【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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FINAL PHASE 私は、お前が好きなんだ。
part1 シンの『明日』を


 

 

 今や完全にセレブレイト・ウェイヴの砲塔と化したコロニー・ウーチバラ。

 かつて街の中心部だったはずのリュウタン広場があった場所には、今──

 コロニーの地表から天井までもを貫かんほどの巨大な塔がそびえたっていた。

 表面は全面、薄紅のガラスのようにしか見えない。しかし実際はミラージュコロイドを利用して脆いガラスのように見せているだけの、強固な建造物。

 

 だがその建造物の中でまともに人が進入出来る場所は、塔の最下部に申し訳程度にくっついている小さな管理棟ぐらいのもので。

 塔の中身の殆どは紅の液体で満たされた、巨大な試験管のようなものだった。

 皮肉にも、かつてナオト・シライシがティーダと最初に出会い、初めてティーダを起動させたこの場所に──

 

 マユ・アスカ──チグサ・マナベは囚われていた。

 彼女の乗機であるストライクフリーダム・ルージュごと、紅の液体に漬けられた状態で。

 チグサはパイロットスーツのまま強制的に無数のケーブルでシートに繋がれ、ルージュ自体もまた、紅の液体の中、極太の電気ケーブルによりがんじがらめにされていた。

 まるで大腸のように複雑に絡み合い、ギシギシ軋みながらルージュを拘束しているケーブル。

 

 

 そんな中でも──チグサの意識は未だ、目覚めていた。否、目覚めさせられたというべきか。

 耳元ではなく脳に直接響いた、「歌」によって。

 

 

 ──ナニ、この声……歌……? 

 ラクス・クラインの……いや、違うな。

 声も聞こえる。これは、フレイの……? 

 一緒に、サイの声まで聞こえる。

 ついでに、あのガキの声も。

 

 

 チグサはぼんやりと、自らの状況を見回した。

 コクピットは紅の液体でいっぱいに満たされ、ルージュは全く動きそうにない。

 彼女自身、ケーブルで完全に拘束状態にあり、口元に呼吸器が装着された上に強引にヘルメットをかぶせられたのか、声すらろくに出せなかった。

 幸いメット内にまでは液体は入っていなかったものの、チグサ自身の意思では瞬きぐらいしか出来ない。

 

 

 ──さてはここ、『御柱』の中? 

 てことはアタシ、ステラの代わりに御方様に捕まった? 

 くっそ、マジか。ヘタこいたなぁ~……

 

 

 そう愚痴りかかるものの、ろくに舌打ちすら出来ないチグサ。

 そんな彼女の脳に、またしても声が響く。彼女と同じ声が。

 

 

 ──チグサ! 

 良かった。やっと……やっと起きてくれたんだ! 

 

 

 マユ、あんたか──

 そう口に出しそうになり喉を詰まらせ、危うく咳き込みかけるチグサ。

 そんな彼女の中へ、なおも響く声。

 

 

 ──この奥に、助けてほしい人がいる。

 このままじゃ、みんな踏みつぶされちゃうから! 

 

 

 その時には既にチグサは、周囲の状況とマユの声から何となく理解していた。

 オギヤカから奪われたステラの代わりに自分が「御柱」とされたことで、再びセレブレイト・ウェイヴが発射された現実を。

 ――んなこと言ったって、アタシにはどうしようもないよ。

 そう口にしようとしても、言葉は声にすらならず、液体の中へ泡となって消えていくばかりだ。

 

 

 ──感じるの。

 ラクス・クラインの歌とは違う、この声が。

 ナオトとサイの声が、きっと助けてくれるって。

 だってナオトはずっと前にここで、私を助けてくれたんだもの。きっと今度も──

 

 

 必死に自分に呼びかけてくる、マユの声。

 空間に響き続けるラクス・クラインの歌。それに反駁するように飛び込んでくる不協和音

 ──それは、ラクスの歌とも似ているが、違う歌だ。

 そのメロディーを聞きながら、チグサの中でも一つの決意が固められていく。

 

 

 ──分かったよ。

 サイはむかつくけど、話してみればそんなに悪くない奴だったしね。

 結果的にあのガキんちょの味方になるのは、まっぴらごめんだけど──

 マユ。あんたがそこまで言うなら、しょうがない。

 

 

 ──ありがとう! 

 サイの為なら、ってことだよね! 

 

 

「はぁ!? 

 バカ、こんな時に何言って……んぐっ?!」

 

 

 思わず口に出してそう言いかけて、咳き込んでしまうチグサ。

 その声は閉ざされた液体の中へ、吸い込まれていくばかりに見えたが──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どういうことでしょう? 

