【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part11 身体果つるとも

 

 

 

 

 遥か宇宙の果て、L3ウーチバラ方面でほんのり輝く虹色の光。

 宙域で戦闘を続ける全ての人々の頭上に、三度目となる祝福の鐘は容赦なく鳴らされた。

 戦いの中で呼びかけを続けるナオトの眼前で、オーブ軍のムラサメが、連合軍のウィンダムが、次々にその動きを止めていく。

 止まった機体の関節部からは僅かに、電撃のような白い閃光が漏れ出している。

 それを見た瞬間、ナオトは叫んでいた。

 

「まさか──

 皆さん、気をつけて! この光は黙示録と同じく、電子機器に影響を与えてきます!」

 

 激しくはないが、緩やかに侵食してくる光と鐘の音。それは次第にナオトの脳髄までを叩き、ティーダZの動きまでもを強引に止めてくる。

 殆どの機体や艦に防御フィルタは施されているものの、それすら食いちぎる勢いで光は人々を、機体を、艦を侵食していく。

 コクピット内に激しく鳴り響くアラート。ティーダZの右膝関節部までが炎を噴き、白い足首が衝撃と共に砕け散っていった。

 

「あ……っ!」

 

 小破程度とはいえ、初めてティーダZが壊れた。

 その衝撃に、一瞬息を飲んでしまうナオト。瞬間、サイの絶叫が響いた。

 

《ナオト! 

 一旦アマミキョに戻れ、このままじゃお前も危ない!!》

「サイさん……!?」

 

 見るとアマミキョでさえも、セレブレイトウェイヴの光の中、船体のあちこちからスパークを放っていた。

 サイの叫びの向こうで、何人ものクルーたちの悲鳴と怒号が交錯している。

 

《第三格納庫、火災発生!》

《西側5番通路との通信途絶! 回復出来ません!》

《主幹システムの一部に破損を確認、リンク12及び15を強制切断します! 

 すみません副隊長、こらえて下さい!》

《わ、分かってる……うああぁあああっ!!》

 

 クルーの声の間を貫いてくる、サイの痛みに満ちた絶叫。

 恐らくアマミキョ全体に異常が発生したことによって、サイ自身も苦痛に苛まれている。

 通信から判断する限り、破損したシステムの一部を切除したことにより、彼の身体にも激痛が走ったようだ。恐らく、手足切断に比肩するレベルの痛みが。

 その痛みは、ナオトも肌で感じていた。

 宙域全体に悲鳴が満ちている今、その苦痛はサイに集中している。本来はナオト一人が感じるはずの痛みが、フィードバックシステムの調整により、殆どがサイに──

 アマミキョだけではない。アークエンジェルにも、ホウジョウにも、ミネルバJrにも、光に晒された艦全て、同様の異変が発生していた。

 

 虚空にこだまする、無数の痛みの悲鳴。

 その中にはミリアリアやマリューやヴィーノ、アーサーやトニーにヒスイ、山神や伊能といった、ナオトのよく知るものも多く混じっている。

 ふと振り返りインパルスとカオスγの動向を確認すると、ルナマリアとアムルは未だ激闘を展開していた。両機体とも装甲のあちこちから火花を散らしながら、それでも閃光の撃ち合いを続けている。

 

 

 ──このままじゃ、駄目だ。

 このままじゃ、マユを助けるどころじゃない。みんな死んでしまう! 

 

 

 ナオトはもう一度目を見開き、正面からフレイの乗るセイレーンを見つめた。

 今なお紅の輝きを発し続け、母の光に巻き込まれまいとミドルリング付近で踏みとどまっている。

 額から流れ出た生温い液体が、目にも唇にも入ってくる。汗だとばかり思っていたが、ほんの少し鉄の味がした上、視界は紅で閉ざされた。

 一瞬だけバイザーを上げ、携帯ガーゼで目元を拭う。白いガーゼはすぐに真っ赤に染まってしまっていた。

 フィードバックシステムで苦痛を受けすぎた影響か。

 それとも、第三射目ともなるセレブレイトウェイヴは、人体を直接傷つける効果さえ孕んでいるのか。ナオトには判断出来なかったが──

 いずれにせよ、時間がない。

 

 考えるより先に操縦桿を引き絞り、ナオトはセイレーンに向けて一直線にティーダZを飛翔させた。

 瞬時にセイレーンの後方から飛び出してくる機体――

 それは勿論、フレイを守るべく飛び出した、ストライクフリーダムの青。

 

「キラさんも、やめてください! 

