【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part7 俺が、そうしたいんだ

 

 

「──読み通り、って顔だな」

「そうだね。とりあえずみんな、こっちへ来てほしい」

 

 シンとの面会を終えて一分もしないうちに、サイは再びアスランたちと合流した。

 廊下から逸れた場所に隠れてじっと聞き耳をたてていたアスランにルナマリア、そしてナオトにヴィーノ。

 全てを知ったアスランの表情は曇ったままだったが、それでもサイの心は今までより一段と澄み渡っていた。地上を覆っていた黒雲が数カ月ぶりに晴れわたり、すっきりとした初夏の青空を見上げた時と同じ気分だ。

 シンに悟られないよう急いでアスランたちを付近の小会議室へ誘い、サイは厳重に扉を閉めようとする。だがそこへ──

 

《トリィ! トリィィ!!》

《ナカマハズレハ、サミシイモンナァ~》

 

 奇声と共に、ドアの隙間から素早く舞い込んできたライムグリーンと、転がり込んできた丸い紅が見えた。

 

「あ、あれ!? トリィ?」

「ハロも、なんでここに……ティーダのところじゃ」

 

 びっくりして思わず飛び退くサイとナオト。だがアスランが進み出て、飛び込んできたハロをその胸で抱き止める。

 

「気にしなくていい。ハロは俺が呼んでおいたんだ──

 ずっとラクスが持っていたもので、アークエンジェルに置き去りになってたから、ティーダのハロとは関係ない。

 トリィも来るとは思わなかったがな……」

 

 当たり前のように自分の肩に止まったトリィを困ったように見つめながら、アスランは気まずそうにその背を撫でた。

 

「そうか……ずっとキラの部屋で、独りにしてたからな。

 色々あって、世話も満足にしてやれなかったし」

「じゃあアスランが恋しくなったんだろ、きっと。

 アスランがいない時はミリアリアが世話してたみたいだけど、ここはアスランがちゃんと面倒見た方がいいよ。

 俺も昔少し見ていた時期があったけど、意外にメンテ大変だったし」

 

 そう笑ってみせるサイに、アスランもつられたように微笑む。

 

「すまなかったな、世話をかけて。

 だが俺も、今の話を聞いて──何をなすべきか、分かったような気がする」

「気がするじゃなくて、分かってくれなきゃ困るなぁ」

 

 そう言いながらサイは、付近の椅子にどっかと腰を下ろした。

 それに伴いナオトやヴィーノも、当たり前のようにサイの両側に座る。二人ともアスランへの蟠りはまだ解けていないのか、彼に対してはしかめっ面を隠していない。

 そんなサイたちやアスランの間をとりなすように、彼らの間に座るルナマリア。必然的にアスランはハロを手にしながら、古い机を挟んでサイと向かい合う形になった。

 ドアを横目で見ながら、サイはルナマリアに確認する。

 

「──ロックは大丈夫だね」

「えぇ。ここなら防音も完璧、盗聴もされてないのは確認済み」

 

 サイは頷くと、改めて一同を見回した。

 両腕を組もうとしたが勿論それは出来ず、ただ宙ぶらりんになったジャケットの左袖を直すぐらいしか出来ない。

 

「……じゃあ、始めるか。

 みんな、さっきの話でもう、フレイたちの目的は分かったよな?」

「そうですね……

 それにしてもあそこまで簡単に、シンさんが落ちるなんて」

「シンってば、あんなに顔に出やすいとは思わなかったわよ」

「俺は前から分かってたぜ。あいつにはスパイどころか浮気も絶対無理だって」

 

 ここぞとばかりに好き勝手を言い出すナオトにルナマリアにヴィーノ。だがそれは、とんでもない現実を未だ受け止めきれないでいるが故の、咄嗟の軽口だったかも知れない。

 そんな彼らに、サイは一旦咳払いをしてみせる。

 

「一旦、状況を整理しよう。

 南チュウザンではフレイを中心とするアマクサ組と、ラクス一世が明確に対立している。

 フレイの真の目的はセレブレイト・ウェイヴを餌に、敢えて自分たちに世界の敵意を集め、それにより争いをなくすこと。だが、ラクス一世の目的はセレブレイト・ウェイヴを実際に使用し、人々の意識改革を目指している──」

「止める側の私たちにしてみれば、願ってもない仲間割れよね

 ……なんか、途方もない話すぎて、実感わかないけど」

 

 そんなルナマリアの言葉に、アスランが応じた。

 

「フレイとラクス一世の母娘が対立したとしても、俺たちの目的は変わらないだろう。

 セレブレイトウェイヴを使用不能にし、キラやシン、ラクスを南チュウザンの手から解放する。それだけだ」

「そうだね。その目的は最初から変わりはしない。

 だがまず、今分かったこの事実を、どこまで明らかにするか。それが問題だ」

 

 顔をしかめるサイに、ナオトが身を乗り出した。

 

「だったらもう、今すぐみんなに公表しましょうよ! 