 威力が……弱まっている?」

 

 リュウタン広場を中心に、光の充満するウーチバラ。

 その先端から発射されているものは、一条の光──セレブレイト・ウェイヴ。世界を祝福する歌。

 ウーチバラの周囲を浮遊する機動要塞・オギヤカは今、光を静かに見守っている。

 その最奥部で、ラクス一世が異変に気付いていた。

 彼女を護衛していたヒルダが、すかさず指摘する。

 

「恐らく、アマクサ組の奪ったミドルリング──

 そこから発振されたセイレーンの黙示録が原因かと。

 また、ティーダを擁したアマミキョの影響もあるでしょう。

 奴らの力、決して侮れぬところまで来ている」

 

 オギヤカ周辺の状況を映し出した無数のモニターに取り囲まれながら、無感情に報告するヒルダ。

 そんな彼女に、ラクス一世はふと微笑み返した。

 

「なぁるほど……

 この閉塞した時代を打破するには、造物主に見捨てられし者たち、選ばれなかった落伍者たちの力こそが必要──

 そう言いたいのですね。フレイは」

 

 呟きながら、静かにモニターの一つを見つめるラクス一世。

 そこには、リュウタン広場の御柱で眠るストライクフリーダム・ルージュ──

 そして、コクピットで微かに声を発するチグサが映し出されていた。

 

「わたくしも、世界はそうあればと願っていました。

 ですが、フレイ。残念ながら、力なき者に世界は変えられない。

 想いだけでも、力だけでも、世界を変えることは出来ない。

 だからこそ貴方には、キラ・ヤマトが必要でしたのに……

 貴方が彼に好意を抱くよう、慎重に調整を重ねたはずですのに。

 どうしてこのような結果になってしまったのでしょうね」

 

 少しだけ目を伏せるラクス一世。

 その様子はヒルダには当然、娘に裏切られ悲しみに沈む母親の表情にしか見えなかった。

 

「御方様。お気持ち、お察しします──

 なればこそ、貴方の愛情を裏切ったフレイ・アルスターを、許してはならない!」

 

 顔を上げるラクス一世。その瞳はどこまでも優しげに相手を包む。

 

「ヒルダ。

 わたくしは直接、リュウタンへ向かいます。

 今こそ母親として、ラクスの力にならなくては」

「──!? 

 まさか。御方様自ら、御柱に!? 

 危険です!」

 

 しかしラクス一世は、伸ばされたヒルダの手をやんわりと払い、満面の笑みを見せた。

 

「大丈夫。ずっと『ユテルス』にいるラクスが退屈していないか、気になっただけですわ。

 わたくしをリュウタンに送り届けた後、貴方はエターナルに向かって頂けますか。

 ドムトルーパー隊のお二人も、貴方を待っておられるはずです」

「ですがエターナルには、未だにバルトフェルドが……

 何故あの男をまた野放しにしたのです。エターナルもそのままに」

「貴方に確保していただいた彼の部下、わたくしのもとで保護していますわ。

 ですからさすがの砂漠の虎でも、あれ以上暴れられないかと。

 ただ捕まえるより、その方が面白いかと思いまして……いけませんか?」

「いえ……

 申し訳ございません。差し出がましい口を」

 

 柔らかいが有無を言わさぬ口調は、娘と何も変わらない。

 腹心の部下を人質に、逃がした味方を撃たせようというのか。それが彼女流の罰ということか──

 ラクス一世の言葉に反論出来ず、ヒルダは唇を噛んで頷くしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 セレブレイト・ウェイヴの第三射はそれまでよりも照射時間が圧倒的に長く、既に30分以上もオーブ・連合・ザフト艦隊、そしてミドルリングに陣取ったアマクサ組は一方的にその光に晒されていた。

 人の精神のみならず、電子機器にすら影響を与えてくるマイクロウェーブに。

 それにより艦隊は一旦退却を余儀なくされていたものの、光はどこまでも彼らを追っていく。

 動くものは逃がさないとばかりに。

 

 しかしそんな彼らを、しっかりと守っていたのは──

 ティーダZとセイレーンの発した黙示録。その波長の重なりだった。

 ミネルバJrのカタパルトで光から避難しつつも、この不可思議な現象をモニターで分析していたヴィーノ。整備士たちに退避を呼びかけていたマッドも彼に気づき、強引にその腕を取る。

 

「何やってる、ヴィーノ! その光の分析は危険だと言っただろうが!」

 

 しかしヴィーノはモニターから目を離さぬまま、まるでピアノの如くキーボードを叩き続け、頑なに動こうとしない。

 

「大丈夫です! 

 ナオトとサイと、おっぱいデカい方のラクス・クラインが俺らを守ってくれてますから!」

「しかし……」

 

 逃げ惑う整備士たちを見ながら、焦るマッド。しかしヴィーノは敢然と言い放った。

 

「いいから待ってください、チーフ! 

