【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part7 少年の声は、歌と共に

 

 

 

「一刻も早く、止めるべきです。

 立ちはだかる者が何であれ、あのような蛮行を許してはおけません!」

 

 コロニー・ミントンからそう離れていない宙域で、アムル・ホウナの声が響き渡った。

 ザフト艦ナスカ級艦船・ハクヤクにて。刻々と変化していく状況を注視しながら、ヨダカ・ヤナセはアムルたちクルーと緊急ミーティングを行なっていた。

 ティーダがその姿を現す以前からチュウザン国に対して危機感を抱き、たびたびティーダとアマミキョを力づくでも止めようとしてきたヨダカ。そんな彼にとって、現在の状況は決して喜ばしいものではなかった。

 あれだけ警戒していたにも関わらず、結局セレブレイト・ウェイヴの完成を許し、オーブや地上はもとより、プラントにまで被害が及んでしまっている。今もなお、レクイエムによる崩壊から立ち直れていないプラントに。

 そんなヨダカの怒りを知ってか知らずか、アムルはミーティングにおいても誰よりも勇み立ち、彼らの士気を焚きつける。

 

「なのに上層部は、ラクス・クラインの救出を理由に手をこまねいてばかり……

 彼女は明確に、オーブやザフトを巻き込んで攻撃を行なったではありませんか。ザフトも腰抜けばかりか!」

「アムル!」

 

 机を叩いて立ち上がったアムルを、ヨダカは静かに制した。

 

「あれはラクス・クラインではない。オーブのアスハ代表の演説にもあったとおり、あの女は彼女の母親だよ」

「彼女の存在の真偽、そしてその言葉の正当性には今や、何の意味もないでしょう。

 彼女らの手で神経兵器が撃たれ、被害がプラントにまで拡大している。これが今、我らの前に立ちはだかる現実です。

 そのことは、隊長が一番ご存知のはずでしょう? ずっとアマミキョとティーダ、そしてフレイ・アルスターを追いかけてきたならば!」

「知っているさ。

 だから今、あの兵器に対抗するべく、まずは全機体に防護フィルタをかけた。ウーチバラへ出撃する艦にも全て、防護策がとられる予定だ。

 君たちはあの神経兵器の破壊。それだけを最優先に考えろ」

 

 そんなヨダカの指令が響く中、隊員が数名手を挙げる。

 

「隊長。ウーチバラ付近の機動要塞で、小競り合いがあったとの報告が入っていますが──

 フレイ・アルスターが謀反を起こしたとの情報もあります」

「オーブや地球連合艦隊、ミネルバJrもL4ミントンから出撃したとの連絡がありました。アマミキョやティーダも含まれているとのことです」

「やはり、何らかの対抗策があっての出撃かと。

 ここは、ジュール隊やミネルバJrからの情報を待っても良いのでは……」

「もしかしたら、自分らもオーブ艦隊に合流した方が得策かも知れませんね」

 

 顔を見合わせる隊員たち。しかしアムルは即座に異を唱えた。

 

「冗談じゃないわ」彼女の感情は、アマミキョとなると途端に爆発する。「あいつらをアテにしろっていうの? 

 ティーダやアマミキョの正体をろくに知りもしない奴らがおめおめと戦場に出ていった結果、あの神経兵器が完成したようなものなのよ。あいつらは敵になることはあっても、頼るものじゃないわ。

 私は何があっても、あいつらの元には戻らないから」

 

 アムルは金髪をけだるげに後方へ靡かせると、踵を返してミーティングの場から立ち去ろうとする。止めるヨダカ。

 

「どうした、アムル。まだ話は終わっとらんぞ」

「私には必要ありません。

 あいつらと一緒になれなんて結論を出しかねない会議なんて、反吐が出る」

 

 ヨダカの制止さえ振り切り、彼女は勝手にエアロックを開いて飛び出していった。

 その背中を、唖然として見送る一同。

 

「……何なんですかね、アレ」

「一応新人なんだろ? 結果はそこそこ出してるとはいえ」

「いくら才能があって強化訓練も受けたからって、言い過ぎよねぇ」

 

 全員の目が、ヨダカに集まる。

 そんな彼らの感情を汲み取るように、ヨダカはため息をついた。彼女のフォローをするのは、一体何度目だろうか。

 

「治療の副作用かな。彼女は若干、気が立っている。

 それに恐らく、我らがオーブ艦隊に与することはない。

 何故ならば──我らの使命は、セレブレイト・ウェイヴの拡大に利する危険のあるもの、全ての排除でもあるからな」

 

