【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part3 お前の帰る場所はまだある

 

 

 トニーの声と共に、勢いよく再発進するアマミキョ。

 その声に押し出されるようにして、アークエンジェルもホウジョウもミネルバJrも、光の中を臆せず突き進み始めた。

 サイの中で、強い答えが次々と響き渡る。それは、それぞれの艦の意思か。

 

 ──行きましょう、みんな。戦う為じゃない、助ける為に!! 

 ──皆の無念、無駄にはすまいぞ! 時澤、霧山!! 

 ──我々は今度こそ、道を誤らない。ラクス・クライン及びウーチバラ住民の救出、その援護に向かう!! 

 

 マリューの声が、山神の叫びが、アーサーの指令が、サイの中で反響する。

 様々な人の声が、意思が、サイの中で飛び交う。

 しかし彼はもう、その現象に対して動揺はしなかった。それは、アマミキョの回復機能によるものか、自身の成長によるものか。

 

 だが──

 直進する船の中でサイはその時、気づいた。

 ティーダZからの声が、いつの間にか途切れていることに。

 

「ナオト? 

 ナオト、どうした? 応答しろ!!」

 

 先程まで、必死でフレイに、宙域全ての人々に呼びかけ続けていたナオトの声が、今はすっかり途絶えている。

 ティーダZは依然として光の翼を放出したまま留まっているものの、ナオトからの応答はない。

 モニターを続けていたヒスイの、悲鳴のような報告が響いた。

 

「副隊長! 

 ナオト君の心拍と呼吸が、弱まっています! 非常に危険な状態です!!」

「何だって?」

 思わず身を乗り出すサイ。「せめて、あの光の翼は抑えられないのか? 

 それだけで、ナオトへの負担はかなり減るはずだ」

「それが……

 翼のエネルギーは増大するばかりで、こちらの信号を一切受け付けないんです!」

 

 メインモニターを覆い隠さんばかりに拡大していく、ティーダZの光の翼。

 それは今も宙域に広がる枝のように伸ばされていき、収まる気配がない。

 

「分かった。

 直接俺が、ナオトの状況を分析する! それで何とかなるかも知れない」

 

 激しい動揺を必死で押し隠しながら、サイは急いで副長席へと戻る。

 意識をティーダZに集中させ、肉声と心の両方でナオトへ呼びかける。

 

「──ナオト。答えろ。

 この声が聞こえるなら、今すぐアマミキョへ戻れ。

 もう、無理する必要なんかない。あとは俺たちでやるから、お前は……!」

 

 

 だがその瞬間、サイの脳に直接届いた、か細い声は。

 

 

 ──だ……誰ですか、貴方? 

 邪魔、しないで下さいよ。

 

 

「……え?」

 

 

 酷く呆けた声を出してしまったと、サイは自分でも思った。

 しかしそんな彼を叩きのめすかのように、ナオトの思考は彼の中へ無遠慮に流入していく。

 

 

 ──僕には、まだ、やらなきゃいけないことが、あるんです。

 助けなきゃならない人が、いるんです。

 それが誰なのか、誰を助けなきゃいけないのか、分からないけど……

 でも、呼んでるんです! 

 

 

 あまりの事態に、一瞬サイの心は状況を拒絶しかかった。

 

 何てこった──

 ナオトの病は、SEEDの副作用は、このティーダZの覚醒によって一気に進行してしまった。

 光の翼の中心、宙域を浮遊するティーダZの中で、ナオトは殆ど全ての記憶を失っている──

 俺たちの命と、引き換えに。

 

 そんな現実を理解した瞬間、サイの喉からどうしようもない呻きが、溢れていた。

 酷い絶望に満ちた呻きが。

 思い出されるのは、ミントンでのナオトの叫び。

 

 ──僕は、サイさんを忘れてしまうのが……一番怖い。

 ──そんなの、僕って言えますか! 

 

 あいつは、あそこまで俺を想ってくれていたのに──

 こんな状況にあいつを叩き込んだ、俺さえも!! 

