【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part8 連合の最終手段

 

 

 シンの手が、ようやくルナマリアに届いた頃──

 アスランは未だ、ストライクフリーダムの攻撃を間一髪で躱しながら、セイレーンとミドルリング付近での戦闘を続けていた。

 キラの攻撃以外にも、雲霞の如く現れる黒ダガーLに徹底的に行く手を阻まれ、さすがのインフィニットジャスティスも容易に進めない。

 

「あくまで心を閉じるつもりか……キラ!!」

 

 膠着状態の続く戦闘に業を煮やし、思わず呟くアスラン。

 彼のSEEDも既に発動してはいたが、キラの攻撃からティーダZや味方機を守るのが手一杯で、ストライクフリーダムに近づくことすらままならない。

 そんなアスランの援護を続けていたイザークからも、叫びにも似た通信が入ってくる。

 

《アスラン! ディアッカからのシグナルが途絶えた!!》

「何!? アークエンジェルは?」

《あの船はまだもっているが、もう後方支援は期待出来んぞ──

 いい加減気合を入れんか、さてはまた迷っているんじゃなかろうな貴様!?》

「気合で何とかなるなら、苦労はしない!」

《たわ言を! 

 アカデミー時代の方が冴えわたっていたぞ、貴様の動きは!》

 

 励ましとも罵倒とも取れる声音で、アスランに叫ぶイザーク。

 そういう本人の機体──純白のグフイグナイテッドも数か所が被弾し、左脚部は膝から先がとうに砕け散っていた。

 しかも、ストライクフリーダムからの光弾が雨あられと飛んでくる中、黒ダガーLどもの、自らの命を厭わぬような体当たりが縦横無尽に襲いかかってくる──

 そんな地獄の如き状況下でありながら、二人は驚異的なまでの粘りを見せていると言えた。

 同じジュール隊のシホ・ハーネンフースも、ほんの数十秒前まではザクウォーリアで二人の支援に入っていたが、キラの攻撃で武装を剥がれ、やむなく後退してしまっている。

 そんな二人のコクピットに、ほぼ同時に新たなアラートが鳴り響いた。

 

「こいつは──!?」

 

 モニターを確認して、アスランは一瞬息を飲んだ。

 敵性機ながら、機体名まではっきり分かる。間違いなくザフトの機体──

 イザーク機と同じ、グフ・イグナイテッド。全身が黒に塗装され、辺縁部分は紫に縁どられた、いかにも歴戦の志士を思わせる機体。

 それがひらりひらりと光弾を躱しながら、真っすぐにこちらに向けてビームソードを振りかぶってくる。

 キラたちの攻撃を避けるだけでも、精一杯だというのに──

 流石のアスランもここに至って、額から玉のような汗が噴き出すのを自覚していた。

 咄嗟にデブリを盾にしてビームソードと光弾を同時に防ぎながらも、酷い口の渇きを感じる。鉄の臭いも。

 ここまで長時間の激戦に耐え続けているのは、ヤキン以来だろうか。

 いい加減にしろとばかりに、ビームブーメランを抜き放ちかけたその瞬間──

 

《デュランダル派か! 

 邪魔をするな、こんなところでェッ!!》

 

 血気に逸ったイザークの怒声が響くと共に、純白のグフが即座にアスランを庇うが如く前に出た。

 

「イザーク!?」

 

 アスランの声が聞こえているのかいないのか。イザークはそのまま機体を反転させ、閃光の嵐が吹きすさぶ中を一気に黒のグフへと突っ込んでいった。

 

《アスラン! こいつは、ヨダカ・ヤナセ──

 旧デュランダル派の先鋒! どこまでもティーダとアマミキョを追いかけ続けていた男だ!!》

 

 中空で激突する、黒と白のグフイグナイテッド。

 同じビームソード・テンペストが、黒と白の間で綺麗な十字を描いた。

 

「何だって?」

 

 一瞬呆然とするアスランに、イザークはなおも叫ぶ。

 

《南チュウザンの謀略に引っかかってウーチバラを襲い、以降も執拗にアマミキョとティーダを追い続けた! 

 こ奴らの所業は、結果的に神経兵器の完成を早めただけだ。この男だけは、俺が仕留めさせてもらう!!》

 

 アスランが止める間もなく、黒と白のグフ2機は光の向こうへと離れていく。

 互いのビームソードが激しく交差し、通信にまで凄絶なノイズが走っていた。

 

《貴様はさっさと、キラ・ヤマトを止めてこい! 

 それがあいつをここまで甘やかした、貴様の……》

 

 それ以降は一層雑音が酷くなり、一切聞こえなくなってしまう。

 だが、アスランにも分かった──

 ヨダカという男に対して激烈な敵意を燃やす、イザークの怒りが。

 同時に、どこまでもティーダとアマミキョに食らいつかんとする、ヨダカの執念をも。

 

 

 

 

 

 

 焼けた鉄の臭いが、鼻腔をくすぐる。

 暖かいというより、熱い風をふと頬に感じ──

 ルナマリアはようやく目を覚ました。

 

「……う……

 わ、私……?」

「ルナ! 

