【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part6 決着――ルナマリアVSアムル

 

 

 最早、許すことは出来ない。

 アークエンジェル付近で失われた魂の痛み。

 自分がカオスγを逃がさなければ、自分が間に合っていれば、失われなかったはずの魂。

 それを痛いほどに感じながら――

 ルナマリアは燃え上がる激情に身を任せ、インパルスを駆っていた。

 思うままの言葉が、自然に唇から飛び出していく。相手に届くかどうかは関係ない。

 

「あんたはもう、戦場にいちゃいけない! 

 あんたはただ、サイを傷つけたいだけ。ナチュラルに傷つけられたから復讐したいだけの、殺人鬼よ!」

《だから何なの? ナチュラルが憎いのは当たり前でしょう! 

 サイ君はゴミのようなナチュラルの分際で、私の心を覗いた。

 私の心を非難した。私を拒絶した!》

 

 カオスγとインパルス、互いに発した閃光が、激しく宙で火花を散らす。

 まるで、互いの想いをぶつけ合うように。

 

「だから分かってもらう為に傷つけるの? 

 そういうあんたは、サイに自分を分かってもらう努力をしたの!? 

 相手を分かろうともしないで、自分を分かってくれだなんて、それこそ傲慢の極みよ!」

《何故ナチュラルの屑どもに、そんなことをする必要があるの? 

 ナチュラルだけじゃない。ナチュラルとつるむコーディネイターも、オーブの奴らも、母さんも、誰も彼も私を分かってくれないのに。

 分かってもらう為の努力なんて、徒労にすぎない!》

 

 斬りかかってきたカオスγのビームサーベルを盾で必死に防ぎながら、ルナマリアも反撃する。フォールディングレイザー・対装甲ナイフをがむしゃらにカオスγの左腕関節に抉りこみながら。

 

「おばさんのはずなのに、まるでガキね! 

 何もかも無駄だって、あんたが勝手に思い込んでるだけでしょ!?」

 

 言葉と共に、強引にルナマリアはナイフでカオスγの腕を引きちぎろうとする。

 しかし腕を貫いていたはずのナイフはカオスγの反対側の腕で強烈に弾かれ、虚空に舞った。

 

「ちぃっ……

 うっ!!?」

 

 ただの金属片と化して闇へ消えていくナイフを、一瞬目で追ってしまったルナマリア。

 その隙を逃さず、カオスγの腕は強引にインパルスの頭部を押さえつけてきた。

 そんな彼女をせせら嗤うかのような、アムルの言葉。完全に勝ち誇り、狂った高揚感に満ちた女の声。

 

《貴方も、気をつけた方がいいわよ。

 サイ君を好きになったら、誰もが死んでいくの。ネネも、ハマーさんも、サキも、連合の兵士どもも……

 みんな、誰もがね!》

「ふざけないでよ。半分以上、あんたが殺したようなもんじゃないの!?」

《そして貴方も今、死んでいく。

 アマミキョもフレイもザフトもオーブも連合もみんな、死んでいく。

 みんな、宇宙のゴミになって死んでいくの。

 だから私を恨まないでね? ぜぇんぶ、サイ君が無能だったせいだもの。

 無能のゴミを好きになった貴方が悪い。あの子が私を受け入れなかったのが悪いのよ》

「ぐぅっ……!」

 

 相手の通信に響くほど歯ぎしりしながら、強烈な感情がルナマリアの中で荒れ狂う。

 どす黒くも、ひどく熱い情念をもった何かが。それは、自らの誇りを傷つけられた痛みによるものか。

 こいつだけは。こいつだけは、絶対に!! 

 

 頭部をギリギリと潰されかけながら──

 反射的にルナマリアは、インパルスの両脚部を胴体から切り離した。シンから彼女に交替してからはいまいち使いこなせていなかった、インパルスの分離機構を使って。

 同時に彼女は、切り離した脚部──レッグフライヤーを、自らビームライフルで撃った。

 

「たわ言もいい加減にしろ! 私もナオトもヴィーノもみんな、サイが好きよ──

 でも、あんたが思ってるような好きとは違う!」

 

 レッグフライヤー分離による衝撃で、インパルスに取り付いていたカオスγが強引に引き剥がされる。

 

「サイが私たちを好きになってくれたから、私たちもサイが好きになった、それだけ! 