 もうちょっとで分かりそうなんですよ、ティーダZとあの紅いヤツの、エネルギーフィールドの秘密が! 

 それに、セレブレイトウェイヴの出力自体、照射直後より40%以上低下している可能性があります」

「何だって?」

「こちらが放っている2種の黙示録の影響で、大幅に減衰しているのかと思いましたが……

 それだけで1割近くまでパワーが落ちるとも思えないから、光自体を分析したんです。

 もしかしたら、ウーチバラ自体に何か変化があった可能性もあります。

 サイに確認してみれば、分かるかも!」

 

 

 

 

 

 

 ──シン。

 ──シン! お願い、気づいて、シン。

 

 

「……ん? 

 ……この声……ステラ?」

 

 

 シン・アスカはこの状況下においても、未だにミネルバJrの営倉から動けなかった。

 ウーチバラからセレブレイトウェイヴの第三射が放たれたと分かっても、どうすることも出来ずにうずくまったままだった。

 そんな時にふと聞こえたのは、ラクス・クラインの歌声。

 涼やかな歌声と共に、シンの中へ響いたものは。

 

 ──あのひとが、危ないの。

 ──あのひとは、シンの、『明日』だから。

 

 忘れるはずもない。それは間違いなく、ステラ・ルーシェの声だった。

 突然自分の中へ直接呼びかけられた声に、シンは思わず立ち上がりかけてしまう。

 メサイア戦での敗北後、月へ落ちた時も──

 同じように、ステラの声を聞いた。それが夢だったのか幻だったのかは、未だに分からないが。

 その声が、今も──

 

「あのひと……? 

 もしかして、ルナが?!」

 

 ステラの声を聞いて月で目覚めた時、そばにいてくれたのは他でもない、ルナマリアだった。

 アスランに負けて、オーブに負けて、何もなくなって泣きじゃくるしかなかった俺を──

 彼女はずっと、抱きしめていてくれたんだ。

 復讐の意思を折られ、生きる目的を何もかもを失った俺を──

 

 ──シン。

 あのひとを、はやく……

 

 いや。

 俺は、全てを失ったわけじゃなかった。

 あの時からずっと、ルナは俺のそばにいてくれたじゃないか。

 ステラの声を聞いて、やっと気づくなんて。

 俺のすぐ近くにずっとルナはいてくれたのに、俺は彼女が、ナオトばかりを見ていると思い込んで……

 ルナにもナオトにも、酷いことを言ってしまった。

 その上俺は、アスランと同じようにミネルバ隊を裏切って。ルナを裏切って。

 それなのにルナは、そんな俺をあっさり許して……

 

 

 激しい後悔の末に思い出されたものは、ここに囚われた自分に、彼女が見せてくれた笑顔。

 そして、言葉。

 

 

 貴方がどこへ行ったとしても──

 私はちゃんと、そばにいるから。

 

 

 考えるより先に、シンは立ち上がっていた。

 思いきり鉄格子を掴み、ガシャガシャ音が出るほど揺さぶってみる。勿論それだけで鉄格子があっさり破れるはずもなかったが、シンはそうせずにはいられなかった。

 

 ステラが教えてくれた。今一番、俺が助けなきゃいけないはずの存在を。

 ステラが教えてくれた。今の俺が、決して手放しちゃいけないものを。

 俺は何もかも失ったわけじゃない。俺の生きる道は、探さなくてもすぐそばにあったじゃないか。

 

「クソっ……!!」

 

 どれほど両拳に力を籠めても、扉は頑なに開かない。

 やっと気づいたのに。これほど迷って、憎んで、殺して、壊して、裏切った挙句に──

 俺はなんて──馬鹿だ。

 すぐそばにあった一番大切なものが、また俺から離れていくのか。それも、出撃どころか何も出来ず、動けないまま。

 分かってる。キラさんもフレイのことも、すごく気になってる。

 今あの二人は、酷い葛藤に見舞われている──ステラの声を通じて、俺にもそれが分かってしまう。

 だけどその前に、ルナを……

 何としても、ルナを!! 

 

「こん畜生っ!!」

 

 艦全体が微かに揺さぶられ、警報が響き続ける中、扉に体当たりまで始めるシン。

 だがそれを止めたのは、思いがけない声だった。

 

「シン。本当に相変わらずだな、君は。

 君が暴れだしたと聞いて急いで来てみたら、この有様か」

 

 ふと視線を上げた時、そこにいたのは、ミネルバJr艦長──アーサー・トライン。

 シンにとっては、人当たりは良いが頼りがいに欠ける、かつてのミネルバ副長だった。

 

 

 

 

 

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