 ルナ、良かった! 

 みんな心配してたんだぞ!?」

 

 ろくに動かない瞼を何とか数回瞬かせてみると、最初に見えたものは、ヴィーノの泣き顔。

 宙に浮く涙。

 そして、派手に染まったその前髪。

 慎重に頭を動かして周囲を確かめてみると、そこは見慣れたミネルバJrのハンガーだった。

 助かったのか、自分は。あの状況から。

 信じられない想いで思わず身を起こそうとしたが、それだけで全身に激痛が走った。

 

「うっ……あ、あぁあ、あぁ!!」

「おい、いきなり動いちゃ駄目だって! 腕も足も、肋骨まで折れてんだから!! 

 さっき医療班呼んだから、おとなしくしてなよ」

 

 見ると、自分の身体はハンガー隅の仮設ベッドに固定されていた。

 ぼろぼろに裂けたパイロットスーツの上から直接、包帯が巻かれている。骨折したと思われる部分はしっかりギプスが嵌っている。包帯もガーゼも血に染まってはいたが、その処置は丁寧だった。

 口元には呼吸器があてがわれている。喉から振り絞るような声で、彼女はやっと呟いた。

 

「私、死んだと……思ってたのに」

「助けてくれたんだ。デスティニーが」

「……シン……が?」

 

 ルナマリアは思い出す。

 意識を失う直前、確かに聞いた。声を限りに自分を呼ぶ、シンの叫びを。

 確かに見た。自分に向かって腕を伸ばしてくる、デスティニーを。

 じゃあ……

 シンはデスティニーで出撃したのか。営倉を飛び出して。

 

「シンは!? 

 シンは今、どこに……い、痛っ!」

 

 思わずルナマリアはヴィーノの腕を掴もうとするが、全身の痛みがそれをさせない。今は指すらも、ろくに動かない。

 そんな彼女に、ヴィーノは諦めたように首を横に振った。

 

「ルナをここに収容して……

 呼吸と心拍が戻ったのを確認したらすぐに、また出撃していった」

「え?」

「キラ・ヤマトを。フレイ・アルスターを……

 みんなを助けるって言ってさ。

 もし自分がミネルバJrやアマミキョにもう一度銃口を向けたなら、その時は遠慮なく撃ってくれて構わないって……そう言って。

 止める暇もなかった」

「……そんな」

 

 やっと、シンが戻ってきてくれたのに。

 やっと、ちゃんと、一緒にいられると思ったのに。

 どうして、こうもすぐに──

 

 茫然と目を開いたままのルナマリア。

 想いを馳せている間にも、駆けつけてきた看護師たちが彼女の身体を抱え、手早くストレッチャーで運んでいく。

 

「大丈夫だって! 

 シンは戻ってくる。ルナはやれることを全部やったんだから!!」

 

 手を振りながら彼女を見送るヴィーノの声。

 遠ざかっていくその声を聞きながら、ルナマリアはじっと目を瞑った。

 

 ──確かに感じる。

 ここにいなくても、シンの温もりを、身体のあちこちに。

 デスティニーのコクピットで私の名前を呼びながら、必死に手当てしてくれていたんだ。

 

 血のにじんだ包帯が何重にも巻かれた、右太もも。

 その包帯にそっと触れながら──

 ルナマリアはそっと、繰り返していた。シンに告げた言葉を、もう一度。

 

「分かってくれたんだね。シン……

 貴方がどこへ行ったとしても──

 私はちゃんと、そばにいるってこと」

 

 

 

 

 

 

 ウーチバラ付近で熾烈な攻防が展開されている頃、オーブ首都・オロファト──

 内閣府官邸管制室では。

 宇宙での戦況と、カグヤ島近辺の状況を同時にモニターで見守りながら、カガリがインカムごしに怒鳴っていた。

 

「本気なのか、連合は!? 

 この期に及んで、ウーチバラへ核攻撃などと!!」

《セレブレイト・ウェイヴの第三射の分析結果によるものです。

 この兵器は人間の脳と神経に著しい影響を及ぼすだけでなく、従来のEMP兵器と同じく電子機器まで停止させる。のみならず、今回の第三射はそれまでとは違い、およそ40分以上もの照射が続いている。

 このまま第四射、第五射と続けば、一撃で地球圏全体を巻き込む超大型兵器として進化する危険性すらあります》

「その前に、人類の叡智の炎を使うというわけか……

 キラや、サイたちまで巻き込んで。クソっ!!」

 

 思わず怒鳴りながら、回線を切断せんばかりにコンソールを叩き、通話を切るカガリ。

 だがすぐに、秘匿回線経由で別の着信音が鳴り響く。

 唇を噛みしめながら通話ボタンを押すと、ユウナの粘着質な声が聞こえてきた。

 

《話は聞いたよ。サイ君たちの作戦が無理なら、連合の核攻撃に頼るしかなさそうだね……

 地下経由の情報だと、スエズ、カリフォルニア基地から既に数日前には特務部隊が出撃しているようだ。例の、ピースメイカー隊みたいなヤツがね》

「ヤキンで核攻撃をやった、あいつらか……今度もまた!! 

