【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
光の翼が拡がり続ける宙域の片隅で、白と黒のグフ・イグナイテッドは互いに互いを撃ち合いながら、間合いを詰めつつあった。
「今更何をしようというのだ、デュランダル派は!
ディスティニープランは潰えた、元議長の命と共に!!
味方さえも巻き込みネオジェネシスを撃ち放った元議長を、未だ信じるというか、貴様らは!!」
怒号と共にスレイヤーウィップを放ち、相手をけん制するイザーク機。
しかしヨダカ機は巧みに躱し、反転し後退しながらなおもビームガンを撃ち続ける。
イザークのコクピットにも飛び込んでくる、ヨダカの声。
《たわ言を。ディスティニープランは、混迷するプラントにおける光だ!
プラントの出生率が、今どれだけ低下していると思っている!? 科学の進歩ではどうにもならぬレベルまで来ているのだぞ!》
イザーク機が再び放ったスレイヤーウィップを強引にビームソードで跳ね飛ばし、一気に間合いを詰めていく黒のグフ。
《今のプラントは、眼前に迫る現実から目を背け、ただ日々を生き抜くだけで手いっぱいだ。
自分たちを生み出したナチュラルに対し相変わらず憎悪の目を向け、ナチュラルの血を引く子どもすら拒絶し、宇宙の片隅に引きこもる!
それが今の我々の姿なのだ、エザリアのご子息どの!》
挑発的な言葉に、イザークの頭に一気に血が昇った。
「貴様──言ったはずだぞ。
その言葉、もう一度言ったら!!」
《決闘か。ちょうど良いではないか──
私も貴様のような半端ものは好きではないのでな、イザーク・ジュール!!》
「は……半端ものだと!?」
《貴様の母上は魅力的だったが、パトリック共々、あまりにも現実が見えていなかった。
プラントに引きこもりナチュラルを憎み心を閉ざす、典型的なタカ派だったよ。
しかし貴様はどうだ? 母親の意思を継ぐでもなく、ナチュラルに与し地上に降りるわけでもなく!
ただただ日々の脅威からプラントを守る程度が精一杯の、小物よ!》
「ぐ……
プラント防衛までも小馬鹿にするか、貴様ァ!!」
憤怒に身を震わせるイザークを嘲笑うように、ヨダカ機のビームライフルの閃光が白の装甲を掠めていく。
《それだけではいかんのだよ、ご子息どの。
目を見開いてよく見てみるがいい、滅びしかない未来の運命を。
貴様らが命がけで守るプラントは、遠くない未来に自然に消えるさだめと!》
「減らず口を!」
ビームシールドでどうにか閃光の刃を防ぎながらも、次第にヨダカに圧されていくイザーク機。
《何故認められぬ!? コーディネイターは滅びを待つだけの種族だと!
我々は進化を果たした新人類などではなく、突然変異で生まれた偶発的な生物に過ぎぬと──!!
地上に帰り、ナチュラルとのハーフ、そしてクォーターを生み、育てていくことこそが、コーディネイターが唯一、自らの血を未来に残す術なのだ!》
「そいつはクライン派の主張だ!
それとディスティニープランと、何の関係がある!?」
《ディスティニープランは人が生を受けた時より、未来を決めるものだ。
自分のさだめがあらかじめ分かってさえいれば、抗おうとして無為な争いを続ける必要はなくなる。
引き裂かれて終わる愛も、叶うことなく惨たらしく終わる夢も、一切なくなる!
それはプラントも同じよ!》
「何だと……?」
《今我々が動かしている新しいディスティニープランは、元議長案をより発展させたものだ。
コーディネイターがよりよき子を産む為に、プランにより優秀なナチュラルを選び出し、ナチュラルへの穏やかな回帰を目指す──
それこそが、プラントの民が生きのびる唯一の道だ。
それ故、プランそのものを否定するクライン派は邪魔なのだよ!
当然、全てを無に返そうとする忌まわしき神経兵器もなァ!!》
ヨダカの言葉に、イザークは奥歯を噛みしめる。
コーディネイターの未来は、ナチュラルへと回帰するほかにはない──
それは確かに、クライン派がかつて提唱していた理論と同じだ。だが、ナチュラルへの不信が未だ根強いプラントにおいては、現実味の薄い理想論でしかない。
また、出生率が極端にまで低下した現在においてさえ、優秀な子を望むコーディネイターの夫婦は後を絶たない。
ヨダカの言うディスティニープランは、そのクライン派の理論をさらに推し進め、プランを利用して職業適性だけでなく、未来の連れ合いすらも決定しようというものなのであろう。恐らく、コーディネイターの夫婦が希望するレベルの、優秀な子供を産む為に。
それは一見、魅力的な案のように思える。デュランダルが当初提唱したディスティニープランと全く同じに。
お前はここまでしか出来ない。お前はここで終わっていい。お前はこの相手以外とは結ばれない――
最初からそう決められてしまっていれば、確かに人は無駄な争いも、無駄な努力もせずに済むのだろう。異性を巡って争い合うことも、愛する者を奪われ無力に打ちひしがれることすらなくなる。
そのように人の運命を遺伝子で決めてしまうのは暴論だとするのが、ラクス・クラインの主張だった。しかしそこまでしなければ、最早プラントに未来はない。
それは間違いなく、イザークらプラントの人民に差し迫った、揺るぎない現実だった。
だがイザークの中で、何かが激しく反駁する。
それは──
そんな、子供のわがままにも似た、直感。
「言いたいことはそれだけか!?
