【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part2 退けないジュール隊

 

 

 

 アマミキョブリッジでは、リンドー副隊長が索敵を命じていた。

 アストレイ隊及びミストラル隊と共に、アマミキョはコロニー修復作業と救助活動を並行して行なっていたが、彼らの尽力もあり、生存者はほぼ避難を完了していた。

 太陽光ブロックの修理もほぼ一段落している。

 

 コロニー外部のチェックを続けていたディックが報告する。

 

「未だテロ部隊の所在は確認できません。

 付近のデブリがひどくて……」

 

 コロニー・ウーチバラは、ちょっとした隕石流の中に巻き込まれようとしていた。

 通常ならばコロニーの防御装置が働くが、今はその一部が破壊され、危険な状態になりつつある。

 しかしモニター解析状況を眺めながら、社長は相変わらず余裕の表情を崩さない。

 

「うひゃあ。まるで、デブリの河だね」

「これじゃ、敵がいても分からない……」

 

 オペレータでありながら、思わずぼやきを漏らすマイティ。

 その弱音に、成り行きで操舵手となったオサキが吐き捨てるように呟いた。勿論、誰にも聞こえないようにだが。

 

「探せよ、デブス」

 

 

 

 

 

 

 医療ブロックからカタパルトへ、慌しく戻ってきたイザーク。

 彼は固定されていたザクファントムを確認し、まっすぐディアッカの方へ向かっていく。

 無事を喜ぶ余裕すら与えず、すぐさまイザークは用件を切り出した。

 

「ディアッカ! 

 ハーネンフースは無事だ、確認したっ」

 

 その苛立った様子に、ディアッカは遠慮なく吐き捨てる。

 

「チョコマカ動きすぎだって、隊長らしくしろ。

 っていうか、少しは互いの無事を感謝しようぜ? あんなことがあった後だし――」

 

 だがイザークはその言葉を無視しつつ、ディアッカの胸ぐらを掴むようにして会話を始めた。ただし、出来る限り小声で。

 

「覚えてるだろうな? 俺たちはあの機体の情報を……」

 

 そんなイザークの声をさらに抑えるように、囁き声で告げるディアッカ。

 

「ちょっとばかり、やりにくい船だぜ。

 知り合いがいた」

「さっきの女か」

「それもあるし、アークエンジェルのダチもいた」

 

 サイをそう呼ぶのに、全くためらいはなかった。

 ディアッカはだいぶ前から、「ナチュラル」という呼称を必要時以外に使わなくなっていた。

 イザークももう、それに突っかかるほど野暮ではない。

 それよりも、自分たちの任務だ。逸るイザークを、ディアッカは制する。

 

「あの機体に関する会話は記録してある、十分報告材料にはなるさ。

 一旦、シホと一緒に引き上げた方が……」

 

 しかし、イザークの激情は止まらなかった。

 

「引けるか! 

 貴様はあの光を見ていないッ、部下が傷つけられたんだぞ! 俺の! 目の前で!!」

 

 

 

 

 

 

 ストライク・アフロディーテのコクピット付近では、ハラジョウの整備士に混じってハマーが取り付く。フレイをナンパでもしようかという雰囲気だ。

 コーディネイターとナチュラルとで、彼の態度は面白いほど変わっていた。第三者から見れば面白いというだけの話だが。

 

「いやはや、お嬢さんもこの機体も素晴らしいっ! 

 元がダガーLたぁビックリだぁ、しかもあの機動ッ! 

