【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part3 虎と女帝の問答

 

 

「オーブが……撃たれた? フレイに? 

 ラクス・クラインに?」

 

 ミネルバJrの営倉で。

 ルナマリアからその一報を聞いたシンも、驚きを隠せない。ただただ紅の瞳を見開き、茫然と鉄格子の向こうの彼女を見上げるばかりだ。

 

「あの兵器を使ったのがどちらなのかまでは、私たちには分からない。

 だけどもう、うかうかしていられないの。被害を受けたのはオーブだけじゃないし」

 

 そう話すルナマリアも、既にパイロットスーツを着込んでグローブの調子を確認している。

 

「プラントにも映像が流出して、被害が出てるそうよ。艦内でも何人か負傷者が確認されてる。

 フレイ・アルスターの目的がどうあれ、もうあの兵器は止めなきゃいけない。それが、私たちの総意」

 

 ぼんやりとその言葉を聞きながら、シンは思い出す。

 

 ――確かフレイは俺たちに、何度も言っていたはずだ。あの兵器は使うものではなく、存在を利用するものだと。そして、決して必要最低限の威迫以外の目的で使用してはならないとも。

 どうしても使用の必要に迫られた時は、出来る限り被害を最小限に抑える形で使用しなければならないとも──

 しかもフレイは、映像媒体を通せば光が無力化されるよう、慎重に慎重を重ねて調整されたフィルタをかけて発射するよう指示していたはずだ。

 セレブレイトウェイヴを、決して人を攻撃する兵器にはしない。人の未来を守り、争いあう人を結束させる為に使う──

 それがフレイの口癖だった。

 

 しかし話を聞く限り、今回の発射は被害を抑えるどころか、敢えて拡大させるように仕向けて撃たれたように思える。その上、調整用のフィルタさえ解除された状態で。

 間違いない。これは──

 ラクス・クライン一世による全世界への明確な攻撃であり。

 同時に、彼女からフレイ・アルスターへの制裁でもあるのだろう。自らの『母』たるラクス一世に、反抗の意思を示した彼女への。

 

「……オーブを撃ったのは、フレイじゃない。

 間違いなく、ラクス一世だ」

 

 呟くシンに、冷静に答えるルナマリア。

 

「参考意見として報告しとく。

 だけど、それを判断してどう動くのか、決めるのは艦長や上の人間よ」

 

 てきぱきとパイロットスーツの調整を行うルナマリアを見ながら、シンの胸に去来したものは、どうしようもない無念。

 

 ミネルバが墜とされ、デスティニーも敗北し、月で彼女に救出された時──

 ルナは言ったんだ。オーブは、撃たれなかったと。

 オーブが憎かったはずなのに。オーブを撃つ立場にいたはずなのに、何故か心の底で俺はあの時、とてつもない安堵を感じて──

 ルナの腕の中で、泣きじゃくった。

 認めたくなかったけど、認めざるをえなかった。俺は本当は、オーブが──自分の故郷が、好きだったことを。好きだったからこそ、憎んでいたことを。

 それなのに今、そのオーブが撃たれた。しかも、味方であるはずのラクス一世に。

 

 途方もない無力感と絶望がシンの心を襲いかけ、彼は思わず立ち上がっていた。

 

「俺を出してくれ」

「えっ?」

 

 思わず鉄格子に掴みかかり、ルナマリアに訴えるシン。

 

「フレイに会いに行く──

 あいつだって今、混乱しているはずだ。キラさんもチグサも!」

 

 ルナマリアは一瞬穴が空くほどシンを見つめていたが、やがてゆっくり首を横に振る。

 

「出来るわけないでしょ。

 ここはしばらく冷静になって。サイもアスランもナオトもヴィーノもみんな、貴方の気持ちは分かってる」

「でも!」

「お願いだから、今は私たちに任せて。

 もし貴方の力が必要になったら、その時は艦長から指示があるはずよ。

 今のトライン艦長なら、きっと的確な判断が出来る。私は信じてるから」

 