 人って、そういうものでしょ!?」

 

 レッグフライヤー狙撃による爆発はカオスγを巻き込み、2基ある機動兵装ポッドのうち1つが大破し、閃光となって宙へ散っていく。

 両肩で大きく息をしながら、炎に呑まれるカオスγを睨みつけるルナマリア。

 自分でも分かる。今、私の両目は侮蔑と怒りに満ち溢れている。

 

「やっと分かった──

 要はアンタ、サイをレイプしたいってことよね。

 女でありながら、男を犯りたいってわけだ。なぁるほど?」

《……!?》

 

 炎の中であっても、相手が思わず息を飲むのが、開かれたままの回線ごしに分かる。

 あいつ、まだ生きてる。コクピット付近まで既に炎が回りかけてるだろうに。

 

《小娘が、私の何を分かるっていうの……!!》

「ごめんなさいね。さっきおばさんとかガキとか言ったこと、訂正する。

 だって失礼だもの。おばさんとガキに!」

 

 下半身を失った状態でありながら、それでもインパルスは両腕にヴァジュラビームサーベルを構えた。同時に背部に負ったフォースシルエットを、躊躇なく射出する。

 カオスγに激突し、レッグフライヤー同様大爆発を起こすフォースシルエット。

 しかし炎に巻かれながら、なおもカオスγはビームクローでインパルスを強引に薙ぎ払った。炎の中から飛んできた光の刃──

 寸前で躱しながらもその一閃は、インパルスの左腕をもぎ取り、さらにはコクピット付近の装甲までも吹き飛ばしていく。

 

「!!」

《いい加減になさい。

 私は貴方やサイ君とは違う、選ばれた戦士なの。

 母さんもあの男もサイ君も、誰も認めてはくれなかったけど、それでも自分の力で、私だけの力でここまで来た。

 コーディネイターは一人でも、決して淋しさなど感じない。誰に認められなくても生きていける。

 それは私がコーディネイター、進化の証だからよ!》

 

 宇宙空間へと露出してしまったコクピット。

 そこからルナマリアを覗き込むように、カオスγのアーマー形態・昆虫にも似た頭部がぬうっと現れる。

 彼女を嗤うように、大きくひび割れ火炎を噴き出す紅の頭部が迫ってくる。

 ここで負けちゃいけない。魂だけは、絶対に──

 ルナマリアは一切目を逸らすことなく、カオスγを、その中に潜むパイロットの悪意を、睨みつけた。

 

「私だって、淋しさぐらい感じる。

 コーディネイター全部を、あんたと一緒にするな!」

 

 その言葉の全てを、ルナマリアごと消そうとするように──

 ビームクローが、彼女に向けて真っすぐに振り上げられる。

 

《それはお前が、出来損ないだからだ。

 男に媚びねば生きていけない、出来損ないの赤もどきが!》

 

 と同時に、まだ生きていたモニターがアラートを力なく響かせた。背後から、何かに狙われている。

 ルナマリアにはすぐに分かった。1基残ったカオスγの機動兵装ポッドに、背後に回り込まれている──

 咄嗟に彼女は、インパルスに残された最後の分離機構を作動させた。

 インパルスの上半身の殆どを構成するチェストフライヤーを、コクピットから強引に引き剥がす。チェストフライヤーそのものを、ポッドへのミサイルがわりにするように。

 ──コアスプレンダーだけになっても、武装はある。まだ戦える。

 

「知るか! 

