【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part10 貴方がどこへ行ったとしても

 

 

 

 サイやナオト、アスランたちがそれぞれの思惑で動き始めた。

 各艦のリーダーにフレイの件は即時伝えられ、これまで以上に皆が忙しなく動きだしていく。

 イザークとディアッカも先の戦闘で二人とも軽傷を負ってはいたが、それでもアスランに協力し、ミーアの歌のさらなる解析に取り組み始めた。

 ジュール隊からはさらにシホ・ハーネンフースがミントンへ合流し、プラントにおけるザフトの動きを逐一伝えてくる。特に、ヨダカらを始めとするデュランダル派の動きを。

 

 そんなジュール隊に急かされるように、マッドとヴィーノを中心とした整備班も昼夜問わず、その身を削りながら働いていた。セレブレイトウェイヴ対策用の防護フィルタの強化に、連合機やオーブ機まで含めた機体の改造──

 ミーアの歌の解析にはメイリンも加わったことで、一気に作業は急ピッチで進められていった。

 

 整備班の仕事はいつまでも終わりそうになかったが、それはサイも同じだった。

 山神隊やアークエンジェル、そしてザフト。これまでいがみあってきた三者が集う中、橋渡し役としてたびたびサイたちアマミキョのメインメンバーが駆り出された。

 一つの目的に向かって、対立していた陣営が一丸となる。聞こえはいいものの、実際に集まるとちょっとした意見の相違から、再びいがみ合いに発展するケースも多い。

 そんな時決まって仲裁に入るのが、サイやトニーといった面々だった。

 それでなくとも、サイには自らの身体をアマミキョに接続するという大仕事が待っている。

 術後、そして戦闘中の自分の動きをシミュレーションする為に、サイは各艦のオペレータや操舵士たちと逐一連携を取っていく必要があった。

 

 必然的に、アマミキョブリッジには他艦のメンバーが次々に出入りし──

 それに伴いブリッジにおける副長席は、ちょっとしたモビルスーツコクピットの如く改造されていった。

 

 

 

 そんな作業のさなか、ルナマリアは一人、ミネルバJrの営倉に囚われたシンの元へ来ていた。

 部屋の隅でうずくまったままのシン。その身体には、鉄格子の影が色濃く落ちている。

 そこにルナマリアの影が重なった。

 

「――トライン艦長にも聞いたけど、シンの処遇はまだ保留だそうよ。上の方でも結論が出てないみたい。

 もっともサイは、このまま貴方を解放しても問題ないんじゃないか、って言ってたけど……

 さすがにそこまでは無理でしょうね」

 

 ルナマリアはそう言いながら、差入口から食事を差し入れた。バー状の栄養食の他、彼女自身が作った握り飯もつけてある。

 そんな彼女の言葉に、シンは僅かに顔を上げた。

 

「……あの人、俺の何をそこまで信じてるってんだ。

 ついこの前、一度会っただけだってのに」

「毎日顔付き合わせても分からないこともあれば、一度会っただけで分かっちゃうこともあるものよ。

 シンもいい加減、そのぐらいは知ってるでしょ?」

 

 ステラって子は後者だったんじゃないの

 ――と言いかけて、ルナマリアはぐっとこらえた。

 そのかわり、シンと目線を合わせるように扉のそばにしゃがみ、彼を真っすぐに見据える。

 

「サイだって、ここに来るまで本当に色々あったのよ。

 俺の人助けなんて偽善の塊だって、泣かれたこともあった。

 だけど、サイと話しているうちに、気づいたの。

 どれだけ偽善であっても──人を助けようとする気持ちは、否定するものじゃないって」

 

 頭を上げかかるシンを見つめながら、ルナマリアは呟き続けた。

 

「ずっと、気になってたの。

 シン、言ってたわよね。お前は誰かを慰めることで自分を慰めているだけだって」

 

 それを聞いて、シンの膝の間からぼそりと言葉が零れる。

 

「……悪かったよ。

 あの時は、俺も言いすぎた」

「いいのよ。シンの言葉が事実だったからこそ、私も色々考えられたんだし」

「考えられた……って?」

 

 思わず頭を上げるシン。久しぶりに真っすぐ見つめる、紅の瞳。

 それを正面から受け止めながら、ルナマリアは元気よく立ち上がった。

 

「開き直ったの。

 相手を助けて、自分も慰められるなら、一石二鳥でしょ? 何も悪いことなんてなくない?」

「え? 

