることによって、ハーモニクスシステムはセレブレイト・ウェイヴと繋がる」

 

 アマミキョが人の感情を束ねる為の実験船だった件は、フラガも勿論知っていた。その為にフレイたちアマクサ組が動いていたことも。

 だが──ハーモニクスシステムと、セレブレイト・ウェイヴの媒介となるのが、ステラだと? 

 

「ステラ・ルーシェはデストロイパイロットとして、類稀なる素質があった。

 それは同時に、ハーモニクスシステムの媒介たる素質でもあったのです。私たちはそのような存在を、『御柱』もしくは『依代』と呼んでいます。

 それゆえ、彼女は選ばれた。同じく『御柱』としての素質を持った、マユ・アスカ──チグサ・マナベと共に」

「チグサが……

 シンの妹だっていう、あの娘が?」

「元々、『御柱』として確保されていたのはチグサ・マナベです。

 だからセレブレイト・ウェイヴを巡るこの計画は、『チグサ計画』とも呼称されていた。

 そしてタロミはとても欲張りで、かつ慎重な人間でした。計画の確実性を高める為に、『御柱』にはSEED持ちを望んだのです。

 結果として、SEED持ちの可能性が高いマユ・アスカ、そのカーボンヒューマンの身体に瀕死のチグサの脳を埋め込んで、『御柱』に仕立て上げようとした。同時にタロミの夢であった『ヒトの復活』をも成そうとしたのです。

 余談になりますが──ムウ様。もしかしたら、チグサ計画はムウ計画になる可能性さえあったのですよ」

「へ?」

 

 ろくでもないホラー映画に、突然自分の名前を出された。そんな異常な感覚に、フラガは狼狽える。

 しかしレイラは微笑みさえ見せながら、さらに話し続けた。

 

「タロミが姉上を使って貴方を蘇生させたのは、貴方の空間認識能力をさらに解析する為でした。

 フラガ家の遺伝子には、血族同士ならばいわゆるテレパシーにも似た意思疎通が可能という特殊な力があります。フラガ家の血を引く純然たるナチュラルたる貴方にタロミは興味を示し、その能力は慎重に解析され、アマミキョのハーモニクスシステムに組み込まれた」

「初耳だ。俺の力が、アマミキョに?」

「えぇ。それ故、アマミキョに搭乗した者、関わった者は多かれ少なかれ、擬似的な空間認識能力に目覚めたはずです」

 

 フラガは思い出す。ティーダが黙示録を発動した時、奇妙な鐘の音と共に心が無理矢理開かされていくような感覚は──これが原因だったのか。

 

「人間の脳から発される電気信号についてはこれまでも、医療や介護の分野で研究が続けられてきました。手足がマヒした脳梗塞患者であっても、脳にインターフェースを装着することによって義手などのユニットを動かすことが出来るでしょう? 

 アマミキョクルーや周辺の人々は恐らく、ティーダの黙示録により他者の心が見えるような感覚に陥ったはずですが──

 それは、脳の電気信号が黙示録により大気中に伝達するようになる為です。アマミキョは一つの巨大なインターフェース。アマミキョを通じて、彼らは他者の信号を受け取り、他者の感情に触れ、その大きな感情のうねりはハーモニクスシステムの完成をさらに加速させた」

「そのシステムの構築に大いに役立ったのが、フラガ家の能力というわけかい……」

 

 怒りで叫びだしたくなる心を懸命に抑えながら、精一杯の皮肉を口にするフラガ。

 

「タロミは貴方の身体をアマミキョに役立てるだけでなく、御柱にまで使おうとした。

 一切のコーディネイトを受けていない貴方の能力は、SEED持ちに匹敵する測り知れない力を呼び起こす可能性もありましたから。しかし──」

 

 しかし、何だ。俺が運よくタロミに食われなかったのはどういう理由だ。

 

「後の実験により、御柱は女性でなければ誤作動を起こす可能性が高いことが判明した為、あえなくムウ計画は頓挫。チグサ計画に切り替えることになったのです」

「で、用済みとなった俺は連合に売られ、ネオになったってわけだな──

 身体は死亡していても一向に構わないが、野郎だけは受け入れないってか。

 主そっくりの、下衆いシステムだ」

 

 思わず吐きかけた唾を何とか呑み込むフラガ。そんな彼を、少し寂しげにレイラは見つめる。

 

「ムウ様は、お気づきになりました? 