 そう言ったきり、ルナマリアはさっと踵を返してシンの前から駆け去っていく。

 後は、恐ろしいほど静まり返った営倉に、彼一人だけが取り残された。

 

 

 

 

 

 

「オギヤカの管理、ご苦労でした。

 さすがは砂漠の虎、見事な手腕ですわね」

「恐れ入ります。

 御方様こそ、ご無事で何よりでしたな。ミントンに自ら行かれたと聞いた時は肝を冷やしましたが」

 

 コロニーウーチバラ内・オギヤカ中枢──第二執務室。

 少しばかり華やかな和室にも似ており、古い伝統の刀や水墨画など、東洋の様々な調度品を設えたその部屋では今、ラクス・クライン一世とバルトフェルドが向かい合い、共に正座していた。

 ただしバルトフェルドは勿論、丁重に頭を下げながらではあるが。

 

「このたびのフレイ・アルスターの反乱──

 御方様には大変、お心を痛められたかと存じます。キラ・ヤマトやシン・アスカを奪われた件もそうですが、ここまで育て上げた愛娘の謀反とは──

 何ともはや、痛ましい」

 

 無念そうに首を振るバルトフェルドに、そっと着物の袖で瞼を押さえるラクス一世。

 

「そうですわね……

 フレイの謀反は、わたくしには全くの想定外でしたわ。

 だからこそ、動かねばならなくなりました。元々予定にはあったのですが、ここまで早くセレブレイト・ウェイヴでオーブを撃つことになるなんて」

 

 袖で表情が隠れ、バルトフェルドからはラクス一世が泣いているか笑っているかも窺い知れない。

 そして彼女はやがて顔を上げ、きっぱりと言い放つ。

 

「しかし、悲しんでいる余裕はありません。わたくしたちはそれでも、世界を変える為に、争いをなくす為に、進んでいくしかないのです。

 バルトフェルド。ムウ・ラ・フラガとアカツキ、そしてレイラの確保、感謝いたしますわ」

「滅相もない。

 ラクス・クラインの為ならば、僕は喜んで身を粉にする所存ですよ」

 

 頭を上げて肩を竦めてみせるバルトフェルド。

 だがラクス一世の青い瞳は決して笑わず、やや落ちた照明の中でも静かに彼を見据えている。

 その視線に身を晒しながら、彼はにぃっと嗤った。

 

「いやはや、あのレイラというお姫様も、さすがあの姉にしてこの妹というべきか。常人には考えつかぬ行動に出るお嬢ですな。

 メディカルルームでどんな相談をしているかと思ったら、まさかフラガの脱出を企図していたとは」

「うふふ。

 何とかアカツキを奪われずに済んで、良かったです。今後はエターナルやフリーダムと共に、私たちの要になっていただかねばならないのですから」

 

 今度は袖で口元を隠しながら、小声で笑うラクス一世。

 しかしその眼は笑うことはなかった。やがて膝元に置かれたモニターを確認しながら、彼女は呟く。

 

「バルトフェルド。管理センターに保存されたメディカルルームのログを見たのですが……

 彼らを確保したと思われる時間に、突然停電が起こったのは何故ですか?」

「フラガはナチュラルといえど、歴戦のエースです。一旦停電でも起こさなければ、奴の隙をついての確保など出来ませんよ」

「なるほど──貴方らしい作戦ですわね。

 ですが、その後3分も停電が続いたのは何故でしょう? 

 メディカルルームは多数の患者が眠る、大事な施設です。あまりに長時間の停電が続いては困りますよ」

「患者……ね」

 

 口の中で僅かに舌打ちをしながら、バルトフェルドは答える。

 

「それなら安全です。彼らの生命維持の電力は、停電と同時にバッテリーに切り替えてますから。

 しかし、停電が3分も続いたのは僕も予想外でしてね。ケーブルも旧式のものが多いですし、もう少しオギヤカの電力管理にリソースを回した方がよろしいかと」

「そうですね、反省しますわ。

 しかし──バルトフェルド。この後貴方は、レイラとフラガをどうしたのです? 

