【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
あまりにも楽観的なミゲルの口調に、怒りを通り越して呆れのため息を隠せないイザーク。
残された武装を確認してみたが、対抗出来そうな武器はろくに残っていない。スレイヤーウィップは爆風で消し飛び、ビームソードもエネルギーが切れていた。
「……俺を捕まえたところで、もうアスランは貴様らに寝返りはせんぞ」
だが、ミゲルの明るい声は変わらない。自らの存在意義を否定されても。
《それぐらい分かってるよ》
「……?
分かってるなどと、軽々しく言うものだな。
貴様は……」
《俺は、アスラン・ザラを手に入れる為に生み出されたゾンビ人間。そのぐらいはもう、サイやディアッカあたりから聞いてるだろ?
だがな。存在意義を一度見失っても、別の存在意義を見つけりゃいいだけの話よ。
それが俺にとっちゃ、南チュウザンの戦後処理でもある。その為にゃ、ザフトのお偉方に恩売っとくのもいいかって思っただけ。
自慢じゃないが、俺、アマクサ組の中じゃ結構責任ある立場だからさ》
「って……何もかもあけすけにほざく奴があるか!」
《お前だから言ってんだよ。
今のイザークの頭が意外と柔らかいこと、俺だって分かってるから》
イザークは最早ただ呆れるままに、本心かどうかも分からないミゲルの軽口を聞いていた。
かつてのミゲルとほぼ同じ声にしか聞こえない為か、不思議と懐かしさすら覚える。
理由はともかくとして、自分はこの男に命を救われた。それは事実だ──
《あ~……
誤解して欲しかないんだが、お前には感謝してるんだぜ?
あのしつこい野郎をぶっ潰してくれて。ヨダカ・ヤナセは本当に危険な奴だったんだ──
あいつのおかげで、アマミキョも俺たちも、何度も窮地に陥った》
「真剣にプラントを想い、コーディネイターの未来を案じていた分、余計に危険だったのは
……デュランダルと同じか」
《あいつが独り身だってのは風の噂で聞いた。
デュランダルに心酔したのも、もしかしたら……
彼も婚姻統制の犠牲者だったのかもな》
「今となっちゃそれも、無意味な憶測だ」
イザークは大きくため息をつきながら、ぼんやり掠む視界の中で周囲を眺める。
額から熱い汗が大量に噴き出して唇にまで流れていると思ったら、濃い鉄の味がした──
流血している。
急いでバイザーを上げて応急処置をしながら、モニターを改めて見つめるイザーク。
半分がた破損しているメインモニターは、その大部分がティーダZからの光のフィールドを映し出している。
だがその隅で動き出したものを、イザークは見逃さなかった。
自分たちの位置はいつの間にか、ウーチバラとオギヤカに近づきつつある。その付近にちらついたものは──
見慣れたローズレッドの船体。両舷から噴水のように光を放っている。
まさか──
「何だ、あれは──
エターナルか!?」
ミゲルの声が自然と引き締まる。
《間違いないな。アカツキとアークエンジェルも接近してるが、ありゃあ……》
イザークは思わず上半身を乗り出し、血に濡れたままの唇を舐めた。
「そんな……
あれは、ザフトの──ラクス・クラインの船だぞ!!」
しかし、そんなイザークの言葉を嘲笑うかのように。
エターナルは両舷に装着されたミーティアユニット──そこからまるで光の雪崩でも起こすかのように、艦の前面に向けて一斉に光条を放っていた。高エネルギー収束火線砲、そして1基あたり22連装にもなる対艦ミサイルをも。
かつての盟友、アークエンジェルとアカツキに向けて。
そのさまを眺めながら、冷静にミゲルは言い放った。
《悪いが、イザーク。あれは今や、ラクス・クラインの船じゃない。
その母親が乗っ取った。アマクサ組とフレイが自由意思を持ったかわりに、エターナルはラクス一世に奪われたってわけだ》
「貴様、呑気に眺めている場合か!
ミーティアユニットの火力は、戦艦数隻分に相当するんだぞ!!
いくらアークエンジェルといえども……」
《知ってるよ。だから退く。
これ以上進めば俺たちは確実に死ぬ。それともお前、その機体でアークエンジェルを守って爆散しにいくかい?
かつての仇敵を命がけで守り散りゆく……そこそこ美談にはなるし、俺は止めないが?》
「この……!