 ウーチバラには住民や、アマミキョや山神隊もいるんだぞ! それでも!?」

《連合の分析だと、ウーチバラはあのジェネシスほど防御面は固くないって話なんだろう? 

 PS装甲やミラージュコロイドでガチガチに固められているわけじゃない。防御が施されているとしても港区画のみという話もある。

 ならば十分、核攻撃は有効な手段だ》

「そういう問題では……!」

《カガリ、現実を見るんだ。

 物理的破壊を伴わないから分かりにくいかも知れないが、現時点で想定される被害規模を考えれば、セレブレイト・ウェイヴはレクイエムやジェネシスより、格段に危険な兵器なんだよ。

 ジェネシスがそれほど長時間のチャージを必要とせず、地球全土や人類全体を巻き込んで連射可能になったようなものだ。それも、ラクスママの意思一つで。

 違うのは、全身が弾け飛ぶか、脳神経が焼き切れるか──それだけ》

「く……!!」

 

 デスクに置いた拳を、血が出るほどに握りしめるカガリ。

 そんな通話中にも、オペレータからの報告は止まらない。

 

「代表! 連合のヒューズ大使から連絡です。

 残り3時間以内にセレブレイト・ウェイヴの完全停止が見込めないならば、連合は熱核兵器によるウーチバラへの攻撃を遂行すると──!」

「……!」

 

 どうする。

 今なら、最前線にいるサイやアスラン、ナオトたちを避難させることも可能だ。

 だがキラは恐らく納得せず、最後まで戦おうとするだろう。フレイとラクスを守って──

 そうなればキラやフレイは勿論、ラクスまでもが核攻撃の犠牲となるのは避けられない。

 

 3年前、連合もザフトも一切の躊躇なく互いが核とジェネシスを撃ち合った──

 あの地獄の日を思えば、数時間とはいえ避難の猶予を考慮した分、今の連合はまだ温情があると考えるべきかも知れない。

 しかしカガリは、それでも怒りを抑えきれない──

 

 最前線には連合の山神隊だっているんだぞ。いざとなれば身内ごと切り捨てる体質は、何も変わっていないのか。

 今はキサカもいない。あの負傷が何とか軽度で済んだのは不幸中の幸いだったが、もう彼には頼れない。

 落ち着け。落ち着くんだ。いい加減覚えろ──

 怒りを、冷静な思考に変換する術を。

 

 そんな彼女に、やたら軽薄な口調で通話口から語りかけるユウナ。

 

《しっかりしなよ、カガリン。こいつは僕の一大事でもあるんだ。

 僕の将来の婿ちゃんたるサイ君に、熱と光になって消えられちゃ困るからねぇ~》

 

 ユウナ特有の粘ついた、いかにも人をイライラさせるような言葉。

 だが今その言葉を聞いたことで、逆にカガリは自分の動揺が鎮まっていくのを感じた。

 彼女を落ち着かせる為に、ユウナは敢えてこういう言葉遣いをしたのかも知れない。そう考えるだけの余裕は、今のカガリにもまだ十分残っていた。

 そんなユウナに、カガリもまた軽口で答える。

 自分でもだいぶ不器用なジョークだと思ったが、それでも自分を何とか落ち着かせる為に。

 

「お前、まだその話を……

 言っておくが、今のサイは多分お前を嫌うと思うぞ?」

《えぇっ!? な、何故!?》

「連合に囚われていた時に、色々あってな。お前みたいなヤツが軽くトラウマに」

《ちょ、ちょ、カガリ、そいつは初耳だ! もしや例の収容所のことかい? 

 まさか、連合のヤツら……僕のサイ君に何を……!!》

「今はそれどころじゃない。あいつが無事帰ってきたら直接本人に聞いてみろ」

《カガリ、お願いだ。その話もっと詳しく……》

「私はやるべきことがある、切るぞ」

《えぇー!!?》

 

 世にも情けない声をバックにため息をつきながら、通話を切る。

 そしてすぐにカガリは別回線を開き、着々と指示を下した。

 

「大使に繋いでくれ。核攻撃をみすみす容認する前に、何としても時間を稼ぐ。

 今、最前線にいる者たちを擁する国としてな!」

 

 

 

 

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