【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part12 貴方はまだ、人間よ

 

 

 アマミキョブリッジでは──

 一旦副隊長席が強制的に開放され、サイの身体がスズミやエリカたちの手で運び出されるところだった。

 既に接続用ケーブルは背中から一時的に外され、複数の看護師たちに見守られながら、サイはコクピットから引きずり出されていく。

 

 その様子を見て──

 トニーやヒスイを始めとしたクルーたちは、思わず息を飲んだ。

 

 背中から羽織っていたはずのジャケットは汗にまみれてとうに脱いでおり、上半身裸になってサイは副隊長の任務をこなしていた。

 しかし今、包帯だらけのその上半身は汗だけでなく、鮮血で染まっている。コクピットと身体を繋いでいる無数の電極からは微かな煙が幾つもたなびき、低重力下ですぐに消えていった。中には焼けて弾け飛んでしまった電極さえある。

 頭に巻かれた包帯の間からさえ血が流れ出し、それはサイの顔を真っ赤に染めていた。

 先程まで爛々と見開かれ、的確に船団に指示を出していたはずの彼の瞳はほぼ光を失い、半開きのまま何もない虚空を見つめている。その唇からは未だ、クルーやナオトへの指示が譫言のように漏れ出していたが。

 

「……一旦退くんだ……ナオト。このままじゃ、みんな……

 インパルスも、ジャスティスも、アークエンジェルも……ミネルバJrも、ホウジョウも……

 みんな……早く……」

 

「ど、どういうことです先生!?」口を手で覆いながら、ヒスイが叫んだ。「副隊長にフィードバックされるのはあくまで、痛みの感覚だけですよね? 

 どうして身体そのものが傷ついているんです?!」

 

 サイが運び出された直後のコクピットシートは、元からそんな色だったかのように一面がどす黒い紅に変化していた。周囲には細かな血液の粒が幾つも浮き上がっている。

 スズミは手早くサイを簡易ベッドに横たえ包帯を取り外しながら、傷の様子を確認した。

 

「間違いなく、強すぎるフィードバックの影響ね。

 皆が感じた痛みの感覚は、全てサイ君も感じるようになっている。つまり、今ここで苦しんでいる人間の感覚や、撃墜されたパイロットの感覚もほぼ全て、彼は感じ取っている。

 今調整済みのフィードバックシステムは、アマミキョの周辺で生まれた苦痛をティーダZを通してアマミキョに送られる仕組みになっているけれど──

 セレブレイトウェイヴの第三射により恐らくその量が許容値を超え、過剰な電磁パルスとなってサイ君の身体を直接傷つけた。それがこの痣」

 

 言いながらサイの包帯を解き、その素肌を指し示すスズミ。

 見ると、腕と言わず胸と言わず顔に至るまで、ほぼ全身に入れ墨の如き赤黒い痣が浮き上がっている。痣の中心から出血している部分も少なくなかった。

 看護師シルキーも、唇を噛みながら慎重にサイの血をガーゼで消毒する。

 

「そうでなくても副隊長、元から生傷多かったからねぇ。

 多分、その傷からの出血もあるんだと思うよ」

 

 エリカも彼女らの言葉を補足する。

 

「彼の身体はアマミキョと一体化している。

 それはアマミキョが受けた損傷をも、彼は自らの痛みとして感じることを意味する。船が攻撃されたり船内トラブルが発生すれば、即座にそれはアーガイル君へのダメージとなるわ。

 フィードバックシステムの機能を考えると、他の艦が損傷しても同じことが起こる可能性が高い」

「そんな……」「分かってはいたつもりだが、ここまでとはなぁ」

 

 未だにティーダZとセイレーンの光が広がり続けるブリッジで、ヒスイもトニーも歯噛みするしかない。てきぱきと動き続ける看護師たちを見つめながら。

 しかし、そんな状況でも未だにサイの意識は失われてはいなかった。

 否、失うことが出来なかったと言うべきか。運び出されて数分もしないうちにその瞳はやや生気を取り戻し、傷だらけの身体もそのままに起き上がろうとする。

 

「……セレブレイトウェイヴは、まだ……

 照射中か?」

 

 切れ切れの息でサイにそう尋ねられ、ヒスイは一瞬目を見開いたものの、即座に答えた。

 

「は……はい。

 照射時間は既に15分を超え、弱まる気配がありません。恐らくこれまでで最長時間かと」

「ティーダZに……いや、出撃中の機体には全機退却を命じてほしい。

 今は……ナオトとフレイの機体が、たまたま俺たちを守ってる……だけ……

 この光の正体が分からない以上、頼るのは危険だ。セレブレイトウェイヴで、アークエンジェルもホウジョウも、ミネルバJrも損傷してるし……うっ……」

 

 そう言いながらも血みどろの半身はふらつき、看護師たちに支えられる。

 スズミがそんな彼の右手を握りしめながら、叱り飛ばすように言った。

 

「もうこれ以上は駄目よ、サイ君! 