 この話が、どこかおかしいことに」

「何もかもがおかしい話に、今更何を言う」

 

 そんなフラガの呟きに、レイラは思わず噴き出した。

 だが勿論、フラガは笑えない。笑えるはずもない。

 

「申し訳ありません。一つ、言い忘れていました。

 セレブレイト・ウェイヴ起動に必要となる御柱は、基本的に一人だけなんですよ」

「え?」

「勿論御柱の他に、多くの人員が必要にもなりますが──

 御柱として必要とされるのは、一人だけで十分なのです。

 なのに何故、御柱が二人も必要になったのか──」

「それはそうだろう。

 言い方はアレだが……保険ってヤツだ。

 一人が使えなくなったら、すぐに他を用意する。それぐらいのことは、タロミだって考えてたんじゃないのかい」

「そうですね。確かに姉上は、そういった名目でステラをここまで連れてきました。

 あくまで、チグサ・マナベが使えなくなった時の代替手段として──SEED持ちではないので、タロミは良い顔をしなかったのですけどね。

 ですが、本当の目的は違う。姉上は決して口にはしませんが、私には分かります」

 

 フレイの本当の目的──

 それは恐らく、セレブレイトウェイヴで世界中を混乱に陥れることでも、世界中に鐘の音を響かせて人類全てを腑抜けにすることでもない。それぐらいはフラガも察している。

 だが、そうでなければ何なのかが掴めなかった。それが今──

 レイラは酷く声を落としながら、囁くように言った。フラガが耳を澄まさなければ誰も聞こえないほどの声で。

 

「ラクス一世への反逆です。

 ラクス一世は心から、セレブレイトウェイヴで世界が革命されるものと信じている。

 それに対抗する為に、もう一人の御柱を確保しておく必要がありました。

 姉上は決して、表立って彼女に抵抗の意思を示すことは出来ません。抵抗しようとすれば、酷い苦痛が襲うはず。

 しかしそれでも、姉上はやろうとしているのです。慎重に慎重に、姉上はご自身の計画を温めていた──

 自らの運命全てを決定してきた『母』に、反逆する為に」

 

 小声ながら、レイラは何故か得意げな眼差しで顔を上げる。

 

「姉上は──

 フレイ・アルスターを名乗る彼女はそれまで、ラクス一世に全てを決められてきました。

 子供を諦めることも、本来の名前を捨てることも、身体をフレイ・アルスターそっくりに変えることも、モビルスーツに乗り人々を先導することも全て、姉上ではなくラクス一世とタロミの意思によるもの。

 そうすることに疑問を抱けど、実際の行動に移す決断がどうしても出来ぬまま、姉上は生きてきた。そう生きざるを得なかった。

 チグサ計画の完了後は、姉上はフレイ・アルスターとしてキラ・ヤマトと結ばれ、平穏で優しく、争いのない世界の中で生きていく。いつもラクス一世は、姉上にそう言い聞かせていました──

 本来の娘であるラクス・クラインは、元々の婚約者たるアスランを伴侶にすれば良いとも。

 その一方で、キラを姉上から奪って自分のものにするようなことも平然と言っていましたね――恐らく、姉上の悩み苦しむ表情を見たいが為だけに」

「……やるだろうな。あの母君なら」

「ですが、姉上は変わった。ある出会いを通じて──」

 

 ここまで説明されれば、フラガも話が大分見えてきた。

 フレイを変えた出会い。思い当たる人物と言えば、一人だけ。

 

「もしかして……

 フレイに反逆の意思が芽生えたきっかけってのは……」

「えぇ。

 とりたてて秀でた才能のない、少し顔がいいだけのナチュラルの男性

 ──サイ・アーガイルが、姉上の心に奇跡を起こしたのです」

 

 

 

 

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