 あのGにゃ並のナチュラルは即死だぜ、シビレるね!」

 

 その息がフレイの髪にかかったが、彼女はそ知らぬ顔だった。

 

「酔っ払いが……

 アフロディーテに触れるな」

「酒は命の水だ、あんたの口紅と同じだよ。

 心配せんでくれ、これでもクソナチュラルよりは大分マシな腕だぜ?」

 

 

 

 

 

 

 ブリッジのすぐ外の通路では、アムル・ホウナがうずくまっていた。

 トニー隊長らをはじめとする人々が忙しく行きかっていたが、彼女は身動きもしない。

 ついてきたカズイは何も出来ず、その横に立ち尽くしたままだ。

 

 アムルの肩に触れようとしたが、触れられなかった。

 彼女の身体から、電気にも似た妙な気合が放散されている気がして。

 ヘタな励ましはかえって彼女を刺激してしまうだろうことは、カズイにも理解できた。

 だが彼が迷っている間に、アムルは顔を上げる。

 その目には――涙がいっぱいにたまっていた。

 

「ずっと、うるさい人だと思ってた。

 母は私に期待しすぎたのよ……私がその夢に答えられないと分かったら、すぐに私に孫を生めってあの男を押しつけて。

 これだからコーディネイターなんかに、生まれたくなかったのに!」

「あの……えっと」

「ずっと、あの音楽が嫌だった。母も、音楽も、大嫌いだった。

 何でこの期に及んで、あの曲を弾いたのよ……」

 

 アムルの細い指が、涙を拭う。その指の細さ、肌の艶が、カズイの目に焼きついた。

 この手がかつて、ミヨシ・ホウナの指導でピアノを弾いたりしたことも、あったのだろうか。

 そう思ってしまうカズイに、アムルの言葉の真の意味は響かない。

 

「僕に言えることは、何もありません

 ……お察しします」

 

 アムルの口元が、引き攣ったような笑いを浮かべる。

 

「分からないでしょうね。

 親の期待に応えられなかったコーディネイターの気持ちなんて!」

 

 自らの声帯を押さえつけるような響きが、余計にカズイの胸を打つ。

 どう言っていいのか分からなかったが、カズイは精一杯の言葉を絞り出した。彼女の為に。

 

「貴方は、素晴らしい女性だと思います。

 お母さんも、貴方を愛していたと思います。あの男性だって……」

 

 男性、という処にわずかに攻撃的なノイズが混じったことに、カズイ自身も気づかなかった。その声が、遂にアムルの感情を突き刺す。

 

「分かってるからこそ、つらいんでしょうに!」

 

 アムルが激昂した、まさにその時だった。

 船内に再び警報が鳴り響いたのは。

 

 

 

 

 

 

 ブリッジに、ディックの叫びが響く。

 

「モビルスーツ隊捕捉! デブリ帯からこちらへ向かっています。

 距離600、インディゴ1、5、2、マーク03デルタ! 

 ウィンダム6機、残り1機は……

 ライブラリ照合不能! 機種不明!?」

 

 ディスプレイには、機影を示すマークが黄色表示で示される。

 明確な敵ならば赤で表示されるが、この時点でアマミキョにとって、彼らは敵かどうか不明なのだ。

 そもそもアマミキョは、「敵」が存在してはいけない、中立国の、民間の緊急救助船だ──

 

 

 

 

 

 

 カタパルトにもその警報は響いた。

 既にアフロディーテに乗り込んでいたフレイは、冷静に指示を出す。

 

「ソードカラミティは砲撃戦用にして待機だ。

 コロニーに侵入される前に叩く!」

 

 その下から、マユが走り寄ってくる。顔色はまだ青いが、笑顔だ。

 彼女に気づいたナオトは仰天したが、マユは元気にナオトに向かって手まで振っている。

 負傷していた方の手を。

 

「フレイー! 

 マユ、またナオトと一緒に乗れる!?」

 

 その一方で

 ――サイはまだティーダのハッチに取り付いたまま、ナオトとマユを見守っていた。

 

「女の子が喜ぶなよ……戦場なのに!」

 

 サイの小さな怒鳴り声を隠すようなフレイの指示が、カタパルトに鐘の如く響く。

 

「ティーダは待機だ、指示あるまで出るな! 

