【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
不意に地上へと撃ち放たれたセレブレイト・ウェイヴ。その第二射は、地上のみならず宇宙にまでも影響を齎しつつあった。
今や、地球から宇宙への数少ない玄関口であったカグヤ島。そこは普段から大勢の人々が集まる場所であり、照射直後から報道陣も多く詰めかけた。
ウェイヴの照射時間は以前よりも倍増しており、たっぷり10分以上もかけてオーブ上空を染め抜いた。当然、人々の上に降り注ぐ鐘の音も。
そしてこの光景を映し出したマスコミのカメラを通じて、世界中の家庭にも映像と音声が流れていく。いくらオーブ行政府が報道のシャットアウトを試みても時既に遅く、オーブ国外にまで流出した映像はものの数十秒で、各国の報道機関で一斉に流されてしまっていた。
それだけではない。カグヤ島において現地の人々が、全くの興味本位で撮影した動画までもがネットワーク上に流れ──
人々が持つ通信端末などを通じ、驚異的な速度で拡散されていったのである。
ニュートロンジャマーが大量散布されたエイプリルフール・クライシス以後、地上の通信網は大きく劣化していた。しかしオーブなどの技術の進歩が目覚ましい地域ではネットワークは以前と同様、いやそれ以上に発達しつつあった。それが裏目に出たか──
ウェイヴの照射直後から、オーブのみならず世界各地で、ウェイヴの影響で倒れる人々が続出した。カガリが危惧した通りに。
その影響範囲は地上に留まることなく、月の中立都市コペルニクスや各国のコロニー、そしてプラントにまでも及んでいく。映像が流された場所では地上だろうと大気圏外だろうと屋内だろうと分け隔てなく、ラクスの声が人々を眠らせていく。
恐るべきその影響は当然、サイたちの乗るアマミキョ周辺でも発生した。
コロニー・ミントンで出撃準備を整えつつあったアマミキョ、ホウジョウ、ミネルバJr、そしてアークエンジェル。
サイが異変を感知してすぐに彼は各艦のリーダーに呼びかけ、その数秒後にはミントン全体に一斉に警戒体制が敷かれた。
だがそんな中ですら、異変は着実に進行していく。
山神隊母艦・ホウジョウ。そのオペレーションルーム内では──
キョウコ・ミナミが一人、自前のモニターで映像の解析作業に熱中していた。
真っ青になってそこへ飛び込んできたのは、時澤軍曹。
彼も先日の負傷から未だ回復しておらず、頭に包帯が巻かれた状態ではあったが、それでも細い眼を一気に見開いて全身でミナミに飛びついていく。
「ミナミさん!
何をしているんですか。照射直後の映像を絶対に見てはいけないと、既に艦長から通達があったはずですよ!!」
彼女よりも背丈は低いが、それでも軍人たる時澤の腕力は相当だった。
背後から引き離されかけながらも、ミナミは必死でキーボードと格闘する。
「待ってください……!
もう少しなんです……今が千載一遇のチャンスなの!」
「そもそも、一体どこからこの映像を!?
カグヤ島からの映像は全て強制的にシャットアウトしたはずです!」
「月経由で会社の人間が送ってくれたの。
今ここで正確なデータを取らなきゃ、今やらなきゃ、いつやれるっていうの!?
ザフトだってアマミキョだってティーダだって、あれだけのことをやってるんですもの。連合の意地、何としてもここで……ッ!!」
叫びながらもミナミの手は素早く動き、映像を解析ソフトへと落とし込んでいく。しかし──
画面に「Complete」の文字が出た瞬間、彼女は時澤の腕の中へ崩れ落ちてしまった。
「ミナミさん!!」
同時に、ミナミの使っていたモニターの電源を強制的に落とす時澤。
長身の彼女の体重が思いきり彼の両腕にのしかかり、二人して倒れかけながらも、時澤は床へ転倒する前に何とかミナミを抱き止めた。
しかし──
ぼんやりと開かれた彼女の両目は既に焦点が合っておらず、ただ、何もない宙に向かってよろよろと手を伸ばすことしか出来ない。
「お願い……どうか……
私も、少しでも、役に……」
その言葉すら最後まで言い切れず、ぐったりと時澤の腕に体重を預けてしまうミナミ。
「──クソッ!!!」
時澤が拳を床に叩きつける音は、虚しく船底へ吸い込まれていくばかりだった。
アマミキョブリッジでも、ヒスイやディックらオペレータの声が次々に交錯していた。
「ホウジョウより連絡!
乗員7名が、映像の影響により負傷した模様です」
「た、隊長! 医療ブロックでも負傷者が次々に運び込まれています!
