【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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PHASE-49 シライシ・レポート
part1 オーブを伝播する『災厄』


 

 

 オーブ連合首長国、南端に位置するカグヤ島。

 そこは技術大国オーブの誇るマスドライバーを有する、宇宙への玄関口であった。

 3年前地球連合軍により奪取されかけたが、それでも首長たるウズミ・ナラ・アスハが自らの命と共に爆砕させたマスドライバー。その被害から驚異的な速度で復興を果たした人類の至宝が、現在も稼働している。

 度重なる災難に見舞われたカグヤ島だが、今マスドライバーはほぼ完全に修復され、アークエンジェルやアマミキョといった多くの艦船が宇宙へ旅立つ足がかりとなっている。

 マスドライバーの復興と共に、当然、多くの人々がこのカグヤ島を訪れては宇宙に旅立ち、オーブを支えていた。

 

 しかし今、その上空を──

 一瞬だけ、眩い光が覆い尽くした。ラクス・クラインの清冽なる歌声と共に。

 同時に人々の耳に、脳裏に、響き渡る鐘の音。

 それは二度目となる、セレブレイト・ウェイヴによる地上への直接攻撃だった。

 

 

 

 

 

 

 オーブ首都・オロファト──内閣府官邸。

 

「状況をもっと正確に伝えろ! オノゴロの国防本部はまだ生きているか!? 

 管制塔からの連絡自体が途絶? なら、第15までの非常用回線全て使っても構わない。

 少しでも迅速に現地の状況を把握するんだ!」

 

 早朝にカグヤ島からの緊急連絡を受けたカガリは、レドニル・キサカと共に管制室に赴いた。

 十を軽く超える数のモニターが逐一各地の映像を伝えてくる中、カガリはオペレーターたちに次々に指示を飛ばしていく。それに応えるように、オペレーターらの声も管制室に響いた。

 

「全国民への第一次災害警報の通知、および送信を完了」

「緊急アラート発動確認、国民保護情報を伝達!」

 

 モニターに溢れるオーブ各地の映像。その中には、国民へ屋内への避難を指示する防災無線の声も混じっている。

 

《只今、オーブ行政府より、大規模神経兵器による緊急避難警報が発令されました。

 国民の皆さまは、警察・消防の指示に従い、至急屋内に退避を──》

 

 防災無線で避難を呼びかける車両が走るその上空で、異様に輝く空。

 ラクス・クラインの歌声を乗せた鐘の音が、管制室内でも重なり合って反響していく。民間のテレビ映像まで拾いながら、モニターはどれもこれも、オーブ各地から撮影された白く輝く空を生中継で映し出していた。

 ──その状況に、カガリは一瞬だけ不安を覚える。

 地面が揺れるような、眩暈にも似た感覚と共に。

 

 

 ──そうだ。この光と音は……! 

 迂闊だった。直接この映像を目にしては!! 

 

 

 予想以上の事態の深刻さにカガリが気づいた瞬間、キサカの大きな背中が彼女の前に立ちはだかる。

 モニターの光から、カガリを庇うように。

 

「カガリ! この光を見るな……っ!!」

 

 寡黙でありながら、ずっと彼女の護衛者としてカガリの支えとなってきたキサカ。

 その背中が、カガリの眼前でぐらりと揺れる。まるで、正面から狙撃されたかのように。

 

「キサカ!?」

 

 何が起こっているのか、この瞬間にはカガリも理解していた。

 彼女の方にだけは倒れ込まぬよう意地を張ったのか、がくりと前のめりに膝をつくキサカ。思わず助け起こしたものの、その瞳は既に焦点が合っておらず、顔面は信じられないほど蒼白だった。

 それでも彼は必死でカガリに何かを伝えようと、震える手で彼女の軍服を掴む。

 動揺が身体の震えとなって現れながらも、カガリは声を荒げてオペレーターたちに命じた。

 

「今すぐ映像を遮断しろ! 直接この光を見てはいけない! 

 この光と音は、映像媒体を通しても影響を及ぼしてくる!!」

 

 突然の彼女の指示に、思わず反論してくるオペレーター。

 

「し、しかし、先日のザフト基地を襲った音波は、モニターを通じてなら影響はないはずです!」

「我々も映像と音波の分析を行いましたが、特に身体への影響は……

 うっ!」

 

 反論しつつも忙しなく手を動かしていたオペレーターの手が、けいれんでも起こしたかのように不自然に震え、止まる。

 そして彼女は、誰にともなく、宙に向かって呟いた──

 

「……なんで、わたし、ここにいるの? 

 ねむい……はやく、ねむりたい……」

 

 ふらふらと立ち上がりかけ、その場にくずおれてしまうオペレーター。

 頭にかけていたインカムがその拍子に外れ、ころころと床を転がった。

 カガリの脳裏に浮かんだものは、今もなお病室でうわ言を呟き続けている、狂ってしまったザフトの女性兵士の姿。

 

 ――災厄が、今、自分のすぐそばまで迫っている。

 こんな恐怖は、モビルスーツで戦っていた時でさえ味わったことがない。

 

 一瞬、恐ろしい静寂が管制室を包む──

 カガリは考えるより先に、全身で叫んでいた。

 

「動ける者は至急、救急隊を呼べ! 

 この光が映るモニターは全て遮断だ、全報道機関にも伝達しろ! 現時刻より、カグヤ上空の映像と音声を行政府の許可なしに流すことを禁じる!」

「ですが……!」

 

 倒れたオペレーターを支えるようにしながら、他の者もカガリに矢継ぎ早に問う。次々に閉ざされていく映像モニター。

 

「それではカグヤの状況が……!」

「現地の住民の救出は!? 目も耳も塞いで救助活動を行なえと!?」

 

 そんな中でも、カガリは毅然と言い放った。

 

「セレブレイトウェイヴは明らかに以前と違っている。

 映像や音声を利用して、電波に乗せてまで影響を与えてくる! それがどういうことか、分かっているのか!? 