 過剰な痛みは、精神を狂わせることだってあるの。いくらアマミキョの回復機能があるといっても、貴方の心が耐えられるか……!」

 

 そんなスズミの手をゆっくりと払いながら、血に濡れた顔もそのままに、サイは弱々しく笑ってみせた。

 

「大丈夫ですよ。

 俺もう、人間じゃないですから」

 

 その言葉に──

 スズミやヒスイ、トニーらは勿論、背後で必死に状況を分析していたクルーたちすら一瞬、静まり返った。

 自らを嘲笑うように、血染めの顔でひらひらと手を振ってみせさえするサイ。

 ――その挙動は反射的に、スズミやクルーたちに、ハーフムーンでの彼を思い出させていた。

 狂気の入り口に迷い込みかけ、雪の空へ銃を撃ち続けたサイを。

 血みどろのままブリッジに戻ってきて、自らの頭に銃を突きつけたサイを──

 何とかして引き戻さねば。スズミもヒスイもトニーも同時にそう思ったが、言葉を失ってしまっていた。

 

 ──しかしそんな彼らに構わず、ぴしゃりと声が響く。

 

「何を言っているの、アーガイル君。

 貴方はまだちゃんと、人間よ」

 

 それは彼らの少し後ろで副操縦席の調整を行っていた、エリカ・シモンズの言葉だった。

 

「貴方はアマミキョに繋がれただけの、ただのナチュラル。どこまで行っても、それは変わらない。

 貴方ひょっとして、自分は不死身のゾンビになったとか思っている? 

 だとしたら、認識を改めてもらわないといけないわ。今すぐに」

「……シモンズ主任?」

 

 ぼんやりとした瞳でエリカを見つめるサイ。そんな彼に、容赦なくエリカは言い放った。

 

「貴方がアマミキョになったんじゃない。アマミキョが貴方と同じ、人間になったのよ。

 貴方と同じく、アマミキョだって傷つき、血を流す。勿論、力尽きることだってある。

 つまり、アマミキョの回復機能が許容量を超えれば、貴方と一緒にアマミキョも死ぬの! 

 呆れた。分かっているものとばかり思ってたのに」

 

 サイはそんなエリカの言葉を、叱られた子供のようにしばらくうなだれて聞いているばかりだったが──

 やがてその瞳に、力が戻り始める。

 それはアマミキョの回復機能によるものか、サイ自らの意思によるものか、誰にも分からなかったが。

 

「……申し訳ありませんでした。

 俺、忘れてました。もう俺の命は、自分一人のものじゃないって……

 キラにも言ったはずなのに」

「その通りよ」

 

 エリカはサイのそばに腰を下ろすと、強くその左肩を掴む。

 既に義手の一部となっている左肩を。

 

「貴方は3年前の激戦を生き残った、立派な戦士なの。キラ君と同じに。

 この程度の痛みで折れるはずがないし、アマミキョだってまだ戦える。

 自信を持ちなさい」

 

 言いながらそっと微笑むエリカ。

 その時にはもうサイは、傷だらけながらも自力で上半身を起こせるまで回復していた。

 肌に流れる血を半分も拭き取らないまま、彼はコクピットに戻ろうとする。

 

「ありがとうございます、シモンズ主任。

 俺をもう一度繋いでください。今度はもっと、うまくアマミキョを制御出来るはずですから!」

 

 サイはそう言い切り、改めて指示を下すべくブリッジを見回した──

 ちょうどその時、ヒスイの困ったような声が響く。

 

「副隊長! アークエンジェルから通信が入っています。

 緊急に副隊長とお話したいという人物がいるとのことで……

 でも、この子って……」

「俺と?」

 

 不審げに首を傾げながら、サイはヒスイの差し出したハンドモニターを覗き込む。

 そこにはサイの思いもよらぬ人物が映し出されていた。

 

「君は……!?」

 

 顎で切りそろえられた金髪に、アイスブルーの瞳。間違いなく、オギヤカから自分たちを脱出させた、レイラ・クルーだった。

 サイの顔を確認した途端、彼女はこらえきれなかったのか涙さえ浮かべ、一気に破顔した。

 

《サイ様ぁ!! 

 お久しぶりです、私です、レイラですわ!!》

「良かった! 

 ずっと心配してたんだ。よく無事でここまで……!!」

《ムウ様と、バルトフェルドの二人が助けて下さったのです。

 サイ様……お話は全て聞きました。

 サイ様こそ、ここまでよくぞ生き残られて……あの時の私の行動は、間違ってはいなかったのですね》

 

 モニターの向こうで涙を拭うレイラ。

 だがすぐに顔を上げ、表情を引き締める。

 

《サイ様……今すぐにお伝えしたいことがあります。

 出来れば内密にしたかったのですが、この状況では致し方ありません。

 残された時間は恐らく、そう長くはありませんから》

「……? 

 残された時間? 何のことだ」

 

 レイラは一つ大きく息を吸い、キッと顔を上げてサイを見据えた。

 その幼い唇から吐かれた次の言葉は、回復したばかりのサイの全身を、巨大な金槌で激しく殴打するも同然のものだった。

 

 

《サイ様。どうか落ち着いて、聞いてください。

 私の姉、フレイ・アルスターは──現在、妊娠しています。

 時期から判断して恐らく、サイ様──貴方との子供を》

 

 

 

 ~~~~~~

 

 次回予告

 

 消えゆく魂と交錯する痛み

 癒えぬ傷を抱えたかつての少年たち、その決着は

 偽りの運命を与えられた子供たち、そのたどり着く場所は

 声が光にかき消される中、新たな命は何を示す

 

 次回最終話 機動戦士ガンダムSEED Revelation

「私は、お前が好きなんだ」

 

 その指先、今度こそ届け。ガンダム!! 

 

 

 

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