 僕は貴方とは戦いたくない! 勝てるとも思えないし!!」

 

 しかしほぼ同時に、ナオトは見た。

 キラを追うように、ティーダZの後方から一気に抜け出してきた紅の機体を。

 無限の正義の名を持つ機体を。

 

 ──アスラン・ザラ。

 

 ジャスティスの装甲表面にもやはり幾つも火花が散っていたが、それも意に介せずアスランはキラの方向へと機体を飛ばしていく。

 

《ナオト・シライシ! 

 キラは俺が抑える、お前はフレイに呼びかけ続けろ! 

 この光を打破するには、それしかない!!》

 

 ストライクフリーダムの背部装甲から放たれたスーパードラグーン。宇宙に散った8基の攻撃端末から、無数の青い閃光が縦横無尽に飛び交う。

 キラの閃光は棒立ちのティーダZをも狙ったが、全て寸前でジャスティスがビームキャリーシールドにより叩き落していた。

 周辺で動けずにいたウィンダムとムラサメ、そしてザフト側から出撃していたザクまで含め、宙域に留まっていた機体は次々と武装を剥がされていったものの、ジャスティスは閃光の殆どを巧みに躱し続ける。

 防ぎきれないものは脚部のビームブレイドで強引に蹴り飛ばし、その勢いでビームブーメランを放ったアスランはスーパードラグーンそのものまでを1基、潰すことに成功していた。

 そんなアスランに追随するように、怒声がナオトのコクピットにも飛び込んでくる。

 

《貴様だけ目立たせはせんぞ、アスラン! 

 キラ・ヤマト……例の傷の借り、ようやく返す時が来たようだな!!》

 

 痛みに呻く声を宙に響かせながら、純白のグフ・イグナイテッドがジャスティスと並ぶ。

 そして、遥か後方──アークエンジェルから、彼らへの援護射撃も届いてきた。

 

《イザーク!? お前まで……》

《ディアッカも援護してくれる、貴様はティーダZを護って先行しろ!》

 

 アスランに負けじと、白のグフもテンペスト・ビームソードを振りかぶりながら閃光を叩き払い突き進む。

 彼らの機体に着弾寸前となった光も、後方からの──恐らくディアッカのガナーザクファントムによるものであろう援護射撃が、殆どを正確無比に撃ち落としていく。

 その光景をつぶさに見つめながら、ナオトは再び、宙域全体に向けて呼びかけていた。

 機体をセイレーンに向け、真っすぐに押し進めながら。

 

 

「今、アマミキョを中心として──

 必死で誰かを助けようとする人が、大勢集まっています。

 自分の命を賭けて、魂を賭けて、身体を擲ち、全身で誰かを守り、助けようとする人たちが。

 アマミキョの人たちだって、最初はそうじゃなかった。船の中でいがみ合い、傷つけあい、戦いの中で多くのものを失い、一度は撃沈まで経験したのに……

 それでも、トニー・サウザン隊長と、サイ・アーガイル副隊長に導かれて、ここまで来た。

 あまりにも多くの理不尽を押し付けられながら、それでもここまで来た。

 僕は、アーガイル副隊長とずっと一緒にいたから、分かります。

 誰かを助けたいという意思は、何よりも強く尊いものだと。

 なのにそれすらも、欲望という一言だけで片付けるなら──

 僕は全力で、セレブレイトウェイヴを……

 その存在を肯定する人たちを、否定します!!」

 

 