未だ損害状況が不明!」
「ミネルバJrの乗員も、数名が倒れたとの情報が!」
悲鳴のような報告が続く中、隊長たるトニーは怖気づくことなく声を張る。
「引き続き、件の映像と音声は絶対視聴厳禁だと皆に呼びかけてくれ。
オーブの状況は?」
「分かりません。カグヤとオロファトへ通信を試みていますが、反応がありません」
副長席から出てオペレータ席へ降りてきたサイも、自らに装着されたチューブもそのままに、ヒスイたちへ指示を飛ばした。
「行政府への直通回線を使え。何としてもアスハ代表と連絡を取るんだ。
各国との通信状況はどうなってる?」
「駄目です。コペルニクスとカオシュン、連絡不能!」
「ミネルバJrから、カーペンタリア及びディオキアとの通信が回復したとの報告が入っていますが、そちらにも負傷者が発生しているようです」
現地の情報が遮断されている中、次々に拡大していく被害。
右拳をぎゅっと握りしめながら、サイは唇を噛まずにいられない。
「ただの一発で……これか!」
今メインモニターに映し出されているのは勿論現場のカグヤではなく、各国主要都市の現況だ。一見何事も起こっていないように見えるものの――
カメラが切り替わるたび、路上で突然倒れる人々や、原因不明の事故を起こす車両が映し出されていく。中にはビルの間からはっきりと黒煙が上がっている都市まであった。
北チュウザンは──カズイは、あそこに残してきた皆は、大丈夫なのか。
焦燥にかられたサイに答えるように、ヒスイの声が響く。
「副隊長。ヤエセとウルマの回線、復旧しました。
やはり負傷者が数名運び込まれているようですが、今のところ乗員に負傷者は出ていないとのことです」
その言葉に、サイはほんの少しだけ胸を撫でおろした。
彼の心を見抜いたかのように、トニーがため息まじりに呟く。
「海底ケーブル網が、オーブほど発達していなくて助かったな……
ジャマーの影響が少なく、ネットが発達している地域ほど、被害が広がっている印象がある」
「それも見越して、南チュウザンはカグヤを狙った可能性が高いですね。
あそこはマスドライバーという施設の性質上、普段から人が集まりやすい。各局のテレビカメラも数多く常備されている。そしてオーブの通信網は、世界で最も発達していると言っても過言ではない。
プラントが大きな被害を受け、連合もロゴス騒動で力を失った現在、オーブは世界で最も力ある国の一つです。つまり、人々の注目を集めやすい国。
その中でも、ごく短時間で世界中の目を集めやすい場所を──」
「見事に狙いすまされたってワケか。
ついでに、地上と宇宙を繋ぐ貴重な港も使用不能に出来て一石二鳥というわけだな。クソッ」
トニーも思わず床を蹴りかけたが──
ほぼ同時に再びヒスイが、悲鳴のように声を張り上げた。
「あっ……隊長!
ホウジョウの山神艦長より連絡です! 負傷者の中に、出向中のミナミ課長が含まれていた模様!」
「な……っ!?」
ブリッジ中に、さらなる動揺が走る。
ミナミといえば、タロミによる北チュウザン進攻の頃から、山神隊で積極的に技術提供をしていた女性だ。自らモビルアーマーに乗り込み、戦いに出ようとしたことさえある。
アマミキョも少なからず世話になっていた、山神隊の中心人物だ。その彼女が──
「課長は現在こん睡状態とのことですが、その件で山神艦長と直接通信が繋がっています。隊長と副隊長に、お話があるとのことで……」
「繋いでくれ」
サイがそう答えるとほぼ同時に、サブモニターに山神艦長が姿を現した。
ただでさえ白髪の目立つ彼は、この騒ぎでさらに疲労を増したように見える。
《──聞いての通りだ、サウザン隊長、アーガイル副隊長。
最早一刻の猶予も許されん。我々はこれより、ウーチバラへ向けて出撃する。
どんなことをしても、あの神経兵器を止めねばならん!》
やはり来たか。
サイはごくりと唾を呑み込みながら、冷静さを装って答えた。
「勿論、自分たちもそのつもりです。
恐らくミネルバJrもアークエンジェルも、間もなく出発出来るはずです。
しかし、お話というのは──?」
《ミナミ課長のデータだ。
映像を見れば自身に被害が及ぶと分かっていながら、彼女は自らの命を賭して、カグヤ島の映像と音声データの解析作業を行なっていた》
「……!!」
《勿論、命令に背き映像を直接見た件は、褒められることではない。
しかし彼女はそれも承知の上で、倒れる瞬間まで作業を続行したそうだ。
そのデータを、今からアマミキョにも送る──
ザフトの歌姫の音声による防護装置の話は聞いている。それに少しでも役に立つなら、どうか使ってほしい》
一瞬返事すら忘れて、サイは茫然と山神艦長の言葉を聞いていた。
自陣にまでも、犠牲が着々と増えている。死亡という形ではないだけ、まだ有情なのかも知れない――
否、負傷者の生命維持にリソースを割かねばならない分、死亡よりも厳しい状況かも知れないが。
ほんの少しそんな考えに捉われてしまった自分を恥ずかしく思いながら、サイは再び右拳を強く強く握りしめた。未だ慣れない機械の左手は、ぎこちなく関節部の信号を明滅させるばかりだったが。
「──承知しました。
課長のデータ……使わせていただきます」
そんなサイの背後から、不意にかけられる女性の声。
「それは、覚悟を決めたという意味に捉えていいかしら?」
殆どのブリッジクルーにとっては聞き慣れぬ、凛とした女性の声。
しかしサイにとってその声は、懐かしさすら覚える──
同時に、僅かながらの恐怖も。
――あぁ。遂に来てしまったんだ、この時が。
俺が、アマミキョに繋がれる時が。
あれだけナオトたちに啖呵を切ったにも関わらず、俺の中にはやっぱりまだ、普通の凡人でありたいという未練が残っている。
だけど──それでも、俺はやる。
恐怖も勿論あるが、やり遂げたい気持ちが
ウェーブのかかった栗色の髪に、紅のジャケット。すらりとした長身の女性──
モルゲンレーテ社主任設計技師、エリカ・シモンズが、ブリッジ中央通路から軽く腕組みしつつ、サイを見つめていた。
「もう、一歩も後には引けないわよ。
アマミキョへの船体接続手術の準備は整ってる。貴方さえOKなら、いつでも行けるわ
──アーガイル君」