【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part10 僕のレポートは、終わっていない

 

 

 

 時澤と霧山の死を、ナオトの叫びを、ティーダZの黙示録発動を。

 サイはアマミキョの副長席から、全て感じ取っていた。

 彼らが撃墜される瞬間――

 身体が引き裂かれるような痛みと、全身の細胞が沸騰し焼かれる苦しみを直接味わってしまっていたが故に。

 それは、アマミキョに備わったフィードバックシステムによるもの。

 戦場にいる仲間たちは多かれ少なかれ、同じような感覚を味わったはずだ。同じ山神隊である伊能大佐や、山神艦長も。

 だがアマミキョと一体化したサイの痛みはその比ではなく、彼らを死に至らしめた痛みをほぼそのまま、サイも感じ取ってしまっていた。

 

 ティーダZのナオトも本来なら同じ痛みを感じるはずだが、サイは事前にフィードバックシステムの調整を行なっていた。ナオトへの苦痛が少しでも軽減されるように。

 だがその調整で減った負担は、そのままサイへ移行することになったのである──それも覚悟の上だったのだが。

 本日何十回目か知れない嘔吐を袋にぶちまける。その中には少なからず血も混じっている。

 

 ――アマミキョの回復機能がなければ、俺はこの数時間で多分、十回以上は死んでいるに違いない。

 

 焼けつくような全身の神経を何とか抑えつけながら、サイはナオトに呼びかけた。

 

「──ナオト。俺だって同じだ。

 時澤軍曹の無念も、霧山少尉の痛みも、俺は今同じように感じた。

 やったのは──アムル・ホウナ。あの女だろ」

 

 その名を呟くと同時に、身体の中から猛り狂うような怒りが燃え上がる。

 まだか。まだやるつもりか、あの女は。

 甘えるな。そんなに俺に肯定されたいのかよ!! 

 

「分かってるだろ。今お前がやることは、あの女を殺すことじゃない。

 きっとお前以上に、俺はあの女を許せない。今すぐ殴り殺せるならそうしたいが、それは俺たちのやることじゃない。

 急くな──俺たちの怒りをそのまま受け止めてくれる仲間が、ちゃんといる。

 彼女が、俺たちの刃になる!」

 

 

 

 

 

 

 そんなサイの言葉が終わるや否や──

 ティーダZの横をすり抜けるようにして、流星の如く飛び込んできた白い閃光。

 青と白、そして紅のトリコロールカラーに彩られた美しい機体──

 フォースインパルスガンダムが敢然とカオスγの前に立ちはだかり、ティーダZを護った。

 

「あんたって女はァ!! 

 何をやってるのよ! 連合軍は、今はザフトの敵でも何でもないのよ!?」

 

 宙域に響いたものは、ルナマリアの叫び。

 いくら叫んでも真空では届かないと分かっていても、叫ばずにいられない。

 信じられなかった。信じたくなかった──

 同志たるはずのザフトに、こんな馬鹿がまだいたなんて。

 一応形式上は味方である為か、救難チャンネルではなく通常の回線から声が届いてくる。それは紛れもなく、アムル・ホウナの声だった。

 

《ナチュラルどもとつるみながら、貴方こそ何をやっているの? 

 既にザフトでは、アマミキョもティーダも、セレブレイト・ウェイヴと同様の神経兵器として認識されている。

 フレイ・アルスター諸共処分するのは、当然でしょう!》

 

 そう叫ぶや否や、瞬時にモビルスーツ形態への変化を遂げ、そのままビームサーベルでインパルスに斬りかかるカオスγ。

 一切の躊躇なく、まともに真正面から殴ってきた──正気か、この女。

 シールドで懸命に刃を防ぎながら、ルナマリアは必死で訴える。

 

「そっちこそ、何も聞いてないの!? 

 アマミキョとティーダZこそ、あの神経兵器を止められる最大の有効手段なのよ! 

 だからサイもナオトも、ここまで来た。私たちだって!!」

 

 明確なせせら笑いが、通信から漏れる。

 明らかに、ルナマリアの言葉を貶す嗤いだ。

 

《やっぱり来てるのね、サイ君。

 どこまでも偽善を振り翳して、どこまでも私を追ってくる。なんてしつこい奴なの》

 

 その時ルナマリアは、アムルの言葉に酷い汚さを感じた。

 それはティーダZの力を通して、相手の心をほんの少しでも感じてしまった影響かも知れない。

 母親を憎み、ナチュラルを憎み、オーブを憎み、自分の環境の全てを憎み、歪み切ってしまったアムルの心。

 その心を真正面から否定したサイを、彼女は執拗にいたぶり傷つけた。

 彼女のことを吐露した時の、サイの涙。あの慟哭は、今もルナマリアの脳裏に焼きついて離れない。

 それに飽き足らず、この女は今──サイをさらに傷つけ、汚そうとしている。

 それだけを望んで、わざわざ戦場に来ているんだ。

 

 

「何よそれ

 ――気持ち悪い」

 

 

 気が付くとルナマリアは、はっきり回線に響く声でそう呟いていた。

 それは、半ば無意識にアムルを挑発しようとしたのかも知れない。

 操縦桿をぐっと両腕で引き絞りながら、ルナマリアは後方のティーダZを庇った。

 

「ナオト。下がってなさい──

 こいつの相手は、私がやる」

《る、ルナさん……?》

「貴方は貴方のすることがあるでしょ? 