 濃いサングラスの奥で、ヨダカの眼が鋭く輝いた。

 旧デュランダル派のものでもあるこの艦内で、この意味を理解出来ない人間はいない。

 それはつまり、ラクス・クライン母娘の抹殺。当然、彼女らを救出しようとするものは全て、彼らにとっては排除対象である。

 アムルが会議でどう発言しようと、クルーたちが反対しようと、この結果が変わることはない。最初から、自分たちの方針は決まっていたのだ──

 ヨダカがもう一度深々とため息をつきかけた時、ブリッジから通信が入った。

 

《隊長! 緊急連絡です。

 L3・ウーチバラ勢力圏内で、オーブ・地球連合軍と南チュウザン軍、交戦状態に入った模様!》

「何?」

《このまま進めば、1時間以内に本艦も該当宙域に突入します。

 双方の艦隊規模は現在、確認中!》

「分かった。すぐに出撃準備を整えろ。

 今度こそ、目にもの見せてくれるぞ──南チュウザンの馬鹿女ども!!」

 

 

 

 

 

 

 L3に位置するコロニー・ウーチバラ。そして、不気味な沈黙を保ちながらその周辺を浮遊する機動要塞オギヤカ。

 そこから飛び出したミドルリングは今、完全にフレイたちアマクサ組に掌握されつつあった。母の巣から飛び出した雛鳥そのままに。

 だがその進行方向は幸か不幸か、オーブ軍に地球連合にミネルバJr、そしてアマミキョを擁した艦隊の航路とも一致してしまっており。

 結果、ミドルリング占拠から間もなく、アマクサ組はオーブ軍との戦闘を強いられることとなった。

 アマクサ組の主戦力は、フレイの乗るセイレーン。キラの駆るストライクフリーダム。

 ミゲルのグフ・イグナイテッドに、トールのレイダーガンダム。

 そして、メディカルルームで眠るニコルの操る、大量の偽造モビルスーツ。

 最大の脅威となるその物量も、ウーチバラやオギヤカを敵に回した今、限界が見えつつあった。

 シュンテンに戻り状況を確認したフレイは、ブリッジで軽く唇を噛む。

 

「ドールシステム用に確保出来た機体は、178機か……

 ニコルの状態が比較的良好で助かったが、それでもウーチバラ奪取には遠い」

 

 彼女を護るように脇に立つミゲルとトールも、さすがに渋い表情を隠せない。

 

「ウーチバラに残存してる機体は1000は下らないだろうし、向こうにはまだエターナルもドムトルーパー隊もいる。

 御方様が、ステラの代わりにチグサを使うのも目に見えてるし」

「ニコルの代わりになるドールシステムも、既にウーチバラで稼働開始してるしなぁ。

 虎が無事動き続けてくれるのを祈るしかないか……」

 

 そんな報告を聞きながらも、フレイは特に無感情のまま尋ねた。

 

「キラはどうしている?」

「コクピットにこもったままだよ。

 いくら言っても、いつ何があるか分からないからって、全然出てきやしない。

 ホント、3年前に逆戻りだ」

 

 トールは手元の通信モニターをフレイに翳してみせる。

 そこには、帰還しても決してパイロットスーツを脱ぐことも降りることもせず、コクピットでじっと計器の調子を確認し続けているキラが映し出されていた。

 

「……フレイ。

 それでも、やるつもりか? 

 御方様と、オーブを相手に。全てを敵に回しても」

 

 ミゲルの瞳がじっと、フレイを注視する。

 それは決して、我が身可愛さからの発言ではない――

 彼女がフレイと成り代わった経緯から、アマミキョでサイと心を通じ合わせた過程、そして『母』たるラクス一世に反旗を翻すに至ったあらましを最もよく知るミゲルだからこその、彼女を想っての言葉。

 そんな彼にふっと微笑みながらも、フレイは決して方針を変えなかった。

 

「セレブレイトウェイヴを守りながら、世界から無益な戦いをなくす。当初の私たちの目的は何も変わらない。

 実際、オーブと地球連合、そしてザフトの一部はこの戦いで結束している。目論見は成功しつつあるんだ。

 後はセレブレイトウェイヴを暴発させぬよう、オギヤカを警戒しながら動くことになる。

 ──そう心配するな。私がセイレーンで皆の援護をする」

「?」

 

 その意味を俄かには掴めず、トールは顔を上げる。一方でミゲルの表情はさらに険しくなった。

 

