【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part4 俺だって、『トール』だった

 

 

 

 戦場は、刻一刻と狭められていた。

 ティーダZとセイレーンを中心として各陣営の艦隊が展開されていたが、オーブ軍とアマミキョが南チュウザン軍のミドルリングに接近すると同時に、連合艦ホウジョウが一足先に抜け出すようにしてコロニー・ウーチバラへと向かっている。

 ミドルリング周囲ではアスランとキラが、ティーダZとセイレーンが睨み合いを続けている。そこへ、ザフトの旧デュランダル派が割って入り。

 戦いは三つ巴から四つ巴とも言うべき状況へと変化し、酷く混沌とした中──

 次第に戦闘空域はミドルリング付近から、ウーチバラ周辺へと移動しつつあった。

 レイダーを駆るトールが、カオスγからアマミキョを結果的に守ることになったのが、この戦場の混乱ぶりを表していると言えるだろう。

 すんでのところでカオスγを止めたトールは、コクピットでため息をつく。

 

「バカだね。

 今アマミキョとティーダのどちらかを失えば、この光のフィールドも消える。

 俺たちみんな、セレブレイトウェイヴの餌食になる。それぐらい、いくらデュランダル派でも分かってると思ってたけど」

 

 宙域のあちこちで、未だに電磁波の影響から抜け切れていない機体の数々を睨みながら――

 トールはカオスγを振り返った。そして、カオスγごしにアークエンジェルをも。

 

 

 

 

 

 

 アークエンジェルブリッジから、ミリアリアは酷く複雑な想いでレイダーを見つめていた。

 南チュウザンの情報を入手する過程で何度か交わした、トール・ケーニヒを名乗る少年とのやり取り。彼自身から齎された情報から、レイダーに彼が乗っているのは確実だった。

 思わずミリアリアは、マリューに視線を送る。その感情を汲み取ってか、マリューも一旦彼女を振り返りつつ、無言でうなずいた。

 常識的に考えて今は、彼と悠長に言葉を交わしている余裕はない。相変わらずカオスγはアマミキョを狙っているし、レイダーもそれを防ごうと飛びかかっている。

 それでもミリアリアは国際救難チャンネルを使い、必死でレイダーに呼びかけていた。

 

「レイダーパイロット、聞こえますか! 

 こちらアークエンジェル。援護、感謝します。

 貴方もナオト・シライシの言葉を聞いたでしょう? 

 この光を通じて、サイたちの想いを感じているでしょう? 

 どうか、私たちに銃を向けるのはやめて。私は、貴方が敵だなんて、思いたくない!!」

 

 そんなミリアリアの言葉を支援するかのように──

 アークエンジェルの甲板付近に陣取ったディアッカのガナーザクファントムから、膨大な火線がカオスγに向けて撃ち放たれていく。ガナーウィザード特有の装備・オルトロス高エネルギー長射程ビーム砲──その威力に、さすがのカオスγも大きく後退せざるを得ない。

 ディアッカに助けられる形になりながら──

 それでも、レイダーから返ってきた応答は、冷徹なものだった。

 

《それは出来ないね。

 俺たちはずっと、フレイの為に行動してきた。彼女自身を世界の敵とし、彼女を破滅させる結果になろうとも──

 それがフレイの意思ならば》

「でも!」

《君には言っただろ。

 俺たちアマクサ組は、姫の意思を最優先に動く者。

 タロミや御方様にそうやって仕組まれ、蘇った者だって》

 

 その言葉を実証するかの如く、いつの間にかレイダーの周囲に集ってくる黒ダガーL。

 

《このニコル『たち』も。ミゲルも、ラスティも、みんなそうだ。

 みんなフレイを信じて、御方様に反旗を翻して、世界の敵になる覚悟でここまで来た。

 今世界が結束しなければ、サイみたいないい奴や、君みたいないい娘が、次から次へと死んでいく世の中になっちまう。これまでみたいに──!!》

「だからって、セレブレイトウェイヴを守りながら、貴方たちも犠牲になろうっていうの? 

 キラや、ラクスさんまでも巻き込んで!!」

《それが、SEED持ちの宿命でもあるんだ。

 力を持つ者は、その力を自覚し、正しくその力を使う責任を持つ。

 分かってくれ、ミリィ》

 

 それきり、一方的に通信は遮断されてしまった。

 アークエンジェルの直上から、再び高速で突っ込んでくるカオスγ。撃ち放たれたファイヤーフライによって、ダガーLが当たり前のように次々と落とされていく。

 同時に響く、ディアッカからの通信。

 

《ミリィ……こうなりゃ仕方ない。

 気持ちは分かるが、こいつぁどこまで行っても平行線だ。

 目指す場所が同じだからこそ、交わらない意思ってのもある!》

 

 反論出来ず、歯噛みしながら俯くしかないミリアリア。

 その背後で、突然メイリンの叫びが響いた。

 

「艦長! 