ザフトの皮を被り、容赦なく民間人を巻き込んだテロリストが!!」
その一声と共に、イザーク機はビームソードを振り翳し、横ざまに薙ぎ払った。
気合を存分に乗せたこの反撃に、ヨダカ機も一瞬戸惑いを見せる。
「貴様やデュランダルの言葉は、確かに魅力的な提案に聞こえる!
だが、俺はもう騙されはせん! デュランダルは口では心地よい言葉をほざいておきながら、その手でネオジェネシスを撃った大量虐殺者でもある!!
それは貴様も同じだ。とうに調べはついているぞ……
デュランダルの指示でウーチバラに忍び込み、罪もない住民を殺し、それだけでは飽き足らずにティーダとアマミキョを追い続け、どれだけの犠牲を出したと思っている!」
《まさか、貴様にそれを言われるとはな。
かつて、女子供含めた民間人を乗せた脱出シャトルを撃ち裁判沙汰となったのは、どこの誰だい?
あの時貴様を救ったのは、デュランダル議長だったな。その恩を……っ!》
「彼には救われたと思っている。恩を感じ、己と母の罪を償う為、全うに議員職も務めていたつもりだ!
だが──味方の犠牲すら厭わず全てを破壊せんとするデュランダルの姿勢は、パトリックや連合の屑どもと何ら変わらん!」
《それだけプラントが追い詰められていることが、何故分からぬ!?》
「貴様が言うから、分かりたくならんのだ!
何故貴様に、ナオト・シライシがついてこなかったか。
何故貴様に、あの子供が決して降服しようとしなかったか。
その理由を考えたことがあるか!?」
《!?》
イザーク機の閃光の刃を、力まかせにビームシールドで防ぐヨダカ機。
暴発する力が、両者の間で激しい火花を散らす。
「ディアッカやサイから、全て聞いている。
貴様は地上に降りてからも執拗にアマミキョとティーダを追い続け、ハーフムーンでは村どころか大陸を吹き飛ばしかけた。
しまいには民間人の女をスパイに仕立てあげ、アマミキョを沈めた!
挙句の果てにその女さえ、精神を操作してまで戦場に投げ込んで──!
そこまでしてあの連中を追いながら、貴様の行為は全てアマクサ組の、南チュウザンの掌の上だった。
貴様はあまりに多くの犠牲を出しながら何も成しえなかったどころか、セレブレイト・ウェイヴの主幹システム、その完成に一役買っていたというわけだ!!」
《ほざくな、小僧!
あの神経兵器の危険性を常々主張していたのは我々だ。
それを貴様らが拒み、積極的に討って出なかったからこその、今の事態であろう!!》
ヨダカ機のビームソードが再び強引に薙ぎ払われる──
激しい衝撃がコクピットを襲う。同時に鳴り響くアラート。
畜生。左脚部だけでなく、右もやられたか。こうなっては、バランスを保つだけでも手一杯だが──
それでもイザークは諦めない。
「どこまでも卑劣な物言いを!
そんな貴様の汚さを感じたからこそ、ナオトは貴様に屈服しなかったんだろうがァ!!」
ビームソードを保持したままの右拳で、思いきりヨダカ機を殴りつけるイザーク機。
その衝撃で、互いが大きく左右へと吹き飛ばされていく。
しかしヨダカ機はなおもビームソードを携えたまま、ビームガンでイザーク機に向けて容赦なく火線を叩き込む。
咄嗟にシールドで防ごうとするイザーク機だったが、雨あられと降る光条は次々に白の装甲を掠め、脚部どころか腰のスカート部、肩部のツノまでも砕け散っていく。
《ハーフコーディネイターは、あの子供は、プラントの希望でもあるんだ。
一人でも、そんな子供を保護するのが、我々の──》
ノイズの混じり始めるヨダカの言葉。
だが、こちらに一斉に向けられる劫火の合間を縫って、イザークはスレイヤーウィップを撃ち放つ。
光の間を蛇の如くうねりながら、紅に染まった鞭は見事にヨダカ機の右脚部を絡めとった。
「そんな子供の居場所を吹き飛ばし続けたのは、どこのどいつだ、オラァアアァアアア!!!」
言葉と共に、ウィップを通して高周波パルスがヨダカ機に襲いかかる。
オープン状態の回線から、酷い雑音と共に響きわたる絶叫。
《ぐ……ぐああぁあああぁああぁあぁあっ!!?