 これ以上被害を広げない為にも、まずはカグヤからの映像を全て遮断だ!!」

 

 カガリが叫んでいる間にも、オペレーターが一人、また一人と糸が切れたように倒れていく。

 彼女自身さえも脳内に鳴り響く鐘の音により、激しい眩暈に襲われていた。

 大地が大きく揺れ、平衡感覚が失われていく。必死で机の端を掴みながら、カガリは何とか自力で意識を保っていた。胃の奥から激しくせりあがってくるものを抑えながら、モニターの光から隠れるように机の陰に身を屈める。

 昏倒したままのキサカの背中が、視界の隅で揺れていた。

 

 ──キサカも仲間も救えず、こんな情けない姿を、皆に晒すとは。

 ──お父様。私は、またしてもオーブを……!! 

 

 眩暈に苦しみながら、カガリの胸が絶望で満たされていく。

 その時、彼女の内ポケットに潜ませていた通信端末が、軽く音をたてた。行政府内でもごく限られた者にしか知られていない、秘匿回線による通信だ。

 恐怖によるものか音波の影響か、がくがく震え続ける手。その手で端末を掴み、応答する。

 と──

 

《大変なことになっちゃったねぇ、カガリぃ~。

 どうやら君は無事みたいで、ほっとしたけどぉ》

 

 状況には全く似つかわしくない、嫌味かつ呑気な男の声が端末から響いた。

 無事なものか。思わず端末をぶん投げかけたカガリだが、何とか感情を抑えきって対応する。

 

「……ユウナか。貴様、こんな時に!」

《こんな時だからだよ》

 

 官邸の地下深くに幽閉したはずのユウナ・ロマ・セイラン。恐らくはその地下からの通信だ。

 

《僕の場所からはイマイチ状況が分からないけれど、ひとまず地下なら安全だということは分かったね。映像さえ見なければの話だけど》

「そんなことは分かっている……

 今は国家の一大事だぞ。何の用で、こんな連絡を寄こした!」

《とりあえず、カガリ。全報道機関に即時停波を命じただろうね?》

「さすがに……そこまでは。

 この状況で停波までしては国民がパニックに陥る。それに、報道の自由までも侵す権限は政府にはない」

《甘いことを言うんじゃない。一大事を自覚していないのはどっちだい?》

 

 いつになくピシリとした言葉が、カガリの耳に届いた。

 

《ムジカ社長が言っていたよ。こいつは電波ごしに一瞬で感染するウイルスみたいなものだ──

 今すぐマスコミを止めないと、被害はオーブに留まらず、世界中に撒き散らされるってね》

「しかし……」

《また、デモデモダッテのお嬢ちゃんに戻るつもりかい? 

 今ならまだ対策のしようもある。社長もその準備を整えているよ。

 ちょうど今、一緒に徹夜で囲碁やってたトコでこの騒動だ。代わるかい?》

「いや、結構だ」

 

 この状況で嫌味な男を二人も相手にしたくはない。

 カガリは息を整えながら、ユウナの声だけに耳を傾ける。先ほどのオーブ上空の映像は未だ脳裏に焼き付き、それが不自然なまでに頭の中で鐘の音を響かせていく。

 その残響を振り払うように、カガリは声を張った。

 

「……それで? 

 何が目的だ」

《まずは、オーブ国内の文具団の工場──今は一時的に政府管轄になっているけど、その権限の一部移譲。要するにロゴス騒動前の状況に戻せってことなんだけど。

 どうやら業務用と一般家庭用に、あの怪音波の防護フィルムを作成する準備が出来ているらしい》

「話がうますぎるが、今でなければ私が許可しないと踏んでのことか」

《だろうね、あの社長のことだし。

 それで? 許可するかい、しないのかい?》

 

 許可したいわけがない。

 世界を救う希望の船、オーブの誇りなどと偽って、アマミキョを実験船として扱い――

 サイたちクルーごと南チュウザンに売り渡したムジカ社長を、カガリは今なお許せてはいない。そもそもこの災厄にしても、文具団の技術なしでは起こりえなかったじゃないか。

 どうしようもない怒りに歯噛みしながらも、カガリは何も言えない。

 しかし──

 

《早くしないと、カグヤ島の住民が、救援部隊も含めて全滅だよ? 

 今だったら、サンプルを救援部隊に提供可能だってさ》

 

 ユウナの巧妙な言葉に責められ、追い詰められていくカガリ。

 しかしそんな彼女の脳裏にふと浮かんだのは、かつて社長やユウナと堂々と対峙してみせた、サイ・アーガイルの背中だった。

 

 ──であれば、自分にも報酬をいただければ嬉しいです。

 その権利は、あるはずでしょう? 

 

 あの時のサイだって、カガリと同じように――

 否、それ以上の激昂を抱えていたはずだ。

 それでも見事に怒りを抑え、社長との交渉に笑顔で臨み、結果を掴み取った。

 サイに出来るのであれば──首長たる自分に出来なくて、どうするのか。

 今すべきことは何よりも、オーブを守ること。その為には、どんな泥水でも啜っていこうじゃないか。

 かつての父も、国防用モビルスーツの開発を黙認していたように。

 今のサイが、その身さえ犠牲にしてフレイ・アルスターと向かい合おうとしているように。

 

 理念だけでは、きれいごとだけでは、国は守れない──

 カガリは敢然と顔を上げた。

 

「いいだろう。

 但し、一刻の猶予もない。少しでも遅れたら前言撤回だと伝えろ!」

 

 

 

 

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