【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
分からないことは、いくらでもあった。
まず、何故フレイが生きているのか。
何故、この国にいるのか。
そして、俺にあれだけ愛しげな態度をとったのは何故なのか。
ありえないはずだ。想像を絶する酷い形で、俺たちは破局を迎えたんじゃなかったのか?
それに、朦朧とする意識の中で見た、彼女の足元。
俺がさっきまで倒れていた場所には……
俺をぶちのめしていたアル中の父親とヤク中の兄弟が、ひっくり返っていた。
どうやってホテルへ帰ったのかさっぱり覚えていないが、スプリングが軋む粗末なベッドで目覚めた時はもう、フレイが俺を心配そうに見つめていた。
俺の目が覚めたのを確認すると、安心したようににっこり笑う。
「ごめんね。サイの服借りちゃった」
彼女は、壁にかけてあった俺の服を着ていた。で、俺はというと……
「悪いと思ったんだけど、泥だらけだったから上着洗っといたよ」
そう言いながら、洗面所のほうを顎で示すフレイ。
「裸、見せてもらった」
しれっととんでもないことを口にしながら、フレイは俺に眼鏡を手渡す。
「ちょっと恥ずかしかったけど、見てびっくりよ。アザだらけ」
俺は眼鏡をかけ直して答える。幸いにもズボンまでは脱がされていない。
「オーブでも、いろいろと揉め事があるんだよ」
「サイって、そんなに喧嘩っぱやかったっけ?」
不思議そうな目で俺を見つめる。俺はいつのまにか、彼女の雰囲気にのまれていた。
この明らかな異常事態に、俺の脳は対応しきれていなかった。
だからなんとなく、日常的な会話をしてしまう。といっても、2年前の日常だが。
「そうじゃない。
さっきみたいな暴力沙汰が我慢できないだけだ、あれは喧嘩なんかじゃないだろ」
「一方的な暴力行為、ってとこね。でもそれにしちゃ不用心すぎ。
オーブじゃ知らないけど、ここであんな路地裏に丸腰で入っていくなんて自殺行為ものよ。
私がいなきゃ、どうなってたんだか」
俺の左頬には、しっかりとガーゼが当てられていた。フレイは一旦洗面所に戻ったと思ったら、いきなり何かを投げてよこす。
それは、俺の財布とパスポートだった。
「貴重品ぐらいきちんと管理しなさいよ。
やっぱりオーブの人間って、外を知らないっていうか……私がつかまえなかったら」
「つかまえたって、誰を」
「決まってるでしょ。ハーフの子」
当然とでも言うようにフレイは背を向け、洗濯の続きを始めた。
「彼女、どうした?」
「児童保護局に連れてった」
そっけない返事。
まだそれほど時間は経過しておらず、外は夜になったばかりのようだ。既に雨はやんでいるらしい。
――日常茶飯事なのか、ここでは。
俺は甘すぎるのか。助けようとした娘にまで、財布を盗まれるところだったとは。
「やっぱりコーディネイターなんて、ろくなもんじゃないわ。いくら半分だけとはいえ、性根曲がりすぎ」
「あの子のせいじゃないよ」
「甘ったれたこと言ってると、明日は殺されるわよ」
俺の鼻先に、フレイはいきなり花束をつきつけた。
煙のような雨の中に生まれたハイビスカスの真紅の花束。まだ水滴がついている。
「きれいな花だね。どこで買ったの」
そんな、間抜けな応答しかできなかった。
フレイは腰に手を当て、明らかに俺を見下しつつ言う。
「ホントにバカね。このご時世に花なんか高くて買えたもんじゃないわよ、その眼鏡は何のためにあるの?
よく見なさい」
目をこらして見ると、その花弁は作り物だった。
しかも、これだけは本物だろうと確信していた水滴まで、ご丁寧にもビーズ球か何かでくっついている代物。
しかしそれよりも俺を仰天させたのは、真っ赤な造花の奥に隠されていた
──銃口。
おそらく花束に仕込むことが出来る程度の婦人用拳銃なのだろうが、その銃口はきっちりと俺に向いていた。
「まさか君は……これで奴らを」
「んなわけないじゃない、プラスチック弾よ。至近距離でない限りせいぜいアザ残すぐらいが関の山、でも十分護身にはなるから」
フレイは花束を置くと、俺のそばに腰を下ろした。
じっと俺の顔を見つめ、そして懐かしげに俺の頬に手を当てる。やろうと思えば十分にキスが可能な距離まで。
涙までたたえたその瞳に、邪念は全くない。
「だけど、嬉しかった」
俺は思わず腰を引いた。気持ちも引くように努めた。
駄目だ、こんな会話をしていては。彼女のペースに流されてる。
「まさかこの国でサイに会えるなんて、夢にも思わなかったもの。
話したいことでいっぱいよ、何から話せばいいかな」
「ああ。俺もあるよ」
俺はフレイの視線も手も振り切った。
現実を認識しろ、彼女は死んだはずだ。死んだはずなのに、生きていた。
ならば――
俺がやるべきことは、一つしかない。
「だけどその前に、やることがある。
キラに連絡しよう」
俺はベッドから立ち上がり荷物を取り上げ、タブレットを取り出す。
フレイがちょっと驚いたように俺を見ていたが、俺はその表情を一瞬、手を振り払われたための非難の眼と解釈した。
しかしそれが違うと分かったのは、すぐ後だ。
「ねぇ、サイちょっと待ってよ……
言ってることの意味、よく分からないんだけど」
フレイが俺の肩をつかみ、顔を覗き込む。
眼は疑問の色でいっぱいだった。
「俺も正直、君の行動の意味がよく分からない。どうして君は、俺を遠慮なく抱きしめたりできる?」
「何怒ってるの? 変だよ、サイ?
何か私、悪いことしたかな?」
いけしゃあしゃあとよく言うわ。ミリアリアがこの場にいたら間違いなく言うだろう。
「怒ってないよ。ただ、これだけはやらなきゃいけない。
キラに君のことを伝える!」
「だからそれが分からない。キラって?」
「君は何をそらっとぼけて」
思わず大声で怒鳴りかけ、フレイの顔を振り返り──
俺は、唖然とする以外の行動が出来なくなった。
キラ。
確実に反応を示すだろうその単語に対して、彼女は疑問以外の何の表情も見せていない。
何とかそれを必死で思い出そうとしている様子だ。困ったように首を傾げている。
まさか──
俺の抱いた嫌な予感は、同時に俺の中でわずかな期待に変わる。
なんて男だ、俺は。自分で自分を蹴り飛ばしたくなった。
そして彼女は、口にした。俺の予想と全く違わぬ台詞を。
「キラって……
ああ、サイの友達の!」
オールリセット。俺の脳裏にまず閃いた言葉はそれだった。
さきほどのコーディネイター云々も引っかかるものがあったが、今のフレイの一言が、何よりも確実に実証している。
彼女が、記憶を──少なくともキラとの記憶は、ほとんど全て
──消失しているということを。