【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
アマミキョブリッジで、サイは山神の声にじっと耳を傾けるしかなかった。
《連合の核攻撃の件、しかと聞いた。
アマミキョを守るべく、我らも強硬派と戦ってきたつもりだったが──
今更弁解したところで、始まらんな》
湧きあがる無念を懸命に抑えつけているかのような、山神の口調。
同時にマイティの声が響きわたる。
「ウーチバラからの映像、出ます!
これは……」
「あぁあっ!?」
メインモニターに映し出される、ウーチバラ周辺宙域の映像。同時にクルーたちの間から、絹を裂くような悲鳴が上がった。
今まさに先端部よりセレブレイト・ウェイヴを発振中のウーチバラの状況は、ノイズ混じりながらもはっきりと確認出来る。
太陽に向かって咲くヒマワリのように先端を拡げ、コロニーは光を宙域へと放出していた。
それを護るように立ちはだかる機動要塞・オギヤカ。その中心軸付近で、アークエンジェルとエターナルが激戦を展開している。
そして、その反対側で――
ティーダZとセイレーンの光を後方から受けながら、デブリを盾にしつつ密かにオギヤカへと接近している連合艦アガメムノン級・ホウジョウの姿が見えた。
ちょうどアークエンジェルが陽動がわりとなり、エターナルやドム隊はアークエンジェルの迎撃に回っている。その死角とも言える位置からホウジョウは接近を試みていたようだが──
それでも、ホウジョウへの苛烈な攻撃は止まらない。
クルーたちが息を詰めて見守っている間にも、ホウジョウはウーチバラからも、要塞オギヤカ自体からも、周囲を取り囲んだダガーLの軍勢からも次々に攻撃を受け、最早艦全体が白い炎に覆われていた。そのさまは、無謀にも太陽に突入を試みる小さなシャトルのようにしか見えない。
それでも山神の落ち着き払った声は、アマミキョにも響いてくる。
《先ほど、クルーを乗せた脱出艇をホウジョウから射出した。
その中には、ミナミ課長を始めとする負傷者たちも含まれている。
伊能大佐を護衛に当たらせているが――どうか、アマミキョでも救出を頼む》
勿論この時サイ自身も、山神の身体が感じているであろう激しい炎熱を感じていた。
そして、連合の核攻撃という事態を招いてしまった山神自身の、自責の念をも。
思わずサイは身を乗り出し、叫ぶ。全身の皮膚が沸騰するように熱い。
「やめて下さい、艦長!
すぐに脱出を!!」
《退くわけにはいかんのだ。
あの機動要塞は、セレブレイトウェイヴの照準・拡散システムの役割も果たしている。
ここが奴らのアキレス腱だというのは分かっている!》
一歩たりとも退く気配のない山神の声に、思わず感情を露わにしてサイは怒鳴った。
「違う!
他のクルーを脱出させたのなら、艦長も脱出してくださいよ!
親しい人たちが死んでいくのを見せられているだけなんて、俺はもう耐えられない!!」
だが、そんなサイに対する山神の応答は、いつも通り穏やかだった。
《そうか。アーガイル君……君も、そう思うか。
本当にすまない。私ももう、耐えきれなかったんだよ》
「えっ?」
意外な山神の言葉に、サイは顔を上げる。
最早汗なのか涙なのか分からない雫が、ぼたぼたと頬から落ちた。
《アーガイル君。君がウルマ沖で、アマミキョの自沈プログラムを遂行しようとした時を覚えているかね。
あの時に私は、自ら腹を切るべきだった。
アマミキョ衛護の任を負っておきながら……民間人たる君に、あのような選択をさせた時点で》
「……艦長?」
《そして今、我らが命を預けたはずの連合が、背後から核の炎を撃とうとしている
──君たちまで巻き込んで。
ならば今こそ、地球連合の名のもとに、私は責任を取らねばならんのだよ。この命をもって》
「意味が分かりません!
責を負うべきは連合で、艦長は何も悪くありません!
何故──!」
オギヤカへ容赦なく砲撃を浴びせるホウジョウ。オギヤカからも、反撃の火線がホウジョウを襲う。
恐らく、山神を筆頭にごくわずかな志願者しか乗員が残されていないホウジョウを。
閃光の嵐の中、右舷が大破して艦自体が引き裂かれていくさまが、モニターでもはっきりと捉えられた。
それでもホウジョウは止まらない。山神の、どこまでも優しい声も。
《自分より年下の者を死なせない。
自分より年上の者より先に、自分が死なない。
それさえ守っていれば、世界はどこもかしこも平和になる──
そう言っていたな。かつて、リンドー殿は》
「…………」
これが通信越しの声なのか、もしくは散り際の山神が遺そうとしている意思なのか。
サイにはもう、判断が出来ない。
《私が守るべき部下たちは、次々に死んでいった。
私の名を冠した隊は、容赦なく壊れていった。
リンドー殿が言っていた二つの簡単な言葉さえ、山神隊は誰も守れなかった。
いや……このような時代では、誰も守れぬのかも知れんな。
同じ人を人とも思わず、互いに侮蔑し、妬み、そして人の歴史も尊厳すらも、地球もろとも破壊せんとする時代など──
自分たちの世代で、終わりにするべきだったものを!》
オギヤカを前にして、散り散りに砕けていく自らの母艦・ホウジョウを──
伊能大佐はウィンダムで脱出艇を守りながら、ひたすらに目で追っていた。
アマミキョに送信した山神の切れ切れの言葉は、伊能のコクピットへも届いている。
それは最早、絶叫に近かった。
《どうか、理解──てほしい。
これは──なりの弔いであり、ケジメ──だ。
強きものは、弱き──を守る努力をするだけで──
弱きものは、強きものより先に死なぬ努力を惜しま──だけで──
──時代は、変わ──!!》
後に続く山神の言葉は、完全にノイズで途切れていく。
同時に──リングを幾つも重ねた、円錐状の要塞オギヤカ。その軸に近い部分に真正面から衝突していくのは、地球連合の誇るアガメムノン級宇宙母艦・ホウジョウ。
オギヤカのどてっ腹に一撃を加えるかの如く、寸分の躊躇なくホウジョウはその艦体ごとオギヤカに激突する。
一瞬で艦の半分がブリッジごと潰れていくのが、伊能の肉眼でもはっきり見えた。
それはまるで、今の今まで苦しめられてきた黒ダガーLの自爆攻撃、その百倍返しとでも形容するべき、ホウジョウの特攻。
巨大戦艦自体をミサイル代わりとしたこの命の一撃は、陽電子リフレクターといえども無事では済むまい。そう確信しながら、伊能は呟く。
「──艦長。申し訳ありませんが、俺は生きますよ。
こいつらと一緒に」
救助ポッドと、それを守る山神隊の生き残りたるウィンダム数機をモニターで確認しながら、伊能は宙域に炎となって散りゆくホウジョウに敬礼した。
「俺たちの目論見が確かなら、この一撃であの洗脳電波の照準は狂うはず──
そうだろ、広瀬」
ほくそ笑んだ伊能の眼前で、オギヤカの軸部分がホウジョウの艦体と共に、大爆発に包まれる。
ホウジョウ特攻による衝撃が決定打になったのは間違いないが、アークエンジェルによるダメージの蓄積も大分効果を及ぼしていたらしい。
同時にその円錐も大きく傾き、オギヤカの軌道そのものまで大きく狂わされたのか。オギヤカは急速にウーチバラへ異常接近したかと思うと──
その外周リングが、コロニーの外壁すれすれを掠めた。
瞬間──
オギヤカの円錐を構成していた、最も外側のリング。その外壁が、コロニーとの接触によってあっけなく崩されていく。
まるで、水に浸された角砂糖のように。
だがすぐに、伊能は気づいた。
オギヤカとコロニーとの接触。それにより、オギヤカとウーチバラの間から砂のように大量に噴出しばら撒かれていく、無数の白い物体に。
ただのデブリではない。デブリにしては奇妙に形状が柔らかな気がする。
母艦轟沈による悲劇すら一瞬忘れかけ、伊能は思わず身を乗り出した。
「……!?
何だ、あれは──まさか!!」
山神艦長によるホウジョウ特攻に慟哭する暇さえ、サイたちには与えられなかった。
身を捨てた山神の攻撃により、初めて損傷したウーチバラ外壁。そして、オギヤカ。
だがその傷から露出したものの正体に、サイもクルーたちも戦慄を隠せない。
全身の震えを抑えきれず、モニターを凝視しながら思わず腰を浮かせるサイ。
「まさか、これ──
人間……なのか?」
認識したくない。
こんな現実は、絶対に認識したくないのに。
「サイ君! 見るな!!」
サイの目からメインモニターを隠すように、咄嗟に眼前に立ちはだかるトニーの背中。
しかしそれでもサイの脳に直接、容赦なく、その映像は流れ込んでくる。
これは──コロニー外壁か、それともオギヤカのリングかは分からないが。
そこに大量に埋められていた、人間たち。
恐らく、セレブレイト・ウェイヴのエネルギー源として。
「これが……
セレブレイト・ウェイヴを構成する、ハーモニクスシステム。
その正体……なのか……?」
あまりに生白い四肢が、爆風と共に次々と宇宙空間へと吹き飛ばされていく光景が見える。
俺が今までこの人間たちの存在を感じられなかったのは、彼らがきっと、黒ダガーLに乗せられているパイロットと同じ。カーボンヒューマンの素体として用意された、精神的には胎児同然の人間たちだから。
何十人か、何百人かも分からない人間の断末魔。
助けてタスケテコロシテコロシテタスケテタスケコロシシニタクナイシナセテタスケロタスケテ助けコロシタクナイコロサナイデシニタクナイイキタクナイイキルノイヤシヌノモイヤタスケテタスケテタスケテミズノナカマワリノミズオボレルクルシイクルシイツライイタイ□□□□□ヌリツブサレ■■■■コロシ■■■タスケテ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■いhえ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■d、■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□qr:w□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□b¥dwb¥dwqr:wqr:wぢqふえdいqhうい
あまりにも混沌とし、かつ、人間としては未成熟な思考の集合体が、サイの脳を轢き潰すかのように襲いかかってくる。
同時にブリッジ中にこだましたのは、恐らく同じものを感じているであろう、ナオトの絶叫。
《い……嫌だぁあああああぁあああっ!!!?
僕、僕は、殺してないですよね!?
ぼく、この人たちを殺したわけじゃないですよね!?
ぼくは、人ごろしじゃないですよね!?
誰か、答えてよ!! ぼく、誰も殺してないですよね!?》
「ナオト……!?」
《分からないんです。覚えてないんです。何も!
僕は誰かを殺したような気がするのに、何も覚えてないんです!!
何も覚えてなくても、誰かを殺したんですか? 僕は?
この人たちは、僕が──
ぼくが、ああぁあああぁああああぁああああぁあああぁぁあああああああああああああ》
ほぼ同時に響く、ヒスイの悲鳴。
「隊長!
ティーダZから放出されているフィールドのエネルギーが、急激に低下しています!
このままでは、ナオト君が……うっ……」
必死で報告しながらも、モニターからの映像に思わず口を押さえるヒスイ。
彼女だけではない。何とか通信を続けているディックやマイティ、操舵士ノーチェの顔色も蒼白になっている。
――俺やナオトだけじゃない。
これ以上戦い続ければ、みんながもたない。
ナオトの動揺を示すかのように、大きく震えだすティーダZの翼。ずっと戦場に流れ続けていたミーアの歌にも、歪んだ不協和音が入り始める。
彼を先導するようにウーチバラへ向かっているセイレーン。2機が生み出している虹のフィールドが、互いが離れかけたことによって徐々に薄まっていく。
「セレブレイト・ウェイヴの光量、再び増加しています!
残り数秒で、50%台まで回復する見込みです!!」
「防御フィルタが持ちませんよ!!」
もう──躊躇している時間はない。
激烈な吐き気を抑えながらも、サイは敢然と顔を上げた。
ズボンのポケットに入れていた、ヒマワリの種の小瓶。それを無意識のうちに右手で握りしめながら。
「トニー隊長。
クルーの避難誘導、及び両舷後方ブロックのパージ準備を、至急お願いします。
それから、アマミキョ自沈プログラムベータ・パターン3の実行を。
強制的にでも、ナオトをアマミキョに帰還させる。同時に、俺たちがウーチバラへ乗り込む!!」