 管理センターのログを調べても、行方が追えないのですが」

「申し訳ありません。騒動を避ける為にログを消しちまったもので。

 ですがしっかり二人とも、第三ケージにいますよ」

 

 バルトフェルドは手元のモニターを素早く操作しながら、管理センター経由の映像を彼女に見せる。

 ほの暗い牢屋にも似た部屋で、病院着を着用した金髪の男と、同じく金髪の少女が倒れている光景が映し出されていた。男の左肩には血のついた包帯が巻かれている。

 

「第三ケージ……ですか。

 確か、付近に作業用モビルスーツ専用カタパルトもありましたわね」

「はっ。アカツキも一時的に、そちらに収容しております」

 

 映像をじっと眺めるラクス一世。青い瞳にはモニターの光が反射するばかりで、何の感情も映し出されてはいなかった。

 彼女は静かに顔を上げ、にっこり微笑む。

 

「バルトフェルド。

 意外に早く、電力管理のリソース問題、解決するかも知れませんわ」

「……? 

 と、言いますと?」

「貴方もご存知のはずでしょう? 

 あと数時間で、オギヤカの軽量化とセレブレイト・ウェイヴの効率化の為、機能の一部を切り離す手筈になっています。

 場所的に問題ないですから、第三ケージはこの際、一緒に処分してしまいましょうね」

「……っ!」

 

 この判断に、バルトフェルドは思わず顔を上げてしまう。

 だがすぐに冷静さを取り戻し、話を続けた。

 

「では、フラガとレイラ嬢はどちらに移送しましょう」

「その必要はありません。

 非常に残念ですが、彼らごと処分するのが最適かと」

「……!!」

 

 畳についた拳を、思わず握りしめるバルトフェルド。

 しかしどうにか平静さを保ちながら、言葉を紡ぐ。

 

「そこまでする必要がありますかね? 

 フラガはエンデュミオンの鷹と呼ばれたほど優秀な男ですし、アル・ダ・フラガの遺伝子を継ぐ者としても貴重な存在です。それにレイラ嬢は幼いながらもタロミの忘れ形見でもあり、彼女を失えば人心は離れていきましょう」

「それでも、一度はここから逃れようとしたのでしょう? 

 レイラは明確に反抗の意思を示し、オギヤカや国を捨てようとした。それは尊きタロミの血を自ら捨てるも同じ──

 そのような者に、後継者の資格はありません。

 彼女を唆したフラガも勿論、同罪です。フラガ家の血は惜しいですが、データは十分に取れましたし、セレブレイトウェイヴにもその力は生かされています。

 レイラたちは心無い反乱により、犠牲となってしまうのです。

 彼女たちを死に追い込んだのは、わたくしではない――フレイの心変わりと、無慈悲な世界によるものですわ」

「なるほど。そう公表することで、士気のさらなる向上を期するわけですか……」

「今はアカツキがあれば、問題はないでしょう。それだけはきちんと移送をお願いします」

 

 静かに微笑むラクス一世。

 

「善は急げと言います。今ならわたくし自身が手を下すことも出来ますね。

 レイラには可哀想ですが、これも……」

 

 そう微笑むラクス一世の背後から影の如く現れたのは、黒の眼帯を着用した一人の女性軍人。

 ラクス一世の放つ後光の陰で、ベリーショートの橙の髪色だけが揺れていた。

 

「ラクス様。ドムトルーパー2機、ご指示通りシュンテンへ向かわせました。

 間もなく接触出来る模様です」

 

 女──ヒルダ・ハーケンが無感情に報告すると、ラクス一世もまた、彼女を振り返りもせずに呟いた。

 

「ご苦労様です。

 ルージュとチグサの確保、お願いしますね」

「はっ」

 

 それを聞いたバルトフェルドの右拳が、さらに握られた。

 遂に彼は、何かをこらえきれなくなったかのように顔を上げる。精一杯の微笑みだけは懸命に顔に貼り付けて。

 

「母君──

 僕には貴方がよく分かりませんな。何故そこまで、フレイ嬢やレイラ嬢を弄ぶのです? 

