【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part8 『ミーア・キャンベル』の歌

 

 

「俺は……

 傍観者でいるのだけは、もう、ごめんだから」

 

 

 そんなサイに、最早ナオトは言葉を失ってしまった。

 こみあげてくるものを精一杯我慢しながら、その手は自然と胸元の白いお守りを握りしめる。

 今にも叫びだしそうな少年をとりなすように、ルナマリアがそっと声をかけた。

 

「やりたいことは、分かった。ティーダの問題はそれで何とかなると仮定しましょう。

 だけどそれでも、勝てるとは限らない。多分、セレブレイトウェイヴとようやく同じ土俵に上がることが出来るかも、って程度よね。

 フレイ・アルスターが乗ってたあのレジェンドもどきの赤色も、ティーダと似たような性能あるみたいだし」

「黙示録と同じ、鐘の音を鳴らす機体か……あれもやっかいだよなぁ」

 

 ヴィーノも肩を竦める。

 

「どんな大軍でおしかけたって、あの機体に鐘鳴らされたら一瞬でおじゃんだろうしさ……あの鐘を知ってるはずのジュール隊ですら、殆ど動けなかったのは参ったぜ。

 いくら遮蔽フィルタつけようが装甲改造しようが、完全防御が出来るわけじゃなし」

「音が実際に出ているわけじゃなくて、多分、電気的に人間の鼓膜に作用して強制的に感じさせる音なのよね。耳鳴りと同じだから、大気圏か宇宙かも、耳を塞いでも関係ない」

 

 そんな彼らに、ふとアスランが手を挙げた。

 

「その件だが……

 あの機体を見て、俺も思いついたことがある。

 あの鐘の音……ラクスの歌と似ている気がしたんだ。そして少し調べてみた」

 

 全員がアスランを見ると、彼の手元にあった紅のハロがテーブルの上でころころと一回転し、ぱかりとその頭部を開いた。

 首を傾げる一同を前に、ハロの内部から突如流れ始めるメロディー。それは──

 

「……これ、ラクス・クラインの歌声?」

「でも、全然聞いたことない歌だな……」

「合唱曲みたいにも聞こえますね」

 

 ルナマリアとヴィーノ、そしてナオトの疑問に、アスランは首を横に振る。

 

「この歌声は、ミーア・キャンベル……

 ラクスの影武者としてずっと、デュランダルの元にいた少女のものだ」

「えっ!?」

 

 突然のアスランの告白に、ルナマリアが思わず彼をまじまじと見つめた。

 

「それじゃやっぱり、あのラクス・クラインって……」

「そうだ。ついこの間までザフトを導き歌っていたのが、彼女──ミーアだ。

 俺は、彼女が影武者たることをずっと知りながら……

 彼女が議長に利用されていることをずっと知っていながら、何も出来なかった。

 最後に議長の手で殺されるまで、俺は……っ!」

 

 ラクスの──否、ミーアの歌声が流れ続けるハロを壊れんばかりに両手で握りしめながら、アスランは悔悟に呻く。

 そんな彼に、サイは呟いた。

 

「ラクスさんは言っていたよな。彼女──ミーア・キャンベルは、ラクス・クラインを『降ろしていた』って。

 偽りは、その存在だけで忌むべきものか……とも。

 俺には今のフレイと、そのミーア・キャンベルが別人に思えなくてさ」

「ミーアも、フレイ・アルスターも……

 単なる模倣に留まらない段階までそれぞれの虚像を作り上げていた。それは確かだ。

 今でも忘れられない。ミーアのことは……

 ザフトを追われかけた時、必死で引き留めようとしてくれたのも彼女だった。

 それでも俺は結局ザフトを出て……彼女や、ミネルバ隊を見捨てる形になったが」

 

 今更それを言うのかとばかりに、唇を尖らせてそっぽを向くヴィーノ。

 

「で? 

 そのミーア・キャンベルの歌と、セレブレイトウェイヴ対策と、何の関係があるってんだ?」

 

 完全に膨れっ面のヴィーノを、困ったように見つめるルナマリア。

 それでもアスランは冷静に説明を続けた。

 

「ラクスがいなくなった時、このハロがたまたま俺のもとに転がり込んできて──

 それで気づいた。このハロには、ミーアがラクスに成り代わる前に彼女が歌った曲が、大量に録音されていたんだ。

 その中の一つがこれだ」

 

 

 ──神よ この身を捧げます

 ──我は 貴方に この身を捧げます

 ──荒ぶる世の為に 優しき人々の為に 

 ──全てを捨て 我は 貴方に捧げます 

 ──今集え 友よ そら(宇宙)へ 大地へ

 ──命は 魂は 全て貴方と共にある

 ──光よ 命よ 甦れ!! 

 

 

 歌詞そのものは単純だが、それが複数の言語に翻訳されて幾重にも言葉が連なるように歌われる、不思議な雰囲気のメロディー。それは、オーブに古くから伝わる童謡にも似ていた。

 皆がじっとその歌声に耳を傾ける中、アスランはさらに語る。

 

「聞いての通り、ラクス・クラインとしてミーアが歌った曲とはかなりイメージが違う。かといって、ラクス本人の歌とも違う。荘厳さや、神性さえ感じる歌だ。

 だが、ミーアにとってはお気に入りの曲だったようだ。

 勿論、彼女がラクスとなった後は幻の歌として封印されてしまったが……

 それでもこうして、ハロの中に残っていたんだな」

「だからさ」ヴィーノは歌を聴きながらも、若干苛ついたようにテーブルを指で叩きながら、アスランに先を促した。「俺ら、ライブ聴いてる場合じゃないんですけど?」

 