 おい、俺が言ったのは……そういうことじゃ!」

「それじゃ本当に相手を助けたことにならないって、そう言いたい? 

 自分が何らかの代償を払わなきゃ本当の人助けにならないって、そう言いたい? 

 そんなの、相手に聞いてみなきゃ分からないじゃない。むしろ、自分が何かを犠牲にしたことで逆に相手の重荷になっちゃうことだってあるでしょ?」

「……それは、そうだけど!」

「そもそも私、今までそうやって生きてきたんだもの。今更変えるなんて出来ない」

「…………」

 

 得意げに語る彼女を、格子ごしにぽかんと見上げているシン。

 そんな彼に、ルナマリアはそっと微笑んだ。

 

「私はね、シン。

 貴方にはこの船に戻ってきてほしい。

 一緒に戦ってくれるなら心強いけど、それ以上に、一緒にいてほしい。

 だけど、シンの意思を無視したくもないの。

 だから、これだけは言っておくね」

 

 そこでルナマリアはひとつ息をつき、そっと唇から言葉を漏らした。

 自分でも驚くほど、優しさに満ちた呟きを。

 それはルナマリアにとっては、生まれて初めての告白と言っても過言ではないものだったかも知れない。

 

「シン。覚えておいて。

 貴方がどこへ行ったとしても──

 私はちゃんと、そばにいるから」

 

 

 

 

 

 

 深夜になっても、アマミキョブリッジにおける副長席の改造作業は続き──

 サイとのシミュレーションの為、ノイマンもアークエンジェルから足を運んでいた。彼も、急造の副長席を興味深げに覗き込む。

 

「これは凄いな……

 全天周リニアシートもかくやじゃないか」

 

 その言葉通り──

 副長席に座ったサイを中心として、周囲には半径1m程度の球形の外殻が張り巡らされている。球体の内壁には周囲の映像が360度余すことなく投影され、普段座っている時と何ら変わらない景色が見えていた。サイの操作によって、ブリッジだけでなくアマミキョ周辺の映像も映し出すことが出来た。

 フレームに覆われた外側から中の様子はほぼ見えなくなっているが、正面と側面に取り付けられたディスプレイによって外側にもサイの姿をそのまま映し出すことは出来る。これは出来るだけいつも通りに、皆に姿が見える状態で指示を出したいというサイの要望によるものだった。

 今のサイは上半身裸になり、その肩に無造作にジャケットをかけただけの姿だ。首筋や背骨を中心として無数の電極が装着され、そこから伸びたチューブが何十本もコクピットシート裏側へと繋げられていた。

 

「そうですね……びっくりしましたよ。

 みんなここまで、俺のわがままを通してくれるなんて」

「シモンズ主任がミントンに到着したとの連絡が、アークエンジェルにもあった。

 ミリアリアも、ラミアス艦長も心配していたよ。主任も言っていたそうだ──

 今ならまだやめられると」

「そのつもりは、一切ないです」

 

 きっぱり答えるサイ。その手元の空間にはサブモニターが現れ、ティーダコクピットでコンソールの調子を確認しているナオトを映し出す。

 

「俺はキラのようなコーディネイターとは全然違う、ただの無能なナチュラルです。

 こんな真似をすればただじゃすまないことぐらい、覚悟はしています。

 みんなに大反対された。みんなが止めました。

 だけど、仕方ないですよ。今の俺なら、出来るから。

 何より俺が、そうしたいんですから」

 

 笑顔でノイマンに答えるサイ。その頬にも首筋にも、幾つも電極が貼り付けられている。

 だがノイマンは決して口元を緩めることなく、呟いた。

 

「シミュレーションには全面的に協力させてもらう。

 だが、賛成はしない。出来ない」

 

 唇を噛むノイマンを見上げながら、サイもその表情を引き締めた。

 