 ウーチバラ付近より、新たな熱源を探知! 恐らく要塞オギヤカからのものと思われます」

「何ですって? 熱紋照合は?」

「結果、出ました。これは……

 え、エターナル!?」

「いよいよ混沌としてきやがったな……」

 

 メイリンの報告に、ブリッジ後席からチャンドラの舌打ちが響く。

 しかしマリューは臆せず、矢継ぎ早に指示を出していった。

 

「構わないわ。アークエンジェルはこのまま、アマミキョを護って進む! 

 バリアント、ザフト機照準、撃てぇッ!!」

 

 猛然とカオスγに襲いかかる、アークエンジェルからの火線。

 しかしその全てをひょいひょいと躱しながら、カオスγは真っすぐに甲板のザクファントムを。そして、そのすぐ後方に位置するブリッジを狙っている。

 その瞬間、ミリアリアは気づいた。カオスγの内に秘められた、どす黒い悪意に。

 

 

 ──お前たちをアマミキョの目の前で墜とせば、サイ君はもっと傷つく。

 

 

 そんな禍々しい女の意思に、ディアッカですら戸惑ったのか。

 間断なく撃ち放たれていたはずのオルトロスの火線が、一瞬だけ途絶えた──

 その隙を見逃すアムルではなく、ファイヤーフライが一気に黒灰のザクファントムへと撃ち込まれていく。

 

《ぐ……

 う、ウワアァアアアァアッ!!!?》

 

 上体に誘導ミサイルをまとめて叩き込まれたザクファントム。機体右側に装着されたオルトロスが大爆発を起こす。

 その衝撃は、ブリッジすらも大きく縦に揺さぶった。

 

「ざ、ザクファントム大破! 戦闘不能!!」

 

 悲鳴と怒号が交錯するブリッジ。爆光に溢れるメインモニター。

 それでもミリアリアは必死で呼びかける。

 

「ディアッカ!? 

 ディアッカ、大丈夫!? 応答して!」

 

 激しいノイズがモニターで荒れ狂う中でも、上半身から勢いよく炎を噴き出す黒灰のザクファントムははっきり確認出来た。

 一瞬、ディアッカの生存は絶望的かと思われたが──

 すぐに切れ切れの通信が、ミリアリアの元に届いた。

 

《ぐ……な、何とか……俺は、大丈夫……

 でも、機体が……!》

 

 さすがヤキンの生き残りというべきか。ディアッカはまだ生きている。意識もある。

 即座にミリアリアは呼びかける──その声は若干掠れていた。

 

「すぐに収容します。もうちょっとだけ頑張って!」

《よく頑張った、じゃないんだな。ハハ……》

「全部終わるまでちゃんと生きてたら、言うわよ!」

 

 息も絶え絶えの声ではあったが、ミリアリアはほっと胸を撫でおろした──

 こんな時に「よく頑張った」は禁句であることを、彼女は知っていた。言おうものならその瞬間、相手は力尽きてしまいかねないから。

 

 しかしその安堵も、一瞬。

 直上からザクファントムを大破させただけに留まらず、さらに大きく反転しながらモビルアーマー形態に変形したカオスγは、一気にアークエンジェルの下方へと回り込む。

 まるでアークエンジェルを嘲笑うかのように、ファイアーフライをもう一撃叩き込んでいくカオスγ。

 

「左舷カタパルト、被弾!」「右側第三通路、通信不能です!」

「センサーの40%にダメージ発生。このままでは……!」

 

 たまりかねたメイリンが、マリューに叫んだ。

 

「艦長! アカツキはまだ出せないんですか!?」

「駄目よ」即座に答えるマリュー。「光の影響で、アカツキはメインエネルギー回路の30%以上を損傷している。その状態で、出撃を許可するわけにはいきません!」

「しかし……あぁっ!!?」

 

 再びアークエンジェルの前方に回り込み、ブリッジクルーと正面から対峙するカオスγ。

 モビルアーマー形態のままだが、正面から機体をみるとまるで笑っているようにすら感じられる。

 さらに、カオスγの背部センサー部分が不意に開き、内部の砲口が露出した。

 背部とはいえアーマー形態の今、それはカオスγの顔面にしか見えない。悪魔の顔面の中心にある、紅の一つ目にしか。

 あの砲口は──カオスガンダムと同様の、高出力ビーム砲。

 カオスガンダムの武装でも最大級の火力を誇る、カリドゥス改・複相ビーム砲だ。

 それが、激しく火を噴いたまま動けないザクファントムと、アークエンジェルブリッジに向けられる。

 

《まずい! 