 こいつは今すぐここで、殺るべき奴なの。私が!!」

 

 言いながらルナマリアは、霧山機と時澤機の残骸が浮遊する虚空へと、ティーダZを突き飛ばす。

 止めようとするナオトの叫びがまだ聞こえたが、もう彼女は止まらない。止まれない。

 同じザフトだろうが、関係ない。否、同じザフトだからこそ、殺らねばならない。

 双対のヴァジュラビームサーベルを抜き放ち、インパルスはカオスγに向かって斬りかかる。

 

「しつっこいのはどっちよ!? 

 この、ストーカーのマザコンババア!」

《……!?》

 

 自分でも信じられない汚い言葉が、気が付いたら喉から転がりだしていた。

 明らかに相手は動揺したようだが、それでもルナマリアは構わず叫び続ける。

 

「サイは今、あんたなんかに構ってる余裕はないの! 

 サイたちにこれ以上手ぇ出すつもりなら、私があんたをやってやる!!」

 

 インパルスの反撃に呼応するようにモビルアーマー形態へ変化し、すんでのところで刃を躱すカオスγ。同時に響くアムルの声。

 

《貴方……同じコーディネイターなのに、分からないの? 

 そうね、分かるわけないわね……ずっとプラントにいたのなら。

 親の思い通りに生まれることの出来なかった無念も。

 ナチュラルに見下された時の憎しみも。

 ナチュラルの中に放り出された時の悔しさも!》

「だから何なのよ! 

 だからって、アマミキョを沈めて、サイを傷つけたの!?」

 

 宙域で交錯する怒号。両機の間で無数に飛び交う閃光。

 だがどれだけ互いを撃とうと、その光弾はカオスγにもインパルスにも巧みに避け続けられていく。

 

《そうよ。あの子は私の心を覗いて、私を責めた。私を否定した! 

 こんなところまで来て、私を責めようとしてるの》

「わざわざ追っかけてきてその理屈!? 意味分からない!」

《人は一人でも生きられる。コーディネイターなら、一人でも生きていける。

 それをずっと否定し続けてるのよ、彼は。ナチュラルの古臭い道徳ってヤツでね! 

 だから屈服させるの。私が今度こそ、彼の身も心もモノにしてみせるのよ!!》

 

 狂気の混じりかけた言葉と共に、カオスγのファイヤーフライが炸裂する。

 その劫火を全てシールドで受けながら、ルナマリアも叫んだ。

 

「分からないわよ! 何その論理、頭腐ってんじゃないの!?」

《あんたみたいな小娘には分からないわ。

 男に媚びを売ることしか知らない尻軽娘にはね!》

「あんたに言われたくない、この裏切り身勝手女!」

《その赤だって、どうせ議長に媚びを売って手に入れたのでしょう? 

 夢見る乙女でいれば良かったものを、わざわざ戦場に出てくるな!》

「どう思われようと、あんたには関係ない! 

 仲間を船ごと敵に売るような奴に、私のことが分かってたまるか!!」

 

 炎と共に虚空を飛び交う、女たちの怒声。

 その戦いを止めることなど、最早誰にも出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 インパルスとカオスγの激突――

 それを皮切りに、ザフトのデュランダル派との戦闘が開始された。オーブ艦から出撃したムラサメが、次々にヨダカ隊と交戦状態に入っていく。

 その分析を続けながら、サイはティーダZとミドルリングの状況を探っていた。

 時澤と霧山を失い、ティーダZは後退を余儀なくさせられている。その一方で、ミドルリング付近で沈黙を保っていたセイレーンは──

 静かに、光を放ち始めていた。

 

「──フレイ!?」

 

 思わずサイは声に出して呼びかける。しかしフレイはそれに答えることなく、セイレーンからの光は増していく。

 即座にサイは指示を飛ばしていた。

 

「全員、防御態勢を取れ! 

 南チュウザン機から、電磁波の発振を確認!!」

 

 サイがアマミキョクルー全員、そして宙域にいる全ての人々に呼びかけると同時に。

 ガンダム・セイレーンの放った光が、急激にその輝きを増した。

 同時に響き渡る、鐘の音と連動した歌声。世界の終わりを示すかのような鐘の音が、宙域を貫いて人々の脳裏にこだまする。

 

 

 ──戦いをやめろ。もう、ここへ来てはいけない。

 サイ。私はお前を、失いたくない。

 どれほどお前に受け入れられなくても。お前と共にいることが出来なくとも──

 私は、お前を守る。

 お前は──私に奇跡を起こした、唯一の存在なのだから。

 

 

 サイの脳裏に響く、フレイの声。

 同時に身体中を走ったものは、酷い痺れと眩暈。

 それでも彼は、抗うように叫ぶ。コクピットに血を吐き散らしながら。

 

 

「だからまた、私に従えって言うつもりか!? 

 悪いけど、フレイ。その命令にだけは従えない! 