 

 その声があまりにも悲痛だったのか、トニーもヒスイも思わずサイを振り返る。

 

「サイ君!?」

「どうしたんですか。ナオト君に何か……!?」

 

 トニーなどは即座に副隊長席に駆けつけ、コクピットごしにサイの右腕を強く掴んでいた。

 その腕力で、何とかサイは絶望に呑まれずに済んだと言える。

 

 ──そうだ。ここで折れちゃいけない。

 ナオトはまだ、ちゃんと生きてる。記憶を投げ出してまでも、俺たちを守っている。

 俺は約束したんだ、ナオトと。

 お前が何度俺を忘れても、俺は何度だって思い出させるって! 

 

 奥歯を割れんばかりに噛みしめながら、サイは顔を上げる。

 その口元には、非常にぎこちないながらも、いつも彼が誰かを励ます時の微笑みが浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 ──声が、聞こえる。

 この声、誰だっけ。ついさっきまでは、覚えていたはずなのに。

 

 ティーダZのコクピットの中で。

 ナオト・シライシは、眼前を覆い尽くす自機の光を、茫然と眺めていた。

 両手は操縦桿を握ってはいるが、握っているだけだ。

 

「助けなきゃ……いけないんだ。

 助けたいんだ。

 みんなを……」

 

 その瞳から、いつもの眼光は完全に失われている。それがSEED発動特有の現象なのかどうかさえ、ナオト自身には全く分からない。

 つい先ほどまで、必死に宙域に向けて呼びかけていた声。しかし今その声から最早力は抜け切り、唇は半開きだ。

 

 誰かを、助けたいはずだった。

 誰かを、守りたいはずだった。

 誰かと、話したいはずだった。

 でも、誰を……? 

 

《ナオト・シライシ。

 こちらアマミキョ。お前の機体と繋がっている船だ》

 

 さっきから必死で、僕に呼びかけている声がある。

 誰の声だろう? すごく大切な誰かだった気がするけど、でも……思い出せない。

 ナオト・シライシ……それが、僕の名前? 

 

 その時、少年の問いに答えるように響いてきたものは――

 とても可愛らしい、少女の声だった。

 

 ──そうだよ、ナオト。

 お願い、思い出して。今サイが必死で、ナオトに呼びかけてる。

 

 頭の中へ直接響いてくる声──とても大切だったはずの声。

 でもそれすら、誰なのか思い出せない。

 

 ただ、その声を聞いた時、ナオトは無意識のうちに胸元を握りしめていた。

 ナオト自身は思い出せなかったが、その胸元にはパイロットスーツごしに、白いお守りが入れられている。

 通信の声は、そんな彼を励ますように続いていた。

 

《ナオト──俺はサイ・アーガイル。救助船アマミキョの副隊長だ。

 多分お前は今、何も分からなくて、すごく戸惑っていると思う》

 

 いつの間にかティーダZのすぐそばまで近づいてくる、トリコロールのカラーリングが印象的な船。戦艦にも似ているが、どこか違う感じがする。

 あちこちから火を噴きながら、それでも僕に近づいてくる。

 あの船から、声が響いてくる。僕の心に、直接。

 どうしてだろう。すごく大変な状況なのに、何故か凄く穏やかな声で話しかけてきてくれる。

 その想いを感じ取った時、少年の唇から、ごく自然に言葉が溢れ出た。

 

「怖いんです……

 絶対にやり遂げたいことが、あったはずなのに。

 絶対に守りたい人が、いたはずなのに。

 絶対に助けたい人がいて、伝えたいことがあって。

 それなのに、何も分からなくて……どうしていいのか、全然分からなくなって!」

 

 通信の向こう側で、何かを喉元で押し殺すような呻きが響く。

 だがそれも一瞬で、すぐに暖かい声がナオトを包んだ。

 

《大丈夫。やりたいことがあるなら、ずっと俺が一緒にいる。

 だから帰ってこい、ナオト。お前と俺は、ティーダとアマミキョでずっと繋がってるんだから。

 お前の帰る場所はまだある、この船に!》

 

 その言葉で、少年の眦から自然と涙が溢れだした。

 

 いつか僕は、同じ言葉を聞いた気がする。

 君の帰る場所はまだあるって──同じ言葉を、同じ人から聞いた気がする。

 この人は……! 