 どんなに取り繕おうが、あんたの理屈は全部、強姦殺人犯のそれよ!!」

《口を塞げ、この落ちこぼれの売女!》

 

 二人の女の激しい意思が、空中で衝突すると同時に──

 機動兵装ポッドから放たれた火線が、チェストフライヤーを直撃した。ほぼゼロ距離に近い攻撃となった為か、ポッドごと爆炎に呑まれていくチェストフライヤー。

 しかし──

 ルナマリアはコクピットごとコアスプレンダーでの離脱を試みたものの、爆炎はポッドのみならず、彼女自身をもコクピットから吹き飛ばしていく。

 

「──!!?」

 

 閃光の中、あっけなくちぎれていくシートベルト。

 声すら上げられず、今の今まで座っていたシートから宇宙空間へ放り出されてしまうルナマリア。

 そんな無防備になった彼女すらも、カオスγは狙っていた。ルナマリアの身体のみならず、魂さえ引き裂かんとするように、ビームクローが大きく振り上げられる。

 あっけなく爆散するコアスプレンダー。飛び散った細かな金属片が、いくつも身体に打ちつけられていく。

 朦朧とする意識の中で、ルナマリアは思った。

 

 

 ──あぁ。

 結局私、こいつにやられるんだ。

 

 

 焼けるような熱を間近に感じ、死がすぐそばに迫る。

 だが、彼女がその事実を実感したその時──

 ありえない光景が、眼前に拡がった。

 

 

 ──やめてください、アムルさん。

 ──俺はまだ、貴方を好きでいたいんだ。

 

 

 そんな言葉と共に、カオスγとルナマリアの間に現れたのは、

 黒髪の、いかにも気弱そうで目立たない少年。

 ビームクローからルナマリアを守るように、両腕を広げて立ちはだかっている。

 

 

 ──彼は、確か……サイの友達。カズイ・バスカーク。

 ──そうか。彼が守っているのは、私じゃない。

 ──これ以上、彼女に誰かを傷つけさせない為に、彼は……

 

 

 その時、ルナマリアは確かに目撃した。

 振り上げられたカオスγのビームクローが、一瞬だけ止まる光景を。

 地上にいるはずのカズイの意思がここまで届き、アムルを止めたのか。

 それともカズイの幻は、アムルにほんのわずかに残された最後の良心、その象徴なのか。それは誰にも分からない。

 ただルナマリアに分かったのは、この奇跡がなければ、自分の身体は次の一瞬で宇宙の塵となって消し飛んでいたということだけだ。

 

 

 その間隙を狙ったかのように響いたものは――

 ルナマリアが誰より会いたかった、少年の絶叫。

 

 

「ルナに……

 ルナに、手を出すなぁああぁああああぁあぁああっ!!!」

 

 

 劫火に巻かれ続けてもなお、こちらを狙いすましていたカオスγ。その機体が、直上から見事に一刀両断され、真っ二つに裂けていく。

 見間違えるはずもない。その光は、ルナマリアも見慣れた、アロンダイト・ビームソードの紅の閃光だった。

 

 

 ──そう。貴方もやっぱり、男に頼るのね。

 ──他人に頼らねば生きていけない、サイ君と同じに。

 ──ここに至るまで、情けない……女……!! 

 

 

 やがてカオスγの機体内側から炎が溢れ、中に満ち満ちた思念の塊と共に大きく膨張したかと思うと、光となって爆発していく。

 アムル・ホウナの最期の呻きが、ルナマリアの脳にも直接響いた。

 

「違う──

 あんたは、人に頼れなかったから。

 ()()()()()()()()()()()から、こうなった、だけ……」

 

 息も絶え絶えの彼女の言葉。

 それすら吹き飛ばそうと、カオスγの爆風は最期の力で彼女の身体をも巻き込み、虚空の彼方へと吹き飛ばしていく。

 

「ルナ! 

 ルナぁああぁあああぁあああぁあああぁあっ!!!」

 

 意識が途絶える刹那、聞こえたものは、懐かしい少年の絶叫。

 見えたものは、トリコロールに彩られた鋼の巨人が、紅の翼を広げて右腕部を力いっぱい伸ばし、自分を掴もうとしている光景。

 

 

 あぁ。

 シンがこんな風に私を呼んでくれたのって──

 ひょっとして、初めてじゃないかな。

 

 

 だが、巨人の手がルナマリアに届くより早く、身体は冷たい宇宙へと弾き飛ばされていく。まるで、アムルの執念が、彼女を自分もろとも奈落に引きずり落とそうとするように。

 そう感じた瞬間、ルナマリアの意識は完全に途切れ、闇の底へ沈んでいった。

 

 

 

 

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