 そんなヴィーノを今度は真っすぐに見つめ、アスランはきっぱりと言い放った。

 

「分かってる。

 この歌をティーダZの黙示録に乗せることで、黙示録の威力を高められないかと考えた。

 同時にセレブレイト・ウェイヴや、フレイの機体から放たれる鐘の音の妨害も可能じゃないかと思ってな」

 

 一瞬、静まり返る室内。ミーアの歌声だけが壁に吸い込まれていく。

 だがその直後、アスランを除く全員が、戸惑いの声を上げた。

 

「へぇ~……

 って、え、ええぇ!?」

「歌で、アレに対抗しようって話? いくらなんでも、そんな!」

「音に勝つには同じ音ってことか……だが……」

 

 そんな彼らの前でも、アスランは全く表情を変えずに淡々と続ける。

 

「聞いた時に直感したが、あの鐘の音には確実に、ラクス・クラインの歌声がサンプリングされている。

 ラクスの声には、コーディネイターを心地よくさせる効果も含まれていると言われている。

 それさえも利用したのがセレブレイト・ウェイヴだとすれば……対抗できる手段は一層限られてくる。特にザフトなどは骨抜きにされてしまうだろう。

 そこで俺は、ジュール隊やメイリンと一緒に調べてみた。あの鐘の音が持つ特定の周波数に対抗しうる音は何か──

 それでたどり着いたのが、ミーアの声。そして、歌だったんだ」

 

 サイは驚きを隠せないながらも、そんなアスランにふっと微笑んだ。

 

「俺が気絶してる間に、アスランも色々考えててくれたんだな。

 ジュール隊もまだ治療終わってないだろうし、メイリンだって滅茶苦茶忙しいだろうに……

 無茶するなぁ、みんな」

 

 サイにすかさず突っ込むヴィーノ。「お前にだきゃ言われたくないと思うけど」

 ルナマリアもそっとため息をつく。「メイリン……いつの間に、そんなことまで……」

 

 頭蓋が開かれ内部が露わになったハロを、アスランは全員に見せるように回転させた。

 そこに展開されていたものは、小さなディスプレイと簡単なキーボード。ディスプレイには心電図にも似た波形が次々に描かれている。

 歌声に伴い、間断なく波形は揺れ続けていた。

 

「ミーアの歌声はラクスのそれと酷似している。だからこそ、彼女は影武者としてデュランダルに選ばれた。ラクスの声に対抗するには、これ以上ない選択肢だ。

 そしてミーアの歌の中でも、最も鐘の音に干渉する波長を有していたのがこの歌だ。

 音波を干渉させることによって、逆に音を鎮める。そして、こちらの新たな武器にもする──

 出来るか?」

 

 アスランはヴィーノを真っすぐ見つめながら、一切の遠慮なく尋ねた。

 思わぬ問いに、酷く面食らってしまう整備士。しかも、未だに憎悪の消えないアスラン相手だ。

 

「え。それ、俺に振るかよ!?」

 

 そんなヴィーノに、サイも諭すように言った。

 

「フレイの乗っていた機体は、ティーダZと機能は同じだ。

 それに恐らく、セレブレイト・ウェイヴをさらに拡大させる力も有しているんじゃないかと思ってる。もしかしたら、あの紅いストライクフリーダムも。

 そんな機体に複数出てこられたら、今の俺たちに勝ち目はない。だからこそ、対抗措置があるなら何としてでも使いたいんだ。それも、今すぐに。

 俺からも、頼む」

 

 サイからも正面から頭を下げられ、ヴィーノは慌てて指で頬を掻く。

 

「そ、そんなの……俺の一存でどうにか出来るこっちゃねぇだろ。

 お前がそこまで言うなら、仕方ねぇからチーフに相談してみるけど。いいか、あくまで相談だからな! バカメガネに頼まれたって相談するだけだからな!!」

 

 いきり立つヴィーノに、ナオトが思わず笑みをこぼした。彼にしてみれば久しぶりの、普通の笑顔を。

 

「そこまで言わなくても、マッドさんとヴィーノさんたちが何だかんだちゃんとやってくれることは、もうみんな分かってますから」

「そうよねー。っていうかヴィーノ、あんたいつからそんな分かりやすいキャラになったっけ?」

「あ、え、がっ……ルナまで!!」

 

 一瞬だけ、和やかな雰囲気に包まれる室内。

 だがアスランは改めて、自らの決意を口にした。

 

「かつて歌姫に憧れながら、運命に翻弄された少女の歌。それが今、当の歌姫を救えるかも知れない──

 俺はその希望に賭けたいんだ。ミーアの残した希望に」

「分かってる」

 

 サイもそれに応えるように、大きく頷いた。

 

 単純に、嬉しかった──

 ナチュラルもコーディネイターもハーフコーディネイターも、少なくとも自分たちは今、その垣根を超えている。幾多の憎悪も怨念も乗り越えて。

 フレイの理想は、今ここで確かに実現しているといえた。

 

 だけどその目的は、フレイ──君を倒す為では決してない。

 君の目的がはっきりした今、俺のやることはただひたすらに──

 君を助ける為に、出来る限りの手を尽くすことだ。

 

 ──その想いは対象こそ違えど、ここにいる全員が同じだった。

 アスランは、キラとラクスを救う為に。

 ナオトは、未だに声の聞こえるマユを助ける為に。

 ヴィーノはそんなナオトと、友の残したティーダZを支える為に。

 ルナマリアはナオトたちを守り、シンの心を取り戻す為に。

 皆が固く決意していた。自らの身を削ってでも、愛するものたちを救うことを。

 

 

 

 

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