「ノイマン一尉──

 いつか一尉は、話して下さったことがありましたよね。バジルール大佐のことを」

「ん?」

「その時のお話。今なら、信じられる気がするんです」

「あぁ……

 ドミニオンとの最後の戦闘で大佐の意思を感じたっていう、あの話か。

 あの時はまだ、君もフレイ嬢が本物だと信じていたよな」

「魂が宙域を駆け抜け、再び蘇る。あの話を聞いて、そう思いたくなったのも事実です。

 結果的に、フレイはとうに亡くなっていましたが……

 でも俺は、まだ信じてます。むしろ、当時より信じてます」

「信じざるを得ない状況だしな。人の想いが全てを伝播する――

 皮肉にもアマミキョとティーダが、それを半ば人工的に実現してしまえるようになった……

 その究極が、セレブレイトウェイヴだ」

「生体CPUなんて言葉が当たり前に出てくる世の中です。人の想いや感情の揺れが戦いに使われるようになっても、何も不思議じゃないのかも知れません。

 でも──俺は信じたい。宙域すら飛び越える意思は、人を殺めるのではなく、助ける為にあるものだって」

 

 ノイマンはそっと、サイの左肩を見る。

 モビルスーツの腕にも似た急造の義手がその肩に強引に嵌め込まれ、サイが動かすたびに関節部付近で、電気信号が流れたことを示すシグナルが星のようにチカチカと瞬いていた。

 その鋼鉄の手はシートの前、両脚の間に取り付けられた操縦桿を握りしめている。

 

 アマミキョの操舵はオサキ亡き今、新人たるノーチェが担当していた。しかし元々オペレータ志望だった彼にはオサキほどの技量を望めない。そしてサイが今後アマミキョと直接繋がり、かつ、相手の動きをいち早く掴めるレーダー的な役割を果たす以上、緊急時の操艦はサイも出来るようになった方がよい──そう提案したのはノイマンだった。

 当然、サイの負担は激増する。だが、やってみる価値はある──

 明後日には恐らくこの船と物理的に繋げられてしまうであろう青年を見つめながら、ノイマンは励ますようにその肩に手を置いた。

 

「自分も、信じているよ。

 きっと、トノムラも……信じてくれる」

 

 かつての同僚だったジャッキー・トノムラ。その悲劇的な顛末を、既にノイマンはサイから聞いていた。家族の為に連合に戻った結果収容所勤務を強いられ、心まで血に染まった果てに、無残に命を失ったかつての仲間を。

 その言葉に、サイもほんの少しだけ目を伏せた。

 

「──ありがとうございます。

 トノムラさんはあんな状況下でも、必死で自分の良心と戦っていた。

 だから俺たちをすぐに処分せず、ぎりぎりまで待っていてくれたんだと思います。

 今俺がここにいられるのは、トノムラさんのおかげでもある。

 その無念を、何としても……」

 

 だが、サイがそこまで言葉にしかけた、その瞬間。

 

「──っ!!?」

 

 目から脳髄へ突き抜けるような激痛が、突然サイを襲う。

 思わず右手で頭を抑えたが、痛みは止まらない。同時に全身を突き抜ける奇妙な感覚──

 

 空が、落ちてくる。

 宇宙の果てで、何かが動いている。何かが、地球へ──

 ──これは。

 

「おい、大丈夫か! アーガイル!? 

 医療班!!」

 

 ノイマンが必死で自分を呼ぶ声が聞こえる。同時に、ブリッジがざわめく音も。

 しかしさらにサイの耳を切り裂いたのは、通信ごしのナオトの悲鳴だった。

 

《痛い……痛い……痛いっ!! 

 何だこれ……何かが落ちて

 ……サイさん!!》

 

 すぐにモニターを見る。ナオトはティーダのコクピットに座ったまま、口を押えて嗚咽している。

 この瞬間には既に、サイは確信していた──これは。この感覚は。

 脳が情報を整理する前に、サイはすぐさま開けるだけの通信を開き、インカムに噛みつくように叫んでいた。

 

「全艦に緊急通達!! 

 セレブレイトウェイヴ、L3宙域より発射された可能性があります! 

 目標はオーブ、カグヤ島近海!!」

 

 

 

 ~~~~~~

 

 次回予告

 

 目指したものは、誰もが同じはずだった

 人としての幸福、ほんのささやかな願い

 どこで、誰が、どうして、かけ違えてしまったのか

 祝祭の鐘が鳴り響く中

 少年の叫びは宇宙の片隅へ呑まれていく

 

 次回、機動戦士ガンダムSEED Revelation

「シライシ・レポート」

 消えゆく真実、感じ取れ。ティーダ!! 

 

 

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