 報道に関わる立場としては、本来、言ってはならない言葉かも知れない。

 僕はレポーターとして、もっと中立であるべきなのかも知れない。

 僕のやっていることは、マスコミとしては失格かも知れない。味方を鼓舞して戦場へ叩き込む、扇動者でしかないと──そう見られても仕方ない。

 だけど──僕に出来ることは、これぐらいしかないから。

 僕が見たこと、聞いたこと、感じてきたこと。それらは全て、今にも消えてしまいそうな記憶の中にある。

 そこから目一杯手繰り寄せた結論が、これなんだ。どんなに間違っていようと、どんなに未熟だろうと。

 ──だから、答えてくれ。

 ほんの少しでいい。お願いだ……フレイ・アルスター!! 

 

 

 祈るようなナオトの想いを乗せて、いつしかティーダZはセイレーンへと右腕部を伸ばしていた。

 その瞬間、ナオトの眼前に広がったものは──

 白と紅の光がちょうどよく混じり合った、柔らかな朝陽の中にも似ただだっ広い空間。それは――

 ティーダZとセイレーンの黙示録、双方が一瞬の調和を果たした結果、生まれた空間だったかも知れない。

 見えたものは、何もない虚空に伸ばされる、ナオトの手。

 遥か向こうで心をじっと閉ざしたままの、フレイ。

 どんなに伸ばしてもナオトの手は届かず、たとえ届いてもその瞬間に拒絶されてしまうかに思えた──

 

 しかしそんなナオトの手に、やがてサイの手が重なる。

 どういうわけか血まみれの、サイの腕が。

 

 

 ──これは幻じゃない。確かにサイさんの身体は実際もう、血みどろなんだ。

 身体中を苛む痛みに苦悶の声を上げながら、それでもフレイさんに呼びかけている。サイさんは──

 

 

 サイの呼びかけにも答えず、じっと赤子のようにうずくまるばかりのフレイ。

 だが、何故かその身体の中で、何かが反応していた。

 何かが必死にサイに、ナオトに応じようと、答えようとしている。

 それが一体何なのか、ナオトには分からない。しかしフレイは身体の中から生まれたその光に気づくと、ほんの一瞬だけ顔を上げた。

 静かに振り返った彼女の灰色の瞳が、じっとナオトを見つめる。

 ナオトを通じて、サイをも。

 

 

 その刹那──

 ナオトの身体を苛んでいた痛みが、ふっと軽くなった。

 コクピットでひっきりなしに鳴り続けていたアラートも、不意に消えていく。

 目の前に広がっていたものは、清冽なる朝陽にも似た、柔らかな薄紅の光。

 脳髄を叩き割るように響いていた鐘の音は消え、そのかわりに、ミーア・キャンベルとラクス・クラインの歌声が、周囲に静かに流れていた。

 

 

 

 ──歌よ 響き渡れ 永久に

 ──身体果つるとも 想いは時を超え 行き交う

 ──今集え 人々よ 果てない宇宙(そら)へ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──止まった? 

 セレブレイト・ウェイヴが?」

 

 アークエンジェルで、最初にこの現象に気づいたのはマリューだった。

 セレブレイトウェイヴ第三射により、アークエンジェルでさえもその制御に異常をきたしつつある。ノイマンの操縦で無用なデブリへの衝突などは回避出来ているものの、艦内でも至るところで火災やエンジントラブルが発生していた。

 不沈艦と呼ばれたアークエンジェルがこれほどまでに傷つくのは、初めてではないか。マリューは唇を噛みながら状況を睨んでいたが──

 そんな時だった。眼前を飛び出していったティーダZの周囲に、薄紅色の光が霧の如く発生したのは。

 同時に、自分たちを苛んでいた苦痛も、鳴り響いていた鐘の音も、不思議とかき消えていく。

 即座にミリアリアの声が響いた。

 

「か……艦長! 

 ティーダZと、紅の南チュウザン機の間で、詳細不明のエネルギーフィールドが発生しています! 