 本当に俺がそんな、奇跡みたいな存在なら──もう少しだけ、信じてくれよ。

 奇跡が、そう簡単に消えるわけがないだろ!? 

 勝手に人を殺すんじゃないよ!!」

 

 

 歌声を聞いたクルーたちも次々と、眩暈を訴えながら手を止め始める。サイの眼前で。

 中にはその場で嘔吐しだす者もいた。看護師3人組が慌ただしく走り回っていたが、そんな彼女らの顔色も蒼白になっている。

 恐らく他の艦も同じ状況だろう。現在出撃中のパイロットたちでさえも。

 一時撤退を促すべく、サイが全艦に呼びかけようとした時──

 歌声に抗うように響いたものは、ナオト・シライシの言葉だった。

 

 

 

《やめてください。フレイ・アルスター……

 僕のレポート、まだ、終わってませんから!》

 

 

 

 ナオトの言葉と共に再び響きだす、ミーア・キャンベルの歌声。

 セイレーンと対を成すかのように、宙域の片隅で輝きを放つティーダZ。

 その光と歌声を確認した瞬間、サイの中で不思議と痛みが消えていく。

 眼前で起こった、時澤と霧山の死。それによる怒りを必死で抑えながら、ナオトはまだ、宙域の人々に呼びかけていた。

 

《ラクス・クライン一世の想定した本来のセレブレイト・ウェイヴは、恐らく人を人事不省にするものではないでしょう。先日の彼女の言葉でもあったとおり、光を浴びた人々が我を失ったのは、彼女にとっても予想外だった可能性は十分あります。

 しかし、彼女の望み通り、セレブレイトウェイヴにより人類から綺麗に、野心や欲望が消失する世界は──

 人の多くが望みません。

 連合とオーブ、ザフト──そして、ナチュラルとコーディネイター。

 あれだけいがみ合っていた組織同士が皆結束して、この事態に対処しようとしているのがその、何よりの証拠と言えるでしょう。

 オーブ出身の僕を守る為に──たった今、勇気ある地球連合の人たちが、その命を散らしました。

 そして僕を守る為に、ザフトの勇敢な戦乙女が、今も戦っています。

 それでもまだ──分かり合えない人たちがいるけど、でも!》

 

 

 

 次第にセイレーンに負けないほど強烈な輝きとなっていく、ティーダZの光。

 その背部装甲からはいつの間にか、虹色の光を放つ翼が生まれている。

 まるで意思を持つ枝のように、虚空へ伸びていく翼。

 サイ自身は覚えていなかったが、その翼は、彼があの湖でティーダZを――

 ナオトを呼び戻した瞬間に生まれたものと同じだった。

 黙示録のエネルギーを最大限に振り絞った結果、背部から流れ出たエネルギーの奔流。それが、翼の形となっている。

 サイは直感した──明らかに、ナオトのSEEDが覚醒していると。

 

 

 

《しかしアマミキョはこの状況下でも、戦いの中で人を救う船です。

 セレブレイトウェイヴの中だろうと、オギヤカの中だろうと関係ない。

 助けるべき人がいるなら、誰であろうと助けます。

 だから──誰でもいい。答えてください。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()? 

 大切な人を守りたいとすら思えない、好きな子に近づくことすら望めない、恐らくそんな感情のひとつも浮かばない世界なんて、僕は

 ──絶対に、嫌です!!》

 

 

 

 ナオトの叫びと共に、セイレーンの光と交じり合う黙示録。

 それは最初こそ僅かな不協和音を撒き散らしたものの、やがて鐘の音と共にメロディーは調和していく。

 やがてその調和は、もう一つの新たな歌を生み出し始めていた。

 サイはそのメロディーを聴きながら、想う。

 

 

 ──そうだ。

 皆が結束して一つのことに望む状況を、誰よりも望んでいたのは、フレイだ。

 例え自分が、その敵側に回ったとしても。

 でもフレイ──分かってほしい。

 君が俺を失いたくないように。

 俺だって()()、君を、失いたくないんだ。

 

 

 

 そう考えて、サイが身を乗り出しかけたその時。

 ミドルリングの遥か向こう側で、ちりっと電撃のような違和感が流れた気がした。

 すぐにその方向へ神経を研ぎ澄ます。もう当たり前のように分かる、これが決して無視してはならない感覚だと。

 しかもこの方向は──ウーチバラ。

 

 だが、その方向へ意識を向けた瞬間──

 知覚ごと叩き潰すかのような衝撃が、サイを襲った。

 セイレーンやティーダZのそれとは比較にならない。物理的な痛みこそ伴っていないものの、意識を脳髄から吹き飛ばされるような感覚。

 虫の如き凡愚が、ここに触るなと言わんばかりの、強烈な拒絶

 ──間違いない。これは。

 宙に飛ばされかけた意識を慌てて掴むように引き戻しながら、サイは絶叫していた。

 

「全艦、緊急防護体勢願います! 

 セレブレイト・ウェイヴ第三射、コロニー・ウーチバラより発振された模様! 

 目標はここ、オーブ艦隊周辺宙域ですっ!!」

 

 

 

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