 逃げろ、アークエンジェル!!》

《ミリィ、俺がここにいれば何とか数秒はもつ! その間に──》

 

 オープンになったままの回線から、サイとディアッカの絶叫が交錯した──その瞬間。

 

 

 白い閃光が、ミリアリアの眼前を覆う。

 叫ぶことすら出来ず、自分はこのまま死ぬのか――

 否、それでも目の前の状況から目を離すわけにはいかない。曲がりなりにももう一度この船に乗った、オペレーターとして。

 歯をぎりっと食いしばりながら、ミリアリアはカオスγを睨みつける。

 

 

 あんたもやっぱり、力が欲しかったのね。私と同じに。

 だからサイを傷つけて、自ら力を手にした。

 でもね、いい加減分かりなさい。力を持つなら、その代償を覚悟すべきだってことを──

 

 

 光の翼から放たれている薄紅の光。それすら消し飛ばすように広がっていく炎。

 だがその時、ザクファントムとブリッジを覆い隠すように、鋼の巨人が大きく立ちはだかった。

 

「……え?」

 

 誰もが死を覚悟する暇もなく、身を伏せる余裕さえなかった、そんな瞬間の出来事だった。

 その黒いフォルムは間違いなく──レイダーガンダム。

 その機体はビームの強烈な威力に耐えられず、ちぎれ飛んでいく布のように装甲が剥がされ、炎となって吹き飛んでいく。

 激しいノイズ混じりの通信ごしに、はっきり響いた声は。

 

 

《──サイ。レイラのこと、よろしく。

 彼女、フレイには絶対、必要な存在だから》

 

 

 そしてミリアリアは聞いた。耳ではなく、心で。

 炎に呑まれていく少年の、最期の呟きを。

 

 

 ──俺だって、トールだったんだよ。

 分かってほしかったな、ミリ……

 

 

 彼の言葉はやがてノイズにかき消され、強烈な爆光と共に消滅していく。

 レイダーに衝突したカリドゥスの光は、レイダーとその中の命と共に、光と熱となり虚空へと拡散していく。

 

 キラを籠絡するべく生み出され、トール・ケーニヒというキラの旧友としての生しか認められず、それ以外の名を許されなかったカーボンヒューマン。

 そんな彼の命が、レイダーと共にあっけなく消えていく。

 それでもミリアリアは、彼をトールと呼べなかった。彼女たちを守りながら、彼が消えたとはっきり分かっていても。

 かつての恋人たる自分が、ここでトールの名を叫ぶだけで、彼は満足出来たのかも知れない。そう分かっていても──

 どうしても、ミリアリアは最後まで、彼の名を呼べなかった。

 

 ──ごめんなさい。

 トールは、いないの。私にとっては、ずっと。

 

 ミリアリアはぶんっと一つ大きくかぶりを振りながら、モニターを確認する。

 自分でも驚いたが、涙の一つも出なかった。それどころではない状況というのもあるが──

 カオスγは未だ健在だ。宙に飛び散ったレイダーの残骸を嘲笑うように、さらにアークエンジェルへと攻撃を仕掛けようと、モビルスーツ形態に変化して構えている。

 

「畜生! 奴め、まだやる気か!」

「しつっこい……!」

 

 爆死の恐怖から一瞬で回復したのは、さすが歴戦のクルーたちと言うべきか。

 その怒号が響く中、マリューの指示が飛んだ。

 

「敵モビルスーツにフレア弾をぶち込んで! 

 次いでバリアント、照準。何としてもあのカオスγを振り切る!」

 

 マリューの声と共に、劫火がカオスγに向けて一気に集中した。

 それでも、戦艦の砲などモビルスーツには軽々と避けられ、またしても接近を許しかけていたが──

 そんな時突如回線から響いたものは、まだうら若い少女パイロットの怒声。

 

《やっと追いついたぁあぁ!!! 

 これ以上好き勝手させないわよ!! この船には、メイリンだって乗ってるんだから!!》

 

 直上からまるで体当たりでもするかのようにカオスγを突き飛ばしてきた、トリコロールのモビルスーツ──インパルスガンダム。

 カオスγとの戦闘で被弾したのか、スラスターの一部が破損し軽く火花が散っていた。それでもインパルスは全力でカオスγに食らいつき、機体ごとアークエンジェルから引き離していく。

 

「お姉ちゃん!!」

 

 メイリンの、歓喜とも心配ともとれる叫びが、ブリッジに響いた。

 

 

 

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