 カラミティを先行させるっ」

 

 長い髪を手早くまとめてメットを被り、バイザーを閉じるフレイの仕草。

 いやに手慣れたもんだ──サイは思った。

 ナオトのヘルメットの通信状態を確認していた彼の背後で、いきなり警告灯が点滅し、砲撃装備となったカラミティが発進していく。

 

 連合製のカラミティガンダムの、本来あるべき姿である。

 これほど早く砲撃戦装備に戻せるとは、ソードカラミティとはまた違うタイプなのかも知れない──

 一体、「アマクサ組」とは何だ? 

 サイの思考を遮るように、カイキの捨て台詞が外部スピーカから投げつけられた。

 

《マユを出したらてめぇらまとめて、宇宙に放り出すからな!》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アストレイ隊が援護してくれる。

 15番ハッチから外に出ろ!」

 

 ブリッジから、リンドー副隊長の指示が飛ぶ。カラミティがコロニー地上部分に降り立ち、外宇宙に通じるモビルスーツ用ハッチを開いて飛び出していった。

 続いて、フレイのアフロディーテがIWSPを背負い、アマミキョから発進していく。

 

《え、えぇっと……

 ストライク・アフロディーテ、発進、お願いします》

 

 黒き翼を背負い、血塗られた女神──

 ちなみに発進オペレートは、不慣れなマイティが行なっていた。

 

 

 

 

 

 

 安全確認もままならぬまま警告表示が明滅し続け、カタパルトは混乱する。まだ負傷者も十分収容できていないというのに。

 そんな中ディアッカのザクウォーリアが、砲撃装備で発進位置についていた。

 

「俺らも援護する! 

 ちゃんと伝えておけよっ」

 

 サイはその声に思わず振り返る。明らかに、自分に向けての言葉だった。

 

 その「伝える」相手は誰だ、エルスマン? 

 ──ブリッジか、それともミリ……

 いや、いい。両方の意味だろう。そうサイは解釈した。

 

 イザークもまた、ザクファントムに乗り込み待機中だ。

 

「ティーダは出させんぞ、あんな危険物をッ!」

 

 一方でブリッジからは、マイティの悲鳴が響く。

 

《ちょっと待って。勝手な行動をしないでくださ――!》

 

 そのオペレートを押さえつけるように、イザークが応える。

 

「残念だが、自分らはこの船の指揮下にはない。

 ディアッカ、行けっ!!」

 

 そんなかけ声と共に、ザクウォーリアは勢いよく発進していった。

 

 

 

 

 

 

「もうちょっと発進指示、どうにかならなかったんですか」

 

 カタパルトの荒れようにたまりかねたサイが、ブリッジに駆け込んだ。

 指示を無視されまくっているマイティが、ほぼ自暴自棄に叫ぶ。

 

「なるわけないでしょ、逃げたクルーだっているんだし!」

 

 オサキも舵を握りながら、サイに怒鳴り返す。

 

「てめぇこそ何してたんだよ、色眼鏡野郎!」

「ナオトとティーダの状況を確認してた。

 放っておけないだろ。彼も、あの機体も!」

「ったく。どいつもこいつも私情で行動しやがって!」

 

 君こそ今まさに、私情で操舵席座ってるんじゃないのか。

 そうサイが反論しかけたその時、長い金髪を靡かせつつアムルが駆け込んできた。

 

「私、オペレート経験あります。

 お願い、やらせて下さい!」

 

 彼女は一人だった。一緒にいたはずのカズイは、トニー隊長を呼びにいったらしい。

 随分と、立ち直りの早い女だ──親と婚約者を殺された後にしては。

 脳裏をほんの少しそんな思いが掠め、サイは思わず眉を顰めた。

 しかしその間にも、警報音は高まっていく。

 

 「もうこれ以上騒ぎ立てんな。

 とりあえず、やれるだけのことはやってみぃ」

 