 セレブレイトウェイヴは未だ照射中ですが、その影響が10%以下まで減少中!!」

「何ですって!?」

 

 思わず振り返るマリュー。メイリンもこの現象に戸惑い、首を傾げていた。

 

「こちらの防御フィルタでは、最大限に防げたとしても40%までが限界なのに……

 あ、先ほど発生した第三エンジン、及びスレッジハマー発射管のエラー、回復しました!」

 

 マリューは改めてティーダZ、そして後方のアマミキョを交互に見つめる。

 

「もしかして……この光のフィールド。

 ティーダZの黙示録と、南チュウザン機からの電磁パルスが偶然響き合って、私たちを守っているの?」

 

 およそ自分でも信じられない言葉が、マリューの唇から漏れだしていた。

 しかしすぐに彼女は首を振りながら、指示を下す。

 

「このフィールドの分析、急いで。

 アマミキョは!?」

 

 アークエンジェルとそう離れていない位置で、その動きを止めているアマミキョ。船体のあちこちから黒煙が噴き上がり、制御すらもままならないようだ。

 悲鳴にも似たミリアリアの報告が、その場に響く。

 

「それが……通信は繋がっていますが、応答が……! 

 サイ! サイ、お願い、応答して!!」

 

 懸命に呼びかける彼女の言葉にも、アマミキョからの反応はない。

 サイのみならずトニーやヒスイらブリッジクルーからの応答さえないということは、一体今あの船はどれだけ混乱しているのか。

 歯噛みしたマリューの耳に、メイリンの叫びが反響した。

 

「え……か、艦長! 

 友軍機が一機、急速接近中です! 着艦を試みている模様!! 

 これは……アカツキ!?」

「えぇっ!?」

 

 その時にはマリューは確信していた。

 こんな真似をするのは……あのバカしかいない。

 

 

 

 

 

 

 退避命令が出されたとほぼ同時に、アークエンジェルカタパルトに勢いよく倒れ込むかのように着艦してきたのは──

 オーブの誇る黄金の機体・アカツキ。何度か被弾したのか、鏡面装甲の間の関節部から僅かに煙が上がっていた。

 唖然として駆け寄った整備士マードックの前で、内側から開かれるコクピット。

 

「だ、旦那。やっぱりアンタですかい」

 

 呆れ果てながらも歓喜に満ちた表情で、マードックは思わず頭を掻いていた。

 コクピットから現れたのは勿論、ムウ・ラ・フラガ。ただし酷い頭痛で大分顔を曇らせながらではあったが。

 

「マイクロウェーブに巻き込まれてエンジントラブった時は、さすがに終わったかと思ったけどねぇ。

 寸前であの光が、俺らを守ってくれた。あれ、ティーダとアマミキョの光だろ?」

「それについちゃ、まだ分析中でさ。

 ティーダの力だけじゃ推し量れない何かがあるって、艦長は言ってたが……

 それより旦那。俺『ら』って?」

 

 フラガは肩を竦めながら、操縦席横から何かを大事そうに抱え込む。

 エメラルドのワンピースを身に着けたままフラガと共にアカツキに乗っていた、まだ幼い金髪の少女を。

 駆け寄ってきた他の整備士たちにはそれが誰か、すぐにはピンと来なかったようだが──

 マードックは即座に叫んだ。

 

「この娘は……

 まさか、タロミの子供じゃ!?」

 

 少女──レイラ・クルーはしばらく気を失っていたようだったが、マードックの声にそっと目を開く。

 顔面は蒼白だったものの、それでも毅然と頭を上げ、しっかり声を張って彼女は尋ねた。

 

「ここは……

 たどり着いたのですか? アークエンジェルに」

「おぉ、その通りだ。

 嬢ちゃん、旦那、あんたら一体……」

 

 マードックに問われ、レイラは額の汗を拭いながら姿勢を正した。

 

「お初にお目にかかります。お察しの通り、私はタロミ・チャチャの子、レイラです。

 故あって、ムウ様と共にオギヤカから脱出を果たしました。

 このような場において誠に不躾ではありますが、お願いがあります。

 サイ様と──アマミキョと、連絡を取りたいのです!」

 

 

 

 

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