貴様も──いい加減、知るべきだ──
物事を成すには、泥を啜る必要もあると──!!》
ヨダカの叫びが轟く中、白のグフはウィップの反動を利用し、一気にヨダカ機の懐へと飛び込んでいく。自ら炎に巻かれるのも構わずに。
そして全く無駄のない動作で、イザーク機は黒のグフの頭部と胸部のちょうど中央──
人間でいえば首元にあたる部分を、ビームソードで一気にぶち抜いた。
「諦めろ。
どんなに弁解しようと、ナオト・シライシは貴様の子供になりはしない!!」
イザークの怒号と同時に──
黒のグフイグナイテッドが、閃光に包まれる。そのパイロットたる、ヨダカ・ヤナセの命と共に。
その刹那、イザークは見た。ビームソードの焦熱に貫かれ、一瞬で黒の肉塊と化して蒸発していくヨダカの肉体を。
血の満ちた壺となって吹き飛ばされていくヘルメットを。
アマミキョとティーダを、憎悪と一種の保護欲をもって追い続けた男の生涯が、あっけなく潰えた光景を。
それも光の翼が齎した影響だったのか。イザークはヨダカの死を前に、一瞬だけ我を忘れていた──その場からの離脱さえも。
今際のきわのヨダカのあがきか。黒のグフイグナイテッドの爆発は、最早上半身しか残っていないイザーク機さえも巻き込んでいく。
それは、死にゆく者が生きる者の魂を連れゆこうとする呪いだったのか。
慌ててスラスターを全開にしようとしたイザークだったが、最早機体は反応しなかった。
──熱い。ひたすらに熱い。
この熱さは3年前、大気圏を落下した時以上かも知れない。
こんなことなら、せめてカスタム機だけでも、フェイズシフトをつけるようにと進言しておけば良かったか。
──あぁ。
結局俺は、アスランにもキラ・ヤマトにも勝てずに……プラントを守れずに……
母、上……
しかし、ヨダカの遺した炎熱に呑み込まれ、イザーク自身さえも意識を失いかけたその時。
軽い衝撃と共に、通信から、予想もしなかった声が響いた。
《おい、生きてるかイザーク!?
せっかくカッコよく強敵を倒しておいて、その最後っ屁で死にましたとか、後輩たちのいい笑いモンだぜ?》
誰だ。ディアッカか?
一瞬そう思ったが、声ですぐに違うと気づいた。
ひどく掠れた目で、画面のほぼ半分がブラックアウトしているモニターを確認してみると――
イザーク機と同じグフイグナイテッドの単眼が、僅かに見えた。
但しその装甲は、黒でも白でもない。目の覚めるようなオレンジだ。
コクピット内を満たしていた熱は、いつのまにか冷めつつある。恐らく、このオレンジのグフが爆風からイザーク機を強引に離脱させたのだろう。
《随分久しぶりだな──と言うべきか?
俺のこと、まさか忘れたとは言わないよな?》
勿論、覚えている。忘れるはずもない。
元クルーゼ隊の先輩格──ミゲル・アイマン。そして、今ではアマクサ組の一員でもある。
アマミキョ調査の際、自分を欺き、ディアッカ共々捕虜に仕立て上げた輩。
つまりは──ヨダカ同様、今のイザークの敵。
悔悟の呻きが、喉から飛び出した。
「貴様──恥知らずにも、未だミゲル・アイマンを名乗ろうというか?
貴様らの所業は……」
しかしそんなイザークの言葉にも、相手はあくまで穏やかだった。
《分かってるって。お前がもう、俺に惑わされるはずがないってことも。
ただこの戦いで、残念ながら各陣営に犠牲者が多く出てる。
俺は、戦後を考えたいだけさ。どんな激戦だったとしても、誰かが考えなきゃならんことだしな》
未だに光条の飛び交う宙域。雨のような光弾を何とか躱しながら、オレンジのグフはイザーク機を抱いたまま飛んでいく。
「待て! 貴様……
どこへ連れていく気だ!?」
《俺らの母艦。と言いたいとこだが、こんな状況だ。
とりあえず、ビームも電磁波も喰らわないよう、安全地帯見つけて必死で頑張ってみるさ》
「安全地帯って……この戦場のどこに!」
《お前も少しは動けそうだろ、危ない時は自己責任でな~》
「な……ッ!」