 リンドー副隊長はサイからカタパルトの状況報告を聞きつつ、アムルにオペレータ席を顎でしゃくった。

 彼女は素早く席につき、コンソールパネルをいじり始める。その手つきから、経験があるというのは嘘ではないようだ。

 それを眺めながら、サイはふとムジカ社長に尋ねた。

 

「トニー隊長は?」

 

 剃ったばかりの顎鬚を撫でつつ、答える社長。

 

「船内行ったきりだ。

 ブリッジ向きじゃないよねぇ、あの人」

 

 

 

 

 

 

 船内は相変わらず、大混乱の中にあった。

 トニー隊長はサッカーコーチの経験を生かし、大声で喚き散らしつつ各ブロックを走り回り全員に警戒を促していたが、効果は芳しくない。

 逆に問い詰められ、答えに窮する場面もしばしば見られた。

 

「詳しいことは調査中だが、皆頑張ってくれ! 私も頑張る!!」

「ナニをどう頑張れっつーんだよッ」

 

 そんな問答を続けるトニー隊長の背後で、救助艇が数隻、また被災者を乗せて飛び込んできた。

 何人かはハッチからはみだしかけている。アマミキョからワイヤーが射出され、救助艇を牽引していく。

 その後方、コロニーの空では、作業用アストレイが低重力の中を滑空していく――

 

 

 

 

 

 

 敵か味方か。それすらはっきりしないまま、コロニーの壁ごしに戦端は開かれた。

 急いでアムルの横に陣取ったサイは、ディスプレイを素早くチェックする。

 同時にさりげなくアムルの手つきも見たが、彼女はひどく冷静だった。

 

 本当にこれが、ついさっき親を殺された娘か? 

 

 ブリッジ正面の、劇場スクリーンにも似たメインモニターには、コロニー管制から転送されてきた戦闘空域の映像が逐次入っている。

 デブリの中を飛ぶアフロディーテとカラミティ、そしてウィンダム隊の激突が見えた。その後方からディアッカのザクウィーリア、アストレイ隊が援護に入っている。

 若干、電波干渉によるノイズはあるが、コロニー外──フレイからの通信回線もほぼ正常だった。

 聞こえてくるフレイの声。しかしそれは、会話ではなかった。

 

 

 

 

《──その六十二週のあと油注がれた者は 不当に断たれ 

 都と聖所は 次に来る指導者の民によって荒らされる》※

 

 

 

 

 それが聖書の一節であることに気づくまで、サイは若干の時間がかかった。

 CE30年パレスティナ公会議以来、権威を失っていたはずの「神」。

 その存在を示す書物──聖書。

 その一節を、フレイが暗唱している? 

 

 またしても彼女に関する疑問が増えた瞬間

 コロニー外宇宙を映し出していたスクリーンに、閃光が散った。

 

 フレイのストライク・アフロディーテが、ウィンダム隊と交戦状態に入っている。

 先に攻撃を仕掛けてきたのは相手側だった。ならば、やるしかない。

 ウィンダムのビームライフルを右へ左へ自由自在に次々とかわし、幾筋もの火線をIWSPの翼から放つアフロディーテ。

 ブリッジから見るそのさまは、墨を溶かした水中に咲く光の華だった。

 干渉により映像が乱れ、それが水中という錯覚を起こさせる。

 

 

 ──綺麗だ。

 

 

 サイは不謹慎と感じながらも、アフロディーテに対して思わずにはいられない。ナチュラルどころか、生半可なコーディネイターすら相手にならないだろう。

 翼をひらめかせ、バーニアを噴かし、宇宙に光を描いて真紅のストライクが舞う。

 光跡に、巨大な火球が2つ生まれた。ウィンダムとそのパイロットが生命を散らした証だ。

 

《その終わりには洪水があり 

 終わりまで戦いが続き 

 荒廃は避けられない》

 

 その間にも、フレイの朗唱はやまない。

 敵も味方も、この空域全体を呪詛するようなフレイの声は。

 

 

 

 

(※出典:旧約聖書ダニエル書第9章第26節より)

 

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