「フレイ……やっぱり自分を、曝け出すつもりか。

 セレブレイトウェイヴに」

「あぁ。これ以上、キラにもニコルにも、お前たちにも負担をかけるわけにいかぬ。

 何、心配はいらない。私は一人ではないからな」

 

 そう言うが早いか、つと床を蹴って浮遊し、出入口へと向かうフレイ。

 トールはそれを止められず、思わずミゲルを振り向いた。

 

「ミゲル……まさか、フレイは」

「まさかも何も。

 ミドルリング奪取の真の目的は、俺たちで擬似的にセレブレイトウェイヴを作り出すことだろう。リング占拠はウーチバラ経由のウェイヴの威力を削ぐだけじゃない、こっちでも新たな鐘を鳴らす為だ。

 その為にステラとチグサが必要だった。しかしチグサが奪われた今、鐘を鳴らせるのはフレイ、そしてセイレーンしかいない」

 

 ミゲルがため息をつきかけた、その時。

 

 

 ──誰にも、届かないかも知れない。

 誰も、聞いてくれないかも知れない。

 だけど、僕はやる。それが今の僕に、唯一出来ることなら。

 

 

 不意にミゲルの頭の中に響いたものは、微かな少年の声。

 それは彼自身、確かに覚えのある声だった。

 

「何だ、今の……

 まさか、ナオトの?」

 

 トールも同じような呟きを耳にしたのか、二人とも思わず顔を見合わせた。

 

「ティーダパイロットの……

 もしかして!」

 

 二人の不可思議な感覚から数秒ほども遅れて、ブリッジにアラートが響いた。

 オペレータの声が反響する。

 

「接近する大型熱量、複数感知! 

 距離1500、オレンジ16、マーク220アルファ!! 

 ライブラリ照合出ました。アークエンジェルにアマミキョ、ザフトのローレシア級1隻にオーブイズモ級2隻、連合艦を3隻確認!」

「来たな……! 

 総員、第一種戦闘配備!」

 

 ミゲルの隣から、シュンテン艦長ソウギのベテランらしい声が響く。

 地味ながらもよく通るその声を聞きながら──

 ミゲルもトールも、戦場には似つかわしくない音がその場に流れているのに気づいた。

 否、正確にはその場に、ではない。自分たちの頭の中に、だ。

 オーブの古い童謡にも似た、単純だが懐かしさを覚えるメロディー。それが、微かにではあるが、二人の中でこだまする。

 一体、これは──

 思わず顔を見合わせるミゲルとトール。

 ラクス・クラインの歌にも似た優しいメロディーは消えることなく、二人の間で流れていく。

 それは、少しでもアマミキョに、ティーダに関わった経験のある者は特に強く感じるものだったが、二人はまだそれに気づくことはなかった。

 それから間もなく、モニターに映し出されたものは──

 

 

 連合艦やアークエンジェル、オーブ艦。それらの艦隊に守られるように進むアマミキョ。

 その中心で、インフィニットジャスティスやウィンダムに護られながら、宙域を駆け抜けていく白いモビルスーツ──

 ガンダムティーダ・Z。

 その装甲は強い意思のもとに、自らほのかに発光しつつあった。

 

 

「……ティーダか。

 この音の発信源は」

 

 ミゲルがそう呟くと同時に、オペレータの声が再び轟く。

 

「あ……

 国際救難チャンネルで、ティーダから通信が入っています! 

 周辺宙域、全方位に向けて発信されている模様!!」

 

 艦長はしばらく逡巡していたが、やがて回線を開くように指示した。

 間もなく飛び込んできたものは、ミゲルにとっては随分懐かしい感じのする、少年の声。

 ただしそれはミゲルが覚えているよりも、大分低く、掠れているように思えた。

 

 

《僕は、ナオト・シライシ。オーブ連合首長国・SunTVのレポーターです。

 故あって、国際救護船アマミキョに乗り込み、モビルスーツに乗りながらこの戦場まで来ました。

 僕たちは、決して戦いは望みません。

 フレイ・アルスター──そこにいるのなら、聞いてください。

 僕たちにはもう、貴方の真実も、貴方の目的も、予想がついています。貴方に直接聞いたわけじゃないけれど、それでも、分かります。

 だけど、それをここで暴露するようなことはしません。したくありません。

 ただ一つだけ、はっきりしていることは──

 僕たちと貴方がたが戦う必要なんて、もう、どこにもない。それだけです》

 

 

 

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