 

 だが、感極まったナオトの感情は、そこで遮断された。

 アマミキョとティーダZの間に突如割って入った、禍々しい緑の閃光によって。

 

《ぐっ……!?》

「え……

 さ、サイさん!!?」

《右舷第二防御壁、破損!!》

《サブエンジンにエラー発生、詳細確認出来ません!》

 

 激しいノイズの向こうで、ブリッジが一気に喧騒に包まれるのが分かる。

 

 サイさん。思わず喉から飛び出したその言葉で、ナオトはようやく思い出した。

 

 そうだ──サイさん。

 頭で忘れても、身体が覚えていた。サイさんの名前を。やるべきことを。

 

 再びアラートが響きだすコクピット。ナオトの眼前で、爆光に包まれるアマミキョ。

 ブリッジに直撃こそしていないが、右舷カタパルト付近から大きく炎を噴き上げている。

 痛みに耐えるようなサイの指示が、ナオトにもはっきり聞こえた。

 

《ぐ……ああぁ……

 きゅ、90から125までの隔壁閉鎖! 少しでも被害を食い止めるんだ!》

 

 反射的にナオトはモニターを確認する。敵性機体を示す紅の表示が、ティーダZのすぐそばまで迫っていた。これは──

 そしてナオトは、真上に感じた。

 サイに対する、アマミキョに対する、人間そのものに対する、凄まじい悪意を。

 

 

 

 

 

 

 ティーダZを見降ろす形になりながら、アマミキョへ直接攻撃を仕掛けたのは──

 アムル・ホウナの乗るカオスγだった。

 

「いい加減やめなさいよね……

 戦場で、気持ち悪い友情ごっこなんて!」

 

 インパルスとの戦闘のさ中、彼女もまたセレブレイト・ウェイヴを目撃した。その光から自分たちを守ろうとする、ティーダZの光の翼も。

 その中で交わされたサイとナオトのやりとりすら、アムルには感じ取れてしまっていた。

 記憶の全てを擲ってでも成すべきことを成そうとする少年と、それを命がけで支えようとするサイの想いを。

 それはアムルもまた、かつてのアマミキョクルーだったからこそ感じられた現象だったのだが──

 

 しかしそれらは全て、今のアムルにとっては悪意しか呼び起こさない。

 サイやアマミキョ、そしてそれに賛同して命を投げ出す者たちの行動は全て、彼女に嫌悪感しかもたらさなかった。

 そして、アマミキョから感じられるサイの、痛みに満ちた声が──

 アムルをさらに激情の渦へと取り込んでいく。

 その声がカオスγを一瞬インパルスから引き剝がし、強引なまでにインパルスの戦闘からの離脱を成功させたとも言える。

 

「ふふ。あの時と同じ……

 いえ、もっと酷い苦痛が貴方を蝕んでるのね、サイ君!」

 

 機動兵装ポッドにファイヤーフライを装填し、無防備となったアマミキョへさらなる攻撃を加えようとするカオスγ。

 ──しかし。

 

 

 ──アムルさん。

 ほ……本当に、そこまでする必要、あるんですか? 

 そこまで、俺たちが憎いんですか? 

 だとしたら、俺……

 

 

 不意に、脳へ直接飛び込んできた気弱な声。そして警報音。

 それはアムルの記憶の隅にほんの僅かに残された、ナチュラルの少年のものだったかも知れない。

 と同時に、カオスγの右横から、トラックに弾き飛ばされたかのような凄まじい衝撃が走った。

 

「ああぁあああっ!!?」

 

 思わず悲鳴すら上げてしまうアムル。

 

「畜生。

 もう、インパルスが……?」

 

 モニターを確認すると、複数の敵性機体、そして敵性艦の接近が見て取れる。

 しかしいちいち分析せずとも、肉眼で分かった──

 カオスγを強引にぶん殴ったのは、黒のレイダーガンダム。その腕部に握られた破砕球・ミョルニル。

 まるでそこに追随するように現れたのは、アークエンジェル。

 傷つけられたアマミキョを守るように、彼らはそこへ現れていた。

 

 

 

 

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