 しまいには、自ら捨てたはずのラクスまで……」

「弄んでなどいませんわ。ラクスを捨てた覚えもありません。

 彼女たちは皆、世界を平和に導く為の天使たち。わたくしは彼女たちを平等に愛しているつもりですが?」

 

 当たり前のように愛らしく微笑むラクス一世。その言葉には恐らく、嘘偽りは全くないのだろう。

 愛していると言ったその唇で、彼女は同時に言い放つ。

 

「既に第三ケージの破砕指示は完了しましたわ。

 残り2分ほどで、貴方の心配は解消されるはずですよ。砂漠の虎」

 

 バルトフェルドはにやりと笑みを返しながら、ほっと息をつく。

 

「やれやれだ──

 母君の考えは、下々の者には分からんことばかりですよ」

「うふふ。

 正直わたくしも、貴方のお考えがよく分からないのです」

「と、言いますと?」

「貴方は、キラに憎悪に近い感情を抱いていたそうですわね。

 昔の恋人の仇敵として」

 

 バルトフェルドはやれやれと言わんばかりに頭を掻いた。

 

「ここでアイシャの件を持ち出されるとは思いませんでしたな……

 どこかで聞かれちまいましたか。僕の話を」

「ごめんなさい。フラガと貴方の会話ログ、こっそり覗いてしまいまして。

 殿方がどんな会話をなさっているのか、わたくし、本当に興味深いのです。

 貴方がアークエンジェルやキラを支援していたのは、あくまでラクスの為。そういうお話でしたね」

「お話も何も、事実ですよ」

「ラクスをずっと守っていただいたのはありがたいのですが──

 わたくし、何だか腑に落ちないのです。実はキラを憎んでいたという貴方と、キラとラクスを全力で支援していた貴方が、どうしても重ならなくて」

 

 心から不思議そうに首を傾げるラクス一世。バルトフェルドは肩を竦める。

 

「怨恨には様々な形があるものです。

 ひたすらに相手に殺意を抱く燃えさかる情熱の如き憎悪もあれば、相手を生かさず殺さず長期に渡り少しずつ毒を盛り、その苦痛を愉しみ溜飲を下げるタイプの怨みもあります。

 貴方ならばその程度はご存知でしょう?」

「貴方はキラを支えるふりをして、キラに苦痛を与える存在だったということですね。

 ならば──

 何故、ラクスは貴方をそばに置き、エターナルを任せ続けたのでしょう? 

 ラクスに貴方の怨みを見抜けぬはずがありません。もし、貴方に本当にキラへの憎悪があるなら、の話ですが」

「ラクス嬢はまだ若い。さすがに、年寄りの心情には疎い部分もあるのでしょう」

 

 ひらひらと手を振りながら、隻眼でありながらはっきりとウィンクと分かる瞬きを、ラクス一世に贈るバルトフェルド。

 柔らかく微笑みつつ、彼女はそれに答える。

 

「覚えておいた方がよいですよ。自らを年寄りと卑しめることは、さらに年上の者に恥をかかせる状況にもなりうることを」

 

 一瞬、彼女の背後に控えていたヒルダが、その鋭い眼差しをバルトフェルドに向ける──

 血に飢えた狼のように獰猛な視線を。

 広間に響いたものは、凛としたラクス一世の声。

 

「──もう、おやめなさい。

 砂漠の虎」

 

 その表情から、波が引くように微笑みが消えていく。

 着物の袖を直しながら、音もなく立ち上がるラクス一世。

 

「かつての恋人の怨みと理由をつけながら、貴方がこちら側についているかのように振る舞うのは何故ですか? 

 貴方が、エターナルの管理権限移行をのらりくらりと引き延ばしているのは何故ですか? 

 間者をオギヤカのシステムに入り込ませ、何を探っているのですか? 

 フラガとレイラを、オギヤカからどこへ逃がそうとしているのですか?」

 

 

 

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