それでも俺はせめて、あいつらを!!」
イザークは歯ぎしりを止められないまま後方を確認した。インフィニットジャスティスは
──アスランは。キラ・ヤマトはどうした。
しかしサブモニターも破損し、今や彼らの状況すら確認出来ない。
かわりにミゲルの声が響いた。イザークの心を見透かしたかのように。
《アスランなら、まだ必死でキラとやり合ってるよ。
今、あの二人の間には誰も割って入れない。入れば間違いなく即死する。
いいか、イザーク。フレイとティーダZが命がけで俺らを守ってる今、俺らがやるべきことはひとつ──
敵を倒すんじゃない。どうにかして生きのびるこった》
かつての戦友たるミゲルの言葉は、傷つきながらも焦るイザークの心に、奇妙に沁みとおっていった。
かつての彼のそれではないと、分かってはいても。
「……心身共に無事で、か」
アマミキョブリッジにサイの怒声が響いたのは、それから間もなくのことだった。
「まさか、承認したのですか!? 核攻撃を──
アスハ代表が!!?」
緊急の非常用回線で開かれたオーブとの直接通信から、カガリの肉声がブリッジへ流れてくる。
ノイズで乱れている上、実際の時間より数分ほど遅延してろくに会話が出来ない通信ではあるが、それでも彼女の声はよく通った。
《分かってくれ。私とて、決して本意ではない。
第二射が地上に齎した影響は、ロゴスを失った連合にとっても甚大なんだ。ウーチバラを消せるものなら即刻消したいというのが、彼らの本音だろう。
だが、ティーダZとアマミキョの状況を詳細に説明し、どうにか猶予を3時間から5時間まで延長させた。
お前から送られてきた、戦場でのナオト・シライシの言葉も、余すことなく大使に伝えたよ。あのレポートのおかげで、彼らの首を何とか縦に振らせることが出来た。
だが、それ以上は決して譲歩できぬとの話だ》
「残り……5時間で……?」
恐らくそれは、カガリの最大限の交渉結果でもあり、同時に連合側の最大の譲歩でもあるのだろう。3年前の核とジェネシスの撃ち合いを思えば、連合も当時から大きく進化したと言えるのかも知れない。
だからといって、許された時間が長いわけでは決してない。ウーチバラに乗り込むことすら出来ないでいる今、このタイムリミットはあまりにも絶望的な数字に思えた。
思わず全身の力が抜けそうになったサイの耳に、トニーの言葉が響く。
「乗員を避難させるなら、今しかないということか──
よし。アマミキョは、メインブロックと両舷カタパルト以外のブロックを全て、ミントンに向けてパージだ。
戦闘要員以外のクルーは全員、両舷いずれかの後方ナビゲーションブロックに集合と伝えろ。負傷者を最優先に!」
トニーの決断はこの状況下でも、サイが内心驚くレベルで素早かった。
しかしトニーの指示を受けたヒスイは、パージ対象に指定された区画を一瞥して、咄嗟に反論する。
「隊長。サブエンジンブロックを4か所も放棄すれば、推力低下は免れません。
それでも……?」
「構わん。クルーを核爆発に巻き込むよりはいい!!
そうでなくとも、このまま進めば危険は増していくばかりなんだ。後方要員を下がらせるなら、今をおいて他には!」
しかしその脇から、スズミもトニーを制止する。副隊長席にケーブルで繋がれたままのサイを横目で睨みながら。
「私も反対です、隊長。
両舷後方ブロックのパージは、サイ君の両脚切断と同義。
彼の負担を考えれば、医者としてそう簡単に了承するわけにはいかない!」
非常に強い口調で反論するスズミ。
何も言わずに彼女とトニーを見据えるエリカ。その横顔を見ただけで、サイは確信した──
スズミの言葉には、決して誤りも誇張もないことを。
「ならば、サイ君の神経接続を一時遮断した上で……」
額から汗を散らすトニーの言葉を、エリカは冷たく否定する。
「その余裕はありません、隊長。
接続遮断の作業にかかる時間は数十分から1時間以上。その間に、避難に回す時間さえなくなる」
一瞬、一触即発の空気が流れかかるブリッジ。
だが、サイは努めて冷静に口を挟んだ。
「俺なら平気です、隊長。
その程度は覚悟して、ここまで来たんです。
俺一人のせいでみんなの避難が遅れるなら、俺はその方がつらい」
「そう言うと思ってたわ……」
最早呆れ顔でサイを見つめるスズミ。そんな彼女に、サイは畳みかけた。
「心配しないでください、先生。
俺がこの数時間で、どれだけの痛みを感じたと思ってるんですか。今更足の切断ぐらい、どうってことないですよ」
「サイ君、説明したでしょう。フィードバックによる苦痛と、実際にアマミキョが損傷した場合の痛みは違うと」
「知ってます。
この右腕だって、さっきの右舷への攻撃で血を流した。今でも治りきってない」
サイはそっと、未だ痺れの残る右腕を義手で抑える。
右肩から二の腕にかけて巻き直された包帯には、既に大量の血が滲んでいた。
「俺とアマミキョの接続解除、及び組織再編成を待たずにパージを強行すれば、多分俺の両脚は動かなくなる。そういうことですか?」
「──そうよ。
パージしたブロックそのものが攻撃されない限り、アマミキョの回復機能なら再生も可能でしょうけど──
恐らく、数時間は歩行もおぼつかなくなる」
スズミの言葉を補足するように、エリカも口を挟む。
「出来る限り痛みを緩和する処置はするけれど、それでも完全に痛みを抑えることは不可能よ。アマミキョのシステム内部で後方組織が構成し直されるまで、激痛は続く。
最低1時間は耐えてもらうことになる」
その状況下でお前は副隊長として、冷静に指示を出すことが出来るのか。
エリカから言外にそう問い質されているようにも思えたが、それでもサイはきっぱりと答えた。
「構いません。
もし俺が痛みに耐えきれず、間違った判断を下してしまいそうになったら──
その時は遠慮なく、俺を副隊長職から外してもらって構いませんから」
そんなサイの言葉で、ブリッジは一瞬だけしん、と静まり返った。
ほんのり微笑みすら浮かべるサイを、じっと見据えるトニーとスズミ。
だが、そんな時──
不意に入ってきた通信と、それに伴うヒスイの叫びが、沈黙を破った。
「た、隊長! ホウジョウから通信です!
これよりホウジョウは……機動要塞オギヤカへ突貫するとのことです!!」
彼女の悲痛な声に、トニーもサイも同時に顔を上げる。
「何だと!? 山神艦長からの通信か?」
「まさか
……特攻!?」
ヒスイもさすがに慌てた様子を隠せず、かすかに震える手で通話を繋ぐ。
ノイズの暴風の中、それでも山神の声だけは何とか聴きとることが出来た。
本人の映像までは、どうやっても出せそうにない。
《……サウザン隊長。アーガイル副隊長……
このような結果となり、申し訳ない》
茫然とするしかないサイたちの間に、山神の沈痛な声が流れていく。