 このことを全部世界中に知らせれば、すぐにでもフレイさんは全面降伏してくれるんじゃないですか?」

 

 ジャーナリストたるナオトにしてみればもっともな意見かも知れない。そしてナオトは今、ティーダで戦闘を継続するには重すぎるリスクを抱えてもいる。

 だが、サイは止めた。

 

「絶対に駄目だ。

 そいつはあまりにも極論すぎる、ナオト」

「何でですか!?」

「仮に、全世界にフレイたちの目的を公表したとしよう。

 それでフレイたちはともかく、ラクス母が止まると思うか? 

 フレイからアマクサ組さえも取り上げて、全ての権限を振り翳して暴走するだけだ。今俺たちが撃たれずにすんでいるのは、セレブレイトウェイヴのチャージ時間だけの問題とも思えない。フレイたちが必死でラクス母を抑えこんでいるからのような気もするんだ。

 それがなくなったら本当に、いつどこにあの鐘が撃ち込まれてもおかしくないんだぞ」

 

 サイの言葉に、唇を尖らせて黙ってしまうナオト。

 しかしアスランが口を挟んだ。

 

「だがそれも今、フレイとラクス一世の対立が表面化したおかげで、どう動くか分からなくなった。

 ウーチバラの状況が分からない以上何とも言えないが、内乱の果てに主導者が我を忘れ、本来使ってはならない力を使う。そんな状況は俺も知っている。

 だからこそ今のウーチバラは、これまでになく危険だ。俺たちが掴んだ情報をどう使うかで、それも変わってくるかも知れないが」

 

 アスランは恐らく、自らの父を思い出しているのだろう──

 サイはそんな彼の心情を慮りながら、提案してみる。

 

「じゃあ、こうしようか。

 トライン艦長やラミアス艦長、山神艦長、それからトニー隊長、各組織のリーダーにはこのことを伝える。勿論、アスハ代表にも。

 信じるか信じないか、公表するか否かは彼らに任せよう。俺たちだけでどうするかなんて、決めていいことじゃないよ」

 

 そんなサイの言葉に、ヴィーノがうーんと伸びをした。

 

「いずれにせよ、戦いは避けられないってことかぁ。

 俺たちひょっとしたら何もせずにシンを連れ戻して帰れるんじゃないかって、ちょっとは期待したんだけどなぁ」

「そうしたいのは誰だって同じだよ。

 だから、少しでも早く終わらせる為に……

 俺に考えがある」

 

 そう言うと、サイは改めてヴィーノとナオトを交互に見据えた。

 

「今のティーダZは、黙示録を発動するには非常に不安定な状態だ。

 それは、ナオトもヴィーノも分かってるよな」

 

 ナオトはサイに対して、申し訳なさそうに唇を噛む。

 

「……肝心な時に動かせないなんて、本当に情けないですけどね。

 やっぱり僕の力不足なのかな」

「んなことないさ」今度はヴィーノが身を乗り出しながら、ナオトを励ます。

「黙示録の発動が阻害されてるのはあくまで、登録データの問題。ログも確認したけど、お前が操作ミスったとか間に合わなかったとかが原因じゃねぇから。

 今でもチーフと一緒に俺、ほぼ徹夜で取っ組み合ってるけどさ。

 なかなかどうにもならねぇんだよな……特にサイのデータは何故かシステム内部に複雑に絡んでて、パスタみたいにこんがらがってやがる」

「そこだ」

 

 サイは軽く机を右手で叩きながら立ち上がる。

 全員の視線が、彼に注がれた。

 

 

「出来るかどうかは分からないけど──

 アマミキョに、()()()()()()()()()()()()

 

 

 サイが何を言い出したのか一瞬理解しかね、一同は仲良く首を傾げる。

 だが彼はそれでも説明を続けた。

 ――ナオトを救出したあの瞬間、自分の髪の毛から水面に流れ落ちた水。

 水面に描かれた波紋。ナオトの身体から零れ落ちた水。互いに重なっていく波紋。

 その光景を思い出しながら。

 

「アマミキョとティーダは繋がっている。

 そしてさっき話した通り、アマミキョと俺も既に一体化している。つまり、俺自身がティーダと深く繋がっているも同然なんだ。

 黙示録の起動が一気に不安定になったのも、恐らくそれが原因だろうと俺は思ってる」

「そ、そいつは分かったけど……

 ていうか、未だにお前の身体の話が信じらんねぇけど」

 

 ヴィーノが目をぱちくり瞬かせながら、口を挟んだ。

 

「お前と、アマミキョを繋げるって? 

 イマイチ意味が分からん」

「前みたいに、ナオトと一緒にティーダに乗り込むって意味? 

 もう二度とやめてよ、あんなことは」

 

 唇を尖らせるルナマリア。だがサイはゆっくりと首を横に振った。

 

「違う。文字通りの意味だよ。

 あの時と違って、今はアマミキョがいる。俺は副隊長だし、ブリッジからそうそう離れるわけにはいかない。それに今の俺、アマミキョから離れすぎるのも危険だし。

 だから、アマミキョに直接俺の身体を繋ぐ。

 具体的には、俺の身体にデバイスを埋め込んで、俺の神経とアマミキョを接続させる。ブレイン・マンマシン・インターフェースってやつだ。

 そうすれば、ブリッジに居ながらにしてティーダとも明確に繋がるようになるし、同時に副隊長としての役目も全うできる。

 多分、ティーダZのパイロットデータの認識もスムーズになるんじゃないかな。勿論、黙示録の起動も」

 

 当然のように語るサイの言葉を、全員呆然としながら聞いていたが──

 意味を理解した瞬間、全員が一斉にサイに詰め寄った。

 

「さ、さ、さ、サイさん!!? 

 冗談じゃないですよ、絶対にそんなことサイさんにさせられません!!」

「そうよ、自分が何言ってるか分かってるの!?」

「献身も大概にしろ、バカメガネ! 船に身も心も捧げる気か!?」

「人の神経と機体を繋げる技術は確かにモビルスーツにはあるが、戦艦クラスのものになど、聞いたことがないぞ! しかも直接身体に機器を埋め込むなんて、危険すぎる!!」

 

 そんな4人の顔を見回しながら、サイは思わず噴き出した。

 

「なんだか、嬉しいなぁ。みんな本当に心配してくれるんだね」

「当たり前じゃないですか!! なんで──」

 

 必死で縋りついてくるナオトを、サイは表情を引き締めながら諭す。

 

「だけど、もう決めたんだ。

 このことはスズミ先生にもトニー隊長にも相談した。ついさっきだけど、アスハ代表にも話をしたよ。

 勿論凄まじい勢いで止められたけど、それ以外にセレブレイトウェイヴに対抗する手段がないって説得したら、何とか理解してくれてね。

 モルゲンレーテからシモンズ主任を直接派遣するって、約束してくれた」

「カガリが……?」

 

 戸惑うアスランに、サイは言ってのけた。

 

「最初は、それを実行させるくらいならお前をシメるって無茶苦茶怒鳴られたけどね」

「……当然だろう」

 

 それでも彼女が折れたということは──

 サイの説得が効いたのも勿論だが、それだけ状況がひっ迫している証でもある。

 

「スズミ先生にも警告されたよ。

 これはナチュラルは勿論、コーディネイターでも恐らく耐えられない手術になるって。

 今の俺みたいに、負傷からすぐに回復可能な身体でなければ絶対に無理な所業だって。というか、今の俺でも耐えられるかどうか分からない、ともね。

 でもそれは逆に言えば、今の俺じゃなきゃ出来ないことなんだ」

「そんな……!!」

 

 それでも納得がいかず、さらに反論しようとするナオト。

 だがサイはそんな彼をあくまで優しく見やりながら、静かに告げた。

 

「俺が、そうしたいんだ。分かってほしい、ナオト。

 これまで俺は、ナオトにどれだけの無理を強いてきたか分からない。

 システムを知らなかったとはいえ、お前に最初にティーダを動かすよう鼓舞したのは俺みたいなもんだった。それ以降、ずっとお前はティーダに縛られ続けて……

 それは今も変わらない。お前の記憶を犠牲にする危険を犯してでも、俺たちは戦わなきゃいけない──

 3年前、キラの魂を削ってでも俺たちが戦わなきゃならなかったように」

 

 その言葉に、アスランが黙って俯いた。その両手には紅のハロがすっぽりと収まっている。

 サイの言葉は続いた。

 

「ウーチバラの戦いは、恐らくティーダの力を最大限に使うことになるだろう。

 当然、ナオトへの負担は今まで以上に膨大なものになる。そいつを黙って見ているなんて、俺にはもう我慢できないんだ。

 ナオトの身も心も犠牲にしなきゃ勝てない戦いなら、俺は自分を少しぐらい削ってもお前を守る。

 俺は……傍観者でいるのだけは、